陰陽師ハオ(偽)   作:ふんばり温泉卵

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一話 イタコとハオ様

僕が健康に成長し15歳となりのんびりと縁側で茶をすすっていた時……。

麻倉の分家の一つである葉月家に不幸があったと祖父から知らせが来た。

 

葉月家の祖先は陰陽術の適性がなかったためにシャーマンとしての能力を鍛えた一族。

コンチの眷属であるクダ狐を与え、鍛えていたが、どうやらイタコとして現代まで活躍しているらしい。

 

その葉月家の当主の娘である女性が5歳の一人娘を残して交通事故で死亡。

夫は離婚して海外にいるそうだ……。

 

なんという複雑な家庭環境だろうか。

葬式とは、中々に気が重くなるものであるが……こんなにも気の重い葬式は初めてだ。

 

重くなった足を動かし、喪服に着替えた僕は僕の正体を知る麻倉のご隠居衆と呼ばれる重役たちと共に葉月家の屋敷へ向かった。

 

屋敷にたどり着くと、他の家の人間や葉月家の世話になった人々が集まっていた。

葬式でここまで人が集まるのはアイドルか俳優が亡くなった時ぐらいだろう。

僕らは泣き止まない幼女と、小柄であるが祖父と肩を並べるほどの霊力を感じる老女の元へ歩み寄る。

 

「突然の出来事で、さぞかしお嘆きのことでしょう。

お悔やみの申し上げようもございません」

 

「ハオ様……本日は娘の為に足を運んで頂き、誠にありがとうございます」

 

葉月家の当主であり、ご隠居衆の一人である老女。

葉月 尾古女、通称『オババ』と孫娘にお悔やみの言葉を述べる

 

シャーマンの一族という事だけあって丁重に進められる葉月家の葬式はとても心が痛む。

5歳の幼女がずっと涙を流しているのだ。

 

何とかしてあげたいが、こればっかりは何ともならない。

僕に出来るのは冥福を祈る事だけだ……。

 

葬式が終わるころ…幼女である葉月いずなちゃんの処遇についてご隠居衆と話す事となったので、いずなちゃんの事が気になった僕はご隠居衆に話を通して、話し合いに参加する事にした。

 

和室に通され、それぞれが座布団を敷いて座ると同時にオババが口を開いた。

 

「いずなはワシが引き取り、明日から立派なイタコにする為に修行を始める。

異論は認めん」

 

おいおい、5歳でイタコの修行はキツ過ぎるだろう!!

下手したら死んでしまう可能性もある。

誰か反論しないのか?

周りの老人たちを見るが、反論をする様子はない。

それどころか、どこかの当主の老人はとんでもないことを口にした。

 

「…イタコの若い血はもう、あの子のみ。

心苦しいが仕方あるまい」

 

「そうですな。

それに、修行に励めば気が紛れるでしょう」

 

確かに気は紛れるだろうが、本人が望まないのにそれはダメだろう!!

僕は、結論を出そうとする老人たちに待ったをかける。

 

「無理に修行をさせるのは良くないと思うよ。

あの子の将来はあの子が決めるべきだ」

 

「ハオ様!それでは葉月の家が終わってしまいますぞ!!」

 

「貴方様が残した秘術の一つが消えてしまうのですよ!!」

 

「だったら、霊力の強い人間を養子にして術の継承をすればいい。

別に葉月の血を引いている必要はないんだから」

 

かつての僕の様にすればいいと老人達に反論するが、彼らは耳を貸さない。

彼らの様子を見る限り、彼らの中に流れる先祖の血を尊重しての言動である事は良く分かる。

だけど、秘術以上に大事な物があるだろう……。

 

「では、間を取ってこういうのはどうですかな?」

 

終わらない平行線の話し合いの中、祖父が折衷案を提示した。

 

「葉月家の修行を小学生まで続けさせる。

そして、本人に選ばせればいい。

イタコになるか、普通の社会人として人生を過ごすか……。

やる気のない人間をイタコにしたところで不幸が起こるだけじゃ」

 

「……まあ、いいだろう」

 

「オババ、しっかり教育するんだぞ?」

 

「イタコを絶やさせないようにせいよ」

 

祖父の提案により、いずなちゃんの教育方針が決定された。

オババに釘をさす老人たち同様に僕も正直納得しきれていないが、彼女が将来自分で道を選べるというのならこれ以上は何も言うまい。

 

だが…僕が彼女に手を貸すのはいいだろう?

