新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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前話の裏で起こってたこと

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自業自得と因果応報

 

 かつて、愛しの弟子はこんなことを言った。

『師匠。どこにいても私が困っていたら助けてくれる?』

 ごめん、レモン。どちらかというと俺のほうが困ってる。

 ていうかマジで助けて。電話に出て。

「ねえ、聞いてるの!? 本命いないなら責任取れって言ってるの!」

「ほらきっとすぐに生まれるわ! ラーガ君の目と口と足の数にそっくりな子が生まれるわ! ねえゲコっち!」

「げこー!」

 女二人とニョロトノに迫られて逃げ場がない。

 

 ――どうしてこんなことになったのか、それは数日前に遡る。

 

 

 

 マリルリさんが病院のナースさんの手持ちと仲良くなり、それがきっかけで仮称A子と呼ぶことにするが、とりあえず遊びというか、最近女の子との楽しみがなかったのでちょっと手を出してしまった。

 もちろん、面倒事はごめんなのでワンナイトということで遊びのつもりだった。A子もそれを了承した。

「イオト君……私達、相性いいと思わない?」

 逃げました。

 いやーきつい。遊びだって言ってんのになんで本気になるかな。

 しかししくじった。よりにもよって相手はナース。ヒロのいる病院に一切近づかないわけにもいかないしグルマを離れるのもあいつから目を離すことになってできれば避けたい。

 そんなこともあって病院も最低限に、他に人目のつかない場所――まあその、つまるところここで新しく出てくるB子の家にお邪魔していた。

 B子はA子と違って遊びをちゃんと理解している。そういう安心感もあってたびたび世話になっていたがさすがにA子も鬼電はかけてこないしそろそろ見舞いに行っても大丈夫だろう。

 ポケフォンの充電がいつの間にかほとんどなくなっていたので充電をしたまま病院へと向かい、ポケセンに置いていたアークやガリアを回収してからマリルリさんとヒロの様子を見に行こうとしたところで――A子とB子に待ち伏せされていた。

 

「ねえ、なんで逃げた挙げ句他の女のところいってたの? 一緒になりましょうよ」

 

「あのね、ゲコっちがタマゴ持ってたの。これ、イオト君のラーガ君との間にできた子だよね」

 

『責任とって』

 

 きっっっっっっつい。

 ラーガのやついつの間にタマゴなんてこさえてやがった。誰に似たんだ。ていうか相手ニョロトノだぞ? 嘘だろ。

 ボールの中のラーガを見るとものすごく焦ってはいるが否定はしていないので身に覚えはあるらしい。こういう別のトレーナーの手持ち同士の間にできたタマゴって扱いが面倒なんだってば。

 二人揃ってマジになられてもうどうしたらいいんだこれ。遊びだって一番最初に言ったじゃん!了承したじゃん! これだから長居するのは嫌なんだよ!

 え、これ俺が悪いの? いや確かになあなあなところはあったけど最初に本気にならないって言ったじゃん。それで責任取れは暴論過ぎないか?

「その……俺本命いるから……」

「嘘つかないで」

「本命がいるなら遊ぶはずないでしょ」

 うーん、説明が難しい。

 いやだってレモンは相手にしてくれないし、そもそも恋人とかそういうのではないから浮気とかでもないんだけど俺にとっての一番はレモンで……ああ、もう面倒くさい。

 とにかくレモン以外と付き合うつもりはない。そう説明しているのだが――

 

「なら本命とやらを連れてきてよ!」

「証拠もないんじゃ逃げようとしてるようにしか思えない」

「げこー」

 

 誰か……助けてください。

 

 

ポケフォンは置いてきたので助けを求めることすらできない。もうこの際シアンとかでもいいから茶番に付き合ってくれるやついねぇかな……。

 

 

――――――――

 

 

 ――時間は少し遡る。

 

