「あ、提督。おはよ〜」
「提督、おはようございます」
「北上と……大井か。ああ、おはよう」
「?提督。どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
「そうですか、ならいいですけど」
「……………………」
「そ、それより。2人とも、今日は演習の日だったよな?」
「はい。」
「そうだよ〜」
「くれぐれも気をつけてくれよな」
「提督、演習ですよ?どんなに攻撃を食らっても大破までですむじゃないですか。私としては北上さんが傷つかないように全身全霊で守るつもりですよ」
「「それはダメ(だ)!!」」
「ふ、2人とも、声を荒らげてどうしてんですか?」
「あ、えっと、その……」
「あ、あれだ!北上の方が練度が高いんだからその必要はないぞと言いたいんだよ!」
「そ、そうそう!むしろ、私が大井っちを守ってあげるよ」
「北上さんが私を守ってくれるんですか?ありがとうございます!」
「うん。それじゃあ、提督。私達はもう行くね。大井っち、行こ?」
「はい!提督、また」
「ああ……」
(大井……………………)
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「北上さん。さっきの話ですけど……」
「大井っちは気にしなくていいよ」
「いえ、私ももう改二です。そろそろ北上さんを守れるくらいには強くなったつもりです。それに、北上さんが私を守ってくれるように、私も北上さんを守りたいんです」
「大井っち……」
「私を北上さんの隣にいさせて下さい。お願い!」
「…………大丈夫だよ。大井っち」
「北上さん……」
「……そろそろ演習始まるよ。行こ?」
「はい……」
......................................................
(北上さんと提督は何かを隠してる……それはずっと気づいていた。でも、何を?)
「大井っち!危ない!」
「え?きゃあ!」
「くっ!大井っち!」
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「う……ん……ここ……は……?」
「目が覚めたか」
「提督……?そうだ!北上さん!北上さんは!?」
「落ち着け…………命に別状はない」
「そうですか……よかった」
「ただし、不安定な格好で攻撃を受けたからダメージが酷く、まだ意識を戻さない」
「そんな……!」
「お前もこれから精密検査を受けてもらう。それから2人には当分の間休暇を言い渡す」
「分かりました」
「……それだけだ。じゃあ、俺はもう行くぞ」
「待ってください」
「どうした?どこか痛むのか?」
「いえ、提督に聞きたいことがあります」
「……今はダメだ。安静にしていろ」
「今じゃなくてはダメなんです」
「…………何だ?」
「提督と北上さんは何か私に隠していますね?」
「何のことだ?」
「とぼけないで下さい!2人ともずっと私に気を使っている。特に戦闘に関することで」
「俺は全員に対して気を使っている。北上はお前の事を気に入っているからな、当然だろう」
「いえ、提督は絶対に何かを隠しています私に関する何かを。教えてください!」
「……ダメだ」
「提督!」
「これ以上は体に触る。もう休むんだ」
「……はい」
......................................................
「「「提督が隠し事?」」」
「はい。私に関する何かまではわかるんですが、それ以上は分からないんです。提督と親しい3人なら何か分かると思ったのですが……」
「ふむ……提督が大井に隠し事か……」
「私は知らないわ」
「青葉も知らないですねぇ」
「そうですか……」
「……もしかしたら」ボソツ
「あの事か……?」ボソツ
「ん?2人とも、今何か言いました?」
「いや、何でもない」
「そうですか……青葉達3人ですら知らないって事は大井さんの気のせいでは?」
「それは無いです!提督と北上さんは何かを隠しているんです!」
「お、落ち着いてください!分かりました!青葉が調べておきますよ。だから安心して体を休めてください」
「はい……お願いします」
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「ねえ、若葉?」
「叢雲、やはり気づいていたか……」
「あいつ……まだ気にしているのね……」
「提督はアレから変わったのだ。もう、誰も提督の事を責めないというのに……」
「当事者の北上すら許しているのにね」
「自分で自分を許せないんだろう」
「大井には……」
「言えないだろうな。提督は大井を見ているつもりでも大井を見ていないのだから」
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それから数日が経ち、北上も回復し、大井の休暇も明け、2人は戦線に復帰した。
「北上さん!私のせいで!本当にごめんなさい!」
「いいって〜、もう過ぎたことだし。でも、これからは気をつけてね?」
「はい!」
「北上、大井、おはよう」
「あ、提督。おはよ〜」
「……提督。おはようございます……」
「2人とも、今日からまた復帰だな。早速今日の演習に出てもらうから、頼むぞ」
「はいよ〜もう、大丈夫だよ。提督」
「ああ……」
(やっぱり提督と北上さんは何かを隠してる……でも何を?)
「大井っち?大丈夫?」
「は!はい!」
「体調が優れないのか?」
「いえ、大丈夫です。」
「そうか、なら頼むぞ」
と、言って俺は二人と別れた。
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俺自身、頭では理解している。だが、どうしても大井を見ているとあの時の光景が蘇ってしまう……この鎮守府であの事件のことを知っているのはもう北上、叢雲、若葉、そして俺だけになった。もう、誰も、北上ですら俺の事は憎んでない。いや、最初から誰も憎んではいなかった……あれは事故なのだから。唯一、許していないのは俺自身だ。
大井……お前は……俺を……許してくれるのか?
