新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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ドキドキラバノシティの事件簿 その2

 

 ヒロたちがホラー体験をしていたその頃、ラバノシテイのとある施設にて腰の曲がった老婆が依頼で訪れたイオトを出迎えた。

「おお、ようこそお越しくださいました……依頼した内容なので説明は省きますがどうか子どもたちを見てくだされ」

「はーい、安心してください。俺、子供大好きですから」

 老婆は子供は可愛いですよねぇ、と穏やかな顔をしつつも腰が痛いのか時折歩きづらそうにしている。

 

 依頼内容は至極簡単、孤児院で子供のお世話である。

 今ラバノ中で謎のいたずら騒ぎや不審な事件が多発しており、その影響でいつも子どもたちの世話をしている者が三人揃って怪我をしたとかで急遽人手を求めて依頼してきたらしい。

 3人に気づかれず、この依頼をもぎ取ったイオトは下心しかないのだが院長の老婆は見てくれの爽やかな好青年に惑わされすっかり安心しきっていた。

「こちらになります。私は厨房にいるのでなにかありましたらそちらに」

 老婆に案内された部屋にウキウキで入るがすぐさまにその顔色は変わる。

 

「なんかきたー!」

「きたぞー! やっちまえー!」

 

 入ってくるなりまだ10歳にも満たないような少年たちがボールやらを投げつけ、終いにはポケモンが技を放ってくる。イオトがびっくりしてのけぞっているとボールから勝手にマリルリさんとゴドルフが出てイオトを庇う。

「うわ、かっけーポケモン出てきた!」

「マリルリだー!」

 少年たちはイオトに関心を失ったのかすぐさまゴドルフに集り、痛くはないだろうが硬い体を叩いたり落書きしたりと散々玩具にされ、反撃するわけにもいかないゴドルフはおろおろとイオトを見る。

 マリルリさんにもみんな集まっているがこちらは体をぷにぷにつついたり耳を引っ張ったりでだんだんマリルリさんが苛ついているのがイオトでも察せられた。

「こ、こいつら……!」

 見渡す限り男。最高でも10歳くらいだろうか。部屋にいる子供は全員男。気が弱いのか近寄ってこないのも含めても男しかいない。

 さすがにずっとやられっぱなしでいるわけにもいかないので子供をゴドルフから引き離してやると、ゴドルフの体にはすっかりよくわからない落書きまみれになっており半泣きである。

「ポケモンにひどいことすんなって教わってないのかよお前ら!」

「ひどいことしてねーし」

「そーだよ遊んでるだけじゃん」

「おっさんが怒ったー」

「おっ……!?」

 童顔で若く見られることのほうが多いイオトにとっておっさんという言葉はずいぶん衝撃的だったのか、言葉を失って眼鏡がずり落ちる。

「うわすっげー。ボールみてー」

 そんな中、マリルリさんがまるでゴムマリのように丸くなって跳ね、部屋中を蹂躙する。よっぽど我慢の限界だったのかかなり無差別だ。

「マリー落ち着け! ちょっ、待っ、こっちくん――」

 

 顔面にマリルリさんを食らったイオトはゲラゲラと笑う子どもたちの声を聞きながらスッと真顔になった。

「……女の子もいねぇ……悪ガキばっか……くっそ……もう猫被りは止めだ……」

 安全のためか眼鏡を外したイオトは据わった目で自分を馬鹿にしてくる子どもたちに怒鳴る。

 

「お前らその根性叩き直してやるからなぁ!」

 

 キレたイオトが男子軍団を躾けようと本気になったものの、子どもたちの容赦ない遊びという名の大暴れにイオトも手持ちたちも振り回されるのであった。

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 一方その頃のエミはというと……

 

 

 

「慎重にやるザマス」

「へーい……」

 ラバノの富裕層の住宅街、の近くの公園。

 化粧厚めの30代くらいの女性が後ろでエミを見守りながらニャースを抱えている。

「アローラ地方から取り寄せた貴重な卵ザマス。ヒビ一つつけるんじゃないザマスよ」

 

