『マーリンといっても、何から語りましょうか』
紅茶を一口飲み、フェイが言う
「語れる事は沢山あるだろうからな……」
少し、考える
「恋敵だ何だって冗談を続けるならば、恋愛遍歴か?」
『そこまで面白いものでもありませんが』
「別に良いさ」
『では、まあ、語るとしましょうか』
一息置いて、フェイは話し始めた
『マーリンですが、資料でも言われている通り、女の子大好きの女たらしの糞野郎です。ええ、文句無しの糞野郎、それがあの花咲か魔術師、マーリンです』
「言われるほどなのか?」
『何だと思ってるんです?あれは、半分夢魔の血が混じった混血の魔術師ですよ?人類が、ハッピーエンドが好きだ、というのは嘘では無いでしょうが、間違っても善人だなんて呼べませんね』
「……酷い言われようだ」
ここまで、フェイが熱くなるのも珍しい
『アルトリア・ペンドラゴンを王にしたのも、父ウーサーの悩みを聞き、理想の王を作ろうとしたマーリンのせいですしね
結果、少女アルトリアは、アーサー王にならなければならない運命を背負わされたという訳です。これだけで、如何にマーリンが糞野郎かの証明にはなるとは思いますが』
「……王になる運命を、与えられた……」
『ええ、そうですね』
アルトリアに関しては、フェイの眼は、いつものあまり表情が無いのが嘘であるかのように表情豊かだ
「それは、悪いことなのか?」
『ええ、それはもう。王足りうる素質、土地の主としての力は、既に彼女の姉が持っていた。その上で、彼……マーリンは理想の王たるべくアルトリアを追い詰めた
そして最後は、塔から出ること無く、救う事無く、自ら産み出した王を突き放し、その死を見届けた』
「……塔」
話には聞いたことがある
アヴァロンの塔。マーリンが幽閉されたという、その場所
「ならば、何故マーリンはサーヴァントとして出てこれた?アヴァロンの魔術師☆M……どうしてだ?」
『知りませんね、そんなことは資料にも無いですし
まあ、呼べないはずのサーヴァントを呼ぶための英霊の纒ですし、その関連でしょう』
あっさりと、そう返される
思考を切り替えるために、俺も一口紅茶を啜る
やはり、良い茶葉だからか、それともフェイの淹れたものだからか、しっかりと香りが口に広がる
「というか、どうしてマーリンはそんな塔なんかに閉じ籠ったんだ?」
素直な疑問
『閉じ込められたんですよ。恋人に、ね』
「恋人……」
『アーサー王の姉であり、妖精の子。父ウーサーより、本来ブリテンの主としての性質を次いだ者。モルガン・ル・フェに、ですね』
「……モルガン」
『アーサー王を捩った名を、このワタシが名乗りたくはなかったので
縁者である姉モルガンから取って、フェイ。ワタシの名前の由来にもなった、そんなアーサー王を誰よりも憎んだ、そんな人ですよ』
「マーリンはアーサー王の師。なのに、か?」
『……恋に、理由なんて無いんですよ』
フェイは、吐き捨てるようにそう言った。その声には、何処か……悔しさ、のような感情が混じっていた、気がした
悔しかった……許せなかったのだろうか。敵である姉に現を抜かし、囚われた師が
「そうして、アーサー王の敵に閉じ込められて……」
『いえ、閉じ籠ったんですよ、あの花咲か魔術師は
本気でアーサー王を救いに戻ろうとすれば抜けられたはずの塔に、自ら更なる鍵をかけて
「罪無き者のみ通るが良い」。自分はアルトリアに悪いことをした、自分は罪人だから塔の出入り口を通れない、とですね』
「……それは」
『最後の最後まで、「今までもマーリンは最後には来て解決してくれたのだから、例えモルガンがアーサー王を邪魔するために塔に閉じ込めたとしても、きっと最後は抜け出して、この場を納めてくれる」と信じて、ブリテンは崩壊していったんですよ
だから、マーリンは糞野郎です。救いようのない、ね』
……確かにそれは、糞野郎な気がする
けれども、それならば
何故、マーリンはヴァルトシュタインにここまで手を貸したのだろう。7つの聖杯、7つの聖杯戦争、その先に理由は知らないがあるという救世主。そこまでの全ての道筋を、何故用意していたのだろうか
……分からない。何処までも、分からない
『……色々と、考える事が出来たようなので、今日はここまでにしましょうか
マーリンについてもっと私情混じりの言葉を聞きたいというならば、明日以降に話しましょう』
「ああ、そうだな……」
寧ろ、謎は増えた。だが、考えれば解けるかもしれない
更に一口紅茶を啜り、俺の思考は0時半まで、マーリンに関してのとりとめもない考察へと沈んで行くのだった