Fake/startears zero   作:雨在新人

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2/3 フェイのヴァルトシュタインきょうしつ

「そういえばフェイ、かつてのヴァルトシュタインの記録って残っているのか?」

 2月はじめ。珍しく性能試験……という名の俺を追い込む修業の無い休みの日。けれども、森は節分の豆まきから派生したか何だか知らないが鬼ごっこ大会だかに使われており、今更外に出ていくのも憚られる日。というか、謎の大会があるが故に途中で修業が立ち消えた日

 やることもあまり無いので、俺はフェイにそんな事を聞いていた

 

 光の剣の制御修練であれば、今やナイフでも持てば出来るようになっているし、ナイフであれば短いので他者の邪魔にもならない

 それに、話を聞きながら等、自身の集中が乱れた状態であれしっかりと光の剣維持が出来る事が今の目標。研ぎ澄まされた心であれば自身を傷付ける事無く安定しているが、それでは駄目なのだ。実際の戦闘は、心落ち着ける状況ではないだろうから

 

 『一応見たことはありますが。興味あるんですか?』

 「そりゃ、俺が作られた理由にも繋がりそうだしな。大分最初のホムンクルスに近い045のフェイでも数年前ってことは、昔からこのやり方だった訳じゃないんだろ?」

 『ああ、そういう事ですか。はい、ヴァルトシュタインが人工サーヴァントによる人海戦術を行おうとしているのは第七次、この先に起こる最後の聖杯戦争だけです

 原因は……第六次、アサシンを使った30年前の聖杯戦争の屈辱らしいですね』

 「屈辱」

 大丈夫だ。話を聞きながらでも十分に光の剣の制御は出来ている

 『何でも、負けかけたらしいですね、当時の当主

 もう少しで円卓の騎士に聖杯を奪われる所だったとか何とか』

 「それで?」

 負けかけていた……というのは初耳だ。俺が現当主、シュタール・ヴァルトシュタインから聞いていた話では、彼が戦う第七次を含め、正義は勝つべくして当然の勝利をおさめるもの。当然全て完勝という事であった。見栄……もしくは、最後のマスターとなる彼へのプレッシャーとして、負けかけた事は言っていないのだろうか

 『その時は、セイバーのマスターを殺すのがギリギリでアサシンの消滅前に間に合ったらしいですね。マスターの死により何とかセイバーに勝ったものの、次もこうならないようにと思った。そんな所でしょう

 当時のセイバーのマスターを殺したのは、アサシンでも当主でもなく、何処かから浚われてメイドをさせられていた少女だったそうですし、其処から人海戦術を思い付いたのでしょう。サーヴァント以外でも使えばマスターを殺したりは出来て使えるという証明もありましたし

 更にサーヴァントとしての性能まで付加してサーヴァント戦のサポートまで出来れば更に完璧。如何にも子供っぽくて、正義正義なヴァルトシュタインの考えそうな事ですね』

 「そのメイドの子は、どうしてそんな事を?」

 『さあ?そんなことワタシにも分かりませんね。ただ、従うように人質でも取られてたんじゃないですか?』

 「それは……正義としてどうなんだろうな」

 それは、僅かな疑問。或いは俺の中に燻る思い。ヴァルトシュタインを正義だと知りつつも、心の底から心酔しきれない原因……俺を灼く憎悪

 『ヴァルトシュタインなんてそんなものです

 いずれ世界を、未来を救うのだから。数億、いえ遥か未来まで含めて億では足りない程の存在を救うのだから、精々数万程度の犠牲は仕方がない。寧ろよくそこまで犠牲を減らしたと誉めてほしいものだ

 それこそがヴァルトシュタイン。一人の人質なんて、人類の未来とは釣り合わないから無視なんでしょう』

 「……」

 『自分には納得出来ない考えだと思いますか?

 ワタシもです。命全てを完全に平等なものとして、数の大小だけで救うべきものを決める。まあ、一つの基準としてはアリなんでしょうけど』

 「現実はそうはいかない」

 ヴァルトシュタインの正義を認めるというのは、一つの命を……俺になって消えてしまった神巫雄輝の全てを、人類というより多くのものの為だから名誉な事だ仕方ないと切り捨てる事だ。

 (死にたくない。消えたくない。嫌だ、帰してくれ。紫乃に会いたい、まだ俺は、彼女に好きだとさえ言ってないのに。殺さないでくれ)

 そう思いながら、理不尽に全てを奪われた彼の嘆きは、今もザイフリート・ヴァルトシュタインという人形(ニンゲン)を突き動かしていた

 その嘆きを、憎悪を、苦しみを識っているから。世界の為だからと好しとなんて、出来るわけがない。救わなければ、還さなければならない。彼に何の罪があった。彼にどんな落ち度があったというのだ。どうして全ての幸福を奪われ俺になって死なねばならなかった訳があろうか

 無い。彼の幸福が奪われて良い訳がない。彼の全てを奪って、ザイフリートという悪魔がのうのうと彼の代わりに幸福を、世界を享受している現状(げんじつ)等、あってはならないのだ

 

 手を握り締める。強く、強く、血が滲む程に

 「認めない……許さない」

 『ええ、そうですね。世界の為だから犠牲になれ?世界程度とあ……いえ、何でもありません』

 「いや、何か言いかけなかったか?」

 『貴方が釣り合う訳がない、と言いかけました』

 「流石に冗談だろ?」

 『ええ冗談ですね』

 フェイは軽く笑う

 『まあ、それは兎に角、ヴァルトシュタインの正義なんて、自分達はその犠牲の枠から外れてるから言えるんですよ

 世界を救いたい、という思いまでは否定しませんが』


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