「球磨型の部屋に?」
梅雨が過ぎ、太陽が1年で1番の頑張りをみせ雲も真っ青な空に立体的な絵を描くようになった頃。球磨型の三番艦北上が俺を球磨型の部屋に来ないか?と誘ってきた。
「うん。この前の演出でアタシと大井っちと木曾っちがMVPとったじゃん?それで提督がなんでも御褒美あげるって言うからさ〜」
「お前の分はそれでいいなら良いけど、他の二人はどうなんだ?」
「大井っちも木曾っちもそれでいいって言ってたよ」
北上の長い三つ編みがふよんと跳ねて答える。
「まぁ……遊びに行くだけだろ?それならいいけど……それでいいのか?いい酒とかたまには奢ってやるぞ?」
「多摩姉ぇがあんまりお酒飲めないしさー。大井っちも……」
「大井?あいつこの前の龍田と金剛のバーで酒飲んでたぞ?」
最近金剛が昼間は紅茶、夜は酒を出すバーを鎮守府内で開いたのだ。駆逐艦から戦艦まで幅広く人気だ。
そう俺が言うと北上は苦々しい顔をして
「う〜ん……飲めない事は無いんだけど……」
「酒癖悪いのか?」
「まぁ……そうだねぇ」
要領を得ない返答しか返ってこない。
「まぁいいや。で、今夜でいいのか?」
「うん。お酒もちょこっとあるよー」
「それは楽しみだ」
「でも球磨姉ぇが『球磨の部屋では煙草は吸わせんクマ!』って言ってたよー」
「……それは残念だ」
そう言って北上は準備をすると言って走って去っていった。さて、なんだかんだ北上とも付き合いが長いけど部屋に行ったことはあんまり無い気がする。五人同じ部屋に住めるようにかつ、五人ともプライバシーを守れるようにと思い結構大きめの部屋にしたはず。内装は最低限のものだけ渡して好きにしろと言ってあるのでどうなっているのかが楽しみだ。
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とりあえず夜まで暇だからどうしようかとぶらついていたら、何やら大きな荷物を背負った球磨と木曾に出会った。2人では通常担げなさそうなほどありそうな大きな机を担いでいる。この大きさは流石に艦娘の筋力でも厳しそうだが、流石は武闘派軽巡洋艦球磨型の姉妹だ。艤装のブースト無しでも鍛錬を怠ってないのだろう。
俺の鎮守府で最初の改二になって今でも最強の六人に数えられる北上。それを追って改ニになり北上を助けると誓った大井。通常、適正は無いはずなのに二人の姉を慕い続け、遂には自身の戦闘能力だけで雷巡の適正を手にした木曾。通常では考えられない柔軟な動きで敵だけではなく味方までも翻弄し、最近改ニになって更に自由度(あと猫度)を増した多摩。長女で唯一改二が来てないのに腐らずに己を磨き続け、戦術を学び、仲間を守り、敵を屠り続けた球磨型の長の球磨。
そうしんみり思っていたらテーブルを運んでいた球磨が俺に気づいてにっこり笑って手を振ってきた。
「提督!こんにちわクマ」
「おう、提督」
俺も2人を手伝いながら返事をする。
「よう、二人とも。手伝うよ」
「ああ、助かる」
「アレー?木曾、そこはかっこよく俺に任せろ!位は言うんじゃないのかクマ?」
「出来ないことを見栄を張って出来ると答えるほど俺の器は小さくない」
そう言ってよいしょと気合を入れてテーブルを握り直す。
球磨はその答えに満足する様に頭のアホ毛を振り回して喜ぶ。
「クマー!それでこそ球磨型だクマ」
「当然だ」
何故か褒めれた木曾本人よりも球磨の方がドヤ顔だ。
そう思ってホッコリしていたらニヤニヤしながら北上が現れた。北上がこの顔をしている時は確実にイタズラをしてくる顔だ。しかも内容が自分は手を出さずに他人を使ってくるというもので直接地味に辛いイタズラをしてくる卯月よりタチが悪い。
ジリジリ近づいてくる北上に俺と、恐らく球磨型で一番の被害者である木曾が慌てて北上の機嫌を取ろうとする。
「き、北上姉さん……この机は球磨型で選んだやつだろ?使う前に落として疵つけてしまったら事だろう?だから……」
「むっふっふー♪木曾っちー嘘は良くないねぇ……アタシは知っているんだよ〜?実は本気を出したらこの机くらいはギリギリ木曾っちと提督で運べることを」
「え?俺?」
いつの間にか巻き込まれている俺。そんなこと言ってる場合じゃない!北上の言う事が正しいならギリ持てるって事は裏を返せば常に全力を出さないと落とすって事だろ?