 エミは久しぶりにポケセンの宿泊ルームに戻っていた。仕事とやらで不在だったのだが特に変わりないイオトの荷物が散らばっているのみだ。ヒロがいないので野郎二人の相部屋だが元々あまり二人でやり取りするほど仲がいいわけでもなく、ヒロの入院中も同じ時間に同じ空間にいることのほうが少ない。

 イオトは出かけているのか手持ちが入ったボールもなく、エミは部屋をぐるりと見回してあるものに気づいた。

 ――イオトのポケフォンが無造作に置かれている。

 それはちょっとした邪心だったのだろう。コードが繋がったポケフォンを引き抜く。自分の端末とは違うせいか、手のひらの上でベタベタと触るのを繰り返すのみ。サーナイトが見かねてボールから飛び出して電源ボタンを教えるとようやく画面が点灯してパスワードの入力を求められた。

「さな……」

「なんだよサーナイト。やめろって言いたいの?」

 勝手に見ようとしたのがバレたら大変だとサーナイトは訴えるがエミは知らん顔してパスワードを解こうとする。

「誕生日とかが鉄板なんだっけ? えーとあいつは確か……」

 画面の数字に触れようと指を伸ばす。数字に触れると同時に画面がフリーズし、しばらくして妙な音とともにプツンと画面が真っ暗になった。

 ――故障した。

「えっ、嘘だろ!? またか! またこれか!」

 ただ機械に触っただけで謎の故障。幼い頃から原因は不明だがまるで呪いのように機械と相性が悪く研究者である父親に「お前絶対小生の仕事手伝えないな……」と呆れと困惑の言葉をかけられたほどだ。

 サーナイトに代筆のようにメールや調べごとを代わりによくしてもらうが最近は自分でもたまにできるので油断していた。サーナイトが止めたのはこれも理由の一つだったのだがそれはさておきだ。

「まずい……とりあえず元に戻して――」

「えっちゃーん、帰ってきてたですかー?」

 ノックもなしにシアンが入ってきて、イオトのポケフォンを持ったところをばっちり目撃された。

 挙動不審になるのを必死で抑え、冷静を装う。

「あ、シアン……病院行ったのかと思ってた……」

「今日は病院いかねーですよ。ところでえっちゃん。それ、イオ君の忘れ物です?」

 示されたのは手にしているポケフォン。そうだ、忘れ物。それだ。

「う、うん。ドジだね、忘れるなんてさ」

「まったくー、困ったさんですよ。えっちゃん、イオ君に届けてあげるといいです」

「え゛」

 忘れ物便乗がいけなかったのか、余計に追い込まれている気がする。

 こんなの直接渡したらバレるに決まってる。しかしシアンに見せるのもバレるだろう。

「そんな嫌ならボクがついでに行って――」

「あー! しょうがないなー! 行ってやるかー!」

 シアンを置き去りにしてポケフォン片手に部屋から飛び出る。やけくそだ。どうせ病院あたりにいるだろうしイオトにバレないようにミッションコンプリートしてやる。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 とは意気込んでみたものの、まったく方法が思いつかず、エミは病院についてしまった。

 とりあえずヒロのところにいってそこにこっそり置いてマリルリさんに拾ってもらうかと考えたところで妙に騒がしい事に気づいてそちらに視線を向ける。

 なんか……すっごく見覚えのあるクソメガネが女二人に詰め寄られている。

 大方予想はつくけど、女関係で揉めているんだろうなということだけは確かで、今のうちに病室にと隠れながらその場を離れようとする。

 が、最悪なことに前から足を悪くした患者がきて道を塞がれ、先を譲ったその一瞬でイオトに見つかるという大失態。あいつ、運がいいのか、それともよほど助けを求めていたのか。

 僕は知らない。関係ない。こっちくんな。ていうかマジでやめて、僕はそれどころじゃない。

 

 僕の気持ちなんて一切推し量ることないイオトは大股で近づいてきて乱暴に腕を掴んだかと思うとそのまま引き寄せて両肩を抱いて女二人に僕を示した。

 

