これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode161 未来予知 〜Future Sight〜

目を開けると、そこにはよく知った二人の顔があった。

もちろん、アスナとシウネーである。

 

二人は今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「はは……そんな顔しなくたって」

「だって……だってぇ……!!」

 

ユウキの言葉に、アスナが涙を堪える。

 

膝枕をされているのだろうか、頭が若干地面から離れている気がする。

体は……言わずもがな、大の字に広がっているのを感じた。

 

「立てる……? いける?」

「え……ああ……はは、こりゃ無理だ」

 

アスナがユウキを起こそうとするが、ユウキは自分の体に力が入らない。

 

「……というか、どう……して?」

「え……?」

 

するとその時、なんとか抱えて持ち上げようとしていたアスナとシウネーに、ユウキが問いかけた。

二人はキョトンとしてユウキの顔をみる。

 

「ボク、負けたよね。なんで体が……」

「……タイムアップ、よ。タスクくんの最後の一撃を受けて、HPが0になる直前で時間切れになったの」

「……」

「ズタボロとはいえ、HPはまだある。だから体がそのままなのよ、場所もね」

「え……あ」

 

そしてその時、ユウキはやっと自分がいる場所を認識する。

言わずもがな、闘技場のど真ん中だった。

 

意識したからだろうか、今更になって観客からの拍手が聞こえ始める。

 

「あぁ……わざわざ迎えに来てくれたんだ、二人とも」

「うん……」

「ありが、とう。へへ、僕は幸せ者だね」

「ユウキ……!!」

 

ぐっ、と笑ったアスナの頬には、涙が筋を作っている。

シウネーも同じく、だ。

 

「とりあえず。下がろうか、終わったもの」

「うん……」

 

すると、ユウキがそう言って立ち上がろうとする。

 

……しかし。

 

「ちょっ……ユウキ!!」

「え……あ……?」

ガシッ

 

がくん。

ユウキの視界は、すぐに下を向いた。

 

崩れ落ちそうになったユウキをアスナとシウネーが慌てて支え、何とか倒れずに済む。

 

「あーもう、だめ、だね」

「もう……!!」

「と、とにかく、ゆっくり行きましょ」

 

苦笑いするユウキを両側から支え、なんとか三人は動き出す。

 

拍手が三人を包む。

ユウキはうなだれているが、アスナとシウネーは前を向いている。

 

「……最後」

「?」

 

すると、不意にユウキが話しだす。

 

「悔しい、な。完全に負けたよ」

「……」

 

ユウキの言葉に、シウネーが悔しそうに下を向いた。

 

脳裏に蘇る、その時の光景。

大きく振りかぶるタスクの刀に、驚いた顔のユウキ。

 

「よくもまぁ、あんなのやるよね」

「……」

「やるどころか、思いつきもしないよ。ま、仮に思いついてもやろうと思わないけどね……はは」

「……」

 

ユウキの声は、心なしか震えている。

二人を掴む手に、ぎゅっ、と力が入る。

 

「すごい、すごいけどっ…………!! ボクッ……!!」

 

ユウキの体が強張る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悔しいっ……、悔しいよ……!!!! なんだよ、あんなの……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウキの目には、涙が溢れていた。

 

 

「僕、初めてだったんだよね」

「初めて……?」

 

翌日。

アスナとユウキら、スリーピングナイツは、キリトとアスナの例の……『ログハウス』に来ていた。

 

それぞれ、各々で、好きな形で時間を過ごしている。

まあいわゆる、束の間の休息、というやつだ。

 

最近は大会の準備を含め、色々忙しかったのだ。

それも一応、昨日の大会を最後に、ひと段落ついたというわけである。

 

「ボクさ、前『ぶつからなきゃ伝わらないこともあるよ』って……言ったじゃん」

「う、うん……」

 

ユウキとアスナは、池のすぐそばにシートを敷いてくつろいでいた。

池を眺めながら話すユウキと、それに耳を傾けるアスナ。

 

「僕、初めて……()()()()()んだ。あの時」

「……!!」

 

何を、と聞こうとして思いとどまるアスナ。

それは単純に、愚問だと気づいたからだ。

 

そして当然、ユウキは言葉を続ける。

 

「あの……最後の技、()()

「え、う、うん」

「あの技さ、言っちゃえば『全部』知ってなきゃできないんだよね。」

「『全部』……と、いうと」

 

 

 

 

 

「うん、ボクのステータスはもちろん、剣の振る速度と角度とか攻撃パターンとか、その他もろもろの癖。加えて、ALOの物理演算システム、ダメージ算出アルゴリズム。とにかく……『全部』」

 

 

 

 

 

「……!!!!」

 

とにかく、ということは、実際はもっとあるのか。

想像して、アスナは言葉に詰まる。

 

「僕があんな大かぶりの大上段斬りのあの剣をよけれなかったのは、斬り上げた彼の腕に剣が隠れていたから」

「……」

「タスクくん、あの人……、知識を元に、あの位置へ意図的に腕を飛ばしたんだ」

「……!!」

 

もはや、そんなことができるのか、などと驚いたりしない。

 

あの人たちは、ぶっ飛んでいる。

そんなことは重々承知しているからだ。

 

「もう、さ。あんなの、『未来予知』に等しい芸当だよ」

「……うん」

「あの時、あの瞬間。僕の剣が下がったあの位置にあることも、手を出された結果斬り上げるという選択を取るのも、その結果手があの位置に飛ぶのも、ボクが虚をつかれるのも、彼は全部知ってるし、なんなら故意に引き起こした」

「……」

 

ユウキの淡々とした語り口に、無言で聞き入るアスナ。

しかしその時、そんなアスナの手がふと温もりを感じた。

 

「ねぇ……アスナ」

「っ……!!」

 

気づけば、ユウキがアスナの手を握ってこちらを見つめている。

アスナは、少しドキッとしてその目を見返す。

 

すると、ユウキは少し目を落として、それからもう一度アスナを意を決したように見ると、手をいっそう握ってひとこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タスクくん……さ、ボクの秘密……気づいてると思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……!?」

 

アスナは、流石に驚きを見せてしまった。

 

いくら『全部』を知っているといえど、いくら『未来予知』、あるいはそれと似た芸当ができようとも。

流石にそれは……!?

 

ユウキは止まらず語り続ける。

 

「ボクね、あの戦い、()()()()()()()()()()()()()の。きっとそれはタスクくんも分かってる。でも……」

「で、でも……?」

 

ぐっ、とユウキが俯く。

その時、アスナの手の甲に水滴が落ちた。

 

それは言わずもがな…………涙。

 

()()()()、ボクを生かして終わらせた。ボクの秘密も、『命を賭けてるつもりでやった』のも、全部分かった上で」

「……!!!!」

「分かってる、2回目なんかない。でも、タスクくんはまるであるかのようにあの戦いを終わらせた」

「……」

 

 

 

 

 

 

「彼だからなのかな、まだチャンスがあるような気がして……、チャンスがあると思うからこそ悔しさが湧いてきて……だけどそんなチャンスが巡ってこないことに、昨日の夜、みんなと別れた後……改めて気づいて……ボク……それがっ……!! すごくっ……!! 悲しくて……!!!!」

 

 

 

 

 

 

生かして……、おそらくはあの事だろう。

最後の一撃を、脳天ではなく、肩口から入れてHP消失ギリギリに留めておいたこと。

 

「それでもね、ボク、伝わったんだよ。あの時、戦いの中で確かに伝えられたんだ」

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()……って」




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