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「提督、艦隊が帰投したぞ」
「ああ、入ってくれ」
ガチャ
「若葉以下5名。帰投した」
「ああ、お疲れ様。どうだった?」
「にひひ、なんと!ハイパー北上様がMVPだよー!」
「そうか、良くやった」
「…………」
「それじゃあ若葉達は補給をしてくるぞ」
「ああ、手配はしてあるからゆっくりしてきてくれ」
パタン
ふぅ、とため息をついて、椅子にもたれかかった。すると
コンコン
と、ドアをノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「大井です」
「…………どうした?」
「お話があります」
「まだ補給がすんでないだろう。それに演習の疲れもあるはずだ。ゆっくり休んでからにしてはどうだ?」
「もう……待てません」
「……………………入れ」
「失礼します」
ガチャ
「何の用だ?」
「いい加減にはぐらかすのはやめて下さい。話してください。全部を」
「何回も言っているだろう。お前に話すことは無い。と」
「……………………」
「……………………」
「……何で……私には……話してくれないのですか……?私ではダメなのですか!?私は!強くなりました!北上さんを……この鎮守府の皆を……提督を……守るために……。それでも!私はまだ未熟ですか?頼りないですか?」
「別にお前にだけ話さない訳では無い。その事を知っているのが北上と俺、後は若葉と叢雲なだけだよ。他の人には話すような内容じゃないから……」
「教えて下さい」
「断る……と言ったら?」
「話してくれるまでここにいます」
「……………………」
「……………………」
「…………分かったよ。場所を変えよう」
と言って、俺と大井は海岸まで向かった。
「さて……どこから話したものか、俺の初期艦が叢雲なのは知っているな?そして、2人目が若葉。3人目は北上。そして……4人目は……大井だったんだよ」
「私?でも……私は、もっと遅くに」
「ああ、お前じゃない。もう1人の大井だ。艦娘のシステムは知っているか?大昔に海に沈んだ軍艦の魂を艤装に載せ、適合者とリンクする。つまり、お前以外にも大井はいるんだよ」
「そこまでは、以前聞かされました……」
「そして、何故か、同じくタイプの艦娘は、容姿や性格が似ている……お前は……もう1人の大井にそっくりなんだよ。」
「そうだったんですか……」
「話を戻すぞ。俺達は資材の関係から4人だけでこの鎮守府をやりくりしていた。叢雲がしきり、若葉の冷静な判断で危機を乗り越え、北上、大井の2人の強力な魚雷で敵を倒していった。だが、とある海域で戦闘を終えたあと、4人は疲弊しきっていた。その時、新手の深海棲艦がやって来たんだ。しかもその時初めての戦艦が……4人ともパニックになり、俺自身どう指揮していいか分からなかった。そのせいで逃げる時に北上と大井が遅れてしまったんだ。その時を相手の戦艦は見逃さなかった……戦艦の標的は北上。闇雲に打った魚雷がかすったのがお気に召さなかったらしいな。その時大破していた大井をかばいながらの北上には回避する術が無かった。だが、その時に大井が……北上を庇って砲撃を受けた。丁度演習で北上がお前にしたように………………結果。北上と後のふたりはなんとか帰り着くことが出来た。だが、大井はそのまま……。あの時こうすればよかった、こう言う指揮をすればよかった……今でも思い出すよ……」
「…………」
「俺は、ずっとお前とあの時の大井を重ねていたんだ。今度こそもう誰も沈めないって決めた。だから、お前には無茶して欲しくなかったんだ。それに、この話はお前への侮辱である事は分かっている。お前を見ずに過去の人を見ているだからな……」
「…………たしかに私は怒っています」
「…………」
「でもそれは、あなたが私を過去の大井に重ねていたからではありません」
「え……?」
「私が怒っているのは、そんな事で私が怒ると、傷つくと思っていることです。私達は艦娘です。兵器です。そのために殉職することも少なくありません。ですので、私たちのために必死になってくれたあなたを怒るはずがありませんよ」
と言いながら大井は俺を抱きしめてくれた。この言葉と抱擁で俺はあの時のことを許されたような気がした。
「聞けば提督が変わったのはその後なのでしょう?失敗を教訓にあなたなりの戦いをしてきてくれました。それで十分です」
「大井……ありがとう……俺を……許してくれて……ありがとう……」
気づけば俺は大井を抱きしめながら泣いていた。
......................................................
「あ、提督。おはよ〜」
「提督、おはようございます」
「北上と……大井。ああ、おはよう」
「ん?どしたの?今日は?やけに機嫌いいじゃん?」
「ふふっ、おはようございます」
「ぬぉっ!?大井っちまで上機嫌!ホントにどうしたの?」
「いや、別に何も無いぞ。それより、2人とも今日の演習、頼んだぞ?」
「まぁいいや、任せておいてよ!このハイパー北上様がMVPサクッととってくるよ!」
「はい!精一杯北上さんをお守りします!」
「私も大井っちを守ってあげるよ〜」
「…………2人とも、頼んだぞ」
「……提督、もういいんだ?」
「……ああ。……さて!もうそろそろ時間だぞ。それじゃ」
と言って、2人と別れ、執務室に向かった。
「提督、遅かったではないか」
「アンタがクヨクヨしてる間にやるべき仕事が溜まっているわよ!ほら!ちゃっちゃとやる!」
俺はもう迷わない。何があってもこの鎮守府の仲間達と突き進む。そして、もう誰も犠牲者を出さない。そう心に刻んだ。
お久しぶりです。KeyKaです。
この話は一部本当です。と、言うのも俺が唯一沈めてしまった艦娘が大井ただ1人なのです。
まだ左も右も分からないままで突き進んでいた時に慢心で強行突破しようとした結果です。本気で泣きました。強いキャラがいなくなったと言うより、大切な仲間が死んだと思うと涙が止まりませんでした。だからあの時から誰も死なせないという思いを込めて、この話を書きました。
閑話休題
これからも色んな艦娘にハグしたいと思いますので、良ければコメント等でリクエストがあれば俺の知っている艦娘をハグしてみようかと思っています。この子がいいなどがあれぱコメントよろしくお願いします