冬もすぎ、年度が変わり忙しくなりつつある時期。書類が溜まり気味だったから今日の業務は秘書艦の龍驤、そして暇だからと秘書艦補佐をやりたいと駄々をこねた島風の3人で丸一日書類と格闘する日となった。
夕方にやっと終わり俺たちは疲れ果てて机に突っ伏していた。すると島風のお腹がキュルルと可愛くなった。しかし、疲れ果てている島風はそれを恥ずかしがる様子もなく
「提督ー、お腹すいたー」
と突っ伏したまま死にそうな声を上げた。
「俺たち昼もそんなに食べてなかったからな……」
「ウチもやー、提督。なんかこの部屋お菓子とか無いん?」
「あったけど昨日秘書艦した北上に全部とってかれた」
「あんの……!まぁええわ。提督、そろそろ演習組が帰ってくるからそれ迎えたらウチらもご飯食べよーや?」
「はいよ、島風!迎えにいつまてあげてくれるか?」
「えー、今日は島風遅くてもいい……動きたくない」
「アイデンティティ崩壊するような事言ってないで……行ってきてくれたら今日はなんでも奢ってあげるから」
「ほんと!?じゃあ行ってきマース!」
言うが早いか、もう島風は港に向かって走っていった 。
「速いなー」
仕事終わりの一服にと紫煙を燻らせながら俺が呟くと
「駆逐の管理するんは軽巡の役目やっけ?」
と龍驤も暇なのか雑談を降ってくる。
「そうだな。川内型の3人が主でやってくれてる」
「川内型なら大丈夫やろ。川内と神通怖いし」
「本人に聞かれると怖いぞ?」
「キミこそ怖い言うとるやん?しかし……ええなぁー軽巡は駆逐の監督役で」
「どうして?」
「ウチは正規空母の監督役やろ?」
出撃を重ねて体がボロボロになり、出撃が出来ない龍驤は後任の指導係として鎮守府にいる。
「何か問題があるのか?」
と聞くとうーんと龍驤は腕を組みながら
「問題ってほどじゃないんやねど……皆さ……いい子やねんけどウチの事をお子様みたいに扱うんよ……」
「まぁ……龍驤は体型がねぇ」
「誰がツルペタや!……まぁそうなんよ。みんな先輩として扱ってはくれるねんけど…特に一航戦の2人がなぁ」
「赤城の加賀か?あの二人がどうかしたのか?」
「それがなぁ」
と龍驤が言おうとするがトントンとドアのノックする音。
そして島風が元気に飛び込んでくる。
「提督ー!演習組が帰還したよー!だから早くご飯!」
「分かった分かった。分かったから先に報告をさしてやれ」
と言うと素直に引いてくれる。
島風が引いたところで演習組の加賀、赤城、山城、大和、加古、青葉が入室する。
「旗艦、加賀。以下5名帰港しました」
「はいお疲れ様。結果は?」
「全勝よ。問題ないわ」
「了解。全員補給を済ましたらあとは自由でいいよ。解散」
と言うと一航戦以外の4人は部屋を出ていく。
赤城と加賀は部屋に残り龍驤のそばに行く。
「龍驤さん!私やりました!MVP取りましたよ!」
「赤城さん。龍驤さんが困っています」
「ああ!ごめんなさい……つい」
「ええよええよ!2人とも、よう頑張ったな!」
