艦娘にハグしてみる   作:大葉景華

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青葉の場合 2

皆で青葉を救うとは言ったが、すぐにどうにかなる問題ではない。とりあえず、解決策が思いつくまでは通常業務をしなければならない。

「提督。この書類に判子をくれ。」

「ああ。・・・よし、と。」

「助かる。」

「いや、助けてもらってるのは俺の方だしな。ありがとうな。若葉。」

「大丈夫だ。提督のためなら何でもできる。」

「ああ、助かるよ。」

コン

「はい。お茶が入ったわよ。」

「ああ、ありがとう、叢雲。」

「ふふっ、どういたしまして♪」

「今日はやけに機嫌がいいな。」

「アンタがそこまで人の事を気にかけるなんてなかったからね。成長したじゃない。」

「お前は俺の母さんか?」

「失礼ね。お姉さんにしなさい。」

「はいはいっと・・・よし、午前の分の仕事終わり!」

「お疲れ様だ。」

「ああ。ちょっと歩いてくるよ。」

......................................................

「あ、提督じゃん。おはよ〜」

「あら提督。おはようございます。」

「北上……それに、大井か。おはよう。」

「……今日はどうしたの?サボり?」

「いやいや、午前の分を終わらせたから散歩だよ。」

「いいね〜」

「ああ、2人とも午後の演習に出てもらうから準備を宜しくな。」

「了解〜。」

「分かりました。行きましょ、北上さん♡」

「二人共、気をつけてくれ……」

「……大丈夫だよ。提督」

......................................................

「司令官、こんにちは。何か頼ってほしいことは無いかしら?何でも言ってね!」

「司令官、こんにちはなのです。」

「ああ、おはよう。今日は大丈夫だ。雷、ありがとうな。」

「いいのよ、司令官!もっともーっと頼っていいのよ!」

「ああ、ありがとうな。電も頼らせてもらうぞ。」

「はい。頑張るのです!」

......................................................

「あら司令官。こんにちはなのです。」

「やあ、司令官。」

「暁、響、よう。」

「雷を見なかったかい?あの子はまた誰かに頼られようと暴走しそうなんだ。」

「電がついていたよ。大丈夫そうだった。」

「あら、いい子ね。」

「お前らは全員いい子だよ。」

「レディーだからね、当たり前よ。」

「スパシーバ。ありがとう、司令官。」

「遠征いつも助かっているよ。これからも頼むな。」

「任せてちょうだい。」

......................................................

「てーとくさーん!ポイー!」

「ごふっ!ゆ、夕立。もうちょい優しくしてくれ。」

ギュ-

「提督、こんにちは。」

「ああ、時雨。2人とも今日は非番だったか。買い物か?」

「2人でお洋服見てたっぽいー。」

「て、提督。僕らの服、どう思う?」

「とても良く似合っているよ。可愛いよ、時雨。」

「あ、ありがとう/////」プシュ-

「自分で言わせといて自爆してるっぽいー。」

......................................................

「おや、提督。息災じゃの。」

「提督、こんにちは。」

「提督ー!今日は何の日?」

「子日だな。」

「ありがとう!提督!」

「提督、若葉が迷惑をかけてないかの?」

「ああ、大丈夫だ。むしろ俺が世話を焼かれてしまってる。」

「それは何よりじゃ。」

「お前らも若葉を支えてやってくれよな。」

「任せておいて下さい!」

......................................................

「ふぁ〜。あ、提督じゃん。」

「こら、加古!すみません提督。」

「いいよいいよ。そんなに固くならなくて。」

「そうですか?良かった。」

「・・・ところで、青葉は?」

「青葉?またずっと取材ー!って叫んでいたよ。」

「そうか。」

「あ、でも。最近夜に出かけることが多くなりました。夜にしか見えない顔を撮りに行くって言ってました。」

「夜・・・か・・・分かった、ありがとうな。」

「いえ、提督の役に立てたなら何よりです。」

......................................................

青葉はまたあの海岸にいるのだろう・・・しかし、俺に何が出来る?その思いだけが交錯している。

「・・・提督。」

「おわっ!若葉か、びっくりしたな。どうした?」

「また1人で抱え込むのか?」

はっとした。俺はまた1人で何でもやろうとしている。

「・・・本当になんでもお見通しだな。」

「当たり前だ。若葉は提督を愛していて、提督もまた若葉を愛しているからな。」

「・・・そうだな。そして、皆は俺のことを思っていてくれて俺のまた皆のことを思っている。・・・そうだろ?叢雲。いるんだろ?出てこいよ。」

「・・・気づいていたのね。」

「当たり前だ。俺はお前の親友だからな。」

「はぁ、ほら!皆もう出てきなさいよ。」

「提督。僕達も青葉さんを助けたい。」

「ぽいー!夕立も頑張るっぽい!」

「私達も手伝うわ。レディーとして当然よ。」

「まぁ、私達も業務が滞ると困りますので、北上さんがいいと言うのなら手伝いますよ。」

「教えてください、提督。青葉に、私の大切な妹に何があったんですか?」

皆、俺のことが心配で、青葉のことが心配なのだろう。

「ありがとうな、皆。でも、ここは俺1人に任せてほしい。」

「何か考えがあるの?」

「いや、正直ノープランだ。」

「あのねぇ・・・」

「なるようになるさ。いつもそうだった。」

「ま、いいわ。頑張りなさい。」

「ああ、頑張る。」

......................................................

(青葉・・・どこだ?)

