これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode155 纏糸 〜Tenshi〜

タスクという戦士の恐ろしさは、対峙して初めて気づく。

 

彼が、ほんとに、何もかもが未知数であるということ。

あのキリトを負かした彼が、全くもってはったりでは無いということ。

 

「……」

「……」

 

開始のブザーは既に鳴っている。

対するタスクはうっすら笑みを浮かべながら、しかとこちらを見据えている。

 

ユウキはそんなタスクを見返しつつ、剣を握りなおした。

 

「そんな……ユウキが……突っ込まない……なんて」

「!! た、確かに……」

 

スリーピングナイツの面々は驚く。

 

今までの戦いでは大半、ユウキは初手で突っ込み、先手を取っていたのだ。

異常に早い自分のペースを持ち込み、相手を崩す。

 

それがユウキの言わばスタイルだった。

 

ユウキは言っていた。

どんな相手も、ペースを崩せば勝機はある、と。

 

……しかし。

 

「ユウキ……!!」

 

現状、ペースを作るどころか切り込むことさえ躊躇っている。

 

「く……!!」

 

ユウキの顔にだんだん焦りが出てくる。

 

決して畏怖ではない。

ましてや恐怖でもない。

 

()()()()。ただそれだけである。

重心がどこにあるのか、どこをどう攻撃したら、どう返ってくるのか。

 

単純に、純粋に。

 

ビュン!!

「はっ!!」

 

すると次の瞬間。

ユウキの目に目掛けて突きが飛んでくる。

 

ユウキは流石の反射でかわす。

 

「はっ……はっ……!?」

 

あまりの速さに、ユウキは思わず驚いた顔を見せる。

同時に、それを反射でかわした自分にも。

 

「……!!」

 

その時気づいた。

タスクがいつの間にか、自分との距離を離していることに。

 

「ありゃ、気づきました?」

「!!」

 

なるほど、そういうことか。

ユウキは妙に納得した。

 

何故か上手く間合いが取れなかった理由。

重心やら構えの隙やら、今まで読めていたもの全てが、彼だけ読めなかった理由。

 

そもそもの距離が合っていなかったのだ。

 

顕微鏡で言うところの、合っているようで実は合っていなあい、もっと鮮明に見えるのにピントが合ったような気がする、あの感覚だ。

 

「……せええええい!!!!」

「!!」

 

ならば。

もういい、距離0にしてやる!!

 

そう言わんばかりにユウキは突っ込んだ。

 

右袈裟、左袈裟。

からの突きを2回。

 

タスクはそれら全てをかわす。

 

後ろに下がる彼に追い討ちをかけるように、ユウキは更にもう一突きを繰り出す。

 

しかしその瞬間。

 

グン!!

「うわっ!?」

 

ユウキの突きをかわしたタスクは、そのまま体を回転。

背中にユウキの剣を沿わせ、動きを制限しそのまま刀を横に斬ってきた。

 

ユウキは咄嗟に屈んで避けると、剣を半回転させて刃を向け、がら空きのタスクの背中へ。

 

しかしそれもタスクはバク転で避ける。

 

ユウキは剣を返してタスクに追い討ちの横斬り。

タスクはそれを下がって避けると。

 

バチイ!!

「わっ……とと」

 

ユウキの剣のグリップのすぐ上を叩いた。

横斬りの勢いが乗った剣は押されてさらに飛んでいきそうになる。

 

ユウキは慌ててそれを引き止めると。

 

ガッ

「あっ……ぶなぃ!」

 

タスクの上段斬りに剣を打ち当てて受けた。

するとユウキが負けじとタスクの剣を払い、袈裟斬りをかます。

 

タスクはそれを真っ向から剣で受けた。

 

「あぁ……まずいね」

「え……?」

 

するとその時。

 

今まで黙って見ていた店主が、初めて呟きを漏らす。

アスナの耳にそれが入る。

 

「な、くっ……!!」

 

ユウキも同時に気づいた。

 

「え……な、なんで……?」

 

