Fake/startears zero   作:雨在新人

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「……フェイ。巻き込まれるぞ」

 ふと、知り合いが近くまで来ている事に気が付き、俺は剣を振るう手を止めた

 

 フェイが森にまで出てくる事は珍しい。何時も彼女は屋敷の中に居た

 まあ、S045……アルトリアを目指したホムンクルスとはいえ、実質的にメイドとして扱われているらしいので、それも当然なのだろうが。寧ろ……俺の目の前に転がっている数体の物言わぬホムンクルスのような戦闘能力は無いらしいのだ、ブリテン領域……魔獣の住み処足り得る領域として用意された森にまで出てくる方がおかしい

 

 『そろそろ晩です』

 「そう、か」

 光の剣を消す。掌を見ると、やはりというか、焼け爛れた皮膚が見える

 振るっている間は気にならないが、落ち着くと血が滲む手が痛む。まともに剣を握ってはいられない

 情けない。本当に情けない。こんな自分が、光の剣を制御出来ず、自分にまで傷が行く弱さがどうしようもなく情けない

 剣を鞘に収め……

 

 「っと!」

 血色の光を纏った手で、襲ってきた獣の首を切り捨てた

 右手に痛みが走る。だが……何とか、なった

 油断も隙も無い。フェイが居るからと思っていたが、俺を使い物にする為のヴァルトシュタインによる修業は終わってなどいなかったらしい

 情けない。終わったと思った俺が、馬鹿に思える。そんな甘さを持っていれば、何時か死ぬだろう。俺の体は俺のものではないというのに、俺の勝手で彼を本当に消してしまう。元々が俺のせいで彼は死んだというのに、それでは彼に申し訳が立たない。だが……剣ではなく、手刀。剣ならざるものをも光剣として振るえたのは咄嗟の事、そうしなければ死んでいた状況に追い込まれたが故。方針としては、間違っていない

 

 『本日の性能試験はこれで終了、お疲れ様です、ザイフリート』

 「試したのか、俺があっさり死ぬかどうか」

 『はい。頼まれたもので』

 「引っ掛かりかけた俺が悪い、か」

 『対応出来た、それで十分です』

 息を吐く。流石に、終わりいう言葉まで疑っても仕方がない

 『改めて、お疲れ様です。帰れば晩御飯なので、何もありませんが』

 「気にしてない」

 何時もは、そもそも誰も来ない。終わりの合図があれば勝手に帰るだけ。フェイが来てくれただけ、今日は恵まれてるといえるだろう

 『今日の晩御飯は、ステーキの切れ端です。まあ、切れ端とはいえ、それなりのものでしょう』

 森の中の道なき道を歩きながら、フェイが言う

 ある日、森の……ヴァルトシュタインの領域の外での事を話したら、『そういえば忘れていました。思えば、彼等が道具の食事内容を考える訳もありませんでしたね。今度からは余り物を用意します』とフェイは言った。以降は、用意した晩御飯の一部をフェイが持ってきてくれるようになり、食事内容は大幅に改善された。本当に有り難い

 

 ただ二人、森を歩く

 気が付くと、フェイが何かを口ずさんでいた

 これは……詩、だろうか。たまにミラが歌っている聖歌……とはまた違うが、綺麗な声だ。英語なので意味は良く分からないが、心地良い

 当然ながら楽器は無いア・カペラ。だが、それだけに、その声の綺麗さが際立つ

 

 フェイの唄が止まる。半端な場所……ではないだろうか。しっかりと詩が終わったとは思えない場所

 「良い、詩だな」

 『……歌ってましたか?』

 「ああ、綺麗だった」

 『歌うつもりは特になかったのですが』

 少し意外そうにフェイは呟く

 無意識の事、だろうか

 

 「何か特別な?」

 『そういう訳でも無いのですが。ワタシの中に残るもの、貴方にもあるような、英霊の残滓……ですかね』

 「そんなもんか、残念だ」

 『残念、ですか?』

 「もう少し、聴きたかった」

 フェイが立ち止まる

 振り向いてみると、フェイは意表を突かれたような顔をして立っていた

 

 「どうかしたのか?」

 『いえ、言うようになったな、と思いまして』

 「なんだそれは」

 意味がわからない

 『まるで、口説き文句ではないですか』

 ああ、と納得する

 確かに、俺らしくもない発言。聞きようによってはそう取られるような発言だった

 青春なんて俺らしくもない。俺が享受するには幸福過ぎるだろうに

 「悪い。変な事を言った」

 『普通に謝らないで下さい。そこは冗談でも「口説かれたか?」と言う所です』

 少しからかうような空気を言葉にのせて、僅かに悪戯っぽい笑みでフェイは言う

 

 そんな風に接してくれる相手は、一方的な命令ではなく、会話をしてくれる存在は、この地ではやはり彼女だけで

 一方で彼女の瞳に俺と同じものも見つつも、それは無視して

 「惚れたか?」

 『そんなわけ無いです。寧ろ呆れました』

 たわいも利益もない会話という過ぎた幸福を噛み締めたのだった


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