「最近若葉の様子がおかしい」
とある昼休み、今日の秘書艦の叢雲と昼飯を食べながら俺はそう言った。
「……はぁ」
叢雲はいきなり言われた事で面食らったらしく、ぼんやりと返した。
「今までは調子が悪かったら理由をきちんと話してくれていた。なのに、今回は明らかに調子が悪いのに、何も話してくれないんだよ」
「嫌われたとか?」
「ありえん」
「……あっそう。じゃあ本人に聞いてみたら?」
「そうしたいんだけど、若葉が言いにくそうなことだったらどうしようかと思ってな。だからお前に相談してるんだよ」
「……相談に乗る前に一つ質問があるわ」
叢雲が今までぼんやりと聞いていたけど、急に真面目な顔をして言ってきた。
「なんで相談相手に私を選んだの?姉妹艦の初春達じゃなくて」
叢雲の勢いに押されながらも俺は
「当たり前だろ?お前は俺の親友だからだ」
と返した。
叢雲はその答えを聞くと少し表情を和らげ
「そ。ならいいわ」
と答えた。
今の受け答えは正解だったのか?
「ともかく、若葉が心配なんだよ、助けてくれ」
「……まぁいいわ、手伝ってあげる。私はあんたの親友なんだからね」
「恩に着る」
「で、具体的にどうすればいいのよ?」
「そこなんだよ、俺から動いたら若葉も遠慮してしまうかもしれない。そこで、お前だ。それとなく若葉に近づいて話を聞いてくれないか?そこで済むような悩みならそこで解決して欲しい。」
「なるほどね。分かったわ。」
そう言いながら叢雲は食べ終わった皿をまとめて立ち上がった。
「もう行くのか?」
「ええ、もう食べ終わったし、先に戻っておくわ。若葉には今夜にでも話してみるわ」
「分かった」
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そのまま今日の仕事が終わり、若葉の部屋にたどり着いたわ。最近訪ねてなかったし、様子がおかしいって聞いたから少し緊張するわね。
とりあえず、ノックしてみましょうか。
コンコン
「叢雲よ。若葉、いる?」
「叢雲か、今開ける」
ガチャ
「叢雲、久しぶりだな」
「ええ、なんとなくお喋りがしたくてね」
「叢雲はそんな性格ではないだろう?おおかた、話の検討はついている。入って話そう」
と、私を中に招き入れてくれたわ。
相変わらず中には私物がほとんど置いてない殺風景な部屋。でもどこか若葉らしい色使いに通いなれた頃を思い出して安心する。
「座ってていくれ。紅茶とコーヒーどっちがいい?」
「コーヒーをお願いするわ」
「了解した」
相変わらず堅苦しい話し方。でも、本当は中身はただの女の子。アイツの事を相談している時はあたふたして本当に可愛かった。
そんな事を思っていたら若葉がコーヒーを二つ持ってやってきた。
「さて、若葉に話だったな?」
「ええ。……あら、このコーヒー美味しいわね」
そう言うと若葉は目を細めながら少しわらって
「提督がコーヒーを毎日飲むからな。自然と腕も上がったのだろう」
と言った。その表情はアイツの事を考えているらしいくてどこか嬉しそうだった。
「お熱い事ね。ご馳走さま。」
「お粗末様だ。ところで、話をそらそうとしてもダメだぞ。」
「バレていたの?」
「当たり前だ。若葉と叢雲の仲だぞ?」
「そこまで言ってもらえるなんて嬉しいわ」
「提督に頼まれたな?」
いきなり確信をついた言葉に私は少しびっくりして黙った。でもすぐに調子を取り戻し
「どうしてそう考えるのかしら?」
「最近の提督を見ていれば分かる。若葉の事をずっと気にかけているからな。それに、若葉も自分の異変に気が付かないほど落ちぶれていないつもりだ」
「そう…なら話は早いわ。最近のあなたは様子がおかしいらしいわ。いったいどうしたの?なぜアイツに相談しないの?」
「…………」
若葉は押し黙ったまま動かない。少し言いすぎたかしら。そう思ったら。
「……怖いんだ」
「怖い?」
あの若葉が何を怖がることがあるのか?この鎮守府で一番の練度を誇り、常に冷静沈着のあの若葉が?
