陰陽師ハオ(偽)   作:ふんばり温泉卵

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三話 ハオ様、四国に行く ①

葉月家の生活に違和感がなくなって来たと思った僕だったが、最近寝起きがよろしくない。

何かに呪われたかの様に肩が重いのだ。

 

「疲れているのかな…?」

 

気になって霊視をしても呪いの痕跡は見当たらない。

僕の体はいたって正常である。

思わず口に漏れてしまった通り、疲れているのだろうか?

 

「お兄ちゃん!朝ごはん出来たよ!!」

 

「ああ、今行くよ」

 

閉じた部屋の扉の向こうからいずなちゃんに声を掛けてもらった僕は、寝間着から普段着に着替えて食卓へと足を進めた。

長い廊下を歩いて食卓のある居間にたどり着くと、そこにはオババといずなちゃんがちゃぶ台を囲って待っている姿が目に入る。

どうやら二人とも食べないで待っていてくれたようだ。

 

「おはよう。そして、待たせてごめんね」

 

「おはようございます。いつもより遅いとは珍しいですね。

顔色もあまりよろしくないようですし、気分でも悪いのですか?」

 

「お兄ちゃん大丈夫?病院に行く?」

 

心配そうに声を掛けてくれる二人。

そんなにも疲れが顔に出ているのだろうか?

そんな事を思いつつ、自分の定位置である席に座った僕は、二人に疲れているだけだと説明する。

 

「そうですか?体調がおかしかったら遠慮なく言って下され。

このオババが心霊治療をして差し上げます」

 

「オババじゃなくて私に言ってね。一生懸命看病するから!」

 

「はは、二人ともありがと」

 

二人に礼を言った後、僕らは朝食を食べる事にした。

 

「…そういえば、昨日の夜にタヌキの妖怪が本家にやって来たとの知らせがありましたな」

 

「タヌキの妖怪?」

 

オババが思い出したように胸元から一枚の手紙を取り出して僕に渡す。

うっ…生暖かい。

オババに渡された手紙は人肌で温まっており若干湿っていた。

正直、気持ち悪くて破り捨てたい衝動にかられるが、気持ちを落ち着けて手紙の内容を読む。

 

内容は四国や九州を縄張りにしているポンチのSOSであった。

なんでも、四国のE県のT村にポンチの直系に当たる子供が住んでいるらしいのだが、人間たちが建てた工場から出される汚染物質により、

子供たちだけでなく、自然にも多大なる影響を与えているらしい。

 

今はポンチのお蔭で怒った妖怪たちが工場の人間たちを襲わないでいるが、何時怒りが爆発して人間を襲うか分からない状況らしい。

そんな事になったら工場が事態を収拾する為に雇った霊能力者達と妖怪たちの戦争が勃発する。

そんな事になったら様々な所に影響が出て来るのは容易に想像できる。

 

とりあえず、そのタヌキに会ってみるか……。

 

食事を終えた僕は、本家にやって来たというタヌキに会いに向かった。

 

 

―麻倉本家―

 

 

麻倉家に久しぶりに戻って来た僕は、さっそく本家にやって来たタヌキと客間で面談する事となった。

 

「お初にお目にかかります!あっし、生まれは四国!隠神刑部様の直系にして、名を玉木!!

麻倉ハオ様とご対面に与り、恐悦至極でございます!!」

 

座っていたソファーから飛び降り、一昔前の極道のような自己紹介をするオムツを穿いた目の前のタヌキ。

自己紹介の事よりも彼の口から飛び出た、とある名称のインパクトが強すぎて彼の名前が聞こえなかった。

お、落ち着け、目の前に居るのはポンチの子孫だ。

礼儀は正しかったが何時までもコンチとお揃いのオムツが中々外せなかったポンチの子孫だ。

それがなんだって?

かの有名な九州の神通力を操る化け狸の隠神刑部?僕はそんな大妖怪と知り合った覚えなんて一ミクロンもない。

 

「き、君はポンチの使いだろ?」

 

「へイ」

 

冷静に問いかける僕に即答するタヌキ。

 

「隠神刑部の使いじゃあないよね?」

 

「……ああ!そういう事ですかい!!

ハオ様、あのお方は現在は貴方に授けられた名ではなく、隠神刑部と名乗られておられます」

 

「本当に!?」

 

あのポンチが?

あの豆狸が?

 

日本三大狸話の主役?

 

「そこまで驚かれる事ですかい?」

 

「……うん、正直想像が出来ない」

 

まさかの衝撃の事実に頭の処理が追い付かない僕は、目の前のテーブルに置いてあるお茶を口に含む。

すると……。

 

「では、コンチ様が玉藻の前……九尾の狐と呼ばれている事もご存じでない?」

 

「ぶふぉ!?」

 

目の前のタヌキから衝撃の事実が再び。

僕の口に含まれたお茶は虹のアーチを描き、タヌキに直撃した。

 

「……」

 

「ごめん」

 

タヌキは黙ってオムツの中に手を突っ込みハンカチを取り出して顔を拭き始める。

本人はハンカチを持つ事はエチケットのつもりかもしれないが金〇とち〇こに接触していたハンカチで顔を拭う行為は余計に自分の顔を汚しているようにしか見えない。

現在のタヌキではこれが普通なのだろうか?

