艦娘にハグしてみる   作:大葉景華

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山城の場合

「……て事があったんだよ」

「へー、そんな事があったんだな」

とある日の午後。俺は今日の秘書艦の時雨と散歩しながら雑談をしていた。時雨は俺に聞いてほしいことが多いらしくずっと元気に喋ってくれる。あんまり話す子がない俺にとっては聞き役はありがたいし、時雨の話はどれも面白いから退屈しない。

「あら、提督。こんにちは」

「……こんにちは、提督。と……時雨」

「山城!扶桑!」

「山城に扶桑か、よう」

「二人きりのところをお邪魔でした?」

「ううん!山城と扶桑なら大丈夫だよ!」

「ああ、特に二人がいてはできない話じゃなかったしな」

「……じゃあ今は偶然だとしても、私達がいてはまずい話があるんですか?」

「え?」

「こら、山城。そんな事提督に言ってはダメよ。ごめんなさい提督」

「あ、いや。大丈夫だ」

最近話してなかったけど、山城ってこんなキャラだったか?と思った。今までは確かに少し無愛想ではあったが、礼儀正しくはしていたし、敬愛してる扶桑の前ではあんな事絶対に言わなかったはずだ……どうしたんだ?

「山城?何かあったのかい?」

「……いいえ、何も無いわ」

「じゃあどうして提督に対してつっけんどんな態度をとるんだい?」

「別に、これでいつも通りよ」

「嘘だね。僕と山城の仲だよ。隠し事なしで話してみてよ。山城?」

「…………ホントに何もないの……」

「…………そう。分かったよ。じゃあ提督。僕もう行くね」

「あ、おい!時雨!……行っちゃった」

「……それでは私達もこれで。姉様、行きましょう」

「あ、ちょっと。山城!すいません提督。失礼します」

「……………………」

......................................................

山城達と別れた後、俺は海岸に向かった。

「やっと見つけたぞ、ここにいたのか」

「提督」

「隣、いいか?」

「うん」

と、俺は時雨の横に腰を下ろした。

「……ねぇ、提督。僕、何かしたかな?」

「いや、俺にはお前が何かをしたようには見えなかったし、思えなかったぞ。」

「……じゃあ僕は無意識のうちに山城を……親友を傷つけていたんだね」

「…………大丈夫だ。あの時言っただろう?お前の周りの人はそんなにヤワじゃない。大丈夫だ」

「ホントに?」

「ああ!今日はたまたま虫の居所が悪かったんだろう」

「そうだね、うん!元気でた。ありがとう、提督」

......................................................

しかし、その日から山城の時雨に対する接し方が日に日にぎこちなくなっていっていた。

「グス……て、提督……僕……どうしたらいいの?……グス……グス……」

時雨はすっかりまいってしまい、ここ数日ずっと俺に抱きつきながら泣いている。

俺は叢雲と若葉を応援に呼んで対策を考えることにした。

「私達はその現場を見てないからなんとも言えないけど……」

「当事者ではない若葉達から見ても少し山城の態度は気になるな」

「だよなぁ……うーん。これは流石にまずいな……青葉!」

「はい!お呼びですか?」

「うわ!アンタどこから湧いてきたのよ!?」

「川内に通じる何かを感じるな……」

「まぁまぁ、それは置いといて。山城さんの事ですよね?」

「ああ、調べてもらえるか?」

「もちろんです!調べ終わったら褒めてくださいね!」

と叫ぶや否や、どこかに走り去って行った。

「青葉……だんだん忍者になってきたわね……」

「そうだな。本人はどう思っているんだ?提督?」

「青葉はアレで満足してるらしいぞ。俺に頼まれて色んなことをするのが嬉しいらしい。」

「犬ね」

「まあ、アイツに任せておけばなんで山城が怒っているのか分かるだろ」

と、タカをくくっていたが……

......................................................

「ダメでした……」

「そうか……」

「部屋の外では時雨さんや提督以外にはいつも通り接しているし、部屋の中に盗聴器をしこんでも絶対にバレて壊されるんですよー!」

「盗聴器なんて物持ってるのかよお前。まぁいいや。しかし、盗聴器使っても分からないなんて……」

「ごめんなさい……」

「いや、青葉はよくやってくれているよ。ありがとうね」

「ホントですか?恐縮です!」

(うん。犬3匹目だな)

