これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「は……?」
リーファは困惑していた。
タスクの
店主が体勢を下げたのと同時に。
タスクも体勢を下げたのである。
しかもその顔は笑っている。
「ど、どういう……?」
タスクの意図が理解できず、リーファは思わずそう呟く。
店主に関してはただの構えに過ぎない。
タスクの小柄さに合わせた、手の位置を下に置くための体勢。
しかしタスクは違う。
店主よりもさらに下、地面に手をついた、さながら相撲取りの力士のような構え。
困惑しているのはリーファだけではない。
キリトやユウキ、店主でさえも虚をつかれた顔をしている。
「あ……」
そういえばシノンさんは……?
不意にそう思い至り、パッとその方向を向いてみる。
すると。
「なーに見てるのよ? リーファちゃん?」
「え……わっ!?」
顔を上へ向けると、ふふふと笑うシノンが見下ろしている。
「さっきからチラチラ見てたでしょ」
「うっ……」
「落ち着かないでしょ、分かるわ」
「え……?」
試すような、それかもう全て見抜いているような。
そんな目をしながら、シノンは笑ってすぐ隣に座った。
リーファは、びっくりしたからなのかしかしそれにしては長い、ドキドキという拍動を、必死に胸の中に押さえ込む。
「い、いつのまに……」
「ついさっきよ」
「え?」
「みーんなタスクに目が釘付けだわ。視線誘導の必要もない。簡単な話よ」
「……!!」
ケロリと笑うシノンにリーファはちょっと不服そうだ。
「そんな顔しないの、悪かったわよ」
「い、いえ……別に……」
「ふふ、正直スッキリしてるんでしょ」
「!!」
「試合終わったし……みたいな」
そこも……?
リーファはあからさまに警戒の目をシノンに向ける。
自分では精一杯取り繕っていたつもりだった。
タスクには見抜かれるだろう、とは思っていたがまさかシノンにまで見抜かれるとは。
……いや、シノンもタスクと同様、見抜けるのか。
「ま、いいんじゃない? 無理に周りに合わせる必要はないわ」
「シ、シノンさん……」
すると、シノンはそう言ってはにかむ。
ほんのりと漂わせる雰囲気。
お淑やかながら、相手に必ず感じさせるほどの根底にある強さ。
そして知らず知らずのうちに安心させるほのかな母性。
「あ、あの……」
「ん?」
リーファは思わず、口を開いてしまった。
✣
「……どういうつもりだい?」
「……へへ」
一方試合中の二人。
タスクの意図が読めない店主は、あえて動かないでいた。
「試合中ですよ。会話は意識を乱します」
「はは、そう言って君も答えてるじゃない」
タスクが笑って言葉を返す。
やはり意図が読めない。
凡人ならここで、例えば無視やら、とぼけるやらするだろう。
逆に問うかもしれない。
さあ、なんでしょうか、と。
「……ふむ」
店主は気を抜いて一旦考える。
例えば無視なら、話は早い。
会話している余裕がないのだ、言い換えればこちらを警戒しているのである。
とぼけるのは、挑発と捉えるのが普通だろうが違う。
自分の手に自信がないのである。自分の手が、相手の予想しえない物かどうか。
問い返しも似たような物だ、というか大体がそう。
しかし。
その行為に対する指摘とは。
なかなか、否、やはりと言うべきか彼である。
これではわからないし、そもそも埒が明かない。
「そうか、つまり君は」
「っ……!!」
そしてついに。
「行った……!!」
店主が急速に間合いをつめた。
観客の中の誰かがそう叫び、その他大勢は再び熱狂する。
ヴォン!!
「!!」
店主の中段フックがタスクの屈んだ頭の上を掠める。
相変わらずスレスレ。
観客は感嘆する。
「武器じゃねえ、武器じゃねえけどよ」
「ああ……、なんなら武器よりあれの方が当たりたくねえ」
タスクは即座に動いた、店主の腹へ前蹴り。
後ろに伸びていた足を、手を支柱に体の下を潜らせ、半ば逆立ちするかのように両方の足を突き上げる。
「ふふ」
すると店主は、まるで分かっていたかのようにフックで通過した手をバック。
裏拳として、タスクの脇腹へ叩きこもうとするが……
次の瞬間。
ギュン!!
「がっ……!?」
タスクの両の足が一方は腕の外側、一方は内側を通り、そして。
「あ、あれが……狙い……!?」
「うっそぉ……」
思わずシウネーとユウキが呟く。
ガキィッ!!
「がっ……あ!?」
タスクが繰り出したのは、典型的な
腕を捉え、首を絞める典型的な
「ぐ……」
ズズッ
店主は、絞められながらも何とかもう片方の手でタスクに触れようとする。
まさか、関節技でも投げ技でもなく、絞め技とは。
店主も予想していなかった手に、必死に対抗する。
「あっ……!!」
そしてアスナが思わず呟く。
誰もが分かる、発勁だ。
しかし。
グリッ
「がっ……は!?」
ボッ
発勁が打たれると同時に、タスクは更に絞めて身体を浮かし、発勁を背中の真下に通させた。
店主はたまらず手を引っ込め、地面に手をつく。
このまま体を地面に寝かしたままにすれば、いよいよ呼吸が続かなくなってくる。
「ゆ、ユウキ……!!」
「うん……!! 店主さんのHPが……!!」
ガクン、と減った。
あのユージーンの剣を直に喰らってもほんのミリしか減らなかったあのHPが、目に見えてわかるくらい大きく削られた。
「そ、そういうやり方……する? ふつう……!!」
至極真っ当なユウキの言葉。
当然、この場にいるもの全員、あんなの見たことない。
そして、
当たり前だ、あんなのやる前に武器で斬りつけた方が、魔法を打ち込んだ方が、羽で羽ばたいた方が……
「いやぁもう、あれは
「!!」
ユウキが首を振って否定する。
この場にいるもの、全員分かっていた。分からないわけがないのだ。
あの人たちはそんな次元じゃない。
例え武器でかかろうと、魔法を繰り出そうと、羽で空に逃げようと。
そう、言わしめる別格の人間の戦いなのである。
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