 

「いえ、ハオ様は1000年前のお方。

現代の情報に疎いのは仕方がない事でありやす」

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

何事もなかったかの様に振舞って許してくれるタヌキ。

いい奴だ。

〇玉で汚れたハンカチで顔を拭かなければ、もっといい奴だ。

 

「あっしの使ったハンカチで申し訳ありやせんが、これで口を拭いますかい?」

 

「いいよ、その気持ちだけ受け取っておく」

 

訂正。いい奴であるが、若干おかしい奴のようだ。

僕は急いで口を袖で拭い、タヌキに目的を聞く。

 

「それで、君が来た目的……自然を守る為に、僕たち麻倉に何をして欲しいんだい?」

 

「奴らを追い出す為に呪いの行使をお願いしたいのです。

工場の連中は妖怪達の怒りを買い過ぎた……。

例え説得に成功して奴らが出て行ったとしても、住処を破壊された妖怪は奴らを地の果てまで追いかけて殺すでしょう」

 

僕はタヌキ達妖怪の言い分に納得する。

確かに妖怪だけが傷ついて、傷つけた連中だけ無傷で帰るのは虫が良すぎる。

それは、報復したいと思う妖怪たちが出てきてもおかしくない。

 

「そんなわけで……ハオ様。

あっしと共に四国に行って貰えませんか?

もちろん、呪いを行使できるのなら当主殿でも構いやせんが……」

 

「この話は当主にはしてあるのかい?」

 

「ヘイ。当主殿は貴方様の意思に従うと……」

 

タヌキから僕に最終決定の権利があると知った僕は……。

 

「僕が行こう」

 

躊躇することなく、即答した。

話を聞いていたら大妖怪となったポンチにも会いに行ってみたくなったし、ちょうどいい。

 

「ありがとうございやす!!さっそく四国へ行きやしょう!!」

 

僕たち一人と一匹は四国へ向かう事になった。

 

 

おまけ。

 

タイトル『いずなちゃんの朝』

 

 

美幼女いずなちゃんの朝は早い。

朝早くに行水を行い、ハオの朝食を作るついでにオババの朝食も作る。

 

そんなある朝。

朝食の準備をする時に付けていたテレビから興味深い話が幼い彼女の耳に入る。

 

それは朝のニュースでよくやるミニコーナーだった。

このミニコーナーは世界の超常現象からオカルトまで手当たり次第に面白そうな物をピックアップして紹介するコーナーである。

 

この時、いずなちゃんが見ていたのは催眠術と暗示の紹介である。

 

『ヘイ、キャシー!今日は大事な人と一緒になれるかもしれない暗示をしょうかいするよ』

 

『ワァオ!?それは素晴らしい暗示ね、マイケル』

 

大げさなリアクションと共に、コーナーを担当している外国人の怪しい紹介が始まった。

 

『では、キャシー。そこのベッドに横になってくれないかい?』

 

『OK!』

 

コーナーの為のセットに用意されていたベッドに寝転がるキャシー。

 

『いいかい?まずは暗示を掛けたい相手が眠っていることを確認しよう!!』

 

ベッドに寝転がっているキャシーが眠っているかを彼女の目の前で手を振って、確かめる動作をするマイケル。

 

『眠っている事を確認したら、耳元にその相手にして欲しいこと、お願いしたいことを言ってみよう!!』

 

元気よく、宣言したマイケルはキャシーの耳元で暗示を始めた。

その姿は、眠っている女性にイケない悪戯をしようとしている変質者にしか見えないが、純粋ないずなちゃんは気にせずテレビを見続ける。

 

『キャシーはマイケルとデートする。キャシーはマイケルとデートする。キャシーはマイケルとデートする。キャシーはマイケルとデートする。キャシーはマイケルとデートする。キャシーはマイケルとデートする』

 

まるで呪詛を吐いているかの様なおぞましい光景が全国配信された。

沢山の視聴者を不快にさせる光景だったが、台所のGの死体やクモなどのゲテモノの死体を見慣れているいずなちゃんは気にする事は無かった。

 

ただ、ここで彼女がもう少しだけ心が成長していたらテレビの事を気にする事無く、朝食の準備に戻っていただろう。

しかし、彼女はまだまだ、好奇心旺盛な幼い子供であり、テレビで知った怪しい知識を試したいという思いを抑える事は出来なかった。

 

故に彼女は、本当の家族よりも自分を大事にしてくれる優しい兄の様な人の寝室に向かう。

そして、彼の部屋に入って眠っている事を確認した彼女は……。

 

「お兄ちゃんはずっといずなと一緒なの。お兄ちゃんはずっといずなと一緒なの。お兄ちゃんはずっといずなと一緒なの。お兄ちゃんはずっといずなと一緒なの。お兄ちゃんはずっといずなと一緒なの。お兄ちゃんはずっといずなと一緒なの」

 

家族愛なのか恋愛感情なのかは分からないが、大好きな人の耳元で呪い?を囁く。

この日からいずなちゃんの大好きな人は、体に様々な不調をきたす事になるのだろうが、幼女の儚い願いの為に頑張って欲しいと思う。

 

 

 

ちなみにこの翌日、様々な所からの苦情によってこのコーナーは無くなり、クビを切られて無職になったマイケルは追い打ちを掛けられるようにキャシーに振られた。

 

南無阿弥陀仏。

 

 

 

 


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