「待て待て待て待て待ってくれ北上、そうだ、後で飯くらいは奢るから……な?」
「ふ〜ん……提督ーアンタも鈍ったねーアタシの懐柔の手腕がねぇ……せっかくの提督のお昼ご飯デートお誘いは嬉しいけどアタシはたった今お昼を済ませちゃったんだよねぇ……いやー残念残念」
こいつ絶対に確信犯だ。
「じ、じゃあ間宮はどうだ?食後のデザートを俺に奢らさせて欲しい!」
北上の三つ編みがピコン!っと揺れる。行ける!あと少しだ!
「な?この後間宮で北上にデザートを食べさせるために、金より貴重な北上のデザートを掬うだけの筋力を残させてくれないか?」
「ふーん……提督。アタシにアーンしたいんだー♪」
完全に楽しんでいやがる……でも、あと一押しだ!
そう思ったのだが、北上は一際ニヤリと笑うと、球磨に悪魔の様に、神のように微笑んで言った。
「球磨姉ぇ……多摩姉ぇがサーモンお昼に焼いたって。一緒に食べに行こ?」
「サーモン!?」
やばい
「ま、待て!球磨!サーモンなら俺が……」
そう言おうとしたら北上が凄い目で睨みつけてきた。
戦場で出すような眼力に俺も木曾も蛇に睨まれた蛙だ。
あえなく球磨はサーモンを食べに行って俺と木曾の二人ので必死にテーブルを運んだ。
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ようやっと部屋まで運ぶとにこやかな笑顔で北上がドアを開けてくれた。
「あれ〜?提督、木曾。偶然だね〜」
清々しいを通り越してもはやアルカイックスマイルを見せてくれる北上。
「おや、北上出迎えとは殊勝な態度だ。後で何を請求されるか分からない」
「いやいやーたまにはアタシも無償で奉仕の精神って奴をねー」
などととぼけていたら球磨が後ろから北上の頭をコツンと叩き
「北上、流石に提督と木曾が可愛そうクマよ」
と叱った。
北上はやはり球磨型の長、球磨の言う事には逆らえないらしい。おとなしくテーブルを運ぶ手伝いをしてくれた。
部屋の中に運び込み、木曾と二人で背中合わせになってお互いの腰を伸ばし合うストレッチをしていたら北上と目が合った。またイタズラされるかと思ったが意外にも大人しくしていて、俺のストレッチが終わってらチョイチョイと手招きしてきた。
「どうした?」
と俺が聞くと、んと床を指さす。寝転べって事か?
