正義と剣製と白兎   作:健坊

15 / 18




語られる言葉

そんなこんなで。

案の定というか、予定調和というか、目を覚ました俺の顔に飛び込んで来たのは

真顔のまま怒気を鋭利化させてこちらに飛ばすという悪魔の技を使うリューだった。

針の筵というか、剣山の上に正座させられて膝の上に重しを乗っけられて説教される、

そんな気分にさせられるくらいおっかなかった。

眼を覚ました俺に開口一番にわかってますか?と問われていえ、なにもと答えたら体感空気重量が30倍程に膨れた。

膨張した空気は風船のそれであり、パンパンに膨れて少しの刺激でも破裂してしまう。

破裂=俺の基本的人権の終了と同義だ。

なぜだかそんな危機感に襲われる。

ここは返答を一つでも間違えたらどうなるかわかったもんではない(既に一度間違えている事には触れてはいけない)

歯を食いしばって彼女のプレッシャーに負けじと気合を込める。

 

「士郎さんはバカなんですか?」

 

「はい」

 

あ、

つい咄嗟に応えてしまった。

なんかリューの問いかけには『イエス』か『はい』しか許されていない気がする。

それ以外の答えは全てギルティだ。ならば第一関門は突破したとみてもいいだろう。

危機察知能力が養われた気がする。これが神の恩恵で発言したスキルの効果か!

心眼(偽)は伊達じゃない。

 

「はぁ…一体何度倒れたら気が済むんですか?」

 

「はい」

 

「何度死にかければ気が済むんですか?」

 

「はい」

 

「私はあと何回貴方を治療すればいいんですか?」

 

「はい」

 

「はいじゃありません!」

 

「はいいいいいい!!」

 

心眼(偽)役に立たないじゃないか!

神の恩恵なんて最初から無かったんじゃないか!?詐欺だ詐欺!

おのれぇ、神・ヘスティアめ!用意周到な罠をこんなところに仕掛けているとは

侮りがたしロリ巨乳!

そんな現実逃避はさておき。

俺はリューから有難い説教をこんこんと聞かされて既にライフゲージはマイナスだ。

士郎さんはそんなだから士郎さんなんですよ!なんて良く分からない罵倒をされて思わず

 

「なんでさ」

 

と、言ったら

 

「口答えですか?」

 

なんて口角を釣り上げて一見笑っているように見えるが、瞳孔が開き、ハイライトを失った彼女の表情は

ただ只管に恐怖の権化にしか見えず、俺は身を縮こまらせて、はい…と、小さく呟くのでした。

いや、そもそもこれは疑問であって口答えなんかじゃないんではないだろうか?

おっかないから言わないけれど!絶対言わないけれど!

そうやってガタガタ騒いでいたら(俺は騒いでない)女将が乗り込んできて、俺とリューに一発づつ拳骨を落として去っていった。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

士郎さんを見てたら私の調子がおかしくなります。なんて俺にはどうしようもないクレームを入れる彼女を尻目に、

俺は自分の手のひらをまじまじと眺めていた。

どこか調子が悪いなんてことは無い。むしろ絶好調と言っても差し支えないくらいだ

魔術回路は正常に開き、働いてこの体に魔力を綺麗に循環させているし

体の節々は殴られすぎて少し痛む程度だ。

疑問としてはセイバーの鞘の効果が、こちらに来ても多少なりとも働いているようだと感じることだ。

あの時セイバーに返そうとした鞘は、彼女の意向で俺の体に戻された。

そのおかげであの似非神父相手に殴り勝つことが出来たから僥倖とは言えるが、

まさかこんなところにまで来ても俺を守ってくれるなんてな。

律儀というか、なんというか…

本当に、セイバーが俺のサーヴァントで良かったと、心から思える。

 

固有結界にしてもそうだ。

俺如きの魔力量では展開すら出来ないと思っていたけど無事アイズに見せてやる事が出来た。

…と、言っても1分も持たずに崩壊してしまう程度だった事を考えるに戦闘では使えない。

カリバーンを投影した時も結構やばかったけど、どうやら俺の魔力量ではやはり厳しいものがある

今後、ダンジョンに潜ることもあるだろうけど固有結界は使わない方がいいかもな

魔力切れですぐぶっ倒れてしまうぐらいではどうも実戦的とは考えづらい。

ここに遠坂が居たらその問題も解決するんだろうか…?

いや、そもそも誰か魔力量が膨大な誰かとパスを繋げればもしかして?

