陰陽師ハオ(偽)   作:ふんばり温泉卵

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四話 ハオ様、四国に行く ②

四国へと向かう事を決意したハオ。

彼は今、四国へと向かう電車の個室で人間に変化したタヌキ妖怪の玉木と共に、テーブルに置いてある麻倉が取り寄せた製薬会社の資料と現在の工場付近の自然などの情報を見て話し合っていた。

 

―――

 

「なるほど……大体想像通りだね。

県はセイント製薬の工場から多額の寄付金という名の賄賂を受け取り、工場反対派の地域住民の声を無視。

無理矢理、工場を設立した挙句に垂れながされた大量の汚染物質による健康被害と自然破壊。

激化する住民達の反対運動。

そして、反対運動を起こされても無視を続ける県とセイント製薬。

本当に…権力を持った醜い人間は何処までも醜い」

 

「本当に…仰る通りで。

全ての人間がハオ様や反対運動をする人間達の様であってくれたらと思わずにはいられやせん」

 

「でも、この段階で玉木が知らせてくれてよかったよ」

 

「…どういうことでしょうか?」

 

手に持っていた資料を目の前のテーブルに置き、向かい合うように座っているスーツを着た極道のような風貌の男。

玉木を見て僕の考えを口にする。

 

「反対運動がこのまま続けば、どこかのマスコミが嗅ぎ付けて記事にするだろう」

 

「確かに……人間社会では娯楽や金の為に悪をつるし上げ、大勢で叩く習慣がありましたな。

…しかし、それは歓迎すべきことなのでは?」

 

「確かにマスコミが、セイント製薬の対応や汚染物質の垂れ流しを世間に暴露すれば、工場と本社は契約を切られてどんどん衰退していくはずだ。

自然破壊や隠蔽の為に賄賂を贈る会社の製品だと知られたら客や患者は薬を買おうとは思わないからね。

…でも、そんな事を予想できないほどのバカではないと思うよ。

業界では数多ある製薬会社の上位に君臨しているんだ。

きっと何かしらの手を打ってくる。

地域住民達への賄賂か……何らかの方法による口封じかな?」

 

「……実に汚れ切った人間らしい方法ですな」

 

怒気の孕んだ言葉を吐き捨てた玉木はそのまま、何も語ることなく、ソファーの近くに設置されているベッドに寝転がった。

もう、心根が綺麗な彼にはこれ以上聞くに堪えられないのだろう。

 

個室の窓の外に広がる星空を眺めて思う。

知っていた事だけど人間は千年前とちっとも変わらない。

 

権力の為に他者を罠に嵌めては蹴落とし、金の為に人を殺す。

食の為に人の物を奪っては餓死させる。

 

社会が大きければ大きい程、地位が高ければ高い程、こんな嫌な話を聞かされて本当に嫌になる。

 

故にパッチ村で過ごした人生は素晴らしいと実感できる。

人間と自然が共存し、恵みを貰えば自然に返す。

精霊と戯れ、一族の平穏を祈る。

もちろん争いやケンカはあったが人が死ぬような事はない。

 

ケンカの決着が付けばそれで終了。

遺恨を残さない事を精霊に誓い、酒を飲んで忘れる。

 

本当に平和で眩しい日々……。

 

僕はパッチ村での人生を振り返りながら、玉木とは別のベッドで眠りについた。

 

 

―翌日―

 

 

 

ベッドで目を覚まし、電車のサービスで出された朝食を食べ終えた僕たちは、ついに四国へとやって来た。

 

……。

 

乗って来た電車を降りた僕たちは、セイント製薬の工場へと向かって歩き出した。

駅を出ると、そこは自然豊かな土地が広がっており、風に乗ってやって来る新鮮な空気が僕の肺を満たす。

 

「車の通りも少ないし、本当にいいところだ」

 

「そうでしょう、そうでしょう。

ここは隠神刑部様が治める我々、四国妖怪の楽園の一つなのです」

 

