これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode162 別解〜Another solution〜

すっかり日も落ちた東京。

その大都市の一角にあるのが、エギル、もといアンドリューの経営する「ダイシー・カフェ」である。

 

今宵はそこに、とある二人の少女が集まっていた。

 

「いきなり呼び出してごめんね……しののん」

「ううん、いいの」

 

言わずもがな、アスナとシノンである。

もっとも、ここでは明日奈と詩乃であるが。

 

「エギルさんも……ごめんなさい、ほんとは交代の時間なのに」

「なぁに、気にすんなよ。()()()()()()()()()ってのは、つまり……『アレ』だろ」

「『アレ』……?」

 

明日奈の言葉に、笑って返すアンドリュー。

と同時に、含みある言葉に首をかしげる詩乃。

 

そんな詩乃を見て、明日奈は机に視線を落とすと。

 

「あ、あのね、しののん。実は……ユウキのことなんだけど」

「ユウキ……」

 

流石の彼女も感づいたのであろう。

わずかながら、顔が深刻になった。

 

 

「なるほどね」

「うん……」

 

それからしばらくして。

二人は暗い雰囲気に包まれていた。

 

明日奈が淡々と語った、ユウキの悲しい運命。

タスクと戦いたい、と言った理由。

 

「びっくり……した?」

「え、ええ、まぁ」

「それでね、その……しののん、これを、タスクくんに……」

「ああ、それなら」

 

明日奈が申し訳なさそうに顔を上げた、その時。

彼女の目に映ったのは、穏やかに微笑む詩乃の顔。

 

意外な顔を見せられ、明日奈は言葉につまる。

 

「いや、その、実は……ね」

「……!?」

 

 

 

 

「タスク、気づいてる……んだ、全部」

 

 

 

 

その瞬間、アスナの脳裏にユウキのあの言葉が蘇る。

 

《タスクくん……さ、ボクの秘密……気づいてると思う》

 

かえって申し訳なさそうに苦笑する詩乃を、明日奈はただ、見つめていた。

 

 

時は、数日前。

ユウキとの試合があった日の夜。

 

ALOは、とある街の、とあるレストラン。

その屋上にあるテラス席の一番端の席で、タスクとシノンは食事をとっていた。

 

ささやかではあるが、軽いお疲れさま会のようなものである。

 

「で、今日はどうだったのよ、タスク」

「ユウキさん……ねぇ」

「?」

 

シノンの言葉に少し含みある言葉で返すタスク。

 

「何か……あったの、あの子と」

「いえ、そう言うわけではない、です」

「?」

「あの……ですね、その」

 

タスクにしては珍しく、言葉がつまり気味である。

シノンは珍しいからか、キョトンとしてタスクを見ている。

 

「今から言うことは、あくまで憶測……です」

「う、うん?」

「正しいとは限らないし、そう言うつもりもないです」

「う、うん」

「その上で、聞いてほしいんですけど……」

 

そういうと、タスクは視線を落とし、何か深く考えるような仕草を見せる。

そしてその後すぐ。

 

 

 

 

 

 

「ユウキさん、多分……もう長くないんじゃないですかね」

 

 

 

 

 

 

シノンは彼女の中で、時間が止まったような感覚に襲われる。

心臓の鼓動が大きく、ゆっくりになったように感じる。

 

「え……それって」

「ええ、そうです。ユウキさん、おそらく余命はそう長くないと思います」

「どっ……どうして? 聞いた……の?」

「いえ、何も。ただ、なんとなくそんな気がするんです」

 

夜空を仰ぎ見つめるタスク。

決して、シノンの方を見ない。

 

「というのも、です」

「……」

「覚えてますか、リーファさんの試合を見た時のこと」

「ええ……」

 

それはシノンもよく覚えている。

 

タスクの次の試合の相手が、リーファか否かが決まる試合の話だ。

その時タスクは「リーファが勝つ」と断言していたのをよく覚えている。

 

「その時、僕いいましたよね。『あらかたのプレイヤーの戦闘は仮想世界のアシストありきのもの……ようは単なる動作でしかない。そんな相手は恐るるに足らない』って」

「え、ええ……確かに」

「実はそれ、()()がありまして」

()()……!!」

 

タスクの顔が、心なしか暗い、と言うような、悲しい、と言うような、そんな顔になる。

 

「『相手が仮想世界の住人である場合、その限りではない』んですよね」

「仮想世界の、住人?」

「そう。ま、分かりやすくいえばS()A()O()()()()()()()()()()人のことです」

「え……!?」

 

その瞬間、シノンの中で、タスクの時折見せる仕草の記憶が全てつながる。

 

トーナメント前、タスクがユウキについて言った、「懐かしい」という言葉。

何度か見せた、浮遊城アインクラッドを見つめる悲しそうな顔。

 

その他諸々、ここ最近のタスクのアインクラッドやユウキを見た時の悲しそうな仕草。

 

「あの話は、あくまでその人の日常生活が現実にあるから、です。しかし、常日頃この世界にいる人になると話が変わります」

「……」

「それがどうも……SAOと重なって」

 

タスクの顔がぐっと強ばる。

シノンはシノンで、そんな彼を前にどうすることもできず視線を落とすしかない。

 

「それで……あんな、悲しそうな」

「まぁ……はい、でも、ほんとはもっと、別の理由があります」

「別解……?」

「ええ……そうですね」

 

すると、タスクが体を回し、欄干に体を向ける。

そしてゆっくり顔を上げる。

 

その先にあるのは、言わずもがな『浮遊城アインクラッド』。

 

「ユウキさんの戦いを見てたらすぐ分かったんです。ああ、彼女は以前の僕らと同じような……SAOのような生活をしているんだなって」

「……」

「それでもですね、単純に疑問でしょう。今、そんなことができるところはない。食事や睡眠をとりにすらいかず、この世界にいれるなんて、並の人間には不可能です。それ相応の環境と、それに伴う金銭的な負担はとんでもないものになります」

「な、なるほど」

 

シノンはなんとなく、話の全容がつかめてきた。

 

確かに、タスクのいう通りユウキのようなプレイスタイルをしようと思えば、それなりに環境が必要だ。

生活の軸をこっちにするのだから、食事すら現実に取りに行くことはできない。

 

仮にするとしたら考えられるのは点滴とかだ。

またそうでないにしろ、なんらかの手段で現実の体を維持する必要が出てくる。

 

ただそれをしようとするならば、必要な専門的な知識と技術は紛れもなく、『医療』。

 

普段聞き慣れているはずなのに、この時ばかりは流石にこの言葉が重たかった。

タスクの『もう長くない』という言葉を考えれば、なおさら……。

 

「でも現実、できている。動機や理由が全くわからないが。であれば、発想を変えて、『もし彼女が、そうせざるをえなくてそうしている』のだとしたら」

「……分かった、わ」

「……ね、辿り着く先は一つでしょ」

 

タスクがふっと微笑んでシノンに向き直る。

シノンもその顔に、少しだけ笑んで返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そればっかりは……『別解』がない、わね」




【予告】
ここから、原作とは違うルートへ入ります。



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