Fake/startears zero   作:雨在新人

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2/5 新フェイのヴァルトシュタインきょうしつ

『さて、今日は何について話しましょうか』

 

 夜、ヴァルトシュタインの皆に出すものの余りで作られた賄い(今日は、魚の切れ端のポワレ……というものらしい。端とはいえ、作りそのものは何も変わらず、フェイの腕もあってこんなものを食べる幸福があって良いのかと思える)の皿を片付けながら、フェイが呟く

 時間は、未だ夜の8時を過ぎた頃。今日の性能試験は夜闇の中で行うらしく時間は0時半から、更には長期に渡り散発的に戦闘が行われた場合の想定でもあるため、それまでに睡眠は許されていない

 よって、4時間ほど起きていなければならない俺に気を使ってくれたのだろう。だが、一昨日既に気になっていたかつての聖杯戦争について幾らか聞いた訳だし……

 

 「なら、マーリンについて、話してくれないか?」

 だから、俺はそう言った

 始まりの聖杯戦争において、クライノート・ヴァルトシュタインが呼んだというキャスター、アヴァロンの魔術師☆M。恐らく、真名はマーリン……

 このヴァルトシュタインの聖杯戦争という枠組みそのものを産んだという魔術師について、知りたくなった……というのは勿論ある。もしも、何か……正義を裏切り、この手に聖杯をもたらす方法に繋がるものがあれば、という期待もある

 だが、それをあえて聞いたのは……マーリンについて、そして、アーサー王、資料他曰く実は女性で本来の名はアルトリアな彼女について語る場合に、フェイの瞳に不思議な熱が見え隠れするから

 フェイの中に残っているだろう、英霊の記憶について、知りたくなったから。俺の中に居るサーヴァントは、俺に殆ど何も見せてくれないから。妻クリームヒルトだろう草原に佇む銀髪の少女や、何とも言えない不思議な部屋に立つ、ジークフリート自身だろう絶世のとは付かないが美男子な青年等の姿は頭に浮かぶが、それだけだ。結び付きが薄く、力をあまり借りられていない。だからこそ、フェイの中にあるだろう、英霊の熱を感じてみたくなったのだ

 単純に、フェイの心を掻き乱す存在に興味があった、なんて、ふざけた情けない心もゼロではないけれど

 

 『マーリン、ですか?』

 「駄目か?」

 『いえ、別に構いません。ただ』

 「ただ?」

 『マーリンに関してはそれこそ分厚い資料が残っていますので、大体それを読めば分かると思います。面白い話なんて、期待してもムダですよ』

 納得する。アヴァロンの魔術師☆Mは多くを語る質だったのだろうか、マーリンに関する資料は多い。各円卓の騎士に関する資料にも、各騎士のマーリン評等が載っていることもあり、マーリンに関しては、それこそアーサー王の次くらいには多く書かれているだろう。大概は悪口だとか、フェイは言っていたけれども

 「それでも、聞きたい」

 フェイだからこそ、英霊アーサー王を模した……そしてその記憶の欠片を持ち、自我を得ただろうフェイだからこそ、語れる何かがあると思うから

 『ワタシの知っている全てだって、資料はにありますよ?

 アルトリアを模しているワタシだからこその話なんて、期待されてもありません』

 「あるさ」

 『何です?』

 フェイが、僅かに首を傾げる

 「フェイの想い。そして、フェイの中にあるアーサーの記憶の想い。それは、フェイからしか見えないものだから」

 フェイが、微笑(わら)

 『全く、ワタシの事が知りたい、なんて

 恋敵を見つけて焦りました?』

 イタズラっぽく、そうフェイが言う

 恐らく、軽い冗談

 「恋敵マーリンとか、勝てる気しないな」

 『そんなことないと思いますよ、ワタシは

 基本的に、マーリンっていうのは女たらしの糞野郎ですから』

 フェイの瞳に光が揺れる

 これは……分かりにくいが、愛情、だろうか。マーリンは、幼い頃のアルトリアの師であったという。敬愛、愛情、そういったものがあっても可笑しくはない。謎の絵本資料、少女騎士アルトリアの冒険を描いた、何故あったのか分からない、アヴァロンの魔術師☆Mの資料の絵と同系統の絵柄の絵本にも、それは描かれていた。いや、あの本のマーリンは、事態を引っ掻き回していたりと騎士ケイほど格好よくは無かったが

 

 「フェイ、マーリンの事は……」

 『乙女の秘密です』

 揺れる光は……好意ばかりでは、無い……だろうか

 嫌悪、憎悪、あるいは、と悪感情も見え隠れする

 「本当に恋敵だったら、俺が噛ませ犬だな」

 ここまでフェイの心を揺らす相手に、対抗しろというのが無茶だ。俺にそんな権利は無い、最初から有り得ないからどうでも良いが、もしもそんな対決をするとして、良くて二人を引き裂こうとする悪役、悪くて……ヒロインに告白して撃沈するモブだろうか。それだけの強い感情を、フェイ……というより、その根源に確かに居るだろう英霊の記憶に感じる

 『どうでしょうね、ではマーリンについて語りましょうか』

 片付けを終え、食後の紅茶を持って、フェイが机までやって来た


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