「こいつが俺の本命、です……」

 

『は?』

 

 眼前に立つ女二人と揃って素っ頓狂な声が出てしまい、真後ろで両肩を掴んでいるイオトを見ようと振りむこうとする。しかし、耳元で「ちょっと黙って協力しろ」と切羽詰まった声で囁いてくるので渋々前を向いて状況を見守る。

「は? 今呼べないんじゃないの?」

「いや、来てくれたみたいでさ……」

「本当に本命? 逃げようと適当な子に付き合わせてない?」

 ねえ、君たちここ病院なんだけど何修羅場してるんだよ。

 とは言えないので無言でいるが口論は終わる気配がない。というか僕は女と間違われることはもう慣れているしそこに拒否感はないのだが、イオトに便利に利用されるのはなんだか無性に腹が立つというか、今自分がこいつの彼女扱いになっていることが気持ち悪くて無理だった。

「あーもう! いい加減にしなよ君たち! 僕は男だ! だから君たちに関係ない!」

 一人でどうにかしろ、とイオトを睨む。自分の修羅場くらい自力でどうにかしろ。

 が、なぜか女二人の目つきが変わった。

「……男って……」

「つまり……そっち……?」

 怪訝そうにイオトを見つめる二人。イオトはダラダラと汗を流しながら苦渋の決断とも言いたげな声で「いや……これはその……いや……俺はそうじゃないんだけど……その……なんだ……」とぼやいてる。こいつ、逃げたいあまりに正気を失っている。というか僕を巻き込むなって言ってるのになんでわからないのこいつ。

 

「ホモなのに私を弄んだってこと!?」

「馬鹿にしてるの!?」

 

 どんどん嫌な方向へと向かってるのだけはわかる。逃げたい。なのにイオトが両肩を強く掴んで放さない。こいつ本当にクズ野郎だな。

「ち、ちが……いやその、本命とは言ったけどホモとかそういうつもりじゃ――」

 僕が男だと言わなければよかったのだろう。イオトは完全に計画とは違う方向に話がいって混乱している。

「あんたが誑かしたのね!」

 そして矛先は僕にまで向いてくる。

「違う! まず僕はホモじゃない!」

「イオト君の片思いってこと!?」

「ホモから離れろォ!」

 僕の話は最初から聞いていないのか、女二人は完全に僕を敵として見ている。イオトも「やっべ完全にミスった……」とかほざいている。こいつほんと今すぐ死んでくれ。

「許さない……」

 女二人とついでにニョロトノの執念ともいうべきか。恐ろしいほどの殺気を放って僕らを睨んでいる。

 

 ――逃げないとやばい。

 

 まるで図ったように同時に駆け出し、僕とイオトはそのばから逃げ出した。

「お前ほんっとふざけるな! なんで男って言ったんだよ! 使えねぇな!」

「君こそふざけるなよ! 僕を巻き込んで挙げ句ホモって!」

 後ろを見ると鬼のような形相で追いかけてくる女が見える。とにかく逃げなければ――

 

 再び前を向くと、泣きじゃくっているマリルリさんがこっちを睨んでいた。

 

「マリルリさん!? え、ちょっと待ってなんでこっちに――」

 イオトが足を止めてしまい、そのアホさ加減に思わず気を取られる。

「馬鹿、止ま――」

 マリルリさんが一瞬でこちらに距離を詰め、ばかぢからでイオトもろともふっとばされ、壁に激突する。

「マリルリさ……」

「ようやく追い詰めたわよ! 覚悟しなさいこのホモ野郎!」

 胸倉掴まれてビンタから入り、壁に叩きつけるコンボまで入っている。ガチでキレていらっしゃる。

「ちが、ホモじゃないってば!」

「じゃあ責任取りなさいよおおおおおお!!」

 僕だけでも逃げようとしたがもう一人に袖を掴まれて逃げられない。力も普通の女とは思えないほど強い。完全に火事場の馬鹿力発揮してるやつじゃん!

