夢を見る…あいつの夢だ。夢の中では私はあいつの隣にいる。私はあいつの秘書官であいつのケッコンカッコカリの相手。そして、夢の最後はいつもあの子が私をじっと見ている…
......................................................
「……………またあの夢…」
気がついてしまった。私はあいつの事が好きだったんだ。でも、それに気づいたのはいつからだろう?
気がついたらあいつの事を考えてる。あいつの周りに他の子がいるだけで気分が落ち込む。出撃で戦果をあげた時に褒めてくれた時は丸1日は上機嫌だった。そして、秘書官としてあいつの隣にいる時が一番好きな時間だった。
でも、もうそれは叶わない…あいつは私にとっても大切なあの子と結ばれたし、なによりお互いに愛し合っている。私にどちらかを選ぶ事なんて出来ない。
親友と愛する人が被る。小説ではありきたりだけど現実では早々ないものだと思っていた。私の趣味は小説を読むことで恋愛小説を読んでいるとそういう場面に遭遇して主人公やその周りが苦悩する場面も多かった。私はその時どう思っていたっけ?私はどうすればいいの?
「分からないわよ…。……けてよ」
......................................................
「艦隊が帰投したわ」
近海警備の任務についていた曙、時雨、夕立、そして叢雲が帰ってきたようだ
「はいよ、ボノたん旗艦お疲れ様。成果はどうだった?」
「ボノたん言うな!クソ提督!…ふん。全員無傷よ、敵も全滅させたわ」
ボノたんと言われてもそこまで嫌そうではないな…
「了解、じゃあ後で報告書書いといてね、補給済ましてきていいよ、解散」
「てーとくさん!夕立今日頑張ったぽい!ご褒美が欲しいっぽい!」
「提督、僕も頑張ったよ?僕にもご褒美が欲しいな?」
「分かったよ。4人とも、間宮さんから羊羹もらってきていいよ」
「ぽーい!提督さん大好きっぽいー!」
「ありがとう提督!大好きだよ!」
犬2人はご機嫌な様子で出ていった
「…………」
それと対象的に叢雲は無言で出て行き、時雨、夕立とは逆の方向に向かっていった。
「……提督」
「どうした?曙。なにか相談か?」
「うん。叢雲の事なんだけど。…叢雲、なんか最近様子がおかしいのよ。なんか、いつも考え事してる」
「…その事は俺も気づいている」
「じゃあ!なんで助けてあげないの?あたし達にしたみたいに」
「今回の件は俺じゃダメなんだ」
「…そうなのね。でも、このままじゃあ叢雲が壊れちゃう!」
「分かってるよ!だから俺もどうすればいいか考えてるんだよ…」
「…ごめん、提督も考えてるんだね」
「いや、こっちこそありがとうな、曙。叢雲の事はきっとどうにかするさ。さぁ、お前も羊羹食べて来い」
「うん…」
......................................................
「司令官…見ちゃいました…」
......................................................
私は間宮で何かを食べる気分でもなくあてもなく歩いていた。ふと気づいたらあいつがいつも散歩に来ている海岸だった。私は何かを期待していたのだろうか?ここに来れば何時ぞやみたいにあいつが来てくれて私の悩みを解決してくれるとでも思ったのかしら?ダメ、あいつはもう…あの子の人なのだから…私はもう、隣にはいられないのだから…
そう考え込んでいたから私は後から誰かが来ていたことに気づかなかった。
「叢雲さんっ!」
「きゃあ!?」
と私を驚かしながら私の顔を撮ったのは、青葉だった。
「なんだ…青葉じゃない。こんな所にどうしたの?」
「そっちこそ。こんな所にふらふら1人で来ている叢雲さんが気になりましてね、ちょっと後をつけさせてもらいました」
「全然気づかなかったわ、川内より忍者に向いているんじゃない?」
「それはそれは!ありがとうございます!で、どうしてこんな所に来たんですか?」
「……別に、ただの散歩よ」
「おや?叢雲さんのいつもの散歩ルートはこっちじゃないですよね?」
「いや、あんたまさか全員の散歩ルート覚えているんじゃないでしょうね?」
そこまでだったら流石に少し引く。
「いやいやー。流石に全員ではありませんよ。何人かだけですね。例えばここは司令官の散歩ルートですね」
あいつの名前が出た途端、私の心臓は跳ね上がるようにドクドクと言い出した。
耳まで届く心臓の音を無視しながら私は平静を装って答えた。
「…ええ、そうね。知ってるわ」
「そりゃ知ってるでしょうね。叢雲さんは司令官の事が好きなんですから。自分の好きな人のいつも行く場所くらい知ってるでしょうね?」
! 心臓がまた跳ね上がった。
「…どうして…」
「どうして分かったかですか?簡単ですよ。青葉は色んな人が好きだから色んな人の事を見ているんですよ。もちろん、あなたの事も好きですし、司令官の事も好きですよ」
司令官の事が好き
その言葉を聞いた途端私は全身の力を失った。足がガクガク震える。私は声までもが震えないように絞り出すように言った。
「あいつの事が好きって、あいつには若葉がいるじゃないの!」
「ええ、いますね。それが何か?」
「なっ!」
絶句した。ソレガナニカ?私がずっと悩んでいた事をそれが何か?そんな一言で一蹴したのか?