 

麻倉家への帰り道。

僕は祖父に頼みごとをした。

 

 

―――翌日―――

 

 

「よくぞいらっしゃいました。

汚いところですが、貴方の気が済むまでご滞在ください」

 

「ああ、世話になるよオババ」

 

屋敷の前にて、にこやかに僕を歓迎するオババ。

いずなちゃんの姿が見えないが修行中なのだろうか?

 

「オババ。いずなちゃんはどうしたんだい?」

 

「ああ、いずなですか?あの娘なら今は貴方が使う事になる部屋の掃除をしておりますじゃ」

 

「この家で世話になるんだ。

僕も手伝うよ」

 

「そうですか?では付いてきてください」

 

オババと共に屋敷に入り、オババの案内で長い廊下を歩く。

スタスタと目の前を歩く老女に、僕は疑問に思っていたいずなちゃんの修行について尋ねる事にした。

 

「あの子は今後どんな修行をするんだい?」

 

「ふむ…ハオ様はあの子の事をどうしてそこまでお気になされるのですか?」

 

「質問を質問で返さないでもらえるかな?

ただ、あの子がどんな修行をさせられているのか気になってね。

子供が泣くのが好きではないんだよ」

 

「……そうですか。

ちなみに修行内容は、ワシの身の回りの世話を全部してもらいながら、しばらくは精神修養ですな。

いきなり無茶はさせないのでご安心くだされ」

 

「そうか」

 

そんな会話をしていると一室の扉の前に辿り着いた。

扉の中からガサゴソと音も聞こえるし、どうやらこの部屋が僕の部屋になるようだ。

 

「ここが、ハオ様の部屋ですじゃ」

 

「へぇ…中々いい部屋じゃないか」

 

部屋に入ると、十畳ほどの空間が広がっていた。

客間として使っていたのだろうか?

机やテレビなどの家電と家財道具が最低限置いてあった。

そして、この中々に広いこの部屋でいずなちゃんが畳の掃き掃除をしている姿が目に映る。

 

「案内をありがとう。

後は僕の方で何とかするからさがっていいよ」

 

「では、ワシはこれで失礼します。

いずな!手を抜くんじゃないよ!!」

 

「!?…う、うん」

 

オババの声に驚きながらも掃除を続けるいずなちゃん。

オババはいずなに釘を刺すとスタスタとどこかに行ってしまった。

…さて、僕も手伝うとしよう。

この子に余計な掃除をさせているのは僕だからな。

少しでも早く終わらせてあげないと……。

 

「いずなちゃん。この部屋でまだ掃除していない場所ってどこかな?」

 

いずなちゃんを怖がらせないように少し距離を離して声を掛ける。

するといずなちゃんは迷いながらも遠慮するように襖を指さした。

 

「襖の中がまだなのかい?」

 

「はい…ハオ様」

 

床の畳を見ながら暗い表情で返事をするいずなちゃん。

まあ、怖いオババが敬語を使っている人間と二人っきりだもんな……。

しかも昨日の今日じゃあ、いずなちゃんも辛いだろうに……。

よし!!ここはいい物を見せて元気になって貰おう!!

 

「いずなちゃん。ちょっと面白い物を見せてあげるよ」

 

「……?」

 

僕は彼女にそう言って、来た道を戻って外に出る。

この周辺は自然豊かな田舎だ。

土地の精霊も多い。

僕はそこらへんに落ちている葉を8枚ほど広い、再びいずなちゃんの待つ、部屋へと戻る。

 

「おまたせ。今から面白い物を見せてあげるから見てて」

 

「……はっぱ?」

 

疑問を口にする彼女に微笑み、テーブルに葉を並べる。

そして、霊力を使い葉を媒体に精霊をオーバーソウルさせる。

すると、葉っぱが手足の付いた丸い物へと変化して浮き上がる。

 

「え…?」

 

「おどろいた?

これは小鬼と言って、土地の精霊を葉っぱに入れたんだ」

 

「せい…れい?」

 

「そして、彼らはこんなことも出来るんだ。

小鬼…この部屋を綺麗にしろ」

 

驚くいずなちゃんをそのままに、小鬼に命令する。

命令を受諾した彼らは、小さな手を使って敬礼し、まだ出しっぱなしの掃除道具を使って部屋を綺麗にしていく。

 

「すごい……」

 

「どうだい?面白いだろう?」

 

「うん、じゃなかった……はい」

 

「いいよ、敬語なんて。

呼び方もハオ様じゃなくていいから」

 

「うん」

 

暗い顔から少しだけ元気になった様子の彼女を見て、ここに来てよかったと思う。

この後、彼女にどうやったら自分も小鬼を作る事が出来るのかとか。

距離を測りかねている彼女の質問に優しく答えるのであった。

 

 

 


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