 依頼内容、野生のポケモンに奪われた卵を取り返せ。

 

 室内で大切に孵化装置で世話をしていた卵をほんの一瞬目を離した隙に野生のポケモンに奪われてしまったのだと。居場所を突き止めたまではいいが夫人はポケモンバトルなんてできないししたくないということで使用人から依頼が送られてきたのだ。それも緊急で。

 実際、難易度はなかなかに高い。野生のポケモンは公園の真ん中あたりに位置するそこそこ大きな樹を巣にしたニューラの夫婦らしい。

 この辺ではまず出ないであろう野生のポケモンということもあって近頃のイタズラの一環ではないかと予想されているが今はどうでもいいとしよう。

「とりあえず……っと」

 樹を登っていくとどうやら鳥ポケモンの巣を奪ったのか素の中に卵が置かれている。が、肝心のニューラがいないのでそのまま手を伸ばし、思ったより早く片付いたなと安堵していたところで背後からの襲撃を受けた。

 ニューラが二匹、足場が悪いので落ちたら最悪卵が割れる。先に降りて卵だけでも夫人に渡すべきかと考えてパチリスとコジョンドにニューラ二匹を任せて慎重に樹を降りようとする。

 だが、敵がニューラ二匹だけだと侮っていたからかオニドリルがエミの存在に気づくなり、「ギーッ!」という鳴き声とともに襲いかかってきた。

「ちょっ、やめろこのっ!」

 恐らく本来の巣の主なのだろう。自分の巣から何かを奪ったと思われたのか攻撃は激しくなる。

 その瞬間、足を滑らせてヒュッと喉の奥から変な声が出たエミは一か八か卵を高く上に投げてサーナイトをボールから出した。

「サーナイトッ!」

 瞬時に理解したサーナイトは落ちるエミをねんりきで地面に激突する前に浮かせ、高く舞い上がった卵もねんりきでエミのほうへとゆっくり誘導していく。

 とりあえず卵にヒビなどもないので安心したエミは手にしっかりと受け止めたのを確認し、浮いた状態を解いて貰おうとしてサーナイトを見た。

「ギャッ!」

「サナッ!?」

 放置していたオニドリルがサーナイトに攻撃し、びっくりしたサーナイトが思わず集中力を切らした。その結果もたらされるものはなにか。ねんりきがまだ浮いたままの状態で解除される。

「まっ――」

 両手は卵で塞がっており、他の手持ちを出せない状況でとにかく卵の死守だけはと必死に抱えたエミは土煙とともに地面へと落下した。

 

「だ、大丈夫ザマス!? 卵、卵は!?」

 

 夫人はオニドリルがいるせいで近づくことはないが、遠くから卵を心配する声だけはエミにもはっきりと聞こえた。

 落ちた衝撃で体は痛いがどこかのヒロのように骨折とかはしていないようで、安心すると同時に卵の状態を確認してヒビ一つない卵をそっと撫でる。

 

 だがその瞬間、ピシッという音がしてエミの顔もこわばった。

 ピシッ、ピキッという卵が割れる音。慌てて起き上がったがもう遅く、エミの手の中で卵は弾け、中から元気なポケモンが飛び出してきた。

 

「あしゃまー!」

 

 少し小さめのアシマリが飛び出るなりエミをじっと見てぱあっと目を輝かせ、嫌な予感しかしなくてエミの顔色が青くなっていく。

「まーまー」

「違う! お前の主人あっち! 僕じゃないからな!」

 くっついてきたアシマリを引き剥がそうとするが夫人が鬼のような形相で飛んできてエミを怒鳴りつける。

「割らないでって言ったのになにしてるザマスか!」

「割ってない! 生まれちゃったんだよ!」

「どう責任取るつもりザマス!? アシマリちゃ~ん、ママでちゅよ~」

「しゃまっ!」

 ぷいっと夫人を相手にしないアシマリはすっかりエミに懐いており、事態が好転しないことだけは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 シアンとともにラバノジムに戻ると相変わらず忙しそうに色んな人が駆け回っており、リーホさんはエナジードリンクを飲み干しながらため息を付いていた。