言われるがまま(と言うか指さされるがまま)にうつ伏せになると、北上が俺の足の辺りに乗っかり腰のマッサージをしてくれた。
そこまで大きくない手で丁寧にやってくれる。ツボも分かってるみたいで気持ちがいい。
「いきなりマッサージとはそれこそ殊勝だな、どうしたんだ?」
と俺が軽口を叩いても無言。いつもなら皮肉や軽口の応酬になるはずだけど、北上は真剣な顔で腰のマッサージを続ける。
「……提督?」
と北上がボソリと呟く。
「どうした?」
「さっきはゴメンね?重かった?」
静かなトーンで聞いてくる。いつものふざけた様子はなく、真面目に俺の事を労わってくれている様だ。
「ああ、マッサージのお陰だよ。意外と上手いもんだな」
「アタシ、手先の器用さには結構自信あるんだよ?球磨型の髪の毛、皆切ってるんだ」
「へぇ、凄いじゃないか」
素直に感心する。適当に伸ばしっぱなしな多摩と木曾は兎も角、ストレートなサラサラヘアーな大井やどうやってできているか分からないアホ毛ヘアーの球磨の髪を整えているのか。
「あのアホ毛はどうやっているんだ?」
「……あれは天然だよ……アタシの敗北の象徴……」
「なんか……すまん」
恐るべき球磨のアホ毛。
「今度提督もやってあげようか?」
「いいのか?」
実は最近伸びてきて鬱陶しかった所だ。
「じゃあ、頼む」
「まっかせておいて!」
うん、元気になったようだ。しおらしい北上も珍しいが、やっぱりいつものハイパーな北上様のほうが似合っている。
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北上のマッサージで体もほぐれ、気分も良くなり午後の仕事も捗った。
若葉にも話してみたら「今度頼んでみようかな」と言ってた。鎮守府内でミニブームでも起きそうだ。
だいぶ早くに仕事も終わり、若葉と散歩をしていると、五十鈴が木の上に向かって何かを叫んでいるのが見えた。猫でもいたのかと思い、俺と若葉も木の上を見てみると、そこにいたのは猫は猫でも球磨型の多摩だった。
「猫じゃないにゃ」
地の文に突っ込まないで欲しい。
「多摩!危ないから降りてきなさい!降りてきたら猫缶あげるから!」
「五十鈴、それは色々と間違っているぞ」
と若葉が冷静にツッコミを入れる。
それでも多摩は降りようとせずに呑気に欠伸をしている。
どうしようかと皆で悩んでいたら、たまたま天龍型の一番艦の天龍が時雨と夕立を連れて歩いて来た。よく駆逐艦と遊んでいる天龍の事だ、時雨と共に夕立と遊んでいたのだろう。夕立のお気に入りのフリスビーを手に持っている。
天龍がどうした?と俺達に声をかけようとしたが、それよりも先に木の上の多摩に気がついた。やれやれと言わんばかりにフリスビーを時雨に渡し、トトトと数歩助走を付けてタンッ!と飛び上がり多摩のいる木の枝にヒラリと着地した!
「よう!多摩、何してんだ?」
「……にゃあ」
天龍が多摩の顎の下を掻きながら笑顔で聞くと多摩は暫く堪能した後、一声鳴いてピョンと飛び降りた。
「……にゃー」
といいながら去る多摩。どこまでも猫のような自由人だ。
「猫じゃないにゃ」
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球磨と木曾、北上に多摩と続いたから次会うとしたら大井かな?と思いながら歩いていたら、次に会ったのは大井ではなく青葉だった。
「なんだ、青葉か」
「司令官!?開口一番それですか?」
と青葉が本気でショックを受けたような顔をするから頭を撫でてやりながらあやまる。
「すまんすまん。次会いたかったのは大井だったからさ」
「あれ?司令官も大井さんに会いたかったのですか?」
「ああ、お前は何の用事だったんだ?」
「いえ、ちょっと取材に」
「そうか、結構皆毎回のコラム楽しみにしているからな」
「恐縮です!ではでは!」
と言って走り去って行く。逃げ足以外も速そうだ。
大井には会えないまま宴会の時間が迫る。まぁこの後すぐに大井にも会えるから良いか。
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夕方になり、一旦部屋で身なりを整えていると、トントンと部屋をノックする音が聞こえ澄んだ声で
「提督、大井です。お迎えにあがりました」
と聞こえる。
ドアを開けると、そこにいたのはいつもの北上と同じの制服ではなく、タキシードに身を包んだ大井の姿だった。
予想外の服装に加え、それが妙に似合っているから咄嗟に声も出せずにポカンと大井を眺めるしか出来なかった。
大井は見られているのが恥ずかしいらしく、北上さんの立案で皆でこれを着ようと言われたことや、多摩姉さんが提督を迎えに行くように言ったとやや早口で言っていたが、呆然としてそれすら耳に入らなかった。
