それは、終末であった
世界を見据えるのは、紅き双眸
陽を覆う背に宿るは、黒き両翼
総てを食らう全身は、鋼の機神
空に輝くは、不吉なる軍神の星
降臨した終焉は、総てを破壊する
その姿は、20m級の鋼の人型。背に翼を、胸に竜頭を持つその姿は、神話の悪魔を思わせる。黒き姿を銀の光が塗り潰す、鋼の軍神竜
今なら、私にだって流石にアレが何なのか分かる。あの日、遥かな月から見下ろしたあの夢が何を意味していたのか、当時の私には分からなかった。あの人の夢を邪魔するものとして、寧ろ殺意しか無かった
けれども……今は違う
鋼の軍神。タイプ・マァズ……星より来る終焉。この世ならざるもの、ティアマト神の降臨に呼応して現れた軍神の星からの降臨者……そんな訳はない
ティアマトを呼び出した道具を止めるために星がSOSを放ったという認識は完全なミス。だって……アレこそが、ザイフリート・ヴァルトシュタインの辿り着く成れの果てなのでしょう?
そう、全ては逆。あの日夢から受けた印象のようにティアマト神を止めるために、軍神が現れたのではない。ザイフリート・ヴァルトシュタインの意志により星を破壊しにこの世界に降臨した巨神を倒すために、ティアマト神が現れたのだ。あの銀光を見れば、それは良く分かる。単純に巨大化するのではなく、巨大な機械の体を作り出して纏うようにした道具の姿であろう、というくらいにかの機械の軍神は銀の翼を翻す時代の彼に良く似ている
でも。と、そこで私は疑問に気が付く。私は、彼が聖杯を手にした結果ティアマト神が呼び出されるものだと思っていた。実際、彼の奥底に巣食うバケモノは置いておいて、何故かティアマトの眷族の姿を取れたりと、道具とティアマト神の間には何らかの繋がりがある。まあ、だからビーストⅡ-ifなんて名乗りもするのでしょう。ティアマト神と一切関係がないならバケモノの名を名乗るだけで良いじゃない。あのバケモノが何かなんて知らないし、何故軍神の星と共に降り立つのかも分からないけれども、少なくともわざわざ関係もないティアマトのふりをする意味はない
だって、何の誤魔化しにもならないもの。世界の敵じゃなくて世界の敵の使徒と名乗った所で、それいったい何が違うのよ結局単なる世界の敵じゃないの
つまり、よ。ティアマトを名乗る以上、あの道具とティアマト神は、どこかで縁があるはず。だから、彼はティアマト神の眷族を模したし、ビーストⅡ-ifと名乗った。そのはず
だからこそ、未来に星を汚染するように降臨するビーストⅡ本体は、縁のあるザイフリート・ヴァルトシュタインの手によるものでしか有り得ないと、そう思っていた。思考は、此処に帰ってくる
聖杯を使ってティアマト神を呼ぶのは道具。ならば、私の野望ーつまりは、最後の最後に私の願いの為に道具が手を伸ばした聖杯を使ってしまう。それで聖杯は消え、道具は世界の敵を呼べず、回帰を果たせずに消えていくーが成り立つ……はずだった。寧ろあの人には届かなくても英雄よね私、あの人にちょっとだけ自慢できるわねなんて皮算用すらしていた。あの夢は、誰かが聖杯に手をかけるところから始まっていたから
けれども、この事実はその全てを覆すもの。ティアマト神を召喚するのはザイフリート・ヴァルトシュタインではない。呼応するように機神の外殻を降臨させている以上、聖杯を手にさせずとも道具の世界の敵化は止められない
……じゃあ、あんな世界の終焉を呼ぼうとしている道具並の大馬鹿は誰?何をすれば良いの?私は……どうするべきなの?
何も分からず、どうせ世界が終わる夢なんてもう視界に入れたくもなく。ただ私は、昼の一眠りの夢が終わるその時まで、そんな答えの出ない質問を、自問し続けた