生い茂った緑を見ながら感想を述べると、嬉しそうに語る玉木。

よかった。

昨日の様子から嫌われたと思ってたけど、大丈夫みたいだな。

 

「それじゃあ、工場までの案内を頼むよ」

 

「へい!それと、工場を見た後にハオ様が泊まれそうな場所があるので案内いたしやす」

 

「気を使ってくれてありがとう。

正直助かるよ」

 

途中でタヌキの姿に戻った玉木に案内されて進む、田舎道とショートカットで人間がやっと通れる獣道。

野を超え山を越え、お昼になるころに異臭のする方向へ行くと僕らは工場へとたどり着いた。

 

これは……ひどい。

 

体に悪そうな異臭の煙がモクモクと立ち上り、汚染された土壌には精霊の存在が感じられない。

それなりに離れているのに、マスクがないと呼吸が苦しいと感じる。

中に居る人間は肺の病気になるのではなかろうか?

 

「行け、スピリットオブファイア」

 

素霊状態のスピリットオブファイアを工場へ侵入させた後、視覚と聴覚を共有して中の様子を窺う。

 

『ゲホッ!ちくちょう…咳が止まらねぇ』

 

『給料は安いし、工場長のジジイは空気清浄機の置いてある部屋から出て来やしねぇ』

 

『ゲホ…しょうがねぇよ。俺達前科者を雇ってくれる職場なんて、こんなブラック企業だけだ』

 

『ゲホッ!!オエッ!!……知ってるか?佐々木のおやっさんは肺癌になった挙句に首をきられたって噂だ』

 

ぼくは彼らの言葉とスピリットオブファイアが見ている光景に絶句した。

働く従業員は作業着は着ているが、マスクをしている者は誰も居ない。

そのせいで、肺の異常をきたしており、咳込む者や吐き気と戦いながら仕事をしている男達が奴隷のように働かされていた。

 

確かに世間は前科ものに厳しい。

そして、ろくな職業に就けないのは彼らの責任でもある。

 

だが、こんな地獄のような場所で働かせていいわけではない。

こんなのブラック企業を飛び越えたデス企業だ。

 

工場で働く人間に情けを掛けるつもりはなかったが、彼らは今ここで助けなければ命に関わる。

僕はスピリットオブファイアに工場長の爺さんの居る部屋を探させ、総務室という部屋に入る。

すると……。

 

『あ~~~気持ちぃぃいいい……』

 

タヌキのような腹をした爺さんがビール缶を片手に全裸でマッサージチェアを使用している姿が目の前に映し出された。

 

「うげっ!?」

 

「どうしましたハオ様!?何かあったのですか!?」

 

「な……何でもない」

 

あまりにも開放的でおぞましい光景が広がっていた為に気持ち悪くなってしまった僕だったが、何とか気を持ち直す。

ジジイのいる部屋は豪華な家具が揃えられ、エアコンや大きな空気清浄機、さらにはテレビゲームなどが完備されていた。

 

まちがいない、コイツが従業員の話していた工場長だ。

 

周りが苦しんでいる中、のびのびと贅沢な日々を送っていたんだ。

四国の妖怪達と前科持ちの社員と地域住民の為に道化になって貰おう。

 

スピリットオブファイアに残り少ないジジイの毛髪を採取させて呼び戻す。

さあ、今から平安時代にもっとも忌み嫌われた呪いをお前に行使してやるぞ。

 

僕はスピリットオブファイアから毛髪を受け取り、死なない程度に呪いを行使した。

 

「オンキリキリアビラウンケンソワカ!」

 

ジジイの白髪を媒体に呪いが行使される。

 

「さて、呪いは完了したから宿に案内してよ」

 

「あの…何をされたんで?」

 

「ん?平安時代にもっとも忌み嫌われた精神と体調を崩す呪術を使ったんだよ。

三日もすれば、工場長は逃げ出して工場の稼働は止まるんじゃないかな?」

 

