新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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ドキドキラバノシティの事件簿 その3

 ゴウトがしばらく共に行動することになったこともありバタバタはしたものの、驚くほどゴウトが馴染むのは早く、元々いたかのような気楽さで接してくる。人懐っこいというか、嫌味がなくて爽やかなところがあるから近づかれても嫌な気はしないのだろう。

 エミは相変わらず死んだ目でアシマリにまとわりつかれている。サーナイトが世話をするのかと思いきやまだ眠いのかうとうとと船を漕いでいる。

「マジで無理……僕の手持ち6匹揃ってるっていうのにどうしろっていうんだよ」

「親父さんところに預けるとか?」

 昨日のバイトでなにやら不手際があったらしく生まれたばかりのアシマリを引き取ることになったらしい。かなりそのことで揉めたのか日を跨いでも疲労しているのが見て取れた。

「クソ親父にわざわざ頼むのも嫌。仕方ないししばらくは手持ちオーバーだけど世話するよ」

 まあ俺も手持ちオーバーしまくってるし……。一度実家に預けようと考えているがみんな嫌がるんだよなぁ。

 ちなみに昨日仲間にしたチェリムのチェリーはどうやら薄暗いすみっこが落ち着くらしく、じっと物陰からこちらを見ている。

「手持ちの整理しないとなぁ、俺も」

 今の所そこまで困っていないが手持ちがどんどん増えると手が行き届かない。シレネに預けるのも考えたが育てやということもあるし好意に甘えすぎるわけにもいかない。

「そんなに手持ちいるなんてすごいなー。俺なんてまだ3匹だぜ?」

 ゴウトの手持ちはヒコザル、タマゲタケ、ゴーゴートの3匹だ。幼い頃から家で飼っていたゴーゴートだけレベルが少し高く、地味にどこのジムでバッジをもらえたのか気になるところだ。

「俺も最初はイヴとチルだけだったからそのうち増えるって」

「まあー、世話できる範囲で増やしていきたいよなー」

 金銭面の問題もあるし俺みたいにぽんぽん考えなしに手持ちを増やさない点ではゴウトはだいぶしっかりしていると思う。

 まあ、そんなことはさておき、今日の予定だがエミはどうやらアシマリのことで今日はバイトは参加しないつもりらしく、まだげっそりとした顔でボソボソとぼやきを口にする。

「なんか……生まれたばかりだし一応ジョーイさんに水ポケモンの育て方マニュアルとかもらったけどとりあえず一回水場に連れて行こうと思って……」

 無料配布している「赤ちゃんポケモンの育て方マニュアル~水ポケモン編~」というものを見せられたがずいぶんと大変そうだ。まあ野生と違って親がトレーナーだしなぁ。そこらへんは最初にしっかりやっておいたほうが後々困らないので早いうちに行動したいらしい。

「そういや、お前ってニックネームつけないよな」

 イオトが思い出したようにエミとアシマリを見て言う。確かにエミはニックネームをつけない。まあつけないやつも珍しくないしおかしいことはないのだが。

「別にニックネームつける気がないというわけじゃないけど? ただなんか僕がつけようとすると不評なだけで」

 ニックネームが不評っていうのも不思議な話だがそんなに変なニックネームなのだろうか。例えばウインディにポチってつけるとかみたいな?

 

「コジョンドにタゴサクってつけようとしたら昔父親とか色んなやつにドン引きされたんだよ」

 

 そりゃされるよ。

 

 なんでタゴサクって単語が出てくるんだよ。田吾作だよな? エミのネーミングセンスというか発想がわからなくて表情が自然とこわばった。

「ウインディにケダマタロウとかもすごい顔されたし」

 エミの後ろでウインディがすごい切ない顔をしている。そりゃそうだ。嫌だろそんなの。

「サーナイトもドブロクとか……」

「お前はニックネームをつけないほうがいいよ」

 一歩間違えなくても手持ちとの不和を引き起こしかねないし周りも聞いていて不安になるわそんなの。

「もしアシマリにニックネームをつけるとしたらどんなのにするですか」

 シアンが温かいスープを飲み干してからエミに聞いてみると少し悩んだような様子を見せてからエミはぼそりと呟く。

 

「ドザエモン……」

 

 こんなにニックネームをつけないほうがいいと思ったやつはいない。

 なんで土左衛門なんだよ。水ポケモンにそれとか悪意あるのか?って思ったが顔を見る限りはそういう悪意は感じられない。本当にどういう気持ちでその名前つけようとしたんだ?