「だから、私がしたかったんじゃなく、多摩姉さんがって……提督、聞いていますか?」
大井のいつも通りのジトーっと睨む視線が突き刺さりようやく我に返る。
「あ、ああ。すまん、ちょっと見とれてた」
と素直に言うと、ちょっと顔を赤くしたが、そう。と素っ気なく返しクルンと後ろを向く。
「じゃあ、行きますよ?もう姉さん達は準備を終わらせて待っていますから」
「おう」
褒められたのに素っ気ない態度を取ったが、大井のサラサラヘアーがフリフリと揺れている。ホントに北上に似てるなぁ
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流石に扉を弄ることは出来なかったみたいで、扉は普通だ。
大井がどうぞ、と言わんばかりに扉の横でにこやかな笑顔を作っている。
どうなっているのか楽しみだ。いざゆかんと扉を開く。
扉を開けてはじめに飛び込んできたのはひんやりとした冷気だった。次にまさにバーに流れていそうなジャズ?の音楽。そして目に飛び込んできたのはまさしく正しいバーだった。
本日2回目の呆けた表情を晒していると、クスクスと笑いながら大井がポンと背中を押す。押されるがままに入ると大井とお揃いの格好をした北上が出迎えてくれた。
見ると、タキシードなのは北上と大井だけで球磨、多摩、木曾の3人はちゃんとバーテンダーの格好だった。
「提督、いかがかしら?あれから数時間で整えたのよ」
「……まさかMVPのご褒美がこうなるとはな……」
「いや〜凄いでしょ?アタシが1回こんなんやって見たくてさー」
「北上がカクテルを作るのか?」
まさかと思い訪ねると、北上はヒラヒラと手を振って否定する。
「残念ながらアタシは作らないよ。球磨姉ぇが意外と上手いんだよ。で、多摩姉ぇが料理作ってくれて、木曾は二人の手伝い」
「ああ、俺も提督に何か作ってやりたくてな」
「クマー。任せるクマ」
「にゃあ」
3人とも気合いバッチリだ。
ふと、俺が北上に訪ねる。
「あれ?じゃあ、大井は何をするんだ?」
北上が不満そうに声を上げる。
「ちょっと〜アタシには聞かないの?」
「お前は俺と飲む係だろ?」
「まあね」
「私も提督と一緒に飲む係ですよ」
大井の答えを聞き、えっと声を上げる。
「大井は酒飲めないんじゃなかったっけ?」
そう聞くと、大井はフルフルと首を降る。同時に髪の毛もフワッと広がり見てて楽しい。
「少しなら飲めますよ。それとも何ですか?北上さんとは飲めて私とは飲めないと、そうおっしゃいますか?」
姉妹揃って眼力が凄まじい。
降参と言うように両手をあげる。
「分かったよ。でも、飲みすぎるなよ?」
「分かってますよ」
そう話しているあいだに球磨が作ったカクテルと多摩の料理が三人の前に出される。
乾杯と言うと、三人のグラスがチンと高い音を立てて応えた。
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大井が自称するほど大井も酒が弱い訳ではなかった。適度に楽しむ程度の酒は飲めるらしい。
適度に酒と料理(北上が絶賛するように、酒も料理も素晴らしかった)を堪能し、気がついたら深夜を過ぎていた。こりゃ朝までコースかなと思っていたが、だんだんと球磨と多摩の瞼が降りていったので北上と俺で二人をベッドまで運んでやった。
それからは俺と北上、木曾、大井の四人で適当に酒を飲みながらだべっていた。
「でさー、その時に木曾が意外と頑張っていてねぇ〜」
「ちょっとでも姉さん達に追いつきたいからな!それくらいは当然だ!」
「木曾も頑張っていますね」
「改ニになってからますます努力してるな」
「当然だ。鍛錬を怠るわけにはいかないし、改ニになって艤装の感触も変わるからな」
「そう言えば大井も改ニになったときは結構訓練してたな」
「当然です。少しでも北上さんの助けになろうと思っていましたからね」
「おお〜凄いねぇ」
「呑気なことを言うな北上。お前はどうせ改ニになっても訓練何もしてなかっただろう」
「アタシは最近だからねぇ訓練無しでも思う通りに魚雷も撃てたし?」
はぁと俺がため息をついても北上は何処吹く風だ。
何故かそれなのに大井は満足気だ。
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遂に木曾も飲みすぎたと一言言い、自分のベッドに引き上げて行って、北上がじゃあアタシもと言ってそそくさとベッドに引き上げて行った。
残すところは俺と大井の二人になってしまった。大井もだいぶ出来上がっているようで目がトロンとなっている。タキシードの上着のとうに脱ぎ、ボタンも二つほど外している。谷間が見えて、頭がフーラフーラと揺れている姿は非常に危険だ。
これはマズいと思い、大井をベッドに運ぼうと方に手をかけた途端、大井がバッ!とこっちを向いて、俺に飛びつきながら抱きついてきた!
