Fake/startears zero   作:雨在新人

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2/5 新フェイのヴァルトシュタインきょうしつ・その二

『マーリンといっても、何から語りましょうか』

 紅茶を一口飲み、フェイが言う

 

 「語れる事は沢山あるだろうからな……」

 少し、考える

 「恋敵だ何だって冗談を続けるならば、恋愛遍歴か?」

 『そこまで面白いものでもありませんが』

 「別に良いさ」

 『では、まあ、語るとしましょうか』

 一息置いて、フェイは話し始めた

 

 『マーリンですが、資料でも言われている通り、女の子大好きの女たらしの糞野郎です。ええ、文句無しの糞野郎、それがあの花咲か魔術師、マーリンです』

 「言われるほどなのか?」

 『何だと思ってるんです?あれは、半分夢魔の血が混じった混血の魔術師ですよ?人類が、ハッピーエンドが好きだ、というのは嘘では無いでしょうが、間違っても善人だなんて呼べませんね』

 「……酷い言われようだ」

 ここまで、フェイが熱くなるのも珍しい

 『アルトリア・ペンドラゴンを王にしたのも、父ウーサーの悩みを聞き、理想の王を作ろうとしたマーリンのせいですしね

 結果、少女アルトリアは、アーサー王にならなければならない運命を背負わされたという訳です。これだけで、如何にマーリンが糞野郎かの証明にはなるとは思いますが』

 「……王になる運命を、与えられた……」

 『ええ、そうですね』

 アルトリアに関しては、フェイの眼は、いつものあまり表情が無いのが嘘であるかのように表情豊かだ

 「それは、悪いことなのか?」

 『ええ、それはもう。王足りうる素質、土地の主としての力は、既に彼女の姉が持っていた。その上で、彼……マーリンは理想の王たるべくアルトリアを追い詰めた

 

 そして最後は、塔から出ること無く、救う事無く、自ら産み出した王を突き放し、その死を見届けた』

 「……塔」

 話には聞いたことがある

 アヴァロンの塔。マーリンが幽閉されたという、その場所

 「ならば、何故マーリンはサーヴァントとして出てこれた?アヴァロンの魔術師☆M……どうしてだ?」

 『知りませんね、そんなことは資料にも無いですし

 まあ、呼べないはずのサーヴァントを呼ぶための英霊の纒ですし、その関連でしょう』

 あっさりと、そう返される

 

 思考を切り替えるために、俺も一口紅茶を啜る

 やはり、良い茶葉だからか、それともフェイの淹れたものだからか、しっかりと香りが口に広がる

 

 「というか、どうしてマーリンはそんな塔なんかに閉じ籠ったんだ?」

 素直な疑問

 『閉じ込められたんですよ。恋人に、ね』

 「恋人……」

 『アーサー王の姉であり、妖精の子。父ウーサーより、本来ブリテンの主としての性質を次いだ者。モルガン・ル・フェに、ですね』

 「……モルガン」

 『アーサー王を捩った名を、このワタシが名乗りたくはなかったので

 縁者である姉モルガンから取って、フェイ。ワタシの名前の由来にもなった、そんなアーサー王を誰よりも憎んだ、そんな人ですよ』

 「マーリンはアーサー王の師。なのに、か?」

 『……恋に、理由なんて無いんですよ』

 フェイは、吐き捨てるようにそう言った。その声には、何処か……悔しさ、のような感情が混じっていた、気がした

 悔しかった……許せなかったのだろうか。敵である姉に現を抜かし、囚われた師が

 

 「そうして、アーサー王の敵に閉じ込められて……」

 『いえ、閉じ籠ったんですよ、あの花咲か魔術師は

 本気でアーサー王を救いに戻ろうとすれば抜けられたはずの塔に、自ら更なる鍵をかけて

 「罪無き者のみ通るが良い」。自分はアルトリアに悪いことをした、自分は罪人だから塔の出入り口を通れない、とですね』

 「……それは」

 『最後の最後まで、「今までもマーリンは最後には来て解決してくれたのだから、例えモルガンがアーサー王を邪魔するために塔に閉じ込めたとしても、きっと最後は抜け出して、この場を納めてくれる」と信じて、ブリテンは崩壊していったんですよ

 だから、マーリンは糞野郎です。救いようのない、ね』

 ……確かにそれは、糞野郎な気がする

 けれども、それならば

 何故、マーリンはヴァルトシュタインにここまで手を貸したのだろう。7つの聖杯、7つの聖杯戦争、その先に理由は知らないがあるという救世主。そこまでの全ての道筋を、何故用意していたのだろうか

 ……分からない。何処までも、分からない

 

 『……色々と、考える事が出来たようなので、今日はここまでにしましょうか

 マーリンについてもっと私情混じりの言葉を聞きたいというならば、明日以降に話しましょう』

 「ああ、そうだな……」

 寧ろ、謎は増えた。だが、考えれば解けるかもしれない

 

 更に一口紅茶を啜り、俺の思考は0時半まで、マーリンに関してのとりとめもない考察へと沈んで行くのだった


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