これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

150 / 189
Episode148 絞め技 〜Chokehold〜

「は……?」

 

リーファは困惑していた。

タスクの()()に。

 

店主が体勢を下げたのと同時に。

タスクも体勢を下げたのである。

 

しかもその顔は笑っている。

 

「ど、どういう……?」

 

タスクの意図が理解できず、リーファは思わずそう呟く。

 

店主に関してはただの構えに過ぎない。

タスクの小柄さに合わせた、手の位置を下に置くための体勢。

 

しかしタスクは違う。

店主よりもさらに下、地面に手をついた、さながら相撲取りの力士のような構え。

 

困惑しているのはリーファだけではない。

キリトやユウキ、店主でさえも虚をつかれた顔をしている。

 

「あ……」

 

そういえばシノンさんは……?

不意にそう思い至り、パッとその方向を向いてみる。

 

すると。

 

「なーに見てるのよ? リーファちゃん?」

「え……わっ!?」

 

()()()()、シノンの少し笑ったやさしい声が聞こえてきた。

顔を上へ向けると、ふふふと笑うシノンが見下ろしている。

 

「さっきからチラチラ見てたでしょ」

「うっ……」

「落ち着かないでしょ、分かるわ」

「え……?」

 

試すような、それかもう全て見抜いているような。

そんな目をしながら、シノンは笑ってすぐ隣に座った。

 

リーファは、びっくりしたからなのかしかしそれにしては長い、ドキドキという拍動を、必死に胸の中に押さえ込む。

 

「い、いつのまに……」

「ついさっきよ」

「え?」

「みーんなタスクに目が釘付けだわ。視線誘導の必要もない。簡単な話よ」

「……!!」

 

ケロリと笑うシノンにリーファはちょっと不服そうだ。

 

「そんな顔しないの、悪かったわよ」

「い、いえ……別に……」

「ふふ、正直スッキリしてるんでしょ」

「!!」

「試合終わったし……みたいな」

 

そこも……?

リーファはあからさまに警戒の目をシノンに向ける。

 

自分では精一杯取り繕っていたつもりだった。

タスクには見抜かれるだろう、とは思っていたがまさかシノンにまで見抜かれるとは。

 

……いや、シノンもタスクと同様、見抜けるのか。

 

「ま、いいんじゃない? 無理に周りに合わせる必要はないわ」

「シ、シノンさん……」

 

すると、シノンはそう言ってはにかむ。

 

ほんのりと漂わせる雰囲気。

お淑やかながら、相手に必ず感じさせるほどの根底にある強さ。

 

そして知らず知らずのうちに安心させるほのかな母性。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……」

「ん?」

 

リーファは思わず、口を開いてしまった。

 

 

「……どういうつもりだい?」

「……へへ」

 

一方試合中の二人。

タスクの意図が読めない店主は、あえて動かないでいた。

 

「試合中ですよ。会話は意識を乱します」

「はは、そう言って君も答えてるじゃない」

 

タスクが笑って言葉を返す。

 

やはり意図が読めない。

凡人ならここで、例えば無視やら、とぼけるやらするだろう。

 

逆に問うかもしれない。

さあ、なんでしょうか、と。

 

「……ふむ」

 

店主は気を抜いて一旦考える。

 

例えば無視なら、話は早い。

会話している余裕がないのだ、言い換えればこちらを警戒しているのである。

 

とぼけるのは、挑発と捉えるのが普通だろうが違う。

自分の手に自信がないのである。自分の手が、相手の予想しえない物かどうか。

 

問い返しも似たような物だ、というか大体がそう。

 

しかし。

その行為に対する指摘とは。

 

なかなか、否、やはりと言うべきか彼である。

これではわからないし、そもそも埒が明かない。

 

「そうか、つまり君は」

「っ……!!」

 

そしてついに。

 

「行った……!!」

 

店主が急速に間合いをつめた。

観客の中の誰かがそう叫び、その他大勢は再び熱狂する。

 

ヴォン!!

「!!」

 

店主の中段フックがタスクの屈んだ頭の上を掠める。

 

相変わらずスレスレ。

観客は感嘆する。

 

「武器じゃねえ、武器じゃねえけどよ」

「ああ……、なんなら武器よりあれの方が当たりたくねえ」

 

タスクは即座に動いた、店主の腹へ前蹴り。

後ろに伸びていた足を、手を支柱に体の下を潜らせ、半ば逆立ちするかのように両方の足を突き上げる。

 

「ふふ」

 

すると店主は、まるで分かっていたかのようにフックで通過した手をバック。

裏拳として、タスクの脇腹へ叩きこもうとするが……

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間。

 

ギュン!!

「がっ……!?」

 

 

 

 

 

 

タスクの両の足が一方は腕の外側、一方は内側を通り、そして。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ、あれが……狙い……!?」

「うっそぉ……」

 

思わずシウネーとユウキが呟く。

 

 

 

 

 

ガキィッ!!

「がっ……あ!?」

 

 

 

 

 

タスクが繰り出したのは、典型的な()()()()

腕を捉え、首を絞める典型的な()()()である。

 

「ぐ……」

ズズッ

 

店主は、絞められながらも何とかもう片方の手でタスクに触れようとする。

 

まさか、関節技でも投げ技でもなく、絞め技とは。

店主も予想していなかった手に、必死に対抗する。

 

「あっ……!!」

 

そしてアスナが思わず呟く。

誰もが分かる、発勁だ。

 

しかし。

 

グリッ

「がっ……は!?」

ボッ

 

発勁が打たれると同時に、タスクは更に絞めて身体を浮かし、発勁を背中の真下に通させた。

 

店主はたまらず手を引っ込め、地面に手をつく。

このまま体を地面に寝かしたままにすれば、いよいよ呼吸が続かなくなってくる。

 

「ゆ、ユウキ……!!」

「うん……!! 店主さんのHPが……!!」

 

ガクン、と減った。

 

あのユージーンの剣を直に喰らってもほんのミリしか減らなかったあのHPが、目に見えてわかるくらい大きく削られた。

 

「そ、そういうやり方……する? ふつう……!!」

 

至極真っ当なユウキの言葉。

 

当然、この場にいるもの全員、あんなの見たことない。

そして、()()()()()()()()()()()()

 

当たり前だ、あんなのやる前に武器で斬りつけた方が、魔法を打ち込んだ方が、羽で羽ばたいた方が……

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()……!?

 

 

 

 

 

 

「いやぁもう、あれは()()()()()()()()()()

「!!」

 

ユウキが首を振って否定する。

 

この場にいるもの、全員分かっていた。分からないわけがないのだ。

 

あの人たちはそんな次元じゃない。

例え武器でかかろうと、魔法を繰り出そうと、羽で空に逃げようと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

そう、言わしめる別格の人間の戦いなのである。




【作者Twitter】
https://mobile.twitter.com/P6LWBtQYS9EOJbl
作者との交流、次話投稿の通知、ちょっとした裏話などはこちら!!

【作者 公式LINE】
https://lin.ee/wGANpn2
公式LINE限定セリフ、各章あらすじ、素早い作中情報検索はこちら!!

【今作紹介動画】
https://youtu.be/elqnCcV7R_0
この動画にしかない物語の鍵があります……。

【感想】
下のボタンをタップ!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。