「あのー……」

「ああ、おかえりなさい……リコリスさんから一部伺っています……」

 あの人もそういうところしっかりしてるよなぁ。

 とはいえ一応俺も報告と、あと証拠になりそうなものを渡すとリーホさんも険しい顔でそれを確認した。

「なるほど……わかりました。この件に関しては大丈夫です。報酬をお渡しします。

 白い封筒を手渡され、あっさり片付いたのにこんなにもらっていいのかと思っているとリーホさんが眉間を抑えた。

「リコリスさんから『本物の心霊スポットに素人送っちゃ駄目よ~』と注意されまして……こちらも確認が甘かったので迷惑料も兼ねています」

 ちょっとものまねがうまかった。後ろでノクタスもシャンデラの真似をしているのかポーズを取っている。

「一応他にできることあったらやりますけど……」

「いえ、少なくとも今日は大丈夫です。あとは他の報告待ちなので。明日また増えてるかもしれないのでもしよければ明日もお願いします」

 俺らはともかくリーホさんは計り知れない仕事量なんだろうなぁと思うと心配になってくる。そんな中後ろでシアンがクルみを高い高いしてからリーホさんのノクタスに渡して高い高いを再び繰り返している。呑気か。

「あ、そういえば」

 今日のこの後の予定を考えていたらすっかり頭から抜け落ちていたことを思い出してカバンからそれを取り出した。

「あの、キスミ博士の研究所ってどこにあるかご存知ですか?」

 スフェンさんからもらった紹介状。中身はあけないよう言われているので住所とかがわからず、まだ確認できていなかったのだ。ジムトレだしこの街に詳しいだろうからリーホさんなら知っているはず。

「あら、キスミちゃんの研究所? それなら住所と地図書くけど……今確か留守って聞いたような」

「留守?」

「なんでも、アーサー……失礼、ジムリーダーの兄から連絡があって、どうやら何か仕事を受けたらしいのよ。それで今研究所を空けるとは聞いたけどいつ戻ってくるとかはさっぱりで」

 タイミングが悪いときに来てしまったようだ。まあ仕事なら仕方ないしさすがに滞在中には会えるだろう。

 とりあえず場所は把握しておきたいしどうせこの後予定はないから研究所に行ってみよう。住所と地図をゲットしたのでノクタスと遊んでいるシアンを引きずってラバノジムを後にした。

「そーいえばアンリお姉に結局会えなかったですよ」

「やっぱ忙しいんじゃね?」

 リーホさんですらあんなエナドリキメてるくらいだしその上とか考えるだけでハードスケジュールに決まっている。

 そのまま表向きは平穏なラバノシティを歩いているとカフェとかオシャレな店の中にイヴが興味を示した草タイプ向けのポケモンランチをメモして今はしょんぼりしたイヴをなだめて研究所へと向かった。

 研究所と思しき場所は遠目からでもすぐわかった。オシャレな建物の中にぽつんと無機質な白い建物が研究所という看板を掲げている。

 そこには先客がいたようでうーん、と困った顔をしている少年。

「あれ、えっと……ゴウト?」

「ん? あ、ヒロじゃん!」

 先日偶然ポケセンで中継を共に見ていた少年のゴウトが研究所の前に立っており、俺を見るなりイオトとは違う純粋な爽やかスマイルを浮かべた。

「お前もキスミ博士に用? なんか研究所開いてなくってさー」

「ああ、なんか留守らしいぜ。俺は場所確認しに来ただけだから」

「あっちゃー……花祭り終わるまで戻ってくっかな……」

 足元のヒコザルがむきーっと行き場のない怒りを地団駄を踏んで発散している。無駄足になったからだろうか。

 イヴが俺の後ろに隠れ、ヒコザルがつつこうとしてくる中、ゴウトは言う。

「お前らもやっぱり華祭り期間はいるだろ? ジムも予約いっぱいで俺もしばらく滞在しようと思ってるんだけどここ物価高いんだよなぁ……バイトするか……」

 世知辛い事情が見え隠れする。そうだよな、俺より若いし貯金とかそんなたくさんないのが普通だよな。

 ふと、人手が足りてないラバノジムを思い出してゴウトの手持ちを見る。まだ進化していないヒコザルとタマゲタケ。あとほかは手持ちがどうかは確認できていないのだがゴウトも一緒にラバノジムの手伝いができれば両者共に得になるんじゃ?と考える。