「僕のニックネームのセンスを肯定してくれた人は一人しかいないな……」

 その人もさぞニックネームセンスがぶっとんでいるに違いない。危うくドザエモンと名前をつけられそうになったアシマリはきょとんとしながらごろごろ転がっているのであった。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 さて件のエミを除いて俺、イオト、シアン、ゴウトでラバノジムへと向かった。相変わらず慌ただしく、というかそろそろジムトレにも疲労の色が見え始めたのか受付でぐったりしているジムトレが何人かいた。

 リーホさんも目に見えてため息が多く、今日のバイトについて説明する声も億劫そうだ。

「えー……イオトさんは昨日の依頼人からまた来て欲しいと要請がありますが……」

「えぇー、無理無理、なんで指名もらうかは知らないけど――」

「今日は他にサポートの女性もいるとのことで昨日よりは楽だそうです」

「いってきまーす」

 こいつ、本当に現金なやつだな……。

 横目で笑顔のイオトを見送りながら足取りの重いマリルリさんがそれについていく。チラッと俺たちを見たがイオトを放置するほうが怖いのかそのままイオトの方へと向かっていった。

「ええと、それでこちらの少年が……ああ、先日ジム戦の申込みに来てましたね」

「よろしくおねがいしまーす」

 ゴウトの確認もしたので今日の予定を聞く体制に入る。俺とシアンとゴウトでできる仕事だが……まあ人数揃ってるしなんとかなるか?

「今日はタヨタフラワーガーデンで起こった除草剤撒き被害による修復作業のお手伝いですね。これなら危険なことはないと思います」

 よかった。今日もお化け屋敷探索ですとか言われたらシアンが今度こそ地上波に流せないようなすごい顔で駄々をこねるところだった。

 アプリで場所を確認して現地へと向かうとこの町でも最大規模のタヨタフラワーガーデンの看板がすぐに目に映る。臨時休園中とあるが従業員さんに声をかけ、確認が取れたので中に入ってみると除草剤のせいかきっと普段ならとても色鮮やかな花が咲き誇っているだろう庭園は萎れ枯れ果て、従業員の人たちの物悲しい背中が見えた。

 きょろきょろと見渡してみせるが無事な場所はほぼないようでイヴもしょんぼりした様子で枯れた花を見る。

 ゴウトもシアンもノリノリで復旧作業をする気満々で、借りたエプロンと軍手をしっかり装備している。

 俺も借りて準備を整え、枯れてしまった花を悲しいが捨てようとしたその瞬間、妙に気の抜ける高笑いがガーデン内に響いた。

 

 

「なーはっはっはっ! タマゲタケがいると聞いて見参ッ!」

 

 

 自称魔女のサーラがなんでか高いところに姿を表して飛び降りた。あれ、えっと、なんだっけ。なんとかと煙は高いところが……。

 まあそれはさておきだ、タマゲタケというとゴウトのタマゲタケがまず浮かんだがちらりと見るとゴウトの足にしがみついておどおどしているので明らかに不審者のサーラに警戒心を抱いているようだ。そりゃそうだ。

「サーラちゃん、ちょっと今忙しいのであとでにしてね」

「あ、サーラちゃんだ。飴ちゃんあげるからいい子にしてて」

 慣れた様子の従業員さんがまるで子供をあやすようにサーラを引きずって園内の端に追いやるとサーラはムキになったのか地団駄を踏んでうぎー!と奇声をあげた。

「このー! 忙しいっていうんなら花でも咲かせりゃいいのかー!」

 取り出した謎の瓶をガーデンの中央に何やら怪しい煙を発生させた。なんだなんだと従業員たちが視線を向け、サーラは得意げに叫ぶ。

「そんなに花が欲しいならくれてやるー!」

 煙が充満し、視界がひらけたと思ったら土からぐぐっと芽が出てきて、まるで数倍速で撮られた植物の成長映像みたいに早く花壇に花が次々と増えていく。

 え、ポケモン魔法の一種なのだろうかこれ。だとしたら普通にすごい……すごい、が、いいことだけではない。

 従業員のモンジャラがもっさぁ……という擬音が似合うほどに成長し、ずるずると引きずってしまうほど伸び切っている。イヴも冬毛かと思うほどもっふもふになり、やばい、このままだと毛玉になると慌ててボールに戻すとあちこちで手伝っていたポケモンが異様に体毛が伸びたりして大変なことになっている。具体的にはナゾノクサの頭の部分の草が髪の毛かというほどに伸び、マダツボミが異様に縦長に伸びていたりだ。