「ん?今なにか失礼なこと考えませんでした?」

「気のせいだ」

「ならいいですが……」

「で、結局どうするの?」

「いっそ山城に直接提督か時雨が聞いてみるか?」

「うーん。最終それしかないかなー?」

「流石にそれは山城さん話してくれないと思いますよ」

「だよなー。うーん。どうしたものかなー?」

などと俺達が悩んでいたら

コンコン

ガチャ

「提督。失礼しまーす」

「北上か。どうした?」

「いやね。最近青葉っちがいろいろ山城っちのことを探ってるみたいだからねー」

「気づいていたのか」

「うん。ついでに何で山城っちが怒っているのかも」

「ホントか!?」

「ここで嘘言ってどうするのさ。ホントだよ〜」

「頼む!教えてくれ!」

「お願い。北上さん。僕が山城に何をしてしまったの?」

「う〜ん。これは私から言うべきことじゃないんだよな〜。とりあえず、一つ言えることは、時雨っちが悪いわけじゃないからそこん所は安心して」

「え?そうなの?」

「…………」

「そうだよ。私から言えることはここまで。それじゃ。提督」

「ん?どうした?」

「情報料として間宮さんアイスちょーだいな?」

「お前なぁ……まあいいや、はい。2枚だろ?」

「分かってんじゃーん。ありがとね♪」

「どうして2枚なの?」

「……大井の分だ」

「……じゃ、私もう行くね〜それじゃあ、頑張ってね」

パタン

「提督……何かあるのか?」

「いや、今はその事より山城だ。あいつはあんな奴じゃないはずだ」

「提督。どうするつもりなの?」

「俺がサシで話し合う」

「直球ね」

「山城は何かを隠してる。だけど、時雨は悪くない。なら、多分俺が原因だろう」

「またそうやってほかの女の子を誑かしたの?いい加減にしないと若葉が泣くわよ?」

「若葉は大丈夫だ。提督の一番が若葉なら」

「あ〜らら。お熱いわね」

「その事は置いといて……」

「提督。何か心当たりはあるの?」

「無い」

「いつもの事だな」

「ああ、いつも俺は全力でお前達と話してきた。だから今回も全力でぶつかる」

「そう、頑張ってね」

「お願い、提督。僕も連れていって。何故山城が怒っているのかただ待ちぼうけを喰らうなんて僕にはできないよ」

「いや、山城は多分時雨がいたら話さないだろう。だから、ここは俺1人に任せてほしい」

「…………そう……分かったよ。でも、山城を……お願いね?」

「任せろ」

......................................................

(とは言ったもののなぁ……青葉が言った通りに外では扶桑と四六時中一緒にいるし、部屋まで行っても多分門前払いされるだけだろうしな。さて、どうしたものか……)

「提督?どうしたのですか?」

「お、扶桑か。山城は?」

「あの子最近1人で悩みこんでるから無理やり休ませているのですよ」

「そうか……なぁ、扶桑」

「何でしょう?」

「その山城の悩みについてなんだが、何か心当たりは無いか?どんな事でもいい」

「そうですねぇ……山城が悩み始めたのは丁度提督が色んな子を秘書艦にし始めた頃ですね」

「そうなのか?」

「ええ。ですから提督と関係があるとは思うのですが……そこからは私には分かりません」

「いや、十分だ。ありがとう」

「いえ、提督。山城をお願いしますね?」

「任せろ!」

......................................................

そうして扶桑と分かれ、俺は山城の部屋の前までついた。

コンコン

「山城、俺だ。いるか?」

「…………はい」

と言いながらドアを開けたのは辛そうな表情をしている山城だった。

「少し話したいことがある。入ってもいいか?」

「…………どうぞ」

と、部屋に入れてくれた。

「それで?話ってなんですか?」

「単刀直入に言う。何故時雨を避ける?」

「……別に提督には関係ないです」

「と、言う訳は時雨には関係あるんだな?」

「……………………」

「時雨のためにも教えてくれ。なんでお前は時雨を避けるんだ?時雨のことが嫌いになった訳では無いんだろう?なら何故なんだ?」

「……あなたには、あなたには分からないでしょうね!」

普段声を荒げない山城が叫ぶように話し始めた

「私には姉様と時雨しかいないの!それなのに、時雨があなたに気持ちを打ち明けてから時雨は変わってしまった!毎日、あなたの所に行って話をするようになった!私には、私にはそれが耐えられなかった……自分の世界の半分を取られた気持ちよ……でも、本当に嫌いなのは、時雨の事を素直に応援できないで醜い嫉妬をしている私自身よ。私なんかがいたら、時雨は私に気をかけてしまう……私なんかに……時雨の大切な時間を割かせてしまう。それが耐えられないのよ……だから、もういっそ私の方から身を引こうって思ったのよ。お願い提督。この事は時雨には話さないで。そして、時雨には私の事を忘れるように言ってちょうだい。」

「そんなのやだ!」

と叫びながら、時雨が部屋に飛び込んで山城に抱きついた。

「時雨!?ダメ!」

「嫌だ!僕、山城ともう一緒にいられないなんてやだ!僕は、確かに提督のことが好きだよ。でも、それと同じくらいに山城の事が好きなんだよ!勝手に自分のことだけ考えていなくなろうとするなよ!バカ!」

時雨は山城に抱きつき、泣きながら叫んだ。

「時雨……ごめんね。私。あなたのこと、分かってなかったわ。自分のことだけ考えて、あなたの事を考えていたかったわ。完全に独りよがりになっていたのね」

「ううん。僕の方こそ、山城にそんな事思わせちゃっていてごめんね」

(さて、俺は退散しますか)

と、こっそり俺は部屋を抜け出し、執務室に戻って若葉達にことの顛末を話した。

......................................................

それからは時雨が秘書艦の日は山城も執務室にいるようになった。

時雨には届かない位置にある物を取ったり、時雨の書類を半分持ったりといろいろ手伝っている。俺の分は少しも手伝ってはくれない。解せぬ




投稿遅れてしまい申し訳ございません。リアルの用事とシャドバが原因です。
さて、次回の話のために少しだけ今までに投稿させた話を手直しさせて頂きます(話の内容が変わるほどではないです)そして、また長くなりそうなのでまた投稿期間が空いてしまいそうです。どうか生暖かい目で見守っていてください。

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