陰陽師ハオ(偽)   作:ふんばり温泉卵

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※②と連続投稿になります。


五話 ハオ様、四国へ行く ③

工場から離れると村があり、タヌキ妖怪の玉木はハオを宿屋に案内する。

そう、四国妖怪が営む宿屋……『ぽんぽこ亭』へ。

 

―――

 

タヌキ妖怪と妖狐は人化の術を覚え、人間社会に潜りこむ。

悪しき人間には災いを…心の清い人間には神通力にて救いを。

この宿は若いタヌキ妖怪達が人間を学ぶための施設であり、人間社会に潜り込む為の実習施設でもある。

 

「と、こんな理由で百年ほど前に建設された宿なのです」

 

「へぇ……妖怪の学校か、中々面白い発想だね」

 

石造りの塀に囲まれ、正面には木造の巨大な門。

玉木に宿の説明を受けながら門を潜ると二階建ての大きな屋敷が姿を現す。

玄関の上には『ぽんぽこ亭』の屋号が掲げられている。

 

中庭に見える見事な松の木といい、中々に風情がある屋敷だ。

 

「麻倉本家のお屋敷並みに広いので、あっしから離れず付いてきてください」

 

宿の中に入ると広々とした玄関と宿屋の受付嬢と布団などを運んでいる従業員たちが目に入る。

一瞬人間の様に見えたが、霊視をしてみると微かに妖気が漂っているのが見える。

中々に練度の高い変身をしている。

 

「へぇ…みんなうまく化けているね」

 

「へい、ここの連中は人間社会を知らない半人前ではありますが、人化の術を覚えたタヌキたち。

ハオ様クラスの霊能力者でなければ、気づかれない自信がありやす。

実際にオカルトマニアな学生や、霊能力者が修行の為に宿泊いたしやすが、ばれた事は一度もございません」

 

「それはすごいね」

 

これだけのタヌキ妖怪に囲まれて気づかれないというのは凄い。

妖怪が一か所に集中すると残留妖気の様な物が必ず出る物なのだが……。

おそらく、漏れる妖気が微弱な為に何処にでも現れる雑鬼と勘違いされているのかもしれない。

 

視線をキョロキョロと動かしながら、玉木について行くと大きな和室へと案内された。

 

「突然で申し訳ありやせんが、この中に四国と九州の全ての妖怪に畏れられる隠神刑部様……ポンチ様が貴方をお待ちしております。

あの方は…貴方様が復活してから再会できる今日まで首を長くして待っておられました。

どうか…どうか、隠神刑部様と面会していただけやせんでしょうか?」

 

「いいさ、この後に会いに行くつもりだったしね。

問題ないよ」

 

「有難うございやす。

では、あっしはこれにて失礼いたしやす」

 

タヌキの姿で一礼した玉木はそのまま廊下をスタスタと歩いて行く。

彼の茶色い小さな背中を見送った後、僕は襖を開けた。

 

すると、目の前には巨大なタヌキが膝を突いて下げていた頭を上げる。

 

「ハオ様……お久しぶりでございます。

貴方様の持ち霊として、こちらから馳せ参じるのが筋でありましたが、今の私は四国と九州を治める身。

会いに行けず申し訳ございません。

そして、遅くなりましたが…ご復活おめでとうございます」

 

「いいさ。

それよりも大きくなったね……色々と」

 

巨大な体躯はもちろん、オムツの取れたポンチの下半身には巨大な金〇袋が装備されていた。

もはやポンチの霊力の感覚を覚えていなければ、分からないレベルで成長を遂げている。

そして、霊視しないと見えないが、妖力もかなり大きくなっている上にポンチは神性も纏っていた。

その力は原初の精霊であるスピリットオブファイアには劣るものの、大妖怪の名に恥じない力を内包している。

力を抑えている状態をみると今、目の前の姿は本来の姿とは違うのかもしれない。

 

「貴方様のお蔭でございます。

貴方様の持ち霊であった事で、我らは人々から感謝と信仰を集められました。

信仰心を集めた我らは貴方様が亡くなってから数年ほどで神通力を体得。

姿もこのように変わり。コンチは九尾、私は刑部狸と呼ばれるようになりました」

 

なるほど…僕の予想通り、コンチとポンチの成長速度の秘密は信仰心か。

本来、妖狐とタヌキ妖怪は百年ごとに一段、また一段と成長していく。

妖狐は尻尾が増え、タヌキは体を大きくさせる。

しかし、信仰心という人の思いによって力を得たポンチとコンチは段階をすっ飛ばし、平安末期で大妖怪へと格を上げられたのだ。

人間の畏れや信仰は神を生み出し、妖怪を生み出す。

人間の心こそが神と妖怪の力の源なのだ。

 

「人の思いは時々凄いと感じさせられるね。

後、君の事で色々と聞きたいのだけれど……」

 

「?」

 

「昔の姿にはなれないか?あの姿で昔のように色々と語り合いたいのだけれど……」

 

僕の言葉を聞いて不思議そうにした後、にっこりと微笑む。

 

「…貴方様が望むのなら」

 

ボフンと音を立てて、姿を変えたポンチ。

目の前の彼は僕と共に過ごした懐かしいオムツ姿で立っていた。

 

「くくく……そのオムツは懐かしいね」

 

「ええ、まだ霊獣として未熟だった頃、ハオ様にいただいた霊力を安定させる品でしたな。

今でも思い出の品として大事に仕舞わせて頂いております」

 

