これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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第二章 違う世界 〜A different world〜
Episode11 嫌な予感 〜Bad feeling〜


「シノンさん……ねぇ」

 

外が暗くなり出す時間。

タスクは、店主のショップの休憩スペースのようなところに腰掛け、店主と向かい合っていた。

 

話題は、シノンについて。

 

「……このままだと、シノンさんは本当にこちらの世界に入ってしまうね」

「うん……」

「1回PKされたら、それが命取りになる。常に身を隠さないといけなくなってしまうね」

「うん……それに、最悪の場合……」

「ヘカートIIを、失ってしまう」

 

そう。それこそ、店主とタスクが、ここまで深刻な顔をして話し合う理由だ。

 

GGOには、ゲームには良くある死亡罰則(デスペナルティ)がある。

基本的に死亡判定を食らうのは、HPバーが全損した時。

その時に、必ず死亡罰則(デスペナルティ)が課されるのだ。

 

これは、ゲームバランスを保つためのシステムなので、誰も文句は言わない。

むしろ無いと文句を言われるくらいだ。

 

まあ実際、その死亡罰則(デスペナルティ)が、今店主とタスクの悩みになっているのだが。

 

そしてその、死亡罰則(デスペナルティ)。それは一体何なのかというと、

「キャラクターが死亡した場合、そのキャラクターの所持しているアイテムの一部をランダムでその場にドロップし、そのキャラクターからはそのドロップしたアイテムが剥奪される」

というものだ。

 

これ自体は至ってシンプルで、他のキャラクターを殺し、アイテムを奪う、PKが利益を得るためのシステムだ。

前までシノンはそれを求めてプレイしていた訳だし、彼女もそのことはよく理解しているはずだ。

 

……だが、問題はここからなのだ。

 

もし、シノンがこちら側の世界に来た場合、シノン自身を狙ったPKプレイヤーが、実に沢山やってくる。

これは、実際にタスクや下手すれば店主まで受けてきたことだから、分かりきっている。

シノンも逆PKを狙われてきただろうから、すこしは対抗できるのだろう。

 

しかし、そのPK狙いのプレイヤー、この世界では格が違うのだ。

この格差こそ、タスクや店主が危惧していることである。

 

通常、平和にプレイしている一般のプレイヤーのPKは、フィールドのどこかに待ち伏せて無差別に攻撃するか、標的を定めて、ポツポツと攻撃するくらいだ。

 

だが、こちら側のPKは先程も言った通り、本当に格が違う。

 

標的となったプレイヤーは、ゲームにログインする度につけ狙われ、一度フィールドにでれば、常にPKされる危険がある。

それに、もしその標的プレイヤーがいいアイテムを持っていた場合、そのアイテムを落とすまで、執拗に狙われ続けるのだ。

 

そしてその「いいアイテム」。

言わなくてもわかるだろう、シノンでいうヘカートIIなのだ。

おそらくシノンは、今まであってきたPKとの格差に為す術もなくやられてしまうだろう。

 

なにせヘカートIIだ。この世界に十丁程しかない、アンチマテリアルライフルなのだ。

これを奪われる訳には行かない。彼女だってそうだろう。

 

タスクが、話を続ける。

 

「でも、シノンさんは自ら希望して来たんでしょ?」

「ま、まあ、間接的に……だがな」

「……と言うと?」

「シノンさんは、タスク君の()()()()()()()と言っただけだ。たとえその行為が、こちら側の世界に足を踏み入れる行為だとしても」

「直接、足を踏み入れたいとは……」

「シノンさんは、言ってない」

「う〜ん……」

 

タスクと店主は、考え込む。

 

確かに彼女は、こちら側の世界に足を踏み入れてでもビッグ・ボスの正体を知りたいと言った。

それ自体は本人自身の判断だし、尊重したいと二人は考えている。

 

だが、そんなに甘くないのも事実だ。

実際、タスクは過去に装備をひとつ取られているし、店主も幾度となく狙われた。

もし本当に入った時、この世界に入るんじゃなかったと後悔して欲しくない。

これはあくまで、()()()なのだ。それ自体の面白さを、そのゲーム自体で失って欲しくない。

それが、一番の問題点なのだ。

 

「ふぅ〜……」

「……?」

 

いきなり、店主が大きくため息をつく。

タスクは、そんな店主の行動に疑問を覚えた。

すると店主は、これしかないとばかりに指をピンと立て、方目を閉じて、解決策を提示した。

 

「これはもう、本人にもう一度、直接聞かなきゃならないね」

「……!」

「そしてもし、本当に彼女がこちら側の世界に来ると言った場合、タスク君。君が訓練するんだ」

「わかった」

「元はと言えばタスク君が有名になりかけたからなんだけどね…ま、仕方ないけど」

「店主さん……」

「ああ、違う違う。別に、タスク君が悪いって言ってるわけじゃないよ。ただ……これからこういう事が起こり得る……という事がよく分かったね。正直、僕もびっくりだよ」

「そうですね……」

「ま、今後どうするかはいいとして、まずはシノンさんだね。僕から連絡を取ってみるよ」

「了解です。お願いします」

 

ここまでで、店主とタスクの会話が終わる。

 

だが、店主は薄々感づいていた。

シノンは、ただ遊びでこのゲームをやっている訳では無いという事を。

 

ー私は、知りたい。彼の正体を、彼の強さを、この目で見て知りたい。私が、私自身が強くなる為に。

 

あの時、絞り出すように答えたシノン言葉。表情。目。

彼女はきっと、リアルで何か抱えているのだろう。

それがどんなものなのか、店主は分からない。

でも、それ故に、放っておく訳には行かない。

 

やはり、彼女はこちら側の世界に足を踏み入れるだろう。それを、自分は精一杯支えよう。

 

……今のタスクと同じように。

 

そう、店主は決意した。

 

 

一方、一旦話に区切りを付けて店を出たタスクは、いきなり眉間にシワを寄せていた。

そんなタスクの目の前には、メッセージの受信を通達するウィンドウ。

 

そして差出人は……

 

シノンだ。

 

よりにもよってこのタイミング。

メッセージの内容にもよるが、最悪の場合今すぐUターンして店主とまた顔を付き合わせなければならない。

ああして解決策を練りあった以上、シノンに関しては下手な行動はできないからだ。

 

タスクは、恐る恐るそのウィンドウに大きく表示された「メッセージを開く」のタブを押す。

するとそこに表示されたのは、やはりUターン必須のものだった。

 

『急にごめんなさい。今、とあるスコードロンを組んでPKを狙ってるんだけど、どうやら思った以上に強敵なの。無理と分かってお願いします。援護をしてもらえないかしら』

 

タスクは、クルリと180°反転し、店主の店へと走り出した。

その顔は、笑顔を保ちつつも冷や汗をかいている。

ー思ったより強敵

ービッグ・ボスに援護要請

この二つの要素が、タスクに不安を与える。

 

「やばい……!もう目を付けられてるのかも……しれない!」

 

そう、タスクは嫌な予感を口にした。

 

「店主さん!」

バタァン!

 

タスクは、大きな音を立ててショップの扉を開ける。

 

「タ、タスク君!?どうしたの!?」

 

店主は、面食らってタスクを見る。

そんな事はお構い無しに、タスクは送られてきたメッセージを無言で店主に見せた。

もちろん、店主も絶句する。

 

「これって……」

「はい」

「もしかしたら……」

「はい……!」

「「相当まずくないか!?」」

 

二人の声が綺麗にハモり、同時に店主にも、タスクと全く同じ嫌な予感が芽生えた。




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