 

「なーはっはっはっ! ポケモンの毛や体液から作った特性成長促進薬! どう? すごいでしょーが! わかったらアタシにさっさと色んな物を献上しなさいな!」

 

 傍迷惑を擬人化するとこういう感じかな。なんだか他人事のようにそう考えてしまう。

 どこかイライラしたように好き勝手やらかすサーラをどうにかしようと近付こうとしててんやわんやな園内に一陣の風が吹く。

 

 

 

 

「やあ僕のかわいいフロイライン(お嬢さん)。なぜそんなにも不機嫌そうな顔をしているんだい?」

 

 

 

 

 サーラの腰を抱いて現れたその人は凛々しくもどこか甘ったるい声を響かせる。まるで舞台の一幕のようにサーラを引き寄せ、手を取ったかと思うと甲にキスを落として囁きかける。

「どうか僕に教えておくれ。君が本当はいい子なのは知っているからさ」

「あひっ、あ、あ……あん、り……っ!」

 顔を真っ赤にしたサーラはあわあわと呂律が回っておらず、至近距離でその人を見ることになって目を回しそうなくらい焦っているのが見て取れた。

 あちこちでその人の姿を確認した女性従業員が黄色い悲鳴が聞こえてきてぼんやりとことの成り行きを見守ることにする。あそこに割って入る勇気はない。

 

 ――ラバノシティジムリーダー、アンリエッタ。通称花の貴公子。

 

 コンテスト会場とか中継とかで顔は知っていたが直接見るとこれがまたすごい顔がいい。女性人気が高い秀麗で怜悧な顔立ちは男の俺でも思わず少し見とれてしまうほど。それでいて背は高くとも女性らしさを残すスタイルのよさもあってまさに王子様という雰囲気だ。さっきからサーラを口説くような言葉回しもキザなのにどこか嫌味がない。

「いや、これは、その」

「うん?」

「たまっ、タマゲタケの胞子が欲しいからタマゲタケがここにいるって聞いて!」

 俺がちらっとゴウトを見るとタマゲタケも不自然な成長をして傘の部分が大きくなっている。バランスが取れないのかよたよたとしてゴウトに支えられる始末だ。

「うん、なるほどね? 君の気持ちはわかるがみんなを困らせるのは駄目っていつも言っているだろう? まずはごめんなさいをしてからきちんとお願いすること。いいね?」

「うっ、うう……はひぃ……」

 どうやらサーラはアンリエッタさんに弱いのか尊大そうな様子はなりを潜め、完全に乙女の顔をしている。

「みんな、災難だったね! しかし彼女のおかげで花も少しは彩りを取り戻してくれたようだからあまり責めないでやってくれ。彼女は僕が説得するから作業に戻ってね」

 女性従業員のきゃあきゃあという声を背にアンリエッタさんは目を回したサーラを連れ出ていこうとするがそんな二人をゴウトが引き止めた。

「あ、あの! 俺タマゲタケがいるんですけど!」

「ん? 君は……」

 見覚えのない顔にきょとんとしたアンリエッタさんが同行者である俺とシアンにも視線を向ける。

「ああ、もしかしてジムのバイト君たち? すごい助かっているよ」

 アンリエッタさんの横でサーラが「タマゲタケ……」と呟くがアンリエッタさんはそれを無視する。

「タマゲタケがいいなら彼女に胞子を譲ってくれると嬉しいんだけど――」

「どうだ、ダケのすけ」

 タマゲタケはしかたねーなという様子で大きくなってしまった傘を左右に揺らす。サーラは目を輝かせて瓶を取り出して胞子をその中へとしまい込む。

「さ、これで満足だろう? できればもう少し町のために協力してくれるならありがたいのだけれど」

 アンリエッタさんがサーラを諭すように言うが肝心のサーラはそっぽを向いてしまう。

「町のためとか無償奉仕なんて冗談じゃないよ。ま、せめてキュウコンの尻尾の毛が手に入るっていうんなら話は別だけど」

 キュウコン……と聞いて思わずシアンを見る。シアンも同じことを考えたのか端末を取り出して電話をかけ始めた。

「またそんな無茶を言って――」

 アンリエッタさんが窘めようとする横でシアンが通話相手に単刀直入に要件を言い、そのやり取りが俺の耳にも入る。

「もしもしアキコです? ちょっとばかし協力してほしーですよ。アキコのキュウコン、尻尾の毛とか譲ってくれねぇですか?」

 