「じゃあ、懐かしい姿になってくれたし、昔話としゃれこもうじゃないか」

 

「はい。ついでにハオ様が居なくなった後の我々の活躍話も披露してしんぜましょう」

 

この後、僕たちは昔話に花を咲かせて笑いながら夜を過ごす。

麻倉家を養子の弟子たちに任せ、一人と二匹が自由気ままに旅をしていた……懐かしいあの頃の様に。

 

 

 

 

―セイント製薬工場―

 

 

 

「お前たち!今すぐ工場のラインを止めろ!!」

 

体の中の物を全て出し切った事でゲッソリとした工場長が現場で声を張り上げ、薬品の製造を止めるように指示を出す。

普段の従業員たちなら、工場長の命令に嫌々従うのであるが、この時は工場長の気迫に飲まれて手を止めて命令に関係なく作業の手を止めてしまう。

 

「このままでは会社の利益の為に我々は死ぬ!!遅い選択ではあったが、まだ間に合う!!

辞表を書いて、今すぐここから出ていくぞ!!」

 

工場長の言葉に耳を傾けた従業員たちだったが彼らの心に灯ったのは怒りの炎だった。

 

「ふざけるな!!」

 

「今更何を言ってやがる!!」

 

「俺達みたいなのを雇ってくれるのはもう、こんな所しかないんだぞ!!」

 

「そうだ!!どうせ、地獄が変わるだけで何も変わらない!!」

 

「自分が死にそうになってから言っても遅すぎるんだよ!!」

 

彼らの叫びはもっともだった。

前科のある人間は使い捨てられる。

何処にいっても扱いは変わらない。

全てが遅すぎる。

 

「ああ…確かに遅い。

遅すぎたと言われても仕方がない!!

しかし、お前たちはまだ間に合う!!

そこのお前は幾つだ!?」

 

「は?いきなり何を……」

 

「幾つだと聞いている!!」

 

「2…29だ」

 

「もうすぐ……34だ」

 

「俺は…26だ」

 

まるで軍人のような工場長の気迫に飲まれ、自身の年齢を答えていく従業員たち。

何人かの従業員の年齢を聞いた工場長は、弱った体にムチを打って声を張り上げる。

 

「私は今年で51になる!!

再就職をする勇気が持てず、再出発出来る年齢を通り過ぎた!!

しかし、お前たちにはまだ、未来がある!!

歳をとって、バイトすら出来るか怪しい私よりもお前たちは数倍マシだ!!」

 

長年ブラック企業に勤め、工場長に上った男の言葉には説得力があふれていた。

 

「全員、辞表を書け!!こんな腐った会社に命を捧げる事はない!!」

 

工場長の演説により、一人、また一人と工場の隣にある宿舎に移動し、既に書かれていた辞表を取り出す。

何時だそうかと考えては出す事が出来なかった従業員全員の辞表は、今。

 

工場長の手に渡され、元従業員達は無言で去って行く。

 

入社して初めて会社に逆らってしまったが……これでよかったのだ。

長い奴隷の様な社畜人生に自分の手で幕を下ろした。

 

後は、ファックスなどでセイント製薬の闇を暴露するだけだ。

 

会社に反撃の狼煙を上げた、工場長。

しかし、彼の人生最大の大博打を闇の住民が、一部始終を覗いていた。

 

工場長と元従業員。

そして、地域住民たちに恐ろしき夜がやって来る。

 

 

 

おまけ

 

タイトル 『大妖怪の軌跡(タヌキ編)』

 

 

麻倉ハオ。

安倍晴明が作り上げた占事略决を超える、超・占事略决を作り上げた希代の大陰陽師。

 

彼に命を拾われた一匹のタヌキは彼と共に日本を巡った。

貧しい人々を救い、時には邪悪な妖怪と人間を懲らしめる。

当時の麻倉ハオは探し物をしていたようで、権力や金。

さらには貴族としての地位にも興味はなく、自由奔放に生きていた。

 

タヌキと狐は主の探し物は理解できなかったが、主との旅を続ける日々を大切にしつつ、人間の汚い心や綺麗な心を知っていく。

 

そして、寿命によって麻倉ハオの亡き後。

彼を神と崇める人々の信仰を集めてタヌキは短い期間で大妖怪へと姿を変えた。

彼は同じ持ち霊であった狐と別れ、生まれ故郷へと舞い戻り、人間にあだなす妖怪達との戦いに明け暮れた。

 

妖怪と人間の両方から畏れと信仰を集め、有象無象の魑魅魍魎を束ねるには時間は掛からなかった。

 

四国の恐ろしい大妖怪にして、神通力を操る神獣として君臨したタヌキ。

彼は主人の様に人間を愛し、人間社会に紛れては時に救いの手を差し伸べ、時に災いを持って人間と妖怪の暴挙を止めてきた。

 

故に、彼の経歴を知る麻倉の人間や妖怪達は狸の事をこう呼んだ。

 

麻倉葉王の忠臣・隠神刑部狸……と。

 

そして、千年の時を超えて再び主人と巡り合ったタヌキは千年前と同様に語り合う。

 

再会したその日の夜は四国の大妖怪、隠神刑部狸ではなく。

 

オムツが中々取れなかった幼い霊獣のタヌキ…ポンチとして彼の前で笑っていた。

 

 

 

 

 




皆様の評価が嬉しくてノリノリで書けましたので連続投稿しました。
これからも応援よろしくお願いします。

そして、なんかゴールド見たいに輝くセイントの工場長。

次回もお楽しみに。

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