これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
時は少し戻って……。
リーファが、Cブロック決勝進出をかけた試合をしている時。
「……どう、タスク」
「……どうとは?」
「リーファちゃん、勝てそう?」
観客席に通ずる大きな階段の正面の欄干で、タスクとシノンが肘をかけて観戦していた。
「ああ……ま、次の相手は彼女でしょうね」
「!!」
すると、驚くほど軽いノリで、タスクはそう口にした。
ちなみに、タスク自身はもう既に決勝進出を決めている。
つい先程、例のハンマー使いとの準決勝を終えたのだ。
「拮抗しているように見えますが、いずれリーファさんが優勢に傾きます。必ず」
「か、必ず……?」
シノンはタスクの断言ぶりに驚く。
「……彼女、キリトくんの義妹でしたっけ」
「ええ……確か」
「ふふ、やはり
「え……」
すると、タスクは微笑んでシノンを見た。
シノンは少し紅潮して後ずさる。
「ほら……よく見て」
「……?」
「リーファさん、相手と剣を交わしていない間は、剣先に意識が向いてるんです」
「!!」
一瞬タスクを見て、リーファに見入るシノン。
……だが。
「……別に……まわりのプレイヤーと変わらない気が……?」
「あれっ」
シノンは、そう言って首を傾げた。
タスクはあらら、と言いたげに笑う。
「シノンさん? 意識はね、全体を見るんです。目じゃない」
「!!」
「ほら……今なんか特にそう。相手との距離を、
「え……?」
やっぱり分からない。
シノンはますます混乱する。
どこが……?
確かに相手に剣先が向いているけども、視線は明らかに相手に注がれているし、全体を見ても適切な距離を保って一合、また一合と繰り返す通常の斬り合いにしか見えない。
「う〜ん……ああ、こう言えば分かるかな」
「?」
すると、そんな顔のシノンを見て、タスクが何かを閃いたらしい。
「えとじゃあですね」
「う、うん」
「次、斬り合いが止んで、また始まる直前」
「うん……うん?」
「
「え……」
シノンはついタスクの方を見る。
するとタスクは試合を面白そうに眺めつつ、口だけを動かしている。
「するとね、シノンさん」
「!!」
こちらを見向きもしないで、いつの間にかこちらを見ているのを悟り、会話を止めていたタスクがまた会話し始める。
シノンはそれに気づき、少し恥ずかしそうにまた前に慌てて向き直る。
……そして一言。
「リーファさん、必ず
「……!!」
そう言ってるうちに、試合の合が止む。
「さぁ……よく見てよく見て……?」
タスクの声につられ、シノンは思い切り目を凝らす。
そして次の瞬間。
パキン!!
「あっ!!!!」
それは、
敵が一瞬の隙をつきぐんと距離を縮めた。
そしてその瞬間、確かに彼女のどこよりも早く、まず
その次に体が後ろに下がった。
秒にして1秒もないほどのごく僅かなズレだが、確かにタスクの言う通りであった。
「す、すごい……ほんとに、剣先が最初だわ」
「ふふ……でっしょぉ?」
シノンの素直な感嘆に、得意そうな顔をして照れるタスク。
するとシノンは、そんな彼に率直な問いを繰り出した。
「……でも、タスク」
「?」
「なんでそんな所を見たの?」
タスクの方を見て問うたシノンに、彼も答えて彼女を見る。
「……それはですね」
「……うん」
「
「ほ、
案外壮大な答えに、キョトンとするシノン。
そんな彼女を見たタスクは、また前に向き直り説明し始めた。
「キリトくんも、リーファさんも、どちらもおそらく、『
「!!」
「だから、剣の戦いにおいて圧倒的アドバンテージがある。シノンさんはこちらでも弓手だから分からないでしょうが、
そう断言するタスクの横顔を見て、シノンは回想する。
確かに、GGOでも実銃経験がある人は射撃命中率が高い傾向がある。
全く同じ的を、全く同じように狙っても、だ。
タスクはまだ説明する。
「仮想世界だと、トッププレイヤーでさえ、現実の経験がない故に、単なる……まぁその、
「えっ……」
「今のリーファさんの相手もそう。現実の経験が、下地がないから、仮想世界のアシストありきの戦闘行為……ようは単なる
「……」
「まぁ、それが仮想世界の良さでもありますが。でも、仮想世界で強くなれる人って言うのは、結局は現実が問題だったりするんです」
「……」
「キリトくんやリーファさんは正真正銘の『
「!!!!」
その時、シノンの中で全てが繋がった。
つまり、タスクが刀を抜かなかったのは……!!
「……ふふ、そういうこと。あんな連中のために、この刀を消耗したくありませんでした」
「タ、タスク……!!」
「次は逆に、
「……!!!!」
「格闘技なんか使っちゃ失礼でしょう、キリトくんは何故か剣道味が薄かったので使っちゃいましたけどね」
そう言って笑うタスクに、シノンもニコッと笑いを返す。
……ただ、ふと一つの疑問がシノンの中にぽっ、と現れた。
「え、タスク」
「はぁい?」
試合に向き直っていたタスクが、またシノンの方を向く。
「か、格闘技が失礼って……タスクも剣士でしょ?」
「……!!」
すると、想定外だったのかタスクがキョトンとする。
だがすぐに表情を戻すと、ふっともの哀しげな笑みを見せて、一言……。
「僕は『
「っ……!?」
シノンがタスクのその一言に息を飲む。
そしてその時、形勢が一気にリーファに傾き、観客が湧いた。
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