と言いながら龍驤が2人の頭を撫でようとするが身長差のせいで届かない。それでも頑張ってぴょんぴょんと跳ぶ姿はどちらが先輩か分からなくなる。
すると赤城がニヤリと笑ったかと思うとしゃがんで龍驤を抱きしめたかと思うと勢いよく立ち上がって龍驤を持ち上げた。俗に言う「高い高い」だ。
「なななななななな!ちょ、ちょっと!赤城!やめてー!」
「うふふふふふふふふ。龍驤さん、可愛いですよー♡」
完全に遊ばれてる終いには赤城が龍驤を抱きしめたままクルクルと回り出した。
「いーやー!ちょちょちょい!キミ!見てないでたーすーけーてー!」
ふむ……もう少し見てみたいが……。しょうがない。助けるか。
しかし、俺が助けに行く前に加賀が赤城から龍驤を奪った。
「か、加賀!助けてくれたんか?おおきになー!」
「…………………………」
加賀は龍驤を持ち上げたまま降ろそうとせずに龍驤をじっと見ている。
龍驤もなにか不穏な空気を感じ取ったのか降りようともがくが、如何せん体格差が大きい。
すると、加賀までもが龍驤を抱きしめはじめやがった。
「わわわわわわ!加賀もか!もーなんやねん!?なんで2人はそんなにウチを持ち上げたがるねん!?」
「………………………………………」
加賀がひたすら無言で龍驤を抱きしめる。なんだか少しシュールな光景だが、よくよく見れば加賀の顔が心なしか嬉しそうだ。赤城に至ってはニッコニコだ。
2人とも、龍驤の事が大好きなのだろう。加賀と赤城は龍驤の次に来た空母。2人が1番龍驤と付き合いが長いし、1番龍驤から戦い方を学んだからだろう。
と、俺が1人でうんうんと納得していると龍驤がついに怒りの矛先を俺に向けだした。
「キミィ!いい加減に助けてーや!」
「はいはい。赤城、加賀、もう満足だろ?離してやれ」
と言うが、加賀は龍驤を離すつもりは無いらしい。赤城も加賀に後ろに並んでワクワクとしている。
ダメだこりゃ……さて、どうしようかな……。
俺が諦めかけたその時、丁度18時を知らせる時計の鐘が部屋に響いた。
その音にビックリした加賀がつい手を緩めてしまったスキを狙って龍驤が脱出。素早く俺の後ろに回って2人をシャー!っと威嚇する。
なるほど……龍驤も大変だな。と俺が労うつもりで龍驤の頭をポンポンと撫でてやるも龍驤のお気に召さなかったらしい。ウガー!と怒りを露わにする。
「キミまでウチをお子様扱いするんか!」
「そういうつもりじゃないけど……」
「提督!私にも変わってください!」
「提督、私も希望します」
「いややー!」
と叫びながら部屋中を逃げ回る。それを一航戦の2人が追いかけるせいで部屋中ドッタンバッタンと大騒ぎだ。
あぁ……平和だなあ……
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俺も龍驤の事が少しは気になるから今日の秘書艦、秘書艦補佐は赤城、加賀にした。そしてなぜか龍驤もついでとばかりに付いてきた。
(龍驤はここに来たら抱きしめられるって分かってないのか?芸人魂?)
