『ということで、プレゼントの時間だよ!』
何処か疑問を抱えつつも、時は過ぎ
夜が来る。時は過ぎてゆく。止まることもなく
そうして、多くの者が寝静まっただろうその時。俺の横でホットミルクを飲んでいたミラは、突然立ち上がってそう告げた
「なんだ、いきなり」
『何だじゃないよ、クリスマス』
「いや、イブは明日だろう?」
違和感、記憶の欠落。それらを解決出来ず、けれども甘えから、ミラの言葉通り教会で厄介になっている
それが本当に正しいのかは分からないが、それでも
『まっ、それはそうなんだけどね』
単なるシスターの少女時代には良く見た明るい笑みを、かつて裁定者だった少女は浮かべる
『まっ、ある意味慌てん坊のサンタクロースがクリスマス前にやって来るってのは、お約束も御約束だからね』
「いや、どうなんだそれは……」
『そもそも、今からプレゼントを配るのは、かつてのサーヴァント達だからね
一日じゃ終わらないのですよ』
サーヴァント……言われ、少しだけ思い浮かべてみる
炎を纏った槍を。あの気の良い兄ちゃんを。結局の所バーサーカーに邪魔だと討たれていたらしい少女を
「確かに、な」
大人しく、俺は頷く
それはそうだ。あんなものへのプレゼント、一筋縄では行かないだろう
「というか、サーヴァントは退去していないのか?」
『してるよ?今からプレゼントを渡しに行くのは、その残留思念さんへだからね』
「……酷い話だな、それ」
『まっ、正直終わらせ方雑だったからね。尚も敗北を認めない頑固な聖杯を黙らせて、だし
それを正式に終わらせる感じかな』
りん、と鈴を鳴らし、ミラは立ち上がる
その姿は、シスターとしての姿ではなく、いつの間にかあの日々で見掛けた赤い帽子を被った姿、つまりサンタクロースへと変わっている
「それじゃ、行こっか、マスター」
そのまま、ミラは手袋に包まれた右の手を差し出す
「……俺も行くのか」
『うん、当然。だってマスターはわたしのマスターだからね』
「契約した覚えは無いんだが」
『まっ、そこはあのアサシンちゃんと同じような感じかな
空でならお話出来るから、早く行こっか』
だが、疑問は却下され、手を掴まれる
そのまま、外へと引きずり出された
抵抗は……しない。結局、俺は何も分かっていないから
「というか、プレゼントって……」
『うん、今日は三人、明日も三人、合計六人がマスターと配るノルマかな』
「待て、六人なのか?」
『うんうん、六人だよ?』
どうして?とばかりにミラは首を傾げる
「いや、サーヴァントにならば、そもそも七じゃないと可笑しくないか?」
ふとした疑問。バーサーカーでも欠けているのだろうか
だが、サンタクロースの少女は首を振る
『おかしくないよ?シークレットな一人、セイバーさん、アサシンちゃん、ランサーさん、あのチート、キャスターさんで六だからね
バーサーカーは完全破壊されたし、ライダーさんは、わたしが代わりのライダーとして居たいかなって頼んだら、プレゼントと引き換えにささっと退去してくれたからね』
うんうん、こんなの、とミラはいつの間にやら持っていた小さな袋から、一つのカードを取り出す
それは、概念礼装と呼ばれるだろうもの。一つの概念を魔術的に切り取り、物理的に固定化した神秘の塊。正直な所、ばら蒔いて良いのかそんなもの、と思ってしまう、そんなブツ
だが、まあ……サーヴァントにならば、良いかもしれない
『それじゃ、行こっか』
だが、自身もアーチャー並に可笑しなその少女は、自分が何処か可笑しい事も全く気にせず、外で口笛を吹く
綺麗な音色が、雪でも降れば幻想的だろうが、特にそんなことは無い少し曇った寒空に響き……
鈴の音を響かせて、ん、まあ……考えてみれば居るわな、な存在が空から舞い降りる
即ち、神獣とも言えるだろう、ソリを引き空を駆ける二匹のトナカイ
「……何でもありだな……」
『まっ、今のわたしはライダーだからね。ルーラー時とは、使うスキルは一部別かな
使おうと思えば使えるけどね。わたしはサンタクロースの伝承の大元だもん』
笑いながら、少女は軽くソリへと乗り込む
そして、此方に再度手を差し出した
「……分かったよ、ミラ」
そうして、俺はその手を取った