俺は皆と別れた後、1人で青葉を探していた。すると

パシャ

「お!いい顔ですねぇ!もう1枚!」

「青葉・・・ちょうど良かった。探していたんだ。」

「青葉をですか?いやー、光栄ですねー」

「今晩、あの海岸に来てくれないか?」

「勿論いいですよ!」

「ああ、じゃあ、また。」

......................................................

深夜、海岸、俺は、1人で待っていた。正直まだ何を話そうか思いついていない。あるのはただ何とかして見せるという決意だけだ。

「お待たせしました!いやー、提督の方から取材を受けてくれると言ってくれるなんて幸運ですね!」

「青葉」

「今日は何の取材にしますか?最近北上さんと大井さんのスキンシップが激しいらしいからそこら辺りかなお話でもしましょうか?それとも、陸奥さんのお人形さんコレクションのお話ですか?駆逐艦の子がMVPとったらご褒美にあげるんだって言ってましたよ。それとも・・・」

「青葉!」

「はい?何でしょか?」

また、あの時の無表情の笑顔。あの時、俺は恐怖した。こんな顔ができる人はどんな事を考えているのだろう?そう思って青葉に、無表情の笑顔に、恐怖した。だが、今は違う。今ここにはいないが、若葉が、叢雲が、夕立と時雨が、暁、響、雷、電が。皆がついている。だからもう俺は怖くない。皆と一緒に青葉を救うと決めたから。

「提督?どうしたんですか?大声出したきり、黙り込んじゃって。」

「分かっているだろう。」

「分からないですよ。人の気持ちなんで・・・分からないですよ。」

「青葉、お前はあの時俺には救えないと拒絶したな。」

「ええ、しましたね。」

「あの後、若葉や叢雲達に話し、皆がお前を助けたいと、そう思っている。」

「・・・・・・・・・」

「青葉、話してくれ、お前の話には、まだ続きがあるんだろ?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

沈黙の音だけが木霊する。青葉は押し黙ったまま喋ろうとはしない。

「加古や古鷹、衣笠も心配してるぞ。」

「・・・あの子達には・・・分からないです。」

「ああ、分からない。俺にも、ほかの誰にも、お前のことが分からない。だから話してくれ。全てを。」

「・・・・・・提督。私は艦娘になる前からずっと人の心が分からなかったんです。生まれた時からずっと周りの人が怖かったんです。だから、家族や、学校のクラスメイトを観察して、同じ事をしていました。だから、今まで死ななかったんです。艦娘になったのは、何となくです。適性があったからって感じですね。特にやりたいことも無かったので、轟沈して死ぬまでここで道化をしていようと、そう思っていました。でも、提督。貴方に出会ってしまった。何故か貴方は貴方のことを周りのただの人とは思えないんです。貴方の事が忘れられなくて、ずっと貴方の事を考えてしまったのです。その時、私は気づいてしまいました。私に心が芽生えたのを。貴方の事を思う恋愛の感情が。でも、ダメなんです。私はもう、心なんて要らない。私にはあっちゃいけないものなんです。それなのに、貴方を見るだけで心が叫ぶんです。提督を愛してる。提督のそばにいたい。そこに私を置いてほしい。って。心のない私はどうする事も出来ません。心の暴走を止められないのです。だから、提督。私を・・・・・・殺して。」

そう言いつつ、青葉は俺を押し倒し、首を締めながら殺して、殺してと叫んでいる。自分の感情がコントロールできず、自分が何をしているか分かっていない。

(やばい!このままだと・・・)

艤装を付けていないとはいえ、艦娘は通常の人より力がある。青葉のような女の子の腕でも、大の大人を絞め殺すことが出来るくらいに。

段々意識が薄れていく中、俺は首を絞められながら最後の力で青葉を抱き寄せた。

「っ!?提督?」

「かはっ!・・・青葉・・・話してくれてありがとう。だが、その願いは却下だ。お前は、いつもそんなに辛い思いをしながら俺たちを助けてくれた。戦闘で、取材と言いながら皆の様子を気にかけてくれた。最後は皆のために己を殺そうとする。そんな人を殺すわけにはいかない。死なせはしない。」

「提督・・・」

「泣きたければ泣けばいい。叫びたければ叫べばいい。ここには俺とお前しかいないのだから。」

「・・・大丈夫です。青葉は、大丈夫です!」

「そう・・・か・・・よかっ・・・・・・た・・・・・・・・・」

「提督?提督!?」

......................................................

この後のことはあまり覚えてない。後で青葉に聞いたところによるとあの後俺は気絶し、青葉に運ばれたらしい。

青葉はあれから、表面上は何ら変わりなはい。ことの顛末は古鷹型には話したらしいが、3人ともに偉く心配され、また、たいそう怒られたらしい。暫く青葉はガチ凹みしていた。ただし、スッキリした顔をして、もうあの顔になることは無かった。

「提督!また私とデートしましょうよー!」

ただ、俺への思いを伝えたことで吹っ切れたらしく、ずっとこの調子で絡んでくる。

「お、おい!仕事の邪魔はするなって!」

「じゃあ私も手伝いますから!」

「お前仕事全然出来ないじゃないか・・・」

「大丈夫です!青葉におまかせ!」

やれやれだぜ・・・




こんにちは、KeyKaです。今回はちょっとあとがきを書かせていただきます。
今回、前回の青葉の話は非常に苦労しました。最初はただ単に隠れ提督LOVE勢だったり、こっそり皆を気遣う優しいお姉さんキャラの予定でした。そのはずが、書き進めるうちにこんな事に・・・ただ、このように終わることが出来て良かったです。
さて、青葉の場合で割とシリアスだったので、次回からはのんびりとやらせて頂きます。これからも「艦娘にハグしてみる」を宜しくお願いします

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