Fake/startears zero   作:雨在新人

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ハロウィン短編です。重要な事は何も語らないので、設定的には読む必要はありません。単なるおまけです


10/31 獣達のハロウィン 1

『……御早う御座います』

 そんな声と、頬をつつく刺激に、目を覚ます

 

 「……フェイ」

 ふと、目を開けると、其所には……

 

 猫が居た

 

 いや、それは正確じゃない。正確には、猫かつメイドだ。より訳がわからない

 「……何やってるんだ、フェイ……」

 軽く頭を振りながら、体を起こす

 ……見事なまでに猫耳である。獣耳自体は、見慣れないものでもない。というか、フェイに近いホムンクルス……キャスター系列の中にも、何人か狐の耳を生やした個体が居たし、バーサーカーの中にも何体か居た覚えもある。だが、フェイはその個体らとは違う。そんな耳など付いていない……はずだ

 ならば、これは……

 『分かりませんか?』

 戸惑う俺にかまわず、フェイはいつも通りの対応を返す

 いや、考えてみれば、俺の眠っているこの……部屋とも呼べない部屋までフェイが起こしに来ること自体もあまり無いことではあるのだが

 考えながら体を起こし、ベッドに座る形になる

 「いや、分からない」

 そんな俺の言葉に応えるように、フェイは懐から何かを取りだし、そして呟いた

 

 『trick or treat、甘いものをくれなければイタズラものです』

 ちいさなカボチャを付き出しながら、そう、今日が何であるか、俺がすっかり忘れていたものを思い出させるように、フェイが笑う

 「……そうか、今日は10/31。世間的にはハロウィンか……」

 そう。ハロウィン。ならば、フェイのあの耳は仮装の一つなのだろう。ヴァルトシュタインが、ハロウィンなんてものに興味を示すとは思わなかったし、そもそも今日も性能試験と称した魔獣相手に数時間森で生き残れ、というタイプの修行はあるし、その結果として俺も忘れていたが、考えてみれば今日はハロウィンだった

 『ええ。なので、せめてワタシの回りだけでも、少しはお祭りしようかと』

 少しだけイタズラっぽく、フェイは笑う

 「そうか、ヴァルトシュタイン自体がやってる訳じゃないのな」

 『ええ。正義正義煩い割に、風情とかあまりありませんからね』

 手にしたちいさなカボチャ……よく見ると紙製のそれを明けつつ、フェイが呟く

 ……猫耳はあるが、ヴァルトシュタインの目指した人工サーヴァント、その心面での成功例でありながらどこか冷たいことも言う、そんな何時ものフェイだ

 

 いや、恐らくはあまり喋らないこと以外は無駄にスペック詰め込んだ能力的成功例、C002辺りが無駄な裁縫能力の高さで作ったのだろう猫耳は、本物のように動かないとはいえ、少し心を掻き乱すのだが

 猫が嫌いな訳もない。中性的な美形ながらC001には流石に見慣れたし心惑わされないものの、見慣れていないフェイが、さも当然のように、何時ものメイドカチューシャの代わりに猫耳を揺らすと、落ち着いてはいられない

 ……少し、触りたくなる

 『……それで、どうです?似合いますか?』

 ふと、フェイが問う。髪に合わせた銀の猫耳が、首を傾けるのに連動して揺れた

 ……当たり前である。言うのも何だが、聖剣を抜いた直後のアルトリア、をモデルにしたと自称するフェイは、美少女である。それに猫耳、似合わない訳がない。神巫雄輝も、幼馴染の紫乃に猫耳付けて欲しいと頼んだこともあるのだから。美少女に猫耳は合う、それは真理である。その時は、恥ずかしがって付けて貰えてなかったが

 ……つまりは、結論としては貴様()がこんな幸福享受してるとか死に晒せ。そのくらいには、目に良いものである

 「ああ、良く似合うよ」

 少しだけ躊躇って、それでも思ったままを言う

 『そうですか』

 何時ものように、けれども、少しだけ照れるように下を向いて、フェイは返す

 『それで、答えは?』

 

 「甘いもの……キスで良いか?」

 トリックオアトリート。その答えとして、冗談めかして、俺は言った

 冗談である。俺にそんな行動を完遂する勇気も、完遂出来る関係の相手も、完遂して良い道理もない

 

 『……っ、な、何を言ってるんですかアナタは!?』

 珍しく、フェイが少し焦ったような返しをくれる。手にしていたカボチャの入れ物が地面に落ちる

 何時もなら、真面目な答えに関して、茶化すようにこういった恋愛方向に繋げ、冗談ですと切り上げるのはフェイの方。なので初めからやってみた訳だが、少し予想外の反応である

 『全く、いきなりですね』

 けれども、戸惑いは一瞬。すぐに立ち直り、フェイは屈んでカボチャを拾い直す

 

 ふと見ると、特に仮装していない、というか狐耳に和装と何時も仮装パーティーな人工キャスター二人が、扉を透視して此方を見ていた。作成時にしっかりと人格形成しきれなかったのか、他のホムンクルスよりはよく喋るがあまり喋らず絡んでこないので無視する。というか、狐耳少女(C002)の方は兎も角、狐耳の男(C001)の方は、今は視界に入れたくない。折角フェイが可愛い姿をしているのだから、せめて今は楽しもう。それが、俺を弱くし、堕落させる事だとしても

 

 「いや、何時もは冗談でも口説くような事を、と言うだろう?」

 『……だからやったんですか。全く、心臓に悪いです』

 「いや、悪かった」

 『せめて、trick or treatと言ってくれていれば、まだ準備は出来たんですが』

 「そんなに衝撃的か」

 『ええ。ワタシ以外にやったら、まず怖さで心臓止まります。只でさえ顔に傷とかあるんですから』

 酷い評価だな、と苦笑して

 「特に、何も無いよ。知ってるだろう、フェイ」

 真面目に、そう返す

 『ええ、なので、今日は……ワタシのイタズラとして、アナタにも仮装して貰いましょうか』


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