陰陽師ハオ(偽) 作:ふんばり温泉卵
少女の住む村に辿り着いたハオとポンチ(人間形態)は、村人たちに残留する呪いがないかを確認していた。
――。
家の中で倒れている村人たちを霊視する為に一軒一軒回った僕らは、目を覚ました少女の案内で彼女の自宅へと案内される。
「いや~わざわざ助けに来ていただいたのにすみません。
初めは体中から凄い激痛を感じていたんですが、突然治ってしまったんですよ」
「しかも、気絶した娘まで運んでもらっちゃって……」
「たぶん、工場の奴らが危険なガスを村に流し込んだんだ!!」
彼らは僕が助けた少女の家族であり、この村の代表。
三人を含めて村の人間は呪いだとは思っておらず、工場の連中がまき散らしたガスが原因だと思っているようだ。
ふむ……。
この件に関しては工場の人間は無実であり、彼らも本社の人間から奴隷のように扱われている被害者。
ここは死んだ社長にすべての泥を被ってもらおう。
「お三方。今日の件に関しては工場の人間は無実です。
犯人は本社の社長が強力な感染力を持つ細菌を散布した事が原因です」
「なんだと!?」
「やっぱりか!!畜生!!」
「許せない!!」
僕の言葉で怒りに燃える家族たち。
呪いをあーだこーだと説明するよりも、呪いを細菌として説明した方が早い。
それに、呪いの話を信じてもらえるとは限らない。
下手をすれば、異常者と思われて警察のお世話になるか、最悪の場合は僕が犯人にされる可能性がある。
ついでに言わせてもらうと呪いの事については嘘であるが、それ以外は真実だ。
あの社長は、村人を全滅させる目的で呪いを実行させていたし、僕とポンチが間に合わなかったら村は全滅していただろう。
「失礼!我々はこれから新聞社に連絡を取ってきます!!信治、家とお客さんの事は頼んだぞ!!」
「おうよ!!」
脱兎のごとく、家を飛び出した少女の両親はそのまま村人たちを集め、集団で新聞社へと向かった。
「じゃあ、お客さん。俺はちょっとお客さんの布団の準備をしているから、寛いで待っていてくれよ」
長男の青年は僕たちの為に客間の準備をする為に部屋を出て行ってしまった。
居るのは僕とポンチ。
そして…今だに眠ったままの少女が一人。
「…あえて聞きますが、本当の事を話さなくてよろしいのですか?」
「…分かっているだろうけど君は納得させられるのかい?今回の出来事は社長が雇った陰陽術の呪いが原因なんだって。」
「……無理ですよね…やっぱり」
「それにだ、この子の事はどう説明するんだい?霊視したけど、この子は中々の霊力を持っている。
願わくば、霊能力も呪いも知らずに人生を過ごしてもらいたいよ」
「おや?てっきり弟子にして、お引き取りになるのかと思ったのですが?」
「そんな事はしないよ。」
意外そうに僕を見てくるポンチに否定の言葉で切り返す僕。
背負って連れて来た時の家族の反応で目の前の少女が愛されている事は知っている。
霊能力があったところで捨てられるとは思えないし、身寄りがないわけでもない。
連れて行く理由なんてこれっぽっちもない。
まあ、育ててみたくないと言ったら嘘になる。
あの子は僕から麻倉を引き継いだ葉堅並みの霊力を宿している。
麻倉の秘術を学ばせたら、数年でひとかどの霊能力者になれるだろう。
「まあ、この子が霊能力者になりたいと言うのなら協力はしてあげたいかな?」
「ははは、本当に相変わらずの子供好きですな……。」
「子供は純真無垢で汚い大人とは違うからね。
泣き顔は見たくないし、願いは出来るだけ叶えてあげたいと思っちゃうんだよ」
「お兄さん、霊能力者になればあの巨人さんみたいなの出せるの?」
僕とポンチが話していると後ろから聞こえる少女の声。
それに僕たち二人はゆっくりと振り向くと、いつの間にか目を覚ましていた少女が瞳をキラキラさせて、後ろに立っていた。
「ねぇ。あの赤い巨人さんみたいなのが出せるの?」
「いやぁ、修行も厳しいし分からないなぁ?」
「うそ。さっき私に才能があるって言ってた」
この少女、まさか最初から聞いていたのか?
「それに、お兄さん子供が好きなんだよね?」
「え?まぁ…ね?」
「お父さんとお母さんが帰ったらセクハラされたって言うよ」
「ちょっと待とうか。」
少女の追及に歯切れの悪い回答をしていたら、天使のような笑顔で脅迫をして来た。
前言撤回。
純真無垢な子供なんてこの時代には居ないんだ!!
これには隣のポンチも恐ろしい物を見るような目で幼女を見ていた。
おい、妖怪の癖に幼女に怖がっているんじゃない。
と、とりあえず理由を聞こう。
理由を聞いて納得のできる事であったら彼女に協力しよう。
玩具が欲しいという感覚で言っているのだったら、ロリコンの汚名を被って、ポンチと共に大脱出だ。
「その前に理由を聞かせてもらえないかい?
もし、まともな理由だったら協力してあげるよ」
気を取り直して、真剣に問いかけると少女は僕の目を見つめて口を開く。
「お父さんとお母さん…それにお兄ちゃんを呪いから守りたいの」
「いいよ」
即決だった。
彼女の健気なお願いに即決で協力することにした。
「ありがとう!お兄さん!!」
「おっと…。あ」
自分のお願いが叶うと分かった彼女は感極まって、僕に抱き着いた。
そう、僕とポンチを呼びに来たであろう実のお兄さんの目の前で。
「もしもし、警察ですか?」
「ちょっと待って!?」
流れるような動作で警察に電話するお兄さんにポンチの正体などを明かしながら事情を詳しく説明した。
もし、村と外部の連絡手段を絶つ為に社長と陰陽師が電話線を切断していなかったら、僕の手には冷たい手錠が掛けられていただろう。
翌日、僕とポンチは少女の両親に対し、お兄さんにしたように呪いの存在や妖怪の存在をすべて白状した。
霊能力者としての修行をする上での危険性についても話した上で少女の要望もすべてだ。
勿論、両親と少女の兄はその願いの理由を聞いて嬉しそうにしていたが、命の危険があるという霊能力者の修行は今は許しはしなかった。
ただ、彼女が13歳になった時。
彼女が今の様に霊能力者になりたいと願うのであれば、家族は彼女が修行を行う事を許すらしい。
こうして、事件を解決した事で僕の四国での旅は終わりを告げた。
セイント製薬は工場長の告発によって契約していた病院が次々と解約された後に株が大暴落。
社長不在の状況で押し寄せるマスコミの群れと事務に鳴り響く一般のいたずらと取材の電話。
地獄の様な時間が会社に流れた後、程なくしてセイント製薬は倒産した。
さらに、行方不明になった社長の自宅や通帳は強制的に差し押さえられた。
そして、工場の稼働も完全停止した事で村に平和が訪れたと同時に汚染物質の除染作業のための募金も集まっており。
ゆっくりだが、確実に元の村へと戻りつつある。
後、これは余談なのであるが、この一か月後に少女……安西 千佳がオムツが取れない小さなタヌキの霊獣を持ち霊にしたとポンチから近況報告の手紙で連絡が来ることとなる。
麻倉家に挨拶した後、葉月家に帰って来た僕の日常が再び始まる。
ハオ様、四国へ行くはこれにて終了。
次回からは再び日常に戻り、学校での物語が始まります。
文才のない作者ですが、これからも応援していただけると嬉しいです。