陰陽師ハオ(偽) 作:ふんばり温泉卵
訳がわからない。
見知らぬ女性が僕をハオと呼ぶ。
しかも、幽霊や妖怪などの化け物が見える。
もちろん僕はハオなんて名前ではない。
仕事の失敗を忘れる為に居酒屋でヤケ酒を飲んでグデングデンになった後、目が覚めたら着物姿の美女がいた。
ここまでだったら狂喜乱舞していたであろう。
モテない童貞サラリーマンの僕が記憶がない居酒屋の帰りにナンパに成功して連れ込んだ美女であると。
しかし、現実は残酷な物であり、僕は彼女の息子でシャーマンだという。
聞き覚えのある…というよりも小学生の時にテレビにかじりつくように見ていたのでシャーマンとハオという単語はよく覚えている。
シャーマンキングという物語があった。
今の僕はまさしくその登場人物にしてラスボス。
後のシャーマンキングとなる男。
とりあえず……。
陰陽師になるか?
この身は大陰陽師に至る才能を持つ。
ならばそれを利用してハオ様らしくビッグに成り上がってやるさ。
そして素敵なヒロインをお嫁さんにするんだ……。
☆10年後☆
心を読める能力を手に入れる事以外、彼の人生をなぞっていた僕であったが、童貞で巨乳スキーな僕は本来のハオの様にハーレムを築く事が出来なかった。
縁談の申し込みは沢山あれど、平安時代の価値観での美女とはみんな尻のデカいデ……ぽっちゃり体型だ。
故に結婚して子供を沢山作る代わりに、貧困にあえぐ孤児達を引き取って養子兼弟子として育てている。
弟子を育成しながらも原作ハオの名に恥じない大陰陽師となった僕は強欲な貴族たちとの闘争に明け暮れた。
前鬼後鬼を使い、全てに勝利した僕は一匹の動物と出会った。
黄色い毛並みとふさふさな尻尾を持つ可愛らしい子狐だ。
狐はこちらをじっと見ていた。
まるで僕が従えている鬼が見えているようだ。
「おいで」
心を読む能力を手に入れなかったからか?
それともハーレムを築かなかった為なのか?
僕にはマタムネとの出会いはなかった。
故にマタムネの代わりに僕はこの狐を拾ってコンチと名付けた。
☆5年後☆
泰山府君の祭を会得し、死ぬ思いで陰陽道の力を頂点まで極めた。
シャーマンファイトの噂が全く耳に入ってこない。
僕は子供達に麻倉を任せてシャーマンファイトの開催日と会場を知る為に旅に出た。
行く先々で困った人を救いながら旅を続けた僕であったが、シャーマンファイトの存在を見つける事は出来なかった。
だが、四国にて霊能力を持つ死にかけのタヌキを拾った僕は、そのタヌキにポンチと名付けた。
☆30年後☆
『ハオ様…逝くのですね』
『ああ…ハオ様』
御霊となったポンチとコンチに自由を与え、養子の中で最も強い者に自身の全てを託した僕は天寿を全うした。
人々に惜しまれながら、あの世へと旅立った僕は……閻魔大王との契約により、五百年の時を経て海外に存在する精霊を使役する一族に転生した。
彼らが持っていると思われるスピリットオブファイアを手に入れる為に……。
☆510年後☆
シャーマンの一族に生まれた僕は、10歳で一族最強の称号を得た。
それはそうだろう。
巫力は転生すれば、飛躍的に上昇する。
力を数値化する術を持たないが、僕と彼らの間には大きな力の差があった。
そして、肝心のスピリットオブファイア。
彼は一族が誰一人扱えなかった精霊として封印されていた。
スピリットオブファイア
伝承によると原初の時代に生まれた最初の炎の精霊。
彼を怒らせた事により沢山の人々が紅蓮の炎に呑まれたとか……。
グレートスピリッツのグの字も出てこないが、スピリットオブファイアである事は変わらない。
僕は、彼を手に入れる為にさらなる修行に励んだ
☆520年後☆
一族の長となった僕は、周囲の反対を押し切って封印されたスピリットオブファイアを覚醒させ、原作通りに使役する事に成功した。
またしても原作とは異なるが問題なく自身の持ち霊を手に入れた僕は、シャーマンファイトの存在を確認する為に旅に出た。
しかし、僕はこの時に気づくべきだったんだ。
グレートスピリッツを崇め、精霊を操る一族……つまりシャーマンファイトを開催するパッチ族に転生していたことに………。
この設定を思い出したのは、次の転生を行った後だった。
プロローグ
第二次世界大戦の敗戦から著しい経済成長を遂げ、先進国となった日本。
ここまで順調に成長した日本の裏では、麻倉が未来を占い、世界経済の流れや事件などを予測し、助言していたという。
そんな日本の出雲にて、当代麻倉の最高クラスである霊能力者が占いでとんでもない情報を読み取った。
これより数年後、麻倉本家にて麻倉ハオが復活する。
伝説の陰陽師にして愚かで醜い心を持つ人間には厄災を、慈しむ心を持つ人間には奇跡を起こす神獣と呼ばれる九尾の狐の主。
霊能力者の世界では英雄と呼ばれる麻倉の始祖の復活。
当代の麻倉の当主である麻倉葉明はこの情報を一部の者と共に秘匿した。
そして数年後に運命の時が訪れる……。
葉明の娘と入り婿の青年の間に一人の男児が生まれた。
この子供こそが運命の子。
始祖の魂を持つ赤子は麻倉ハオと名付けられた
僕は麻倉家に転生し、早数年。
主人公である麻倉葉が双子として生まれなかった事により、この世界がシャーマンキングの世界でないことを確信した。
この事実に気づくまでに百年も費やしてしまった……なんてこったい。
僕がよく知る車が走り、サラリーマンが社畜として活躍する現代の日本。
僕の祖父に当たる今の麻倉の当主に現代について話を聞くと、この現代日本では僕は安倍晴明レベルの有名人だと判明。
人々を救い、悪しき魑魅魍魎を祓う。
コミックやライトノベルでも陰陽術が関わるものなら必ず安倍晴明とセットで名前が出て来るらしい。
そして、僕が死んだ後、平安時代の人々が感謝の祈りを捧げる為に麻倉本家の近くに葉王神社なる社を建てたらしい。
僕はいつの間にか神様になっていたようだ。
シャーマンファイトもないグレートスピリッツも存在しない。
そんな世界で僕はどう生きればいいのだろうか?どんな人生を歩めば良いのだろうか?
麻倉 葉とその仲間達の軌跡を近くで見たかったが……。
仕方がない。
随分遅くなってしまったが、僕の新たな人生を始めるとしよう。
とりあえず………。
「さー!!元気よく、すくぽん体操をしましょーー!!」
『はーい!』
「は、はーい……」
早く大きくなりたいな。
麻倉ハオ…4歳。
職業…幼稚園児とシャーマン
持ち霊……スピリットオブファイア
僕の人生は本当の意味でこれから始まる。