これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
ここはALOの闘技場付属の酒場。
「いやはや、負けちゃったなぁ〜!!」
そこへ能天気な声を上げて帰ってきたのは、もちろん店主である。
それも、屋台で売られている謎の肉塊の串刺しを大量に手に持って。
「え、あ、あれが、タモ……ン? ですか?」
「……のようだな」
周りの戸惑いはそれはすごかった。
同席していたサクヤの側近が、思わずサクヤに尋ねた程だ。
「お、お疲れ様でした?」
キリトがハテナを頭に浮かべそうな顔でとりあえず声をかける。
「ん?んぁ、きぎどぐん、あいあどう!」
「はは……」
もぐもぐしつつ、串を口から生やしつつ、店主はキリトと会話する。
「ゴクン、はい、これあげるー」
「ど、どうも」
すると、やっとこさ飲みこんだ店主は、手に持つ串の1本をキリトに差し出した。
「これ美味いんだよ〜、GGOでも売ったらいけんじゃないかな」
「……やれやれ」
店主の能天気な声を聞いて、タスクが呆れた声を出す。
隣に座るシノンも目を伏せて呆れていた。
「ほい……楽しかった、ありがとね」
「ん……僕もです」
ただ、店主はタスクにも串を差し出した。
それに若干雰囲気が変わる。
タスクもその串と言葉を、微笑んでしかと受け取った。
「……」
「……」
もぐもぐと食べる2人のケットシー。
雰囲気が変わったが故に、沈黙している周り。
「……ん!」
しかし、さすが店主、また彼がその沈黙を変えた。
「やあやあ、こんにちは、だね」
「!!」
今度はスリーピングナイツの面々の座る机に出向いたのだ。
「あ、こ、こんにちは?」
「こんちゃー!」
もちろん彼らは驚くが、ユウキだけは変わらず元気である。
「はーい、これあげるー」
「え……」
「あ、ど、どうも」
すると店主はまたもや串を各々に配った。
スリーピングナイツの面々は、それを恐る恐る受け取る。
それを見た店主はまた微笑んだ。
「はは、そんなビビらなくてもいいじゃないの」
「え、いや……その……」
「ま気持ちは分かるけどさ」
「……」
「で、ユウキさん」
「!!」
すると店主は、また雰囲気を変える。
ユウキもキョトンとして店主を見つめる。
「どうだった、獣と獣のぶつかり合いは」
「あ……!!」
その時、シウネーは思い出した。
確かあれは……ユージーン戦の後。
アスナが捕まえ、初めて店主と話した時。
ユウキが言っていた、あの言葉。
《『獣』と『獣』がぶつかったら、どうなるんだろう……ってさ》
その言葉の結論を、店主は聞いているのである。
「う〜ん…………」
自然とユウキに注目が集まる中、彼女は少し考える素振りを見せる。
……が、ほどなくしてニコッと笑うと一言。
「う〜ん、その」
「?」
「
「……へぇ」
店主はちらりとタスクを見る。
タスクは未だ串をもぐもぐし、シノンと話している。
「ん……ほんとに、よくできたお嬢さんだ」
店主はまた微笑んだ。
✣
「……やっぱり?」
「もちろん」
その数十分後。
タスクとシノンは、選手入場口でその時を待っていた。
「彼女は剣士でしょ、剣で戦いますよ」
「そ、それはそうだけど……」
「?」
言葉に少しつまるシノン。
タスクはそれをキョトンとして見返す。
「あの子は全力のタスクと戦いたいのよ、だとしたらと思っちゃうって」
「……ああ、そゆこと」
すると、タスクは妙に納得してストンと座った。
ベンチに座るシノンの目の前の床に座ったので、シノンを見上げる形になる。
さすがに首が痛いのか、あぐらをかいて後ろに手を着いて体を上に向けていた。
「ま、本音言うとですね」
「……本音」
「仮にウェポンズフリー……ようは店主さんと戦う時みたいに、なんでもかんでも使えるとしても」
「うん……」
「僕は剣でやりますね、その方がいいし、そうしなきゃ勝てないと思う」
「……!!」
あっけらかんにそう話すタスクに、シノンは思わず驚いた。
てっきり、刀しか使わないのは手加減というか、礼儀というか、そういう話かと思っていたからだ。
それがあからさまに顔に出ているシノンを見て、タスクが思わず笑う。
「んとね、シノンさん」
「?」
「武器術が最も警戒するのは、
「他の……武器」
「そう。もっとわかりやすく言えば、
「な、なるほど」
シノンは一瞬戸惑うが、何とか飲み込んで理解する。
自分の使う武器が自分にとって一番使い易ければ、確かにそれがいい。
「武器というのは言い換えれば
「じ、弱点が出る……」
「そう、だからそこを徹底的に潰している。武器術というのはそういうものです」
そのうちシノンは、なるほど、確かになと思い始めた。
冷静に考えてみれば、プレイヤーたちがギルドやパーティを組むのはお互いの弱点を補うためだ。
それは次第に体系化され、
そしてその
では、仲間がいない、単騎の戦いに挑まねばならないとしたら。
自分が最も使いやすい武器で戦い、かつ、仲間が補ってくれていた部分を徹底的に潰して置く他無いだろう。
「つ、つまり……?」
「……」
シノンが何とか理解し、結論を求める。
タスクはそんなシノンを面白そうに見て、目を伏せる。
そして少し試すような目を開けると。
「あえて剣だけで挑みます。彼女が使いやすい剣の使い方しかさせない。本気を引き出して楽しむ」
そう言ってニカッと笑った。
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