 横で聞いていたアンリエッタさんとサーラも視線を向ける。うん、ちょうど知り合いにいるんですよ、キュウコンのトレーナー。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 その後、アンリエッタさんの計らいもあってアキコさんが来るまで別室で待っているとメイド服のままアキコさんがやってきてアンリエッタさんに頭をさげながらキュウコンをボールから出した。

 サーラはキュウコンを見るなり目を輝かせじりじりと距離を詰めようとする。

「特別ですからね」

 アキコさんも渋々、キュウコンも渋々通り越して苦渋の決断といわんばかりの嫌そうな顔でしっぽを差し出し、空気の読めないサーラは無遠慮に尻尾のの毛を採取し始める。ブラシで自然に抜ける毛をメインにもらっているようだ。ブラシ片手に9本の尾をべたべた触っている。

「わりーですね、アキコ」

「いえ、お役に立てるなら何よりですが……」

「にしてもなんでわざわざ尾の毛なんだ?」

 ゴウトが至極当然な疑問を口にし、傘の大きくなったタマゲタケが転がりながらゴウトの周りをうろちょろする。

 たしか尾にじんつうりきがどうとかそんなだった気がする。

「なんでキュウコンの尾が重要かっていうと! キュウコンの尾にはとんでもなく強い力があるからなのよ!」

 採取が終わったのか得意げに毛を詰めた瓶を掲げて聞いてもいないのに語りだす。

「キュウコン伝説っていうおとぎ話もあってね、人間をポケモンにする魔法はこの伝説から着想を得ているとも言われているわ!」

 ん? キュウコン伝説? なんか聞いたことある気がするが……。

「キュウコン伝説って……その、どんな話なんだ?」

 自分の知っているものと一致するか確認のために聞いてみるとサーラは得意げに胸を張って身振り手振りを交えて語りを続ける。

 

 

 

 

 

 昔々、キュウコンの尾をふざけて掴んだ若者がいました。その若者はキュウコンに千年のタタリをかけられそうになったが、パートナーであるサーナイトが身を挺して若者を庇った。

 キュウコンもサーナイトをかわいそうだと思い、若者に「サーナイトを助けたいか?」と問いかけたのだ。しかし若者はサーナイトを見捨て逃げ出してしまう。キュウコンは失望し、予言を残した。

「いずれ、あの人間はポケモンに生まれ変わる」

 

 それから時は流れ、若者はゲンガーへと生まれ変わり、享楽の日々を過ごしていた。しかし若者は何を思ったのかタタリを解くためにキュウコンの元へと向かい、キュウコンにタタリを解くように頼みます。

 しかしキュウコン自身もタタリが発動してしまったら制御ができず、代わりに闇の洞窟という場所ならどうにかできるかもしれないという情報を教えてくれます。

 それに従い、ゲンガーは闇の洞窟の奥地へと向かい、タタリを解くための審判を受けることになり、どこからともなく聞こえてくる声の問いかけに答えました。

 しかし、審判の声は冷たくタタリを解くことはできないと告げ、取り繕っていたゲンガーはようやく本心をあらわにしました。

 

 ゲンガーは泣きながら審判に訴えます。

 夢の中でサーナイトの声を聞いたのだ。またいつか会えるという自分を信じ続けるサーナイトの言葉。それを聞いてゲンガーは己を恥じ、自分の身勝手さを省みて、自分似たりなかったものは感謝の心だと罪を告白します。

 

 すると、タタリは解け、ゲンガーの前には倒れたサーナイトが現れました。

 いつの間にかキュウコンが現れ、ゲンガーに一つ確認するように告げます。

 

「サーナイトは以前の記憶は消え、お前が誰かもわからないだろう。それでも、いいか?」

 ゲンガーはその言葉に迷いなく頷き、ただサーナイトが無事に戻ってくればそれでいいとまっすぐな目で答えます。

 

 

 その後、記憶のないサーナイトは首を傾げつつもゲンガーにお礼を言いました。

 

「見知らぬ方、どうもありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか」

 

 ゲンガーはその言葉に少し寂しそうに笑ってサーナイトを見送りました。その背が見えなくなるまでずっと。

 

 

 

 

 

「とまあ、おとぎ話にすぎないけど、ここで重要なのはポケモンに転生するという点!」

 語り終えたサーラが早口で何やらまくしたてているが俺の耳には届かない。それよりも重要なことがあった。

 やはり俺の知っているキュウコン伝説と大筋は変わらない。そう、前世のポケダン*1でのストーリーにあったおとぎ話だ。

 しかし、キュウコン伝説にプラスでサーナイトの呪いを解くくだりも含めてここではおとぎ話として流布しているということになる。この世界は、ポケダンの世界とも関係あるのだろうか?

