新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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嵐の前の静けさ

 

 

 イオトから押し付けられた映画をシアンや手持ちたちと見ているとナースさんが届け物を持ってきてくれてビデオを一旦止める。

「あ、これ言ってたカタログか。って結構分厚いな!?」

「おー……これは見ごたえありそうじゃねぇですか」

 てっきりメガストーンのカタログだしペラペラの薄いやつかと思えば下手したら週刊雑誌ほどの厚さだ。これはちょっとワクワクする。

「こんなに量あるのかー! リーフィアストーンとかあったらどうし……」

 ぱらぱらと流し見がてらページをめくってぽかんと口を開けたままあることに気づいて落胆の声が漏れる。

 

――めっちゃメガシンカデバイスの種類多い……。

 

 オーソドックスな腕輪からネックレス、指輪にタイピンまでびっくりするほど揃っている。というかメガストーンのページよりも数倍ある。メガストーンは俺の知っているものしかないのでちょっとワクワクした気持ちを返して欲しい。

 気を取り直してデバイスを決めろということがようやくわかったのでぺらぺらとまくって考えてみる。

 ゲームってバングルとかだったよなぁ。カタログにも定番のと書かれているし、無難さで言えばこれだろう。

 が、リコリスさんとかも身につけていた指輪もシンプルでオシャレだと思う一歩方、変わり種のイヤーカフとかチョーカーなんてのもあって見ているだけで気になってしまう。といっても、自分が別に華やかなわけでもないのでそういったものを選んでも合わないだろうなぁと容易に想像できた。

「こういうの見てるとボクも欲しくなるですよ」

「シアンだったらどういうデバイスにするんだ?」

 女ってこういうアクセサリーにもなるものは気にするだろうし、男より選ぶのにこだわりそうなイメージだ。後ろの方にかんざしなんてのもあったしシアンのチョイスが気になる。

「ボクだったらやっぱりブローチとかがいいですよ! バングルとかネックレスって動く時に気になるですし」

「自分が動く前提で話すなよ」

 でもファイトルールであれだけ動くことを考えるとそういうこと気にする人もいるのかもしれない。

 ふと、病室の扉を叩く音がして返事をすると見知った面々が扉の向こうで姿を表した。

 

「ヒロー! 大丈夫!? 姉ちゃんがきたよ!」

「ヒロ兄久しぶりー。お見舞いに来たよー」

「……俺はついで」

 

 賑やか、あるいはやかましい姉ことアリサとナギサ、そしてケイが顔を見せる。

 一気に人が増えた病室だがそう狭くは感じない。シアンがネギたろうとクルみを抱えて来客に場所を譲った。

「もー! なんで無茶するのよー! ていうかケイに乗せられたのはともかくコハクをキレさせた理由に関しては姉ちゃんもちょっとどうかと思うからね!」

「ごめ、ちょっ、揺らさないで姉さん」

 揺さぶってくる姉の横でテーブルにお見舞い品らしき菓子のセットや紙袋を置いたナギサは心配そうに俺の足を見る。

「大丈夫? お菓子とか暇潰せる本とか持ってきたから養生してね」

「あ、ありがとう……」

 なんか、よく見ると姉もナギサもちょっと薄汚れているというかボロボロのような気がする。会議だったはずだろうになぜそんな……。ケイは特に変わりなく、疲れた顔をしていた。

