これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode145 宣言 〜message〜

「……ユウキ」

「……!? は、はい?」

 

ここは、ALO統一トーナメントの闘技場の観客席。

 

……へ、登る階段の踊り場。

 

不意に後ろから呼び止められたユウキが振り返ると、そこにはシノンが立っていた。

 

「シ、シノンさん……!! いいんですか、見送りは……」

「あ〜……はは、今回はどっちとも身内だから。いいの」

「は、はぁ……」

 

首を傾げて笑うシノンに、ユウキはキョトンとする。

 

「……それより」

「!!」

 

すると、シノンは微笑みを保ったまま、ユウキを真っ直ぐ見つめた。

ユウキはドキッとして、シノンを見る。

 

少し試すような目をする彼女。

うわぁ、こりゃタスクくんデレデレだわ。いいなぁ、なんて思い始めるユウキ。

 

「……な、なんですか」

 

あまりに何も言わないため、ユウキが不意にそう口走る。

シノンはなお沈黙を保って……その後ゆっくりと。

 

「………」

「……?」

 

 

 

 

「タスクから……伝言」

 

 

 

 

 

「!?」

 

そう言って、またあの微笑みを見せた。

それに対し、ユウキの顔からは笑顔が消えて、警戒の色が見える。

 

タスクから伝言?

その言葉が頭の中でグルグルと回り、色んな思考も同時に回り始める。

 

「…………?」

 

そのうち、思い当たりが無さすぎて何だかふわふわした気持ちになってきた。

そんなユウキを見て、ついにこやかになるシノン。

 

「いい?」

「あっ、はい……!!」

 

あまりに悩んだ顔をするユウキに、シノンは一応訪ねた。

聞いてなかった……なんてなっては困るからだ。

 

ユウキもユウキでそれを分かっているからか、慌ててシノンの目を見据える。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

「『この試合が終わった時』」

「……!!」

「『君は()()()()()()()()』……と」

 

 

 

 

 

 

『笑う』。

ユウキには分かる。

 

ここでの意味は、愉快や感嘆、ましてや嘲笑などの類ではない。

 

感情はただ一つ。

()()』。

 

彼らの身の内に住まう獣。

それが目を覚まし、顔を見せる時に出る、あの独特な雰囲気の笑み。

 

狂気の沙汰とも取れる、あの強さに対する執着は、ユウキは感嘆に値するものだと見ていた。

 

しかし。

 

「それって……」

「ええ、そうね」

 

訝しげに問いかけるユウキに、すました顔で答えるシノン。

 

「ぼ、僕の中にも……()()()()ってこと?」

「うん、そうね」

 

まさか、そんな。

ユウキは思わず目を見開いて、身を引いてしまう。

 

「言ったでしょ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って」

「……!!」

「タスクはきっと、あなたには負けるかも……って思ってるんじゃない?」

「な……!?」

「じゃなかったらこんな伝言しないでしょ。それに、そのことに気づいてないあなたにわざわざ教えたげるなんて……ふふ、こんなのある種()()ね」

「!!」

 

あっけらかんに喋るシノンに、目はもちろん耳も信じられないと言わんばかりのユウキ。

 

だがしかし、彼女の話は確かに筋が通っているのだ。

 

要約すればこう。

『次の試合で君の目を覚まさせる。だから決勝、全力で来い』である。

 

「っ……!! わ、分かりました。ありがとう」

「ん。……確かに伝えたわ」

 

ぐっ、と拳を握りしめ、ユウキはこくりと頷いた。

シノンは満足気に微笑むと、カツカツと観客席へ続く階段を登っていく。

 

するとその時。

 

「あ、あのっ……!!」

「?」

 

咄嗟に、ユウキはシノンを呼び止めた。

 

「……なぁに?」

「あ……えと……」

 

体が勝手に動いたかのような、ほんとに、最早本能的な感じで呼び止めてしまったユウキ。

シノンはキョトンとしてそんな彼女を見ている。

 

……しかし、絞り出して一言。

 

 

 

 

 

 

「シ、シノンさんにもいるの……? その、獣って」

 

 

 

 

 

 

恐る恐る見上げた目は、キョトンとして未だ見つめるシノンを映す。

 

しばらくの沈黙。

上から聞こえる観客の声が大きくなってきた。

 

……そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、いるわ。ちっちゃくて、()()()()()がね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

そう言って微笑んだ彼女は、上から差し込む光に包まれ、それはそれは綺麗にやさしく見えた。




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