陰陽師ハオ(偽)   作:ふんばり温泉卵

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六話 ハオ様、四国へ行く  ④

セイント製薬の社長は工場長の電話の後、飛行機を手配して契約している陰陽師と共に四国へやって来た。

そして、社長と陰陽師は金の為に罪のない人々に呪いを行使する。

 

「クライアントであるアンタの指示には従うが、本当に良かったのか?

このままだと、村人たちと共に社員も呪殺してしまうが……」

 

「構いません。

犯罪者を社会復帰させる為の補助金目的で雇った連中と無能なポンコツ社員一人くらい死んだところで、痛くも痒くもありません。

それよりも……」

 

「安心しろ、絶対に証拠は残らん」

 

陰陽師はクライアントである社長に不敵な笑みを見せ、呪いの媒体となる藁人形を焚火の中へとくべていく。

藁人形が燃え始めると、反対住民が住んでいる村から悲鳴が一つまた一つと増えていく。

 

ヒィー!!

 

ギャーーー!!

 

女子供の入り混じる悲鳴を聞いても陰陽師の手は止まらない。

 

「オンキリキリ 村人どもは一人残らず腫れ血吹き、はじけさせたまえ」

 

人間の皮膚を腫れさせ、血が噴き出すエボラのような恐ろしい呪いを振りまく陰陽師。

そんなおぞましい光景を、家族を救う為に村を出た一人の幼い少女が目撃する。

 

 

 

―宿屋ぽんぽこ亭―

 

 

 

昔話に花を咲かせていた僕とポンチは呪いの発現を察知した。

 

「なるほど……どうやらセイント製薬は呪いによる強行手段に出たようだね」

 

「なんと愚かな……」

 

あきれ果てるポンチを尻目に神経を集中させて力の発生源を探る。

力の発生源は……この近くか?

 

「ポンチ。

僕は、すぐに発生源に向かうけど…どうする?」

 

「無論、お供させていただきます」

 

オムツを穿いた腰を上げたポンチを共に引き連れて、旅をしていたあの頃の様に目的地へと向かった。

 

「さあ、久々に暴れようか」

 

「はい」

 

………。

 

宿を出て、森へと向かった僕らは程なくして呪いの現場にたどり着く。

現場には着物を着た陰陽師の男とスーツをきた依頼人だと思われる男。

そして…地面に倒れ、顔を腫らして頭から血を流している少女を発見した。

 

「な、なんという惨い事を……」

 

ポンチのつぶやきが隣から聞こえてくるが、言葉が頭に入らない。

背格好や性別が同じせいだろうか?

僕の目には、少女といずなちゃんの姿がダブって見えていたのだ。

 

そして…僕は少女の目を見た瞬間。

男達に対する明確で純粋な殺意が膨れ上がった。

 

「は、ハオ様!?」

 

辺りの木々を破壊して顕現する二体の鬼と巨大な精霊。

荒々しく顕現した精霊の自然エネルギーによって散らされた村人たちの呪い。

 

「今度は誰だ!?俺の仕事の邪魔をしてタダで済む……二体の鬼…だと?」

 

「厳山先生…こ、これは…この化け物達は、一体何なのですか!!?」

 

狼狽する社長と疑惑の視線を送ってくる陰陽師を無視して、血まみれの少女を抱きしめてヒーリングによる心霊治療を始める。

 

「もう、大丈夫だからね」

 

「う…あ…?」

 

暖かい霊力の光によって、彼女の傷は塞がり、痛々しい腫れがゆっくりと引いて行く。

ヒーリングによる暖かな光と感覚によって少女は安心したのだろう。

不思議そうな目で、僕を見た後に気を失ってしまった。

 

呼吸も安定しているし、大丈夫だろうけど念のためにすぐに病院に連れて行った方がいいだろう。

 

「……その赤い鬼と青い鬼。

まさか……前鬼と後鬼か?