「バイトなら紹介してみようか?」

「えっ、マジ?」

 すぐにリーホさんに電話をかけると少しのコール待ちの後死にそうな声が聞こえてきた。

『何かありましたか?』

「あ、すいません。知り合いのトレーナーがバイト探してるみたいなんですけど一緒に協力してもらっても大丈夫ですか?」

『こちらは構いませんが……その方、ジムバッジはいくつほど持っていますか?』

「えーっと……ゴウト、お前バッジいくつ持ってる?」

 一旦ポケフォンから顔を離して首を傾げているゴウトに尋ねると得意げに胸を張られた。

「聞いて驚け! なんと……! 二つ!」

「二つ」

 なんというかこう……びっみょうな数である。いや俺も新米だし四つあるとはいえちょっと特殊だから二つは別におかしいことでもないのだろうか。

『二つですか。それはすごいですね。採用です』

「マジですか!?」

 アマリトって二つですごいと言われる地方なのかよ。

 とりあえずリーホさんに確認は取れたので通話を切るとわくわくしたゴウトに向き直って「採用だってさ……」と言うとゴウトはヒコザルと共にハイタッチして喜んだ。

「マジで感謝するわ! いやー、バイトって最初の面接がダルくてさー。あっそうだ。お前らどこのポケセン? 俺もそっち合流するから!」

 ノリというかフットワークが軽いゴウトにバッジ二つですごい扱いされる事実がまだ納得できなくて思わず微妙な顔になってしまった。

 するとシアンがくいくいと裾を引っ張って耳打ちしてくる。

「うちの地方は今ジムの難易度が過去最高って言われてるせいで二つ取るだけでも結構大変ですよ」

「そうなのか……」

「だって少なくともケイとナギサちゃん除いたらあとの6人の一人に認められるってだけでハードルたけーですよ」

 それもそうだな。最初の二人は俺が運よかっただけで人によっちゃ最初にコハクにぶちあたるんだからそう考えると本当にすごいことなのかもしれない。

 脳裏に浮かぶのはリコリスさんとかコハクとかユーリさんとかの明らかにやばい人たち。いやまともな部分もあるんだろうけどバトルに関しては全員妥協しなさそうだし。

 すると、研究所の方からガサッという物音がして三人揃って振り向くと白衣をまとった人影が庭にあたる部分で転んでいた。研究所の関係者だろうか。

「あっ、もしかして助手さん? ちょうどよかった、キスミ博士はいつ頃――」

 ゴウトが物怖じせず声を掛けると白衣の少女――いや、よく見たら昨日ぶつかったあのぐるぐる眼鏡の子だった。

 少女は俺たちに気づくなりそそくさと研究所の中へと入っていった。やっぱり助手のようだが妙にそわそわしている。結局相手にしてもらえなかったしまた後日出直そうとゴウトを連れてポケセンに戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戻ったら今にも昇天しそうな真っ白なイオトとマリルリさんがソファにもたれかかっており、めそめそと落書きだらけのゴドルフが自分の体を綺麗にしようと布でごしごししており、なんだかとっても哀愁漂う姿だった。

 エミもなぜかアシマリに擦り寄られながら机に突っ伏しており、サーナイトがなぜか赤ん坊をあやすための玩具みたいなのを手にしてアシマリを抱っこしようとしていた。

 見事に二人とも死にそうだったのでしばらくそっとしておいた。きっと辛いことがあったのだろう。

 

 というかお前ら明日もバイトあるけど大丈夫? 

 

 

 

 

 

 

 




サーナイトさんはヒロイン。おねショタから相棒までこなせるから当然だね。
もし次人気投票と同時に真のヒロイン投票したら誰が選ばれるんだろうね……ってくらいリジアの出番が怪しい

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