そこまで考えてその案は破棄。

なぜかリヴェリアの得意気な顔が脳裏を掠めたからだ。

先ほど全く役に立たなかった俺の危機察知センサーが、けたたましくアラートを響かせている。

きっと彼女に借りを作ってはいけない。

絶対良いことなんて無いと断言できる。

うん、ここは自分を信じよう。

 

リューが淹れてくれたお茶を啜りながら俺はもう少しだけ思案に耽る。

あの時はアイズの乱入でゆっくり頭の中を整理することが出来なかったからな

記憶はもうほとんど戻ったと思っていいだろうか、あの戦争の事も鮮明に思い出せる。

セイバーのこと、

遠坂のこと、

桜のこと、

イリヤのこと、

アーチャーのこと、

養父のこと…。

 

「うん、決めた」

 

「なにがですか?」

 

「あぁ、リュー、悪いけどベル達を呼んでくれないか?俺のことを話そうと思うんだ」

 

「…記憶が戻ってもここの生活はなにも変わらないと思いますが」

 

「それは勿論。でも、みんな心配してくれてるからな、説明責任ってやつがあると思う」

 

「分かりました。呼ぶのはクラネルさん、神・ヘスティア、ヴァレンシュタインさん、でよろしいですか?」

 

「あぁ、女将さんには今度改めて説明しようと思う。あんまり興味なさそうだけどな」

 

苦笑いを浮かべて罰の悪さを誤魔化す。

女将さんはきっとだからどうしたって笑って吹き飛ばすんじゃないだろうか

どちらにせよ、気にしないでくれるならそれはそれで助かる。

しかしベル達にはそうはいかない。

俺の記憶の手がかりになればと、あれやこれやと手を焼いてくれてたのは知っている。

だから記憶が戻りました良かったね、じゃああんまりと言うものだ。

ぶっちゃけ、話してどうなるというものでもないってのは重々承知していることではあるんだけど…。

 

そして陽が傾いて下の酒場が騒がしくなる頃に、皆が俺の話を聞きに訪れてくれた。

ベルと神・ヘスティアと、アイズとリューとリヴェリアと、知らないちっさい女の子の計6人だ。

 

「ちょっと待て。呼んでない人と知らない子が居るんだけど」

 

ジロリと不満を全く隠さずに底意地の悪そうな笑みを浮かべる実は王族らしいエルフの女性を見やる。

アイズが俺に呼ばれたと楽しそうに武装している所を目撃した彼女はなにか面白うそうなことでも起きるのでは?と着いて来たらしい

そして、他の面子と違って完全武装のアイズ・ヴァレンシュタインはなぜか絶望した表情で俺に遺憾の意をぶつけてくる。

昨日の今日でまた手合わせするとでも思ったのかこのバトルジャンキー美少女様は。

いやほんとまじでどうか勘弁してください。

もうリューに怒られたくないってのが本音です。

そんな俺とアイズを見てリヴェリアはかんらかんらと笑っている。

 

「士郎さん、彼女はリリルカ・アーデと言って僕のサポーターをしてくれている子です」

 

「…リリルカ・アーデです。貴方がベル様が言っていた衛宮様ですね、私はサポーターとしてベル様の冒険の補助をしています」

 

どこか俺の値踏みをするような視線で挨拶をする彼女。

なんか随分と懐疑心だけか前面に出ているけど、俺嫌われてるんだろうか…?

ベルにはぴったりとくっ付いてヘスティア様とベルを巡ってじゃれついているようだけど

…それにしても小さいな、これがパルゥムっていう種族か。

まぁ、胸のサイズ以外はヘスティア様も大した違いは無いしなぁ。

彼女の挨拶に返礼し、俺は佇まいを直して6人に正対して頭を下げる。

 

「皆いろいろ迷惑をかけて済まなかった。なんとか記憶が戻って自分が誰なのかはっきりしたよ」

 

俺の言葉を聞いてクエスチョンマークを頭の上に浮かばせるリリルカを他所に、5人はそれぞれ喜んでくれた。

ヘスティア様は慈愛の表情を浮かべて、下げられた俺の頭を優しく撫でてくれた。

ベルは歓声を上げて俺の両手を掴んで引きちぎらんばかりに振り回す。

リューとアイズは良かったね、と言い捨てる。

いや、いいけど…もっと他にあるだろう。

リヴェリアは除外。なんか悪い顔してるから見たくない。

 

「まぁ、それで。記憶を失う前に俺がどこでなにをしていたかって話を改めてしようと思う」

 

なにせ満身創痍で道端に転がっていた俺だ。

拾ってくれたのがリューだから良かったものの、普通はスルーされてそのまま野足れ死んでいたことだろう。

どういう経緯でそんなことになったのか、正直原因は分からない。

あの極光の中に出来た孔に吸い込まれて気づいたら…ってやつだからな

果たして信じて貰えるかどうか甚だ疑問だが、ここまで世話になった連中に嘘は付きたくない。

一拍置いてから、俺は大きく息を吸って意識して皆の耳に届くようはっきりとした口調で告げた。

 

「俺はここではない、別の世界から来たんだ」

 

 

 

 

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 

 

そんな可哀そうな人を見るような目を向けないで!

 




そうそう。
この話って異世界転移的な話だったのだ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。