「しゃーねーだろ。コハクのやつ調子に乗せるとかしないとあいつを引きずり落とすのは無理だし」

「結局駄目だったじゃないの……」

 姉が愚痴りながら足元のイヴを抱きかかえて「ひさしぶりね~」などと頬ずりしている。気持ちはわかる。

「会議とやらはいいのかよ」

「もう終わったから気にしなくていいわよ。まあ、被害が出るだけでろくな結果じゃなかったけど……」

 あまり語りたくないのか表情からして3人とも微妙な顔をしている。後ろでシアンが「あー……」となんとなく察した様子でクルみを撫でていた。

「って、ヒロ。キーストーンに興味あるの?」

 カタログに気づいたのか姉が掴み上げてぱらぱらと目を通す。

「悪いこと言わないから買うにしてもまだ使わないほうがいいわよ」

「まあ使わない方がいいっていうか多分使えねぇだろ」

「危ないからもうちょっと時間を置いたほうがいいとおもうよ、ヒロ兄」

 めちゃくちゃ控えめにまだ早いって言われてる。どうせ俺はまだ新米だよ。

 話を変えるついでにこの3人もキーストーンを所持しているだろうと考えて話題を振ってみる。

「みんなはどんなデバイス持ってるんだ?」

「ん? ああ、見せたことないっけ。あたしはこれ」

 姉が見せたのはいわゆるネックレスのようなものだが一緒にドッグタグのようなものもついている。キーストーンを囲む装飾そのものは意外とシンプルで控えめなシルバーだった。

「私のはこれかな。あんまり挑戦者さんには使わないから普段そんなにつけてないけど」

 チェーンのようなものの先に錨の形をしたチャーム。そこに取り付けられたキーストーン。ネックレスかとお思ったがベルトにつける装身具らしい。

「俺もあんまり使わねぇからなぁ……」

 ケイも渋々取り出すと以外にもアンクレットだった。足癖悪いからつけてると危ないだろうになぜそのチョイス。

 リコリスさんは指輪だし、みんな個性が出るなーと思ってると姉がふと口を開く。

「あ、そうだ。ちょっとヒロと真面目な話したいから二人にしてもらってもいい?」

 あ、これ怒られるやつだ。俺は学んだぞ。

「はーい。じゃあせっかくだしシアンちゃん、お茶しない?」

「いいですねー。グルマシティのいい喫茶店見つけたですしそこ行こうです」

「俺は帰る……」

 ケイだけ本当に面倒そうにつぶやいて部屋を後にしようと背を向ける。まあ飛べばすぐとはいえ、わざわざ来るのも面倒だろうしな。

「じゃあねーヒロ兄ー。次来るとき新しい本持ってくるからその時ゆっくりお話しよー」

 シアンとともにナギサも去り、俺の手持ちと姉だけが残り、椅子を引っ張ってベッドの横に座った。

「で、真面目な話なんだけど……」

「ごめん、ファイトルール受けたことは謝るから」

「本当はそれも言いたいことあるけど今回の本題はそっちじゃないわ」

 取り出した写真は例のレグルス団の指名手配写真。リジアを始めとする、レンガノシティでの襲撃犯の3人が写っている。

 

 姉が迷いなく指を指したのはリジアの写真。

 

「これ、シオンなんでしょ」

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 ――その頃、レグルス団のアジトでリジアはくしゃみをして口元を抑える。

「風邪、ですかねぇ」

「リジア、まだー?」

「はーい、もうすぐですよ」

 リジアは厨房でお菓子を作っていた。ココナをはじめとする子供たちや、お菓子目当てのキッド、手伝ってくれているサイクなど馴染みの面々が揃っている。

「ま、お菓子だけは評価してやらなくもないけど」

「文句言うなら出てけよ白衣チビ」

 キッドとまた子供じみたやりとりを繰り広げる横で、メグリが呆れたように呟く。

「ったく……この前ふっとばされたっていうのに元気だね」

 コハクとの邂逅は大怪我を負ってもおかしくない出来事なのにほぼ擦り傷ですんでいるキッド。メグリの呟きを聞いて少し離れたところでタバコを吸っていたリュウタがけらけら笑いながら近づいてくる。

「ほんっと、こいつ頑丈なんだよなー。俺毎回診てるけど意味不明なくらい丈夫でさ」

「ああ、それね。気になって一回こいつの検査したんだよ」

 ココナが変な顔をしてキッドを指差す。周りはその表情を不思議そうに見ながら言葉を待った。

 

「こいつ……マサラ人の血統だった」

 

 しん、と静まると同時に大人たちが妙に納得した様子で「ああ……」と頷き始める。

「どうりで……」

「そりゃ頑丈だわ……」

「そういうことだったのか……」

 唯一、リジアは不思議そうに焼き上がったクッキーを持って机に運び、問いかけた。

「マサラ人……ってなんですか?」

「カントーのマサラタウンってところあるだろ。あそこの生まれの人間のこと」

 リュウタがタバコの火を消しながら言うがリジアはいまいち納得していない顔で返す。

「それはいいのですが……なぜキッド君が頑丈なことに納得がいくのですか?」

「例えばポケモンの電気技や炎技を食らってもぴんぴんしてたり」

「重さ70キロ超えのポケモンを平気で肩に乗せたり」

「特別鍛えてるわけでもないのに身体能力が異常に高かったり」

 

