これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

122 / 189
Episode120 矛盾の中に 〜In contradiction〜

「…………」

 

酒場は、沈黙に包まれていた。

 

一般の方は、賑わっている。

最後の最後まで、小さな戦士達が戦い、その末で男の方が負け、その後だったからだ。

 

 

 

 

 

 

彼らが、撤退(リザイン)したのは。

 

 

沈黙はこちら。

タスクらがいる、個室である。

 

相変わらずのほほんとしたタスクと、厳しめな目で床を睨み、カクテルを仰ぐ店主。

目を伏せて息をつくシノンと、最高に居心地が悪そうなキリト。

 

どうなるんだろう。

そんな風にしか見ていなかったディスプレイで起こった悲劇。

 

泣いて伏す大男の背中をさすり、無線を飛ばすナイファー。

呆気に取られ、呆然とした中、レンとの決着を待って、リザインを押した本隊。

 

そして肝心のレンとの試合も、()()()()()()()()()

重苦しい雰囲気になるのも致し方なし、むしろ当然かもしれない。

 

「……して」

「っ!」

 

すると、店主がゆっくりと顔を上げた。

キリトはその横顔を、恐る恐る見る。

 

「どう、評価する? タスク君は」

「……うーん」

 

そんな顔を向けられながらも、のほほんとした態度を崩さないタスク。

そう問われ、飲んでいたワインをクルクルと回すと……

 

コト

「……ま、上出来、でしょうか」

「上出来……かい」

「ええ」

 

明らかにそうじゃないだろう。

そう言いたげなキリトの目が、タスクと店主を行き来する。

 

……するとその時だった。

 

「……落ち着いてキリト」

トントン

「んえ……?」

 

シノンが、キリトの背中をつついた。

キリトはゆっくりとそちらに振り返る。

 

「……彼らはよくやったわ。上出来よ」

「ええ……!?」

 

すると彼女まで、そんなことを言い始めた。

キリトは思わずシノンを凝視する。

 

そして勢いよく店主へ振り返ると。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ〜そりゃそうよなぁ〜!!」

「……えっ」

 

 

 

 

先程の雰囲気と一転。

店主がカウンターにひれ伏した。

 

 

そして時は流れ、その日の晩。

 

すっかり日も落ち、夕食も腹に入れ、あとは寝るだけなキリト。

……否、現実世界の、桐々谷和人である。

 

彼は今、電気を消した自室でベッドに横になり、天井を眺めていた。

 

「……」

 

不思議な感じがまだ抜けない。

 

今日の試合はLMが勝った。

問題はその後。

 

結局、あのチームには報酬は何もなかった。

 

後から聞けば、ピンクのチビに負けたのも、わざとらしい。

理由は、敵チームにリザインの選択肢を与えてはいけないから。

 

筋が通っている。納得もできる。

……しかし。

 

それらに対するタスクらの反応。

不思議な感じはここからである。

 

シノンも含め、彼ら3人に一貫して共通していたのは、「彼らはよくやった」という意見。

 

よくやったなら……報酬をあげてもって思うのは、『甘い』のか。

 

あの後、あの店主が、すごく項垂れていた。

しかしそれはがっかりというより、そうなっちゃっかぁ、というような、笑いを含めた項垂れだ。

 

 

「任務が絶対、そう言っているのに、何も達成しなかった任務に対して、『よくやった』…………んん?」

 

 

寝返りを打ち、今度は壁を眺めつつ、そう独りごちる和人、

 

矛盾。

頭には、そんな単語がよぎる。

 

……しかし、だ。

この一見矛盾した状況の中に、()()()()()()()がある気がするのだ。

 

()()()()()()()()()の、秘密が。

 

 

それから数分後。

 

ピピピ……

「ん、んん……?」

 

いつの間にか寝ていた和人は、スマホの着信音で目を覚ます。

 

「誰……だ? こんな……時間……に」

 

そして手探りでスマホを手繰り寄せ、眩しい画面に目を凝らす。

 

するとそこには、「明日奈」と書かれていた。

 

「アスナ……!? どうしたんだ一体」

ピッ

 

キリトは慌てて緑色の通話ボタンを押し、スマホを耳に押し当てる。

 

「は、はい……もしもし」

『……もしもし!! いきなりごめんね、キリトくん』

「……ん、いやそれはいいけど……何かあったのか?」

 

和人は、体を起こしてベッドに座り込む。

 

いつものパソコンを介したテレビ電話ではなく、スマホでの通常通話な辺り、普通の電話、では無いのは確かであろう。

 

疑問、と言うより心配、が彼の心に染みでてくる。

 

『ん、いや、いまALOから帰ってきたんだけどね……』

「あぁ……うん……?」

 

ALO、いかにもいつも通りな単語が出てくる。

和人の心に、少し疑問が増えてきた。

 

……そしてしばらくの沈黙の後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私を……GGOに連れてってほしいの』




【作者Twitter】
https://mobile.twitter.com/P6LWBtQYS9EOJbl
作者との交流、次話投稿の通知、ちょっとした裏話などはこちら!!

【作者 公式LINE】
https://lin.ee/wGANpn2
公式LINE限定セリフ、各章あらすじ、素早い作中情報検索はこちら!!

【今作紹介動画】
https://youtu.be/elqnCcV7R_0
この動画にしかない物語の鍵があります……。

【感想】
下のボタンをタップ!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。