「僕無関係! 無関係だってば――」

「この泥棒ニャース! 男のくせに! 男のくせに!」

 誰が泥棒ニャースだよ! 髪を引っ張るな! 周りは野次馬だらけで誰も助けてくれやしない。

 四人と一匹のニョロトノがもみくちゃになっているとその場には不似合いな呑気な声が割って入ってきた。

 

「はいはい、何? 喧嘩? 痴情のもつれ? 何にせよ病院で暴力沙汰は駄目だって」

 

 ジムリーダ・コハクがこんなところに何の用かは知らないが、イオトの相手である女二人に声を掛けると、二人は半泣きでコハクに泣きついた。

「コハクさーん! こいつが! ホモなのに! 私のことを弄んで!」

「ホモを理由に捨てられたんです!」

 百歩譲ってイオトがホモなのは構わないけど僕を巻き込むな。

 するとコハクがちょっと困ったような顔で僕らを見る。そうだ、ホモじゃない。これはちょっとしたトラブルなんだ。

「……え、あ……君たちそういう……」

 妙に納得したような顔でうなずくコハクに『違う!』と言葉がハモる。決してわざとではないがコハクには仲がいいという風に写ったのか「あーはいは……」と軽く流される。くっそ……なんでだよ。

 しかしどうにかコハクのとりなしで円満とまではいかないがなんとか修羅場は解決し、去り際に「死ね!」と「痔になれ!」という捨て台詞をされた。

 それにしても、人望というか、信用はされているのか恐ろしいほど早く解決して、ちょっとだけコハクへの評価を改めることとなった。ヒロの一件さえなければ本当に頼れるジムリーダーではあるんだろう。

「……その……まあ今は理解もある世の中だしアタイがとやかく言うことじゃないけど……節度を持ってさ……」

『だからホモじゃないって言ってるだろ!』

「ちなみに後学のために参考にしたいんだけど、どっちが挿れるほう……?」

『人の話を聞け!』

 結局コハクもなんで病院にいたのかわからないが彼女のおかげでなんとか無事に帰れるのでどうでもいい。

 ……そういえば僕、何しに来たんだっけ?

 ポケットをごそごそと漁るとイオトのポケフォンがある。あ、そうだこれどうしよう。

「何してんだ?」

「あ、いや別に」

 今出したらさすがにバレるだろうしどうしたものか。ヒロの病室に行く流れじゃなくなったし本当にどうしよう。

「……なあ」

 イオトが眉根を寄せて顔を寄せてくる。顔が近すぎて思わず後ずさった。

「な、なに」

「……お前……顔はかわいいよな」

 ぞわっと全身粟立った。あまりの気持ち悪さと恐怖でとっさにイオトを殴っていた。

 本能的行動だ。僕は悪くない。誰だってそうする。

「いっ――」

「気持ち悪いんだよクソメガネ!」

 殴ったものの、あまりダメージはなかったのか隙ができたその一瞬でポケットの中身を奪われ、見下ろされる。

「……なんで俺の持ってんの?」

「…………」

 誤魔化し方が出てこない。こういうときアドリブ力が欲しい。

「てへ」

 とりあえず適当にごまかしてみたけど殴られました。意外と痛いなこいつ!?

「不自然なんだよ! つーかお前人のポケフォン勝手に触った挙げ句壊しやがったな!?」

「わざとじゃないし! 置いとくほうが悪いんだよ!」

 

 そのまま取っ組み合いの喧嘩になったが、最初こそ体格差でイオト優勢かと思われたのは本当に最初だけで体力差で僕が勝ったものの、何も得られない虚しい喧嘩として幕を閉じた。

 

 

 

 その後、なぜかホモの噂が定着したらしく、イオトはこの町で女遊びはできなくなり、僕も変な男に変な目で見られることが増え、ヒロの退院を願うばかりだった。

 

 

 

 




なぁにこれぇ(なぁにこれぇ) 作者はホモじゃないです。
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