正義と剣製と白兎   作:健坊

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足を引く過去に向ける顔

リュー・リオンにとって、衛宮士郎とは不可解な生物である。

少し目を離すと荒事、厄介事に首を突っ込み良くも悪くも『解決』する。

彼は礼を言われる事を良しとしない。勿論、物として受け取ることもだ。

彼は見返りも求めない。

ただ、()()()()()()()()()()()()みたいに…。

傍から見ても彼の在り方は歪と言って遜色無い。

傷を負おうと、金銭を失おうと、信頼を損なおうと

彼はその在り方を変えない。いや、変えられないのか…。

その生き方に疑問を呈したのも一度や二度でも無い。

彼は困ったような、照れくさいような顔を浮かべてこう言うのだ。

 

「でも、あの子は助かっただろ?」

「士郎さん…」

 

どうしてこんなにも引っかかるのだろうか。

彼は致命的に間違っている。

しかし、その在り方はどう見たとしても人の善性を信じた物だ。

人はこうあるものだ

人はこうあるべきだ

人は、こうであって欲しい。

優しさも、慈愛も、親愛も

ひとつにひっくるめて抱きかかえる。

善となる物。

善はそうでしかなれない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

故に歪。

彼が信じるモノを投げ出すことになろうとも

彼は彼にとっての善を行うだろう。

他人の目にはそれが悪と映ろうとも、彼は躊躇わない。

故に理解されない。

一人、

ただ一人で、孤独の丘に佇むではないだろうか。

私はそれを良しと出来ない。

どうしてだろう。どうして、見過ごせない?

私は

私は――――――――!

 

 

 

 

 

 

 

「リュー!」

「えぇ!」

 

声を掛けるまでも無い。

石畳からその身を生やした緑色のモンスターが貌を天に向けている。

周りの確認を急げ、誰か居ないか?

逃げ遅れた人、傷を負った人、助けを求めてる人は居ないのか

周辺に目を走らせてる。

血痕を発見。

量を見るだけなら致命傷からは程遠い、ならば逃げた?逃げられたのか?

あの大樹のような蛇のみたいなモンスターから

ならば良し。

あれはいけない。今の自分では太刀打ち出来るようなモンスターではない。

ウォーシャドウなど話にならないほどのlevel差を、空気から既に感じてしまう程だ。

誰も居ないのなら回れ右をして全力で逃げ出すべきだ。

勝てる相手ではない。倒せる相手ではない。

頭では分かってる

体がよりそれをわかってる。

だけど見てしまった。この目が捉えてしまった。

 

「この子…だけでも――――」

「―――――――――――――――――」

 

自身も傷を負いながら、それでも我が子の安全を優先する為にこちらに手を差し伸べる母親。

この子だけでも

この子だけでも

その言葉は衛宮士郎の心を深く、深く抉った。

かつて見捨てたその言葉。

当時は諦めざるを得なかった。差し出された子どもは既に炭と化していた。

息など無く。鼓動も感じられない。温度だって既に消失していた。

今は?

今はどうだ?

荒い息をしながらも、気を失った子供は、確かに生きている。

生きて、いるのだ!

思い出せ衛宮士郎。

貴様がいつの日か見捨てた命の残骸を

あの日見なかった

あの日聞かなかった

あの日言わなかった。

俺が助けてやるとどうして言えなかった。

力が無かった。

そうだ、ただ力が無かった。

()()()()()()()()()()()()()()それが叶うと思った。

思い出せ衛宮士郎。

お前は、お前の体は―――

 

「うああああああああああああ!!!!!!!!!!」

「士郎さん!!?」

 

知らず、叫び、駆けていた

俺の咆哮に気づき、触手を伸ばして攻撃してくるモンスターさえに視界に入らない。

今はただ一点。

助けを懇願する母娘の元へとただ走る。

放たれた攻撃を死地へダイブするように飛び込み回避する

勢いのまま回転、身を起こして瞳は既にモンスターを捉えている。

背中には傷ついた母娘。守らなきゃいけない存在だ。

あの日のようにはいかない、いってはいけない。

もう違うんだ。()()()()()()()()()

 

「お願いします…!この子だけでも―――!」

「心配は要らない!俺が、なんとかする」

「お願い…します…!」

 

母親は、傷つき流血する愛な子を大事そうにこちらへ差し出す。

涙が出そうになる。

自身がどうなろうと構わない。モンスターに喰われ、絶命しようが、それは些細なことだ。

なにより、この腕に抱えている小さな我が娘を守ることが、生かすことができるなら、どうしてそれを躊躇う理由になる。

親は子を守るものだ。

身を挺し、命を捧ぐ事になろうとも、母は娘を守る。

絶対的な、確信的な、信望的な―――

この子だけでもと母は言った。

それを酌むだけでは足りない。

俺は二人を守りたい。

あの月下の誓いを、今ここで果たすのだ。

 

「リュー、頼む」

「―――!?駄目です士郎さん。貴方一人でどうしようと」

「それでも、あのモンスターを引きつけなきゃ共倒れだ!頼むリュー、この母娘を連れて避難してくれ」

「士郎さん…!」

「時間を稼ぐだけだ、ここでこいつは食い止める。お前は早く応援を連れてきてくれ」

「―――――――」

 

悲痛な顔で首を振るリューに、まっすぐな笑みを浮かべる

心配なんかさせちゃいけないと、僅かばかりの心配りだ。

 

「きっと近くにアイズも居るはずだ。あいつは目がいい。だから心配要らない。リューが離脱したらすぐに俺も逃げるから」

「ほんとう…本当ですか?」

「あぁ、俺だって命が惜しい」

「…まだ、好きなもの買ってもらっていませんよ?」

「0が二つプラス、くらいなら考慮するから。もしくは一週間俺が飯作ったっていい」

「絶対ですよ」

「あぁ、信じろリュー。俺はこんな奴に負けない」

 

信じたい。信じる為に深く頷いた彼女は母娘の手を取って離脱していく

だからと言ってすぐに自身もこの場を離れる訳には行かない。

万が一、奴の牙がリュー達に向けられたら今の俺では、リューでは対処が出来ない

しばらくは時間を稼がなければいけない。

これは我慢比べだ。

衛宮士郎が根をあげるか、奴が引き下がるか

終わりが見えない戦いが今狼煙を上げた。

さぁ、思い出せ。

お前に戦う力等は無いのは分かっているだろう?

だったらどうする。

お前は既に経験している筈だ、力が無いのなら、他所から持ってくる事を。

やかましい、黙れ

今はそんなことを考えている場合じゃないんだ

そもそもなんだ()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()

記憶が無い俺を笑っているのか?

記憶があったら戦えたのか?

いいや、そうじゃないんだよ。

誰かを当てにしても、求めるものじゃない。

ホントの自分はここにいるって、目を閉じたら感じるんだ。

雑音は気にするな。

今はただ、目の前の敵を打倒するために思考を走らせろ―――!!




なんかめっちゃ長くなったので二分割。
怪物祭は今作の士郎君にとってすごく重要な位置づけにしてます。
その緊迫感がうまく伝わればなぁと思います。
そういえば一瞬ですが日刊ランキングえ一位になってました。
一瞬とは言え、今まで一番とは程遠い人生だったので涙が出ました。
更新が滞ってますが完結までの道筋は出来ています。
そこを目指して頑張りますのでよろしくお願いします。

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