これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
ヴーッ ヴーッ
「!!」
小さく折り畳まれた体の真ん中で、腕時計が振動する。
時刻は14時39分30秒。
四回目のサテライトスキャンまで、あと30秒。
「んん……」
もう長い時間こうしているせいか、小さく柔らかい体にも少しガタが出始める。
でも、ここは
体を伸ばすのはもちろん、腕時計を見ることさえも、ましてやサテライト・スキャン端末を見ることさえもできないのである。
「ふわぁ……」
すると体が、どうにかしようとするのを諦めたのか、段々力が抜けていき、その場の状況に馴染むようになってきた。
伸ばせもできないし、それどころか動くこともできやしない。
体が、そして脳が、休息の体制に入るその時……。
「レン、来たぞ」
「!!」
耳元に飛んできた一言で、瞬時に全身が強ばり、目も覚めた。
「300m前……ゆっくり接近中」
「……!!」
淡々としたエムの声が、レンの心臓を刺激するかのように聞こえてくる。
出るのは5mまで引き付けてから。
ここに入る前、エムに散々言い含められた言葉が、頭の中を駆け巡る。
「200m……速度を落とした」
「っ……!?」
すると、エムが相変わらず淡々とした声で報告してくる。
レンは、体に包み込まれている愛銃のセーフティが外れている事を指の感触だけで確認する。
「100m……クソ、ゴミ収集車で隠れて見えない」
「……」
なんだそりゃ。
と言いかけて、ぐっことらえる。
同時に、いいのか別に5mまで近づいてくる時にはまた見えるから、と考え直す。
「レン、連中スキャンを見てないぞ。ラッキーだな」
「……!!」
「ただ逆に言えば、不意をつくチャンスがひとつ削れた。慎重かつ大胆に行けよ」
「……」
そしてまた、エムの声が耳に届く。
時間だけで推測すれば、もうそろそろ10〜5m圏内のはずだ。
交差点を挟んだ奥の家屋の奥の部屋からこちらをスコープで覗いているエムからも、そろそろレンの入ったスーツケースに近づく敵が見えるはず。
そして、次の瞬間。
「レン!!」
「!!」
「南だ!! 南へ逃げろ!!!!」
「ええっ!?」
今度のは流石にこらえきれなかったようであった。
✣
「敵狙撃手発見、交戦する!!」
「!!」
ゴミ収集車の影から、1人単独で交差点へ向かっていたプルームの耳に、ベネットの声が聞こえてきた。
同時に、爆発音とアサルトライフル……恐らくはベネットのものであろう発砲音が聞こえてくる。
ドォォン……ダダダダ!!!!!!!
「大丈夫なのかベネット!?」
「こちらが先に撃った!! 相手は北に後退」
「……!!」
「相手は交差点の方向へ銃を向けてたよ。警戒!!」
「なに!? ギフト……まさかっ!?」
すると、ベネットとギフトの声に我に返ったプルームが、はっと前方を向く。
そして次の瞬間。
ガチャン!!
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
バラララララララ!!!!!!
スーツケースが開く音と、可愛らしい雄叫び。
非常に短い間隔の発砲音の連続が、ほとんど同時に耳に飛び込んできた。
「くっ……!!」
ズダダダダ!!!!!
それに負けじとプルームも、その可愛らしい雄叫びの主、『
バシンバシン!!
ドッドッ……
「んぐっ……!!」
プルームの弾丸は路面にあたり、ピンクの悪魔の弾丸2発がプルームの胴体に命中。
ただそれと同時に……。
「なるほど……そういうことかよ!!」
レンは飛び出した方向、つまり南へ、そのまま転がり走りながら逃亡。
対してプルームは、すぐさま方向転換。ベネットとギフトのいる北へと走り出した。
「牽制は任せて!!」
「頼んだ!!」
すると、いつの間にかプルームの背後に飛び込んできたライトが、既に遠くまで走っているレンに発砲する。
その間にプルームは、ベネット達に声を飛ばす。
「ベネット!! ギフト!! そのままそいつ、北に追いやれ!!」
「……なぜ!?」
「このチーム、2人しかいない!! 分断させるんだ!!」
「り、了解……!?」
説明を一切省いた、その場その時に必要なことだけを言うプルームの声に、ベネットは少し困惑しながらも了解を返す。
……ただ、それ以外の3人。
ライトとタウイ、そしてレックスは、プルームと同じことを察して、既に動き始めていた。
✣
時は少し戻って、交戦開始直前。
「しっかしまぁ、なんで別働隊なんて?」
「まぁ……強いて言うなら勘ですかね」
そんな会話をしている2人のプレイヤーが、居住区を進んでいた。
「まぁ……経験だとベネットさんの方が明らかに上だしさ」
「?」
「別に反発はしないけど……疑問は残るよね」
「はは……なんだかすみませんね、付き合わせてしまって」
「いいさいいさ、勝利のためよ」
お察しの通り、ベネットとギフトである。
彼らは今、いつの間にかすっかり打ち解けていて、ちゃっかり会話を楽しみながらの行軍をこなしていた。
「でもビックリしたよ〜? いきなり、『北の方ワンブロック上の道路から別で行っていいですか』なんて言うからさ……ん、ここの通りはクリア」
「了解。いやまぁ、タイミングは少し変だなとは思いましたけども……」
ギフトが通りを覗きつつ、そしてプルームがその先を凝視しながら進みつつ、会話は相変わらず続く。
そう、実は都市部を抜けて居住区に入る時。
ベネットが不意に、別働隊として動きたい、と提案してきたのだ。
タウイそれを、少し迷った末に承諾。
そしてそれに、なんだか面白そう、という理由で、ちゃっかりギフトもついてきているのである。
「……ベネットさんは、こういう場所での戦闘の経験はあるの?」
「まぁ、それなりには……」
「へぇ〜、僕初めてなんだよねぇ……はは」
「……はは」
お互い違う方向を向きながら、笑い合う二人。
そんな楽しい時間は、戦場では往々にして……
「ねぇ……ベネット、今あそこの建物の中で……」
「え……あっ!?」
突如、断ち切られるのである。
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