これから起こるであろう工場長の訴えにセイント製薬が耳を傾けて撤退するならよし。

もし、そうでなければ……残念なことにこちらも本気で動かなければならない。

 

セイント製薬が動かなければ工場の従業員と地域住民の命が危険となる可能性が高いのだから。

 

僕ら一人と一匹は玉木が用意してくれている宿へと向かった。

 

 

おまけ。

 

タイトル『進撃の工場長』 

 

群れを好み、権威に媚び、お金が大好き。

ブラック企業で叩き上げられた同期を蹴落とし、どんな罵倒にも屈しないメンタルが彼の唯一の武器だ。

 

そして、地域住民を黙らせ、工場を稼働させ続けて本社の利益を上げるのが彼の仕事だ。

 

彼の朝は早い。

 

総務室という名の自室に完備されているシャワーを浴びて、ドラク〇をプレイする。

彼は勇者となってドー〇姫の救出に精を出す。

 

そして、その片手間に現場に電話して適当な指示を出す。

もちろん部屋からは出ない。

 

一息ついたら再びシャワーを浴びる。

ただ、この時は彼の習慣により全裸のままでマッサージチェアで仕事の疲れを癒しながらビールを飲む。

 

勤務時間にビールを飲むことは彼にとって至福の時間だ。

 

しかし、いつもの様にぐうたらしている彼に異変が起こった。

 

苦しくなる呼吸。

腹部に襲ってくる激痛と吐き気。

 

彼はトイレに直行した。

 

上と下からありとあらゆるものを吐き出す地獄を経験した。

ビールが古くなっていたとか、そんな理由ではない。

彼は直感した。

 

これは工場による汚染物質が原因であると。

彼の脳裏に浮かぶのは肺癌となりやせ細った前科持ちの従業員だった。

 

自分もああなるのか?死にたくない!!死にたくない!!

腹を抑え、命の危機を感じてトイレから出てきた彼は会社のトップに電話を繋ぐ。

 

「社長!この工場は危険です!!従業員の半数が肺に異常が確認できました!!

私もこのままでは……」

 

いままで黙認して来た事実を自分の命の為に訴える工場長。

しかし……

 

『それがどうしたというのだね?』

 

返って来たのは耳を疑う言葉だった。

だが、ショックは少なかった。

そうだ、この会社はいつもそうだった。

つい最近も佐々木という社員に自分も似たような事を言っていたはずだ。

 

『お前がこの会社に入る事を望んだんだろう?なら本望じゃないか』

 

リフレインする自分の言葉。

自分もこの腐った社長と変わりない。

 

『まあ、君の貢献次第では見舞金を贈ろう。

動けるうちは、会社に心臓を捧げたまえ』

 

心臓を捧げろと吐き捨てた後、社長は電話を切った。

まさに使い捨ての道具。

自分の人生は何だったのだろうか?

 

一人、トイレに引きこもった50歳の男は虚無感に襲われていた。

そして、自身を客観的に見た時。

分かってしまったのだ。

 

ああ……そうか、私は転職はできない。

あの会社しかないと会社に囚われていたんだ。

 

こうなってしまったのは自業自得。

前科者の彼らと変わりない、辞める選択肢があったのに出勤し続けた自分の責任である。

 

しかし、今からでも遅くはない!!

 

この事を世間に暴露してやる!!

自分の悪事もばれて制裁が下るだろう。

 

だがセイント製薬社長!!貴様も道連れだ!!

 

 

呪術により体調を崩し、精神攻撃を受けた工場長。

 

彼は猫に追いつめられたネズミの如く製薬業界の巨人の一人に牙を剥いた。

 

 

 




地獄先生でもセーラームー〇のパロなどをやっていたので色々ぶっこんでみました。

※この作品を評価し、応援してくださる皆様に感謝です。

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