これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
目を開けると、そこにはよく知った二人の顔があった。
もちろん、アスナとシウネーである。
二人は今にも泣きそうな顔をしていた。
「はは……そんな顔しなくたって」
「だって……だってぇ……!!」
ユウキの言葉に、アスナが涙を堪える。
膝枕をされているのだろうか、頭が若干地面から離れている気がする。
体は……言わずもがな、大の字に広がっているのを感じた。
「立てる……? いける?」
「え……ああ……はは、こりゃ無理だ」
アスナがユウキを起こそうとするが、ユウキは自分の体に力が入らない。
「……というか、どう……して?」
「え……?」
するとその時、なんとか抱えて持ち上げようとしていたアスナとシウネーに、ユウキが問いかけた。
二人はキョトンとしてユウキの顔をみる。
「ボク、負けたよね。なんで体が……」
「……タイムアップ、よ。タスクくんの最後の一撃を受けて、HPが0になる直前で時間切れになったの」
「……」
「ズタボロとはいえ、HPはまだある。だから体がそのままなのよ、場所もね」
「え……あ」
そしてその時、ユウキはやっと自分がいる場所を認識する。
言わずもがな、闘技場のど真ん中だった。
意識したからだろうか、今更になって観客からの拍手が聞こえ始める。
「あぁ……わざわざ迎えに来てくれたんだ、二人とも」
「うん……」
「ありが、とう。へへ、僕は幸せ者だね」
「ユウキ……!!」
ぐっ、と笑ったアスナの頬には、涙が筋を作っている。
シウネーも同じく、だ。
「とりあえず。下がろうか、終わったもの」
「うん……」
すると、ユウキがそう言って立ち上がろうとする。
……しかし。
「ちょっ……ユウキ!!」
「え……あ……?」
ガシッ
がくん。
ユウキの視界は、すぐに下を向いた。
崩れ落ちそうになったユウキをアスナとシウネーが慌てて支え、何とか倒れずに済む。
「あーもう、だめ、だね」
「もう……!!」
「と、とにかく、ゆっくり行きましょ」
苦笑いするユウキを両側から支え、なんとか三人は動き出す。
拍手が三人を包む。
ユウキはうなだれているが、アスナとシウネーは前を向いている。
「……最後」
「?」
すると、不意にユウキが話しだす。
「悔しい、な。完全に負けたよ」
「……」
ユウキの言葉に、シウネーが悔しそうに下を向いた。
脳裏に蘇る、その時の光景。
大きく振りかぶるタスクの刀に、驚いた顔のユウキ。
「よくもまぁ、あんなのやるよね」
「……」
「やるどころか、思いつきもしないよ。ま、仮に思いついてもやろうと思わないけどね……はは」
「……」
ユウキの声は、心なしか震えている。
二人を掴む手に、ぎゅっ、と力が入る。
「すごい、すごいけどっ…………!! ボクッ……!!」
ユウキの体が強張る。
「悔しいっ……、悔しいよ……!!!! なんだよ、あんなの……!!!!」
ユウキの目には、涙が溢れていた。
✣
「僕、初めてだったんだよね」
「初めて……?」
翌日。
アスナとユウキら、スリーピングナイツは、キリトとアスナの例の……『ログハウス』に来ていた。
それぞれ、各々で、好きな形で時間を過ごしている。
まあいわゆる、束の間の休息、というやつだ。
最近は大会の準備を含め、色々忙しかったのだ。
それも一応、昨日の大会を最後に、ひと段落ついたというわけである。
「ボクさ、前『ぶつからなきゃ伝わらないこともあるよ』って……言ったじゃん」
「う、うん……」
ユウキとアスナは、池のすぐそばにシートを敷いてくつろいでいた。
池を眺めながら話すユウキと、それに耳を傾けるアスナ。
「僕、初めて……
「……!!」
何を、と聞こうとして思いとどまるアスナ。
それは単純に、愚問だと気づいたからだ。
そして当然、ユウキは言葉を続ける。
「あの……最後の技、
「え、う、うん」
「あの技さ、言っちゃえば『全部』知ってなきゃできないんだよね。」
「『全部』……と、いうと」
「うん、ボクのステータスはもちろん、剣の振る速度と角度とか攻撃パターンとか、その他もろもろの癖。加えて、ALOの物理演算システム、ダメージ算出アルゴリズム。とにかく……『全部』」
「……!!!!」
とにかく、ということは、実際はもっとあるのか。
想像して、アスナは言葉に詰まる。
「僕があんな大かぶりの大上段斬りのあの剣をよけれなかったのは、斬り上げた彼の腕に剣が隠れていたから」
「……」
「タスクくん、あの人……、知識を元に、あの位置へ意図的に腕を飛ばしたんだ」
「……!!」
もはや、そんなことができるのか、などと驚いたりしない。
あの人たちは、ぶっ飛んでいる。
そんなことは重々承知しているからだ。
「もう、さ。あんなの、『未来予知』に等しい芸当だよ」
「……うん」
「あの時、あの瞬間。僕の剣が下がったあの位置にあることも、手を出された結果斬り上げるという選択を取るのも、その結果手があの位置に飛ぶのも、ボクが虚をつかれるのも、彼は全部知ってるし、なんなら故意に引き起こした」
「……」
ユウキの淡々とした語り口に、無言で聞き入るアスナ。
しかしその時、そんなアスナの手がふと温もりを感じた。
「ねぇ……アスナ」
「っ……!!」
気づけば、ユウキがアスナの手を握ってこちらを見つめている。
アスナは、少しドキッとしてその目を見返す。
すると、ユウキは少し目を落として、それからもう一度アスナを意を決したように見ると、手をいっそう握ってひとこと。
「タスクくん……さ、ボクの秘密……気づいてると思う」
「っ……!?」
アスナは、流石に驚きを見せてしまった。
いくら『全部』を知っているといえど、いくら『未来予知』、あるいはそれと似た芸当ができようとも。
流石にそれは……!?
ユウキは止まらず語り続ける。
「ボクね、あの戦い、
「で、でも……?」
ぐっ、とユウキが俯く。
その時、アスナの手の甲に水滴が落ちた。
それは言わずもがな…………涙。
「
「……!!!!」
「分かってる、2回目なんかない。でも、タスクくんはまるであるかのようにあの戦いを終わらせた」
「……」
「彼だからなのかな、まだチャンスがあるような気がして……、チャンスがあると思うからこそ悔しさが湧いてきて……だけどそんなチャンスが巡ってこないことに、昨日の夜、みんなと別れた後……改めて気づいて……ボク……それがっ……!! すごくっ……!! 悲しくて……!!!!」
生かして……、おそらくはあの事だろう。
最後の一撃を、脳天ではなく、肩口から入れてHP消失ギリギリに留めておいたこと。
「それでもね、ボク、伝わったんだよ。あの時、戦いの中で確かに伝えられたんだ」
「!!」
「
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