これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode159 終わりの時間 〜Time to end〜

「なんでかなぁ、と思ってたんだよ」

「何を……?」

「え、ほら。タスクくん、彼さ」

 

どこか意味深な店主の言葉に耳を傾けるキリト。

 

 

 

 

「彼、僕との試合の時、一回も『紫電(シデン)』使わなかったじゃない?」

 

 

 

 

「あっ、た、たしかに……」

 

言われてみれば。

キリトはもちろん、アスナも思い返してハッとする。

 

確かに、タスクは店主との試合の時、一度も『紫電(シデン)』を使っていない。

 

「色々辻褄が合わない? 僕に使わなければさ、つまりユウキさんに見せなければさ」

「!!」

「隠し玉としての技なら、『紫電(シデン)』が来る、って思わせられるよね」

「な、なるほど……」

 

つまりはこういうことだ。

 

もし仮に店主との戦いで『紫電(シデン)』を見せていれば、かえってユウキに不思議がられることもありうる。

「『紫電(シデン)』は隠し玉のはずなのに、なぜ出してしまうのか?」と。

 

すると、別の技の存在を警戒されることにもつながりかねない。

 

しかし敢えて見せないことで、その技が隠し球であることを確信させれば。

別の技の存在を疑わせることにならず、回り回って、本来の隠し球である『紫電 改(シデン・カイ)』を隠し通せると言うわけだ。

 

「結構……全力だったんだけどな。タスクのやつ、それでもユウキ戦を見据えてやがった。はは……」

「……」

 

店主が首を振って笑う。

 

「ぐ……!?」

「ユ、ユウキ……!!」

 

闘技場では、ユウキがガクリとふらつく。

シウネーが思わず立ち上がる。

 

「タス……ク……!?」

 

シノンも、動き出さないタスクに少し不安の色を見せる。

 

「な、なあ、タモン……だったか?」

「!!」

 

するとその時。

なんとサクヤが、店主の方を向いた。

 

「その…… 『紫電 改(シデン・カイ)』とは、一体……?」

「え……ああ、えっと」

 

あまりに意外だったのか、店主は少しオドオドしつつも説明し始める。

 

「あれは……キリトくんの時の 『紫電(シデン)』の改良版。と言っても、中身は全くの別物だけど」

「……」

「『紫電(シデン)』は、ただの突きを3回だけ。弱点に、瞬間的にね」

「……あ、あの速さでか」

「うん……だってタスクくんだし」

「……」

 

店主のあっけらかんな言葉に、サクヤは面食らったようにおし黙る。

だってタスクだから、で通じてしまうのがなんとも言えないのだろう。

 

「ただね、『紫電 改(シデン・カイ)』はそうじゃない」

「!!」

「あれは、突きではなく斬り」

「何……!?」

 

突きではなく、斬り。

それはつまり……とんでもないことだ。

 

突きと斬りでは、動作の範囲も所要時間も全然違ってくる。

言わずもがな、多くを要するのは斬りだ。

 

突きならまだしも、斬りをあんな速度で叩き込めるわけがないのである。

 

「下から上へ、そして上から下へ。2回の斬撃を、瞬間的に出してるのさ」

「はっ……!?」

「ただもちろん、普通にやってちゃあ間に合わない。だから、下からと言いつつちょっとだけ斜めに斬り上げてる。それも刃の先端だけ使って……ね」

「……」

「股下から股の太い動脈を斬って上へ、その後すぐ切り返して斜め上から首へ」

 

なるほど、それなら……とは言えないが一応筋は通る。

 

真上に斬りあげるとすれば、それは体を真っ二つにせねばならない。

そんなことはあの戦闘中には到底不可能である。

 

しかし斜めに斬って、早いこと刀で切り終えてしまえば。

それも刀の先端だけで。

 

あの一瞬の間に、斬れないこともない。

 

「ユウキ……」

「!!」

 

シウネーの震えた声に引かれ、ユウキを見やる。

 

ゆっくりと立ち上がり、なんとかタスクに向き直らんとしているユウキ。

店主の解説通り、金的から腰にかけて斜め上を向いたものと、首元から反対の二の腕までの斜め下を向いたものの二つの大きな切り傷が、遠目からでも見て取れた。

 

「タスクは……?」

 

それに対し、タスクは。

 

動きを止めていたはずの彼は、いつのまにかユウキに向き直り、刀をしかと構えていた。

ただ彼の胸にもやはり、点で描かれた綺麗なX字の切り傷が見て取れる。

 

まごうことなき「マザーズ・ロザリオ」の切り傷。

 

「お互い、しっかりと受けたようね」

「はい……」

 

険しい顔で見つめるシノンと、それに相槌を打つリーファ。

 

 

 

「……!!」

 

 

 

実はその時。

店主も、険しい顔をして闘技場を見つめていた。

 

《しかしタスクくん……ここからどうする》

 

店主の目がぎゅっと細くなる。

 

《ユウキさんに少し崩されたとは言え、格闘は牽制にしか使っていない》

 

いつになく真剣な目をして闘技場を見つめる店主。

 

《それはつまり……》

 

無意識に手を握りしめ、眉間にしわを寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

《『紫電 改二(シデン・カイニ)』は使わない……ってことだ》

 

 

 

 

 

 

 

店主の額に汗が滲み始める。

 

 

《どうするつもりだ……!! タスクくん……!!》

 

 

 

「はは……な、何、今の……」

「……!!」

 

一方ユウキとタスク。

ユウキをしかと見据えて待つタスクに、ユウキがやっと向き合う。

 

「『紫電(シデン)』ってのがくるとは聞いてたけど……あれは確か、突きだった、よね」

「……今のは、『紫電 改(シデン・カイ)』。それの改良版です」

「かい……、かいりょう、ばん……。そんなの……ずる、くない?」

 

ユウキのポツポツとした喋り方は、もはや限界を迎えているようにしか見えない。

しかしタスクはそれでも構えを解かない。

 

「もう、獣は引っ込みましたか」

「……!!」

「実戦だったら、あなたはとっくに()()()()()

「死ん……で……!!」

 

タスクの意外な言葉に目を見開くユウキ。

 

途端、姉やスリーピンングナイツのみんなの顔が脳裏に蘇る。

もちろん……アスナの顔も。

 

「がっ……は……!?」

「……」

 

するとその時。

ユウキの口からポリゴン片が溢れ出す。

 

「もうすぐ時間です。試合も、あなたのHPも……」

「……」

 

 

 

 

 

 

「その他諸々、()()

 

 

 

 

 

 

「……!!??」

 

タスクの言葉に、ユウキの心臓が一段と跳ねる。

 

……まさか、という考えがよぎる。

いやそんなわけない。首を振って否定する。

 

……いやでも、もしかしたら。

 

「さあ」

「……!!」

 

タスクの声に、完全に驚いた目を返すユウキ。

その時のタスクの目は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とにかく、黒かった。

まるで底がなく、悲しみや闇を抱えているかのように。

 

 

 

 

 

 

そして最後の一合が、今……!!




次回、遂に決着!!




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