と俺が悶々と悩んでいたら赤城が俺の顔を覗き込んできて
「提督?どうかしましたか?」
と聞いてくる。加賀もしっかり仕事してくれるし、2人とも龍驤が絡まなければしっかりしているのに……
「いや、なんでもないよ」
「そうですか。なんだか少し考え事をしているようでしたから」
「今日の昼飯を考えているくらいだよ」
「お昼の前に仕事がまだ残っていますよ」
と加賀がツッコミを入れてくる。
「分かってるよ。龍驤も手伝ってくれてるし、すぐに終わるだろ」
「ふふん♪ウチのありがたみがようやく分かったようやな!」
「はい!流石龍驤さん!」
「うわわわわわわ!ちょっとまてまてまてーい!今は勤務中やで!仕事しぃや!」
そこあたりは赤城もわきまえているらしい。龍驤の頭に一撫でして仕事に戻った。
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「やったー!やっと終わったでー!」
昼前にはなんとか終わり、今日一日はゆっくり出来そうだ。
と思っていたら赤城が後ろから龍驤を思い切り抱きしめて持ち上げた。
「うわわわ!またか!ええ加減にせぇよ!とぅ!」
と叫びながら龍驤が赤城のホールドから脱出。龍驤もだんだん手慣れてきている。
しかし、赤城を警戒しすぎて加賀の存在を忘れていたようだ。気配なく龍驤の後ろに忍び寄り、またも龍驤捕獲。加賀に無言で抱きしめられる。
龍驤も諦めて2人にされるがままになっている。
「もうそこまでにして、昼飯食いに行くぞ」
と3人に言うと、龍驤が(抱きしめられたまま)
「お昼ならウチが作ったるで!いいのが手に入ったんや!」
と言う。
そう言うならとお願いすると龍驤が自室から巨大なたこ焼きセットを持ってきた。あいつこんなものを自腹で購入してるのか……
「今日の遠征組がでっかいタコさん拾ってきてな?せやからタコパしよ思うてんよ!」
と言いながら手馴れた様子で次々とたこ焼きをクルクル回している。
確かに美味そうだ。だけど一つ問題がある。
「なぁ?龍驤」
「んー?どないしたん?」
「タコ、デカくないか?」
そう、龍驤が持ってきたタコはおよそ10キロはあろう巨大ミズダコ。いくら赤城や加賀が良く食べると言っても限度があると思うのだが……
しかし、龍驤はふふんと笑って
「大丈夫やって!心配せんとき」
と言いながらクルクルしている。
赤城と加賀に流石にこの量はキツくないか?と聞こうとしたのだが、2人がいない。どこに行ったのだろう?
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たこ焼きも焼き上がり、準備も終わったというところでドアをトントンとノックする音が聞こえる。
誰だろう?と思いながら俺が開けると、赤城、加賀の2人。さらに飛龍、蒼龍、翔鶴やその妹瑞鶴。雲龍と葛城、大鳳、瑞鳳の姿がある。
「龍驤さん!皆を連れてきました!」
「はいお疲れ様やでー!皆、各自好きにとってなー!」
龍驤は何もかもが分かっていたというような顔でそのまま準備をすすめる。
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「はい!コレ焼けたで!赤城と加賀はあんまり食べすぎたらあかんで?」
「葛城!瑞鶴にじゃれてないでさっさと食べ!冷めるでー」
「雲龍!なにぼんやりしとるんや?ちゃんと食べてるか?」
「ああ、大鳳。ウチの分とっといてくれたん?ありがとなぁ♪」
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皆が食べ終わり、4人で片付けをしている。
「なぁ、龍驤?お前らちょいちょいこんな事してるの?」
「せやで、ウチがなんかご飯作って一航戦がみんな呼んできて皆で食べるんや。楽しいで?皆は戦い頑張ってるのに、ウチはなんも出来へんからね。せめて皆を楽しませようとしたんよ」
龍驤の言葉に俺たちは動けないでいた。
龍驤も艦娘だ。戦いのために生まれてきたモノとしての魂に誇りを持っていたはず。本来なら戦えなくなった時点で退役して、残りの時間を過ごすはず。それをせずに龍驤は俺たちのために戦っていてくれたんだ。
俺達は知らず知らずに龍驤を抱きしめていた。赤城と加賀もふざけずに、龍驤も抵抗をせずに俺達を撫でてくれていた。
「さて!しんみりはここまでやで!明日からも頑張っていこうな?」
と、龍驤が元気よく叫ぶ。その勢いに俺達も知らず知らずに笑顔になり、4人でいつまでも笑いあっていた。
お久しぶりです。だいぶ投稿期間が空いてしまいましたね。もうちょい頑張っていこうと思います。
今回はどう考えてもタイトルは「龍驤の場合2」
の方がしっくりきますね。
それはそうとなろうのほうでもKeyKa名義で「死にたがりの僕と殺したがりの彼女」というタイトルでオリジナル小説を書いているのでそちらもよろしければお願いします。