「地表が燃えている
世界が、焼けていく
かつて存在した文明は、全てが焼き尽くされた
知性ある者達は、対話さえ許されなかった
早すぎる、と正義は
負けられるか、と神々は奮い起った
手遅れだ、と多くの人類は諦めた
でも、まあ、流石に少しは残るだろう、と皆が楽観した
ソレが、姿を現すまでは」
『……全くもう、何なのよ、これ』
相変わらず、彼の……ジークフリートの夢を見れず、私は呟く
いや、呟けてはいない。この体は、視点を借りているだけのものだから
だけれども、私はセイバー。しっかりと、自己だけは保っている。だとすれば
これは、やっぱり彼の……
何故ならば、私はこんな夢は見ないから。見るのは常に、
だってそうでしょう?誰が
だからこれは、あの
だから、こんなもの……不快感しか催さない
理解出来ない。出来るわけがない
夢は、夢だ。だというのに、どうして幸福でないものを見るのか。そんな選択が出来るのか、分からないし分かりたくもない
地球は……赤かった
見たことはないけれども、蒼い星だと思っていた。まさか、そんな色だとは知らなかった
私は、誰かの視点から、
ああ、これは……
やはり、視界は動かせない。けれど、そんな視界の端に映るものから、此処が何処であるかを推測する
……馬鹿みたい
結論は、有り得ない事
此処は月だ。生前見上げていた、夜の星
端に映る霊子の壁が、その巨大さが、此処が月に作られた、魔術的な巨大装置である事をどうしようもなく理解させる
だけど、そんな事は有り得ない。どうしてこんな事が有り得るだろう
あの
(……止めろ)
不意に、彼の意思が流れ込んでくる
不快だ。本当に不快
(止めろ……止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ!)
ああ、煩い。どうして、こうもみっともなく騒ぐのか。仮にもあの人を名乗るならば、もっとしっかりして欲しい
(何の権利がある!ゼロなのは俺だけだろう!)
うざったい。理由は知らないし何故月から見ているかも分からないけれど、勝手に自己否定していろ
あの人を目指すのに、
ふと、視界に何かが映った
あれは……シャトル、だろうか。聖杯から与えられた現代知識、そこまで詳しくはないけれども、おそらくはそう
(違う!違う違う違う!)
心の声は煩すぎて敵わない。ただでさえ彼の夢でなくて不愉快なのだから、少しくらい大人しくしていて欲しい。何が違うというの。あれはシャトル、そうでしょう?
シャトルは、真っ直ぐに此方へ飛んでくる
これは……月の基地辺りに着陸する月面探索か何かの映像だろうか。本当に、訳が分からな……
突如、シャトルの軌道が変わった
いや、変えられた
そうじゃない。捕らえられ、進めなくなった
シャトルを、何かが捕らえている
あれ、は……あれは
世界を見据えるのは、紅き双眸
星を覆う背に宿るは、黒き両翼
鋼の機神……総て破壊する終焉
見た瞬間に、サーヴァントとしての全てが理解した
アレは、この世ならざるもの、軍神の星からの降臨者だ、と
(……ダメだ。止めなければ……止まらなければ
視界がブレる。これを見ている誰かが飛び出そうとする
(……動け、もう何も無くなったゼロ以下の俺でも、止めること位はぁぁぁぁぁぁ!)
が、動かない……動けない
ふざけたよく分からない
機神の胸から溢れだす焔が、シャトルを跡形もなく溶かし尽くした。真空等、お構いなしに
……ふざけるんじゃ、ない!わよ!
怒る
何にだろう。不甲斐ない彼に?それとも、何に?
それは、分からないまま
奴が、此方を見た気がした
その瞳?は……
あ、ああ、あああああああ!
気が付くと、私は部屋に居た
一人用の狭いホテルの部屋。仕方ないから許したけれども、正直文句を言いたいランクの場所
暗闇の中でも映る、便利な時計は、午前3時を示している
『ほんと、最っ悪の夢ね』
忘れたい、ただただ、そう思った。最後に思ったのは、知ったのは……何だっただろうか
思い出したくもない。無かったことにするのが一番だ
『文句言ってやろうかしら。あんな不快な夢見せるなって』
ぼんやりと、再度夢に落ちていく思考でそう考える
けれど……まあ、良い。そんな事考えたくない
起きるまで、あの人の夢を見たい。いや、見る。それだけで良い
私の意識は、また夢に深く潜っていった