これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode111 時間稼ぎ 〜Time earning〜

おかしい……どうして!?

そんな疑問符が、レンの中で暴れ回っていた。

 

普通のプレイヤーなら、もうとっくに死んでいてもおかしくない。

だって()()()()()()()()()から。

 

だが現実はそうじゃない。

 

今、目の前に立ってるまるで米軍兵士のようなこの男は、平然とナイフを構えてこちらを睨んでいる。

 

やっぱり、ただの強い人じゃない。

レンはそう、心の中で呟く。

 

なんてったってあのプロに勝ったチームだ、当然と言われればそうかもしれない。

 

さっきから何度も斬りつけてるのに、ダメージが入ってるのかさえ怪しい。

ただ、ダメージエフェクトはついている。

ナイフの軌道と全く同じ線が、体のあちこちでキラキラと光っている。

 

「……くっ!!」

「もう……終わりかい、お嬢ちゃん」

 

そうこう考えているうちに、相手の男がそんな声をかけてくる。

恐らく、そこそこの時間、睨み合っていたのだろう。

 

自分が考えている間、よくこの人攻撃してこなかったな、とふと思う。

 

……が、次の瞬間。

 

「……!!」

 

咄嗟に体が動いていた。

理由は、ナイフが()()()()()から。

 

「えっ……!?」

 

レンは何とか避けはするも、驚きを隠せない。

なぜこの状況でナイフを投げるのか。

 

それは、もはや()()()()()()と捉えても間違いではない程のことだ。

 

「くっ……はぁぁぁぁ!!!!」

 

またとない好機。

レンはすかさず男の股下、大動脈へとナイフを構えて飛び込む。

 

ただその時だった。

 

ダァン

「んぐっ……!?」

 

少し離れた岩の影。

なにかが光ったと思ったそのすぐ後。

 

 

 

 

レンの肩を、一発の弾丸が貫いて行った。

 

 

「うんうん……いいね」

 

店主が、ディスプレイを見て呟く。

 

「いい……んですか、これが」

 

それを聞いた隣に座るキリトが、店主にそう尋ねる。

 

「うん、チームとして、すごく上手く回ってるよ。本音は想像以上だ」

「……!!」

 

店主はキリトの問いにそう答えた。

それに対しキリトは、少し怪訝な顔をしてまた尋ねる。

 

「まっ、まぁ、カバーはちゃんとできてますけど……」

「……」

「チームとして回るって、今みたいな仲間を助けることじゃなくないですか?」

「……ふふ」

 

そんなキリトの問いに、店主はキリトの方を向く。

そして言葉を発する前にいつもの柔和な微笑みを見せた。

 

キリトは相変わらず怪訝な顔をしている。

 

……ただ次の瞬間。

店主が一言、こう返した。

 

 

 

 

「いつ誰が、カバーをしたんだい? キリトくん」

 

 

 

 

「えっ……?」

 

あまりに予想外の返答だったのか、キリトは思わず言葉を詰まらせる。

 

あれは、カバーではないのか。

ナイフを投げる、その()()()()()()をしてしまった仲間を助けるべく、別の仲間が機転を効かせて股下を通す狙撃を行った。

 

キリトが思い描いている話はこんなものだ。

これのどこが、カバーではない、のか。

 

……すると、次の瞬間だった。

 

「全部、計算済みのことよ、キリト」

「……!!」

 

意外な声が、その疑問にこたえてきた。

……そう、シノンである。

 

「け、計算済み?」

「そう」

 

キリトは思わず聞き返す。

それに対しシノンは、淡々とその言葉に言葉を返す。

 

「プルームさんがわざわざナイフ勝負を挑んだのは、時間を稼ぐためなのよ」

「……?」

「最初に襲撃されたあの時、レックスさんもライトさんも、そこまで瀕死じゃなかった。ただ出血のデバフで一時的に戦闘不能になるだけ」

「た、確かに」

 

そう答えながらキリトは回想する。

確かに、レックスやライトは倒れこんではいたものの、HPが0になるようなことには全くならなさそうであった。

 

「するとあの時必要だったのはただ単に『時間』。そうすると、最も有効なのは()()()()よ。銃撃戦みたく、見失ってチーム本体へ回り込まれる心配がない」

「……!!」

 

シノンのあまりにも淡々とした、かつ完璧な説明に、キリトは心なしか気圧されている。

 

「とりあえず戦って、あえて斬らせて逃げようと思わせず、時間稼いで。ま、後はプルームさんの経験の勘でしょうね。準備が出来たと思われるタイミングで、ナイフを投げて足を広げた」

「……!!」

 

そしてそのタイミングで。

キリトはそう内心で相槌を売ってディスプレイを見る。

 

「彼が……肩に一発入れたってわけ」

「……!!」

 

店主がそう言って、ニット笑った。

ディスプレイの中にいるのは、岩に肩を預けて遠くを狙う()()()キャラクター。

 

彼の手にある89式5.56㎜小銃には、なんのカスタムも見て取れない。

だが今までの彼とは違うところが、一点だけ存在した。

 

「ゴーグル、つけてる……」

 

そう。

彼は自分の顔より圧倒的に大きいスノーボード用のようなゴーグルを付けていた。

 

「彼はあんなんでも、射撃の腕は上位1%に入る名手だ」

「い、1%……!?」

 

店主のつぶやきにキリトは驚きを隠せない。

 

……ただ、次の瞬間。

驚いたからこその、疑問が浮かび上がってきた。

 

「え、で、でもじゃあ……」

「?」

「なんで、肩なんですか。頭に入れれば……」

 

キリトはそう言って首を捻る。

これだけ作戦が上手くいってるんだから、頭に入れて終わらせればいいのに、そう言いたげな顔をして。

 

すると店主は、そんなキリトの顔を見て、微笑みを少しだけ険しくした。

 

「ふふ、キリトくん」

「……?」

 

 

 

 

 

 

「言ったでしょう? ()()()()だって」

 

「……!!」

 

はっ、としたような顔になり、キリトはディスプレイに視線を戻す。

そしてそこに、大きく映し出されていたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()だった。




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