「あ、あんたねぇ!」
「落ち着いてくださいよ。別に若葉さんや司令官の事を何も考えずに言ってる訳ではないですよ」
「それでも!あの二人は…愛し合っているのよ!?それなのに…あの二人の間に割って入ろうっていうの?」
「うーん。どうなんでしょうねぇ?あなたはどうしたいんですか?」
「いい加減ししなさいよ!何でそんなにいい加減なの!ふざけないでよ!」
「ふざけてなんていませんよ。青葉はいたって真面目ですよ?」
話にならない。私がいくら激昂しても青葉はのらりくらりとはぐらかすだけ。
「何でそんなに叢雲さんが怒るんですか?この事は司令官と若葉さん。そして青葉の問題ですよね?」
「そっ、それは…」
「…司令官の事が好きなんですね?」
「…違うわ」
「いいえ、違わないですね。叢雲さんは司令官のことが好きで、それを心の中では分かっていても、頭が若葉さんの事を立てて身を引こうとしてる、それなのにぽっと出の青葉が飄々と司令官のことが好きなんて言うから怒っている。そうでしょう?」
全部その通りだ。ずっと若葉の事とあいつの事で板挟みにあっていて、苦しくて。でも、自分が身を引けば全て収まるなら、と考えて…それなのに!いつも何考えてるか分からないこいつに!
「あんたに…あんたに私の何がわかるのよっ!」
言ってしまった…自分の心の中を見破られて1人で勝手にキレて…最低だ、私。
そう思って自己嫌悪していたら…
「分からないですよ」
今の…誰?確かに青葉の声だし、そもそも今ここには私と青葉しかいないから青葉が言ったはずなのに、理解できない!今の声は何?さっきまでの明るい青葉の声とは似ても似つかない、あの無感動で無表情な声の主は何者なの?
「あ、青葉?」
「分からないですよ、あなた達の考えていることなんて若葉さんがどうして司令官の事が好きなのか、司令官はどうして若葉さんが好きなのか。叢雲さんはなにを悩んでいるんですか?好きならさっさと言えばいいじゃないですか?」
淡々と話しているのにえも知れぬ迫力に押されて声が出せない。
「わ、私は」
「私は感情がないんですよ。皆さんの行動を真似て、こうゆう時はこうゆう感情であるかと言うように見せることは出来ます。でも、私の心の奥底には何も無いんですよ。それでもう、死んじゃいたいって思っていた時に司令官が助けてくれたんですよ。あの人のおかげで少しは私の心ってものが分かるようになってきたんですよ。だから私は司令官の事が好きなんです」
「……そのこと、若葉は?」
「知らないですよ。この事を知っているのは司令官とあなただけです」
「どうして私に話したの?」
「…何ででしょうね?分かりません」
「…そう」
「私は司令官の事が好きですけど、若葉さんみたいに結婚したいとか、一生一緒にいたいとかは考えていないんですよ。ただ、私はあの人を見ていられればそれでいいんです」
「それじゃあ、あなたはあいつに見てもらえないじゃないの。…辛くないの?」
「全然平気ですよ?司令官もその事に気づいてたまに構ってくれますし」
「……」
「でもそれはあなたの幸せではないですよね?あなたはどうしたいのですか?」
「わ、私は…」
私はどうしたいのだろう?あいつのそばにいたい、でもそれは恋人としてはいられない、いたくない。じゃあ、どうしたら?
そう思っていたらふと気づいた。
「あっ…そっか…そうだったのね」
「分かったみたいですね。でもそれはあなたにとってとても辛い事になるでしょう。だから、私の勇気を分けてあげます」
そう言って青葉は私をそっと抱きしめてくれた。意外と私より大きくて暖かい。
私は無意識に青葉に両手を回して抱きつき青葉の中で大声を上げて泣き続けた。
......................................................
その後私が泣き止むまでずっと青葉は隣でいてくれて、私の背中をずっとさすってくれた。
私はあいつのいる扉の前に今いる。さっきまでの私だったら開けることはできなかった。でも、今は出来る。今までみたいにコンコンっと軽く2回ノックしてあいつの声を聞いてから扉を開く。
「はい。どうぞって…叢雲」
「ちょっといい?話があるわ」
そう言ってまたさっきの海岸まで2人で歩いた。もうそこには青葉はいないが、もう大丈夫。あとは私の想いを伝えるだけだから。
「ねぇ?司令官」
「どうきた?叢雲 」
「あんた…私の事どう思っているの?」
「………今までと変わりないさ、お前は俺の親友で俺もお前の親友だ」
ああ…一番いって欲しくて、一番いって欲しくなかった言葉。でもその事を知っていてもこいつは言うんだろうなって分かっていた。
「そう…ね、親友ね。ねぇ?司令官」
そう言って私は司令官に抱きついた
「私、あなたの親友でいれてよかったわ」
「俺も、お前の親友になれてよかったよ」
こんにちは、KeyKaです。今回は叢雲の2回目ですね。最後の最後まで叢雲は側室(愛人枠)になるか親友のままなのか悩みました。でも、多分叢雲は親友のままだろうなっと思って今回はこういうオチになりました。
さて、今回のテーマは意外とシンプル「親友をとるか?愛する人をとるか?」です。皆さんはどう考えますか?
では、また次回でお会いしましょう