彼の野望に向かって走り続けます。
彼を応援してくださいね。
≪カリカリカリ、カリカリカリ≫
雨音のに混じって、ペンを走らせる音しかしない執務室。
≪カリカリカリ、カリカリカリ≫
≪カリカリカリ、カリカリカリ≫
≪カリカリカリ、カリカリカリ≫
≪カリカリカリ、カリ≫
「ふー、一服するか」
≪ボーン、ボーン、ボーン≫
「お、ちょうど3時か」
執務机を占領していた書類もあと半分というところまで片付いた。
肩を回すとゴキゴキと音がする。
「あー、まじめに働くのは、いーやーだー」
駄々っ子のように机に突っ伏す。
「・・・・」
眼鏡が黙ったまま、ソファに座っている。
今座っている提督専用のひじ掛け椅子をくるりと回して、窓の外を眺める。
「雨は、大地を潤してくれるから嫌いじゃないんだよな」
この言葉に嘘はない。
俺は変わり者なのだろう。
雨は嫌いじゃない。
ただ、カッパを着るとか雨対策をしたうえでの話だ。
兵学校の訓練で、行軍野戦課程の天候がたまたま台風だった。
暴風雨の中、ポンチョに包まって、一晩明かした時、周りは落ち込んだり愚痴をこぼしたりしていた。
その中で、結構ノリノリだったのを思い出すと口元が緩む。
「変なヤツだな、俺は」
天候は一個人がどうにかできるものじゃない。
したがって、どう向き合うかが大事なのだ。
どうにもならない状況では【どう向き合うかが大事】だと、行動するようになったと思う。
「眼鏡、お前は雨は嫌いか?」
別に答えて欲しいわけではなく、何気なく口から出ていた。
「あの・・」
「答えなくていい。
口から出ただけだ。
何でもない、気にするな」
「・・・・雨は、きらいじゃないですけど、洗濯ものが乾かないので困ります!」
「ふふ、困るな。
確かに俺も困る」
「クスッ」
「おっと。
眼鏡、今、俺に惚れそうになっただろ」
「な! そんなことありません!」
「油断するんじゃないぞ。
俺は時々、カッコいいからな。
お前らが惚れてしまったら、大変だ」
眼鏡がどんな顔をしているか想像しなかった。
もう少しの間、雨降りの景色を楽しむことにした。
= = = = =
「終わったー」
「終わりましたー」
執務机の机上から書類が消えた。
思ったより早く片付いた。
左の3段目から、ウイスキーの瓶を取り出した。
「てーとく、勤務中です。
控えてください」
「今日だけだ。
細かいこと言うな」
「範を垂れるお立場です」
「俺は不良なんだよ。
ごちゃごちゃ言うなら、襲うぞ」
「ふん、凄んでも怖くありません。
てーとくは、きっといい人で、変なことは、できません」
「ほほー。
ほーほー。
いいのかぁ、小娘ぇ。
今朝、誰だったのか、気にならないかぁ」
「え、はっ!」
眼鏡は今朝の会話を思い出して固まった。
私室に自分以外の誰かの残り香に気がついた事実。
香りが残るほど濃い、残るほど長い時間、艦娘があの部屋で過ごした可能性。
眼鏡は半分後悔している。
目の前の男を信用していると言ってしまった。
少なからず好感を抱いているということの裏返し。
そして、挑発してしまった。
昼食の時、食堂はいつもと変わらなかった。
誰も犠牲者になった素振りはなかった。
もしかしたら、納得したうえで提督との関係を持ったかもしれない。
失敗だった。
状況を忘れて考え込んでしまった。
両肩に何かが被さったような錯覚の後、それが男の手だとわかった次の瞬間、頭が真っ白になった。
さあ、眼鏡巡洋艦の運命は。
スケベスカートは活躍するのか。
R15に収まるのか!