「うぉ!お、大井!」
「むー……提督……うん」
完全に酔っ払っている。呂律が回ってない口調で俺に抱きついたまま頬ずりしてくる。
「提督……ふにゅー……うーん」
他の四人に見つかったらどう勘違いされるか分かったもんじゃない。急いで引き剥がそうとするが、艦娘の全力には遠く及ばない。
「提督……うん?提督、どうしてここにいるんですか?」
ちょっとは話せるようになったらしい。急いで説得を試みる。
「お前が酔っ払って俺に抱きついてきたんだよ、とりあえず離せ!話はそれからだ」
俺がそう言うも、大井は離れてくれないどころか、より一層強く抱きついてくる。正直痛いくらいだ。
「大井さん!?」
「嫌でふ……離しません……提督……」
顔を埋めたまま話してくる。引き離そうとしばらくもがくが、どうにもならないと思い、諦めて大井にされるがままにする。
「提督……提督……むにゃ」
と満足したのかこの体勢のまま寝てしまった。ようやく終わったかと思いながら引き剥がそうどするが、なんということか離れない。
次第に俺も眠気に負けてトロトロと眠ってしまった。
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何やら人の気配を感じて目を覚ますとまだ大井が張り付いていた。
離そうとするが、やっぱり離れない。しょうがないからこの体勢のまま水を探す。飲みすぎたせいで喉がガラガラだ。
「水……水……どこだ?」
寝ぼけ眼で探すから水が見つからない。
すると、誰かがスっと水の入ったペットボトルを手渡してくれた。
「はい、水だよー」
「おお、サンキュー北上。……北上?」
水を1口飲み、やっと頭が覚醒し、今自分が置かれている状況を把握した。見渡すと、大井以外起きていて俺の周りでニヤニヤとしている。
「あ、いや、これはその……違うんだ。大井が酔っ払って抱きついてきて、大井の力が強くて……」
俺がしどろもどろに弁解していたら、北上がぷっと吹き出した。
「提督、大井っちはねぇ?飲みすぎると、誰にでも抱きつくんだよー」
北上がそう言うと、ほかの三人も頷く。恐らく四人とも被害にあった事があるのだろう。
俺がポカンとしていると、北上が大井を引き離しながら、耳元で呟く。
「オイシイ思い、出来たでしょ?」
こいつ……知っていやがったな。
俺の非難の目をよそに、北上は楽しそうに笑う。
「安心して。大井っちは酔ってた時の記憶飛ぶ人だから」
言った通りに数分後に大井が目を覚ました時も、キョトンとしている。だけど何かをやらかしたのは察したようでしきりに俺に謝っている。申し訳なさそうな表情を見ると、どうにも許せてしまう。
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後日、秘書艦大井、秘書艦補佐北上の日。案の定北上が逃走したが、その日の書類は少なかったため、二人で書類整理をしていた。
「よし、今日の分はこれで終わりだ」
「はい、お疲れ様です 」
丁寧に書類をまとめながら大井が答える。
あの日からも特に態度が変わらないから本当に大井はあの夜の事を忘れているのだろう。
「お疲れ様」
「はい、お疲れ様です」
そう言って部屋を出ようとする大井に声をかける。
「あ、そうだ大井。今日また部屋に行っていいか?」
「はい。構いませんよ。木曾が新しいカクテルに挑戦したいと言っていました」
あれから、球磨型の部屋はあのバーのままになっていて、時折遊びに行っている。その度に北上が大井と俺をからかってくるから始末が悪い。思えば、あの時北上がベッドに行った時、北上は何が起こるか知っていたから、ベッドに避難して狸寝入りをしていたんじゃないかと疑ってしまう。
大井もあれから少し俺と酒を飲むようにしている。
相変わらず酒は弱いから飲みすぎた時には北上をバリアにしようかと思う。