シウネーをはじめスリーピングナイツも違和感に気づく。

 

タスクが咄嗟の反射でユウキの剣を受けた。

そこまでは良かった。しかし。

 

その後、向き直った彼らの。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()のである。

 

 

 

 

 

 

「て、店主さん……? あ、あれって……?」

「ん……ああ、あれはね」

 

アスナが思わず店主に説明を求める。

店主はそれにすぐ答える。

 

「あれは……なんらかの理由で蹴りが出せなくなった時とかのために編み出された剣術」

「……!!」

「要は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のためのやつ」

「……」

 

アスナは闘技場に向き直る。

ユウキは微かに焦りを見せた顔をしている。

 

当然、彼女のあんな顔は誰も見たことがない。

 

「ど、どうして……動かない……の?」

「あんな顔……見たことない……わ」

 

シウネーらも驚きを見せる。

 

するとその時。

 

「……?」

「ああ、わかったわかった」

 

キリトが怪訝な顔で店主を見た。

説明を躊躇っていた店主が、慌てて笑う。

 

そして一息つくと。

 

「あの技の名前は、『纏糸』」

「テンシ……?」

「そう。纏わりつく、糸って書いてテンシと読む」

「……」

「文字通り、()()()()()()()()()()()()()()技さ」

「!!」

 

店主は目を伏せて淡々と語る。

皆は店主と闘技場を交互に見ている。

 

「この技は剣技に精通している人程かかりやすい」

「え……?」

「原理はいわゆる『鍔迫り合い』さ。お互いの加圧が拮抗してる状態なんだよ、いわゆる」

「……!!」

「相手が加圧を強めれば強めるし、弱めれば言わずもがなそのまま斬り込む。結果相手は力を入れ続けることしかできなくなる」

 

店主の顔がいつ間にか面白いものを眺める顔に変わっている。

アスナらは相変わらず険しいが。

 

剣が離れない、いわゆる鍔迫り合いの状態は、一見すると剣がすっ飛んでこない分、まだ安心できる状態のように見える。

 

しかし。

 

「どうする……どうする、ユウキ」

「キリト……くん」

 

鍔迫り合いとはいわゆる「力の拮抗」。

つまりどちらかが崩れれば。

 

ガクン

「わっ……!?」

「ユウキ!!」

 

するとその瞬間、タスクが突然脱力し、ユウキの体勢が前に落ちる。

 

キイッ!!

「がっ……くっ!?」

 

そしてタスクはすかさず上段を打ち込んでくる。

 

体勢が前につんのめっている以上、視線はどうしても下に向く。

すると見えなくなるのは明白。

 

真上。

 

「あっ……ぶない!!」

「よく……受けたね、驚いた」

 

ユウキはそれでもなお、すんでのところで剣を打ち返す。

 

上段で飛んできた剣に、垂直に剣を当てる。

 

「く……!!」

 

また、同じ。

 

「あの技の怖いところはさ」

「!!」

 

店主が目を細める。

 

「急に無力になった感じがするんだ。自分はここからじゃ何もできないってさ」

「……!!」

「剣は、相手を攻撃すると同時に、裏を返せば自分と相手との距離を離してくれる、守ってくれる存在でもあるんだ」

「……」

 

確かに。

アスナは店主の言葉に内心同意する。

 

剣があるのとないのとでは、敵に相対した際の安心感が違いすぎるのだ。

「剣が力をくれる」というのもこの一種であろう。

 

「ただあの技は、それを()()()()()()()()()んだよね。()()()()ってやり方でさ」

「支配……!!」

「刃もちゃんと向いてるし、ちゃんと力も入れている。もちろん剣が当たる距離で。それでも当たらない。それどころか下がれもしない」

「……」

「纏わりつくのはただ単に剣にだけじゃないんだ」

「!!」

 

 

 

 

 

()()()()()()、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シウネーはその瞬間、ゾクりと背中に何かが這う感覚を覚えた。




大変遅くなりました……!!!!

実は色々計画中です。
お楽しみに!!

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