 考えてもわかるはずもないので、今度この世界におけるおとぎ話とか創作物を一度ちゃんと調べるべきだなと決意する。きっとここはゲームの世界とは似て非なる何かだ。

「さて、嬉しい気持ちはわかるが、これで町のために協力してくれるよね?」

「しょうがないなぁもう! この大魔女サーラ様がちょちょいのちょいっと解決してあげるわよ! なんたってアンリエッタのお願いだし?」

 調子が良いやつだなこいつ。

 何を頼まれたかはわからないがきっと各地でイタズラ被害による事件の復旧作業を手伝いに行っただろう。落ち着いた部屋で仕事に戻ろうとするアンリエッタさんを改めてじっと見るとびっくりするほど顔が整っていて同じ人類とは思えない。生まれついての美形は色々得でいいなぁ。俺地味だし。

「うん? 僕の顔になにかついているかな?」

 俺がじっと見ていたからか見つめ返されて思わずドキッとする。かっこいいのだがどこか女性的な雰囲気もあって魅力に抗えない。

「あ、いや、なんというか、真面目なんだなぁと」

 ケイやナギサとも違うまともな人感があって安心する。少なくともいきなりムラハチにしてくるような人ではないことだけは確かだ。

 明らかに怪しいサーラにも比較的穏やかな対応で諭していたし。

「そういえば、俺てっきりイタズラの犯人はあいつだと思ってました」

「うん? なぜそう思ったのかな?」

 不思議そうにアンリエッタさんが目を細める。柔らかい声はついつい話したくなってしまう謎の魅力がある。

「だってあいつ、自分勝手だし俺の手持ちの毛も無理やり毟っていったし」

「ああ、そういえばそんな報告もあったね。僕からもきつくいい含めておくよ。でもね、彼女はこの悪戯騒動の犯人ではないのは確かだよ」

 断言する声は少しだけ硬い。しかしなぜか不自然に笑顔だけは絶えず、一息置いてから淡々と事実だけを述べる。

 

 

「だって僕の自慢の庭に除草剤を撒くなんて真似、ラバノの人間なら死んでもやらない所業だからね」

 

 

 その言葉にシアンとアキコさんが「ひえっ!?」と悲鳴をあげる。

「あ、アンリお姉の庭に除草剤……!?」

「しょ、正気ですか犯人は!」

 二人ともガクブルと震えるほどのことなのかとゴウトに視線をやる。ゴウトも詳しくわからないようだが端末で検索をかけたところどうやらラバノ民と愛好家たちの間では有名な話であることが伺えた。

 

 ラバノでも有数のセレブであり、自慢の庭は愛好家が一度は見たいと思うほどに美しく一年中咲き誇るとされている。華祭りのときにも一般開放する予定だったようで相当な人気が伺える。

 そんな庭に、除草剤。よほど恨みを買うか何も知らない外部の人間がやるかの二択。そしてあちこちに似たようなイタズラもあるため恐らく後者と推測しているらしく、アンリエッタさんの顔はニコニコしているが目が笑っていない。

 

「やべーですよ。百合物に汚いおっさんを入れるような所業ですよ」

「そのたとえはよくわからないけどとにかくひどいってことだけはわかった」

「ともかく」

 仕切り直しとでもいうように少しだけ強い声でアンリエッタさんが言う。

「彼女は僕にそういったことを一切しない。これだけは確証を持って言えることだ。だから一連の騒ぎは……想像だがレグルス団の仕業だと僕は見ている」

 

 レグルス団、という言葉に思わず反応する。それに気づかれたのか、アンリエッタさんはまるで牽制するように俺に言った。

 

「頼むから、一市民でいてくれるよね?」

 

 その言葉には「余計なことはするなよ」という意味が含まれているような気がした。

 

 

 

*1
不思議のダンジョン、青の救助隊・赤の救助隊




注釈機能面白いですね。有効に使えたらいいなぁ

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