「トリックオアトリート、ミラ」
その声は、わたしの背後から突然響いた
振り返ると、其所には恐ろしい吸血鬼が立っていて
『うん、お菓子あるよ、フリット君』
けれども、流石に正体を見抜けないわたしじゃなくって。だからわたしは、そう返していた
来るの遅かったなって、そんな事を考えながら
「……悪いな、お茶まで貰って」
わたしの用意したお菓子と、同じく用意してあった紅茶を手に、フリット君がそう呟く
『ううん。大丈夫大丈夫、これ、沢山用意しておいたものだからね』
それに対して、わたしはそう笑う
嘘じゃない。実際に用意しておいたものだから、不自然さはないはず
「どうして、用意したんだ?」
ふと、フリット君が首を傾げる
『いや、家だって子供たちは来るよ?幾らあんまりいい場所に建ってないといってもね。だって、ここは聖堂教会に関する建物、向こうの風習なハロウィンは、当然のようにやるからね
だから、ハロウィン用のお菓子は沢山あるんだ』
「……いや、意外だな」
吸血鬼のマントを羽織ったまま、フリットくんは呟く
わたしとしては、フリット君がそんなマントで仮装して来たことの方が意外だったけど。案外、この世界を楽しめてるのかなって、嬉しくなる
「アルベール神父、そう言うことに興味なさそうだから」
『うん、そうだね』
少し、笑う
『だから神父様、今日は私には向かない日だから任せるってそそくさと引きこもっちゃったよ』
「……それで真面目な事だけ顔を出す、か。あの人らしいよ」
そんなわたしの答えに、フリット君は少しだけ愉快そうに笑う
『わたしとしては、フリット君も似たようなものなのかなーなんて、思ってたんだけどね』
流石に作りすぎたクッキーだから、わたしも一口。裁定者として、必要ないと言えば必要ないんだけど、楽しめる部分は世界を楽しまなきゃ損だから、わたしは食事は好きだし、フリット君にも楽しんで欲しい
「……フェイに、イタズラとして今日は、と言われてな」
そんな事を言うフリット君の表情は、あの日に比べたら随分と柔らかくて。悪くない、と思っているのが見てとれた
『イタズラ、かぁ……。フェイちゃんって、たまに話を聞くメイドのあの子だよね?』
「ああ。そうだ」
『結構、仲良いんだね。そんな風に遊べるなんて』
「……逆らうと怖い、って訳でもないんだけどな
やっぱり、裏切りたくないから。どうしても、の時以外は」
『じゃあ、わたしも……』
少しだけ、迷い
『トリックオアトリート、フリット君
一緒に、外行こっか』
けれども、結局わたしはそう言っていた
『御免ね、待たせて』
10分後、大体18時になるくらい。わたしは、子供たちを相手にする時に使った魔女っぽい服装で、フリット君の横に居た
この服装は、袋から取り出したもの。子供たちの願いからのものだから、露出はあんまりない。どちらかと言うと、フリフリがあって魔法少女っぽい感じ
「……案外、似合うな」
『フリット君、案外って酷くないかな?』
別に不満じゃないけど、わたしはそう言う
うん、わたしにフリフリでピンクの魔法少女服って、フリット君が考えてるイメージからは結構離れてるだろうし
……実際には、わたしの裁定者としての戦闘服は、サンタクロースというだけあってモコモコした部分はあるけど、結構可愛い系だったりするんだけど。フリット君は、その事を知らない。修道服の、シスターとしてのわたししか知らない。少しだけ寂しいような、知って欲しくないような。だって、知るときは……わたしが、フリット君を殺して、世界を救うときだから
「いや、ミラには……もうちょっと、赤い方が似合う気がしてたから、さ」
『うんうん、これ貰い物だからピンクいんだけどね。やっぱり、赤い方が似合うかな』
赤いのは、あんまり着たくない。それは、わたしにとてら戦闘に結び付く色だから。だけど、それは言わずにわたしは答えた
「……それで、何処へ行くんだ?」
ふと、フリット君が問いかけてくる
『フェイちゃんとは、仮装なんかで遊んだでしょ?
じゃ、わたしとも遊ぼうって話かな。わたしも、今日は子供たち相手にお菓子を配り続けて疲れたからね』
まあ、久し振りに……というか、サーヴァントとしてお菓子を配るハロウィンも楽しかったけど
『ということで、街のハロウィンパレードに参加しよう、って話』
フリット君に手を差し出しながら、わたしは言った