「何が怖いの?」
「若葉にも分からない。何に怯えているのか、若葉に分からないのだ。理由が分からないから対処の使用がないから提督にも相談していなかったのだ。あの人は私のことになるとすぐにあたふたしてしまうから」
艦娘が戦闘が原因で精神面に影響が出ることは珍しくない。しかし、最近は若葉は大きな被弾もしていない。戦闘が原因では無いと思われる。
「本当に思い当たる節はないの?」
「ああ……」
今日のところはこれまでかしらね。
また日を改めていくしかないわね
「今日のところは帰るわね、コーヒーありがとうね」
「ああ、心配してくれてありがとう。提督に心配しないでと言っておいてくれ」
「ええ、それじゃあおやすみ」
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「そうか……若葉がそんな事を…」
叢雲に今日あった話を聞いて俺自身考えてみたがやはり若葉が何かを怖がるようになる出来事はなかったように思える。
そう思っていたら。丁度大和が通りかかった。なぜか大和もここ数日仕事の手伝いを申し出てこなかった。
まぁ、強制ではないしな。とりあえず挨拶だけでもしておこうと思っていたら大和の方から俺達に気がついてよってきてくれた。
「提督。今日は」
「よう、大和」
そう挨拶をしてから大和の服装がおかしいことに気がついた。いつもの紅白の服ではなく。全身真っ黒の服を来ていた。
「その服装どうしたんだ?大和にはもっと明るい色が似合うぞ」
「ありがとうございます。この服は喪服のつもりなんです」
「喪服?」
「はい。今日は私の妹、大和型戦艦二番艦武蔵の沈没した日です」
「そうだったのか……」
「この鎮守府に武蔵は来てないのですが、それでも私の大切な妹。今日1日は喪に服していたのです」
「……戦没日…!そうか、そうだったのか…」
俺がブツブツ呟いていると叢雲が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
「分かったんだ。若葉の不調の原因が」
「ホントに?」
「今から若葉に会ってくる。大和!」
「はい!」
「お前のおかげで助かった。ありがとう」
「いえ、お役に立てて光栄です」
俺は二人に別れを告げ、若葉の部屋まで走った。
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若葉の部屋の前に着いたが入れずにいる。勢いでここまで走ってきたが何を話すかまだ何も考えついてない……言いたいことはあるのに言葉に出来ない。
とりあえず落ち着くために煙草を吸っていたら若葉がこっちに歩いてきた。どうやら風呂上がりらしい。
「提督?どうしたんだ?」
「若葉、お前に話したいことがある」
「今日は来客が多いな。入ってくれ」
若葉はドアを開けて俺を部屋に招き入れてくれた。
「さて、私に話したいことだったか?」
「ああ。ただ、まだ何を話すか決まってないんだ」
「いいさ、いくらでも待つよ。コーヒーを入れてくるさ」
と、俺の前に灰皿を出してくれながらキッチンに向かった。
俺はその後ろ姿を眺めながら何を話すか悩んでいた。
若葉の不調の原因は前世の記憶が理由だ。しかし、それを言ったところで俺はもちろん若葉にもどうすることも出来ない。理由を言っても若葉を困らせるだけかもしれない。どうすればいい……
「提督?どうした?」
いつの間にか若葉が戻ってきたみたいだ。コーヒーを俺の前において自分は対面に座る。
「いや、どう話そうかとな」
「まだ決められてないのか。別に今日じゃなくてもいいのではないのか?」
「いや、だめだ。今日じゃなきゃダメなんだ。」
「そうか、ならいくらでも悩んでくれ。私はいくらでも待つ」
そう言って若葉は微笑んだ。前世の記憶が無意識に自分を傷つけているというのに……俺の事を思ってそんな素振りも見せずに待っていてくれる。
くそっ!どうしたらいいんだ!若葉がこんなに尽くしてくれるのに!