つまり貴様は……麻倉のジジイの孫か?」

 

「…うちの祖父と知り合いなのかい?」

 

「知ってるも何も、麻倉は我が一族の敵なんだよ!!」

 

呪いが消された事による代償により血にまみれた片腕を押さえている陰陽師の言葉と共に投げられる数枚の呪符。

描かれた方陣をみると金縛りの呪符のようだが…。

 

「ちっちぇなぁ…」

 

投げ込まれた呪符は僕に届く事なく、空中で燃えカスとなって消えた。

込めた霊力が弱すぎる。

この程度の呪いなら、麻倉のご隠居衆でも掛からないだろう。

さっさと気絶させて、二度と陰陽術を行使できない体にしてやる。

 

「この化け物一族め!!貴様らのせいで我が蘆屋(あしや)家が衰退したのだ!!」

 

「芦屋?」

 

芦屋…懐かしい姓を聞いた事でスピリットオブファイアと鬼達の動きを止める。

まさかコイツは……。

 

「そうだ!!我が祖先は蘆屋道満(どうまん)!!俺は貴様ら麻倉と安倍に大陰陽師としての地位を奪われた男の子孫だ!!」

 

「へぇ…あの極悪じいさんの子孫か……道理で陰湿で気味の悪い呪いだと思ったよ」

 

蘆屋道満。

かつて僕と安倍晴明のライバルであったが、呪いの深淵を覗いた事で呪いに取り憑かれ、魔道に堕ちた陰陽師の名前。

彼は呪いで悪鬼羅刹へと自身の体を改造し、鬼となって僕と晴明に戦いを挑んだ事で祓われた。

正直、その事で子々孫々まで恨まれても困る。

 

先祖も先祖なら子孫も子孫で、本当に粘着質でめんどくさい家系だ……。

 

「ちっちゃい家系のちっちゃい逆恨み……。

聞くに堪えないね」

 

「ふざけるなよ小僧!!我が一族の恨みを思い知れ!!」

 

両手いっぱいに呪符を持ち、大規模な陰陽術の行使を行う陰陽師。

呪符によってこの場に居る全員を囲いこむように展開される三重の結界と空中に出現する方陣。

あれは……。

 

「貴様も道連れだ!!ヒャハァァァアア!!!」

 

「爆符か……まさか、奥の手が自爆?」

 

「くたばれぇええええええ!!」」

 

陰陽師によって発動された爆符は視界を奪う閃光と炎を生み出す。

まあ、炎の精霊を持っている僕に爆発は無駄なんだけどね。

スピリットオブファイアによって、すぐさま僕とポンチと少女を守るようにして展開される結界。

凄まじい爆発音と煙に包まれ、舞い上がった粉塵が消える頃には僕たちを中心としたクレーターが出来ており、陰陽師と社長の肉体は消滅。

二人は霊魂となって空中を漂っていた。

スピリットオブファイアに食わせてもいいが、蘆屋道満の血を引く人間の魂を与えたらスピリットオブファイアが呪われそうだ。

そこで僕はニヤリと笑い、鬼である前鬼に鬼門を開けさせ…。

 

「地獄で閻魔によろしく」

 

鬼門から地獄へと叩き落とした。

地上から地獄に落とされた事により、彼らは一気に無限地獄へと落とされる。

あそこは地獄の最下層。

閻魔の加護なしに落ちれば、二度と這い出る事は出来ない。

無限地獄に落ちた魂は二度と転生は出来ず、いずれ完全に自壊するだろう。

 

それにしても最後のあの瞬間。

一瞬だけ、陰陽師の額から自身の扱っていた霊力とは違う、重く質の高い霊力を感じた。

 

誰かに憑依されたのか?それとも洗脳か?

分からないが、この事件の裏には麻倉以外の陰陽師、もしくはそれに近い霊能力者が関わっているのかもしれない。

 

「相も変わらず、ハオ様による無双で終わり。

…私は完全に傍観者でしたな」

 

「はは、僕としては傍にいてくれるだけで十分だよ」

 

謎の霊能力者の存在を頭の片隅に追いやった僕は、平安の時と似たような会話を楽しみながら、少女を背負ってポンチと共に村へと向かった。

 

 

おまけ

 

タイトル 『もう一人の傍観者』

 

厳山が自爆し、ハオの無事を見届けていた老人が居た。

 

「ふぇふぇふぇ。相も変わらず麻倉は化け物じゃな」

 

水晶で映し出されたハオを見ながら懐かしそうに笑う老人。

 

「……法師。

一族の者を爆殺しておいて、言う事はそれだけでございますか?」

 

「あのような金の亡者は役に立たん。

だったら、麻倉の小僧の実力を見る試金石にしたほうがよっぽど役に立つわい」

 

「……」

 

「ふぇふぇふぇ。鬼と原初の精霊を操りながら少女を治療する。

本当に面白い」

 

ほの暗い部屋の中、嬉しそうに笑う老人の声はしばらく止むことはなかった。

 

 

 

 




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