これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode101 会敵 〜encount〜

ヴーッ ヴーッ

「!!」

 

小さく折り畳まれた体の真ん中で、腕時計が振動する。

 

時刻は14時39分30秒。

四回目のサテライトスキャンまで、あと30秒。

 

「んん……」

 

もう長い時間こうしているせいか、小さく柔らかい体にも少しガタが出始める。

 

でも、ここは()()()()()()()()

体を伸ばすのはもちろん、腕時計を見ることさえも、ましてやサテライト・スキャン端末を見ることさえもできないのである。

 

「ふわぁ……」

 

すると体が、どうにかしようとするのを諦めたのか、段々力が抜けていき、その場の状況に馴染むようになってきた。

 

伸ばせもできないし、それどころか動くこともできやしない。

体が、そして脳が、休息の体制に入るその時……。

 

「レン、来たぞ」

「!!」

 

耳元に飛んできた一言で、瞬時に全身が強ばり、目も覚めた。

 

「300m前……ゆっくり接近中」

「……!!」

 

淡々としたエムの声が、レンの心臓を刺激するかのように聞こえてくる。

 

出るのは5mまで引き付けてから。

ここに入る前、エムに散々言い含められた言葉が、頭の中を駆け巡る。

 

「200m……速度を落とした」

「っ……!?」

 

すると、エムが相変わらず淡々とした声で報告してくる。

レンは、体に包み込まれている愛銃のセーフティが外れている事を指の感触だけで確認する。

 

「100m……クソ、ゴミ収集車で隠れて見えない」

「……」

 

なんだそりゃ。

と言いかけて、ぐっことらえる。

 

同時に、いいのか別に5mまで近づいてくる時にはまた見えるから、と考え直す。

 

「レン、連中スキャンを見てないぞ。ラッキーだな」

「……!!」

「ただ逆に言えば、不意をつくチャンスがひとつ削れた。慎重かつ大胆に行けよ」

「……」

 

そしてまた、エムの声が耳に届く。

 

時間だけで推測すれば、もうそろそろ10〜5m圏内のはずだ。

交差点を挟んだ奥の家屋の奥の部屋からこちらをスコープで覗いているエムからも、そろそろレンの入ったスーツケースに近づく敵が見えるはず。

 

そして、次の瞬間。

 

「レン!!」

「!!」

 

 

 

 

 

 

「南だ!! 南へ逃げろ!!!!」

 

「ええっ!?」

 

今度のは流石にこらえきれなかったようであった。

 

 

「敵狙撃手発見、交戦する!!」

「!!」

 

ゴミ収集車の影から、1人単独で交差点へ向かっていたプルームの耳に、ベネットの声が聞こえてきた。

同時に、爆発音とアサルトライフル……恐らくはベネットのものであろう発砲音が聞こえてくる。

 

ドォォン……ダダダダ!!!!!!!

「大丈夫なのかベネット!?」

「こちらが先に撃った!! 相手は北に後退」

「……!!」

「相手は交差点の方向へ銃を向けてたよ。警戒!!」

「なに!? ギフト……まさかっ!?」

 

すると、ベネットとギフトの声に我に返ったプルームが、はっと前方を向く。

そして次の瞬間。

 

ガチャン!!

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

バラララララララ!!!!!!

 

スーツケースが開く音と、可愛らしい雄叫び。

非常に短い間隔の発砲音の連続が、ほとんど同時に耳に飛び込んできた。

 

「くっ……!!」

ズダダダダ!!!!!

 

それに負けじとプルームも、その可愛らしい雄叫びの主、『()()()()()()』に向かって発砲。

 

バシンバシン!!

ドッドッ……

「んぐっ……!!」

 

プルームの弾丸は路面にあたり、ピンクの悪魔の弾丸2発がプルームの胴体に命中。

 

ただそれと同時に……。

 

「なるほど……そういうことかよ!!」

 

レンは飛び出した方向、つまり南へ、そのまま転がり走りながら逃亡。

対してプルームは、すぐさま方向転換。ベネットとギフトのいる北へと走り出した。

 

「牽制は任せて!!」

「頼んだ!!」

 

すると、いつの間にかプルームの背後に飛び込んできたライトが、既に遠くまで走っているレンに発砲する。

 

その間にプルームは、ベネット達に声を飛ばす。

 

「ベネット!! ギフト!! そのままそいつ、北に追いやれ!!」

「……なぜ!?」

「このチーム、2人しかいない!! 分断させるんだ!!」

「り、了解……!?」

 

説明を一切省いた、その場その時に必要なことだけを言うプルームの声に、ベネットは少し困惑しながらも了解を返す。

 

 

 

……ただ、それ以外の3人。

ライトとタウイ、そしてレックスは、プルームと同じことを察して、既に動き始めていた。

 

 

時は少し戻って、交戦開始直前。

 

「しっかしまぁ、なんで別働隊なんて?」

「まぁ……強いて言うなら勘ですかね」

 

そんな会話をしている2人のプレイヤーが、居住区を進んでいた。

 

「まぁ……経験だとベネットさんの方が明らかに上だしさ」

「?」

「別に反発はしないけど……疑問は残るよね」

「はは……なんだかすみませんね、付き合わせてしまって」

「いいさいいさ、勝利のためよ」

 

お察しの通り、ベネットとギフトである。

彼らは今、いつの間にかすっかり打ち解けていて、ちゃっかり会話を楽しみながらの行軍をこなしていた。

 

「でもビックリしたよ〜? いきなり、『北の方ワンブロック上の道路から別で行っていいですか』なんて言うからさ……ん、ここの通りはクリア」

「了解。いやまぁ、タイミングは少し変だなとは思いましたけども……」

 

ギフトが通りを覗きつつ、そしてプルームがその先を凝視しながら進みつつ、会話は相変わらず続く。

 

そう、実は都市部を抜けて居住区に入る時。

ベネットが不意に、別働隊として動きたい、と提案してきたのだ。

 

タウイそれを、少し迷った末に承諾。

そしてそれに、なんだか面白そう、という理由で、ちゃっかりギフトもついてきているのである。

 

「……ベネットさんは、こういう場所での戦闘の経験はあるの?」

「まぁ、それなりには……」

「へぇ〜、僕初めてなんだよねぇ……はは」

「……はは」

 

お互い違う方向を向きながら、笑い合う二人。

そんな楽しい時間は、戦場では往々にして……

 

「ねぇ……ベネット、今あそこの建物の中で……」

「え……あっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

突如、断ち切られるのである。




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