そう思っていたら若葉が俺の隣にやって来て体を俺の方にもたれかかりながら
「提督、無理しないでいい。話というのは私の事なのだろう?私は大丈夫だ。この不安も提督がいれば時期に消えるだろう。心配ない」
と言ってきてくれた。
俺は思い切って
「若葉、お前の不安の理由が分かったんだ」
と言った。
「本当か?」
「ああ、ただ……」
「大丈夫だ。言ってくれ。」
「…お前の前世の記憶。それが無意識にお前を蝕んでいるんだ。」
「前世の記憶?確かに練度が上がり、艤装とのリンク率も上がり魂の記憶が戻ることも多々あったが、なぜそれが私を蝕むのか?」
「…今日はお前が沈んだ日なんだよ……」
「!……そうだったのか」
「多分、沈んだ時のお前自身の悲しみや悔しみ、敵への憎しみ、共に沈んだ船員の気持ちまでもを思い出し、お前を蝕んでいるんだ。お前の言う通りに時期にこの症状はおさまる、この時期限定だからな。だか、毎年お前はこの時期この症状に苛まれることになる」
「そうだったのか……。提督、私は大丈夫だ。原因が分かっただけでも一安心だ。気遣い、感謝する」
「違う!そういう事を言いたいんじゃない!」
いつもの頼りがいのある若葉では無い、今にも消えそうなくらい儚い姿の若葉。
その時、一つの案を思いついた。だが、こんな時にしていいのかと考える。そんな事をしている時ではないし、何しろ、弱っている女の子にすることは若干卑怯な気がする。だが、俺にはそれしか思いつかない。
意を決して俺は若葉の小さな肩にてをおいた。
「提督?どうし…」
若葉の言葉を塞ぐように若葉の唇を俺の唇で塞いだ。
「ーーーーーーーーーーーー!?」
若葉が声にならない悲鳴をあげるが構わず続ける。お互いに耳まで真っ赤になっていたが次第に若葉も力を抜いて、俺に抱きつきながら瞳を閉じて身を預けてくれる。
どのくらいの時間がたったのだろうか。実際には10秒程度だっただろうが俺達には永遠に感じる時間だった。
どちらがともなく同時に唇を離した。
お互いに息があがったハッハッと息をしている。
「……初めてだったんだぞ」
若葉が唇を手で抑えながらこちらを睨みながらそう呟いた。
「……俺もだよ」
俺もそう返した。
「……提督、煙草くさい…」
「さっきまで吸っていたからな」
「銘柄はなんて言うんだ?」
「わかばだ。」
「ん?何を言っているんだ?」
「わかばっていう銘柄なんだよ」
「なにかの当てつけか?」
「いや、そうじゃない。……この煙草な、最初吸った時すっげぇキツかったんだよ、それで誰が吸うんだよこんな奴!って思っていた。だけど、この味になれると時々でてくる甘みや若草の青々しい匂いが癖になるんだよ。少し、お前に似ててな」
「私に?」
「そう、いつもは冷静沈着を絵に書いたようなやつなのにたまに仲間に見せる笑顔がすごく眩しくて惹かれたんだ。あの顔をもっと見たい。もっと近くで見たいって思うようになってな。気がついたらお前に惚れていたんだよ。もう一度いう。若葉、お前を心から愛している」
一気にまくしたてたら若葉が俺の胸に飛び込んできた。耳まで真っ赤になって照れている。
「……提督、今夜はもう仕事はないか?」
「……!ああ、もう今日は仕事は終わっているぞ」
「一つだけ、私にの我儘を聞いてくれるか?」
「ああ、一つと言わず、いくらでも聞いてやるよ」
「確かに今は提督のおかげで収まったかもしれない。だが、また記憶が蘇り、不安に押しつぶされるかもしれない……だから……その、今日は一緒に寝てくれないか?」
「ああ、もちろんいいぞ」
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「提督……もう寝てしまったのか?……提督、あなたを心からお慕い申しております」
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あの日から数日。すっかり調子も戻った若葉はあの日からずっと秘書艦をしてくれている。
「おはよう、叢雲」
「あら若葉、おはよう。もう調子はいいの?」
「ああ、心配かけた。もう大丈夫だ」
「そう良かったわね」
「迷惑かけたな。お詫びと言ってはなんだが今度食事にでも行かないか?もちろん食事代は私がだそう」
「あら、ありがとう。あら?私?一人称変えたの?」
「いや、いつもは今まで通りにするつもりだ。提督と二人きりの時だけ使っていたが、今度からはあなたにも使おうと思う。改めて、これからよろしく頼む」
やっぱりこの子は本当に可愛い。でも、だからこそ、私はダメなんだ……
お久しぶりです、KeyKaです。
今回は若葉の戦没日という訳で若葉の場合2を書かせていただきました。頑張って昨日出したかった……!
非力な私を許してくれ……
と、言うわけで色々と書き方を変えてみましたがいいがでしたか?コメントお待ちしております