『そういうやつがマサラ人』

 

 皆が口を揃えて武勇伝らしきものをあげられ、リジアはキッドを思わず見てしまう。心当たりがありすぎる。

「……そういう……あれなんですね……」

「って言っても元々都市伝説の派生みたいなもんだから眉唾なところあるけどな」

 念の為リュウタが補足を入れつつ、マサラ人という言葉の理解を少しだけ深めるリジア。誇張しているところはあるかもしれないがとにかく優秀な存在なんだろうと勝手に納得した。

「あー、でも俺の両親、どっちもアマリト育ちだったんで多分じいちゃんとかその辺ッスね。よその地方から来たとか聞いた覚えあるッス」

「キッド君のおじいさん、確か前も強いって言ってましたね」

 前に話の流れで祖父が強かったと言っていたのを思い出したリジアはやはりそのマサラ人の関係かと繋がりを見出す。キッドもそうそう、と頷いた。

「まあ俺馬鹿なんでじいちゃんの言ってたこと全然わかんなかったッス。ドリョクチがーとかイバミガがーとかなんか色々よく言ってたんですけどどういう意味か誰かわかる?」

「さあ……?」

 他のメンバーも知らないと首を横に振った。本人にしかわからない何かの暗号かもしれない。

「生まれと言えばリュウタもサイク先輩もアマリト生まれですよね」

「そうだね。僕らはキッド君みたいによその地方の血が混じってない純アマリト人」

「シレネのやつがイドース生まれとか聞いたな」

この場にいないシレネの話を耳にする。本人とあまり個人的な話をしないリジアはてっきりアマリト生まれだと思っていただけに意外だと内心驚いていた。

「メグリとココナは?」

「うちはそもそも覚えてねーから知らない」

「僕も……興味ないし……」

 それぞれ事情がある人間が多いレグルス団なのでこういった素性がそもそもわからない人間も多い。リジアもその一人のはずだが――

「リジアは覚えてないんだっけ」

「あ、私はイドース生まれですよ」

 ぽろりと口にした発言にリジアも自分で言ってから首を傾げる。

 あれ、なんで急にイドースが浮かんだのだろう。

 最近、妙に記憶があやふやで、もしかして――と思うことがたびたびある。けれど、それと同時に思い出してはいけないと強く何かが訴えてくる。

 妙な違和感を抱いてもやもやしていると食堂の扉が乱暴開かれた。

 なにかと思って皆が視線を向けるとそこにはむすっとした表情のシレネがいた。

「シレネ……?」

「……リジア……非常に……不愉快だけど……今回は頭を下げようじゃないの」

 相変わらずどこか上からというか、こちらを嫌っているのがわかる物言いだが素直に頭を下げてシレネは言った。

 

「ヒロ君の……お見舞いにお菓子を作りたいから協力しなさい……!」

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 とりあえず、姉に順を追ってリジアの――シオンのことを話す。

 レンガノシティで気づいたことや、先日のコハクとの一件も話し終え、一通り聞いていた姉は頭を抱えながらメモを取り出す。

「つまり……そう……うん、こういうことね?」

 メモを切り離して何かを見せてくる。受け取った紙にはなんかよくわからない絵があった。

 ていうか、俺を中心とした関係図みたいななにかだった。

 

【挿絵表示】

 

 

「俺の絵だけ雑すぎねぇ!?」

 

 他の絵(リジアとか姉本人)の顔はそこそこ特徴を捉えているのに俺の顔だけ妙に下膨れで突っ込みどころしかない。あとなぜかイヴとかシアンとかナギサまでいるしこの図を描いた意図が全く読めねぇ。

「似てるでしょ?」

「そういう話じゃねぇよ!」

 今真面目な話してたはずなんだけどなんだろうこの脱力感。

「いやーだって、ヒロっていつの間にか女の子に優しくして勘違いさせたりとかしそうだし……」

「失礼な。んなこと……」

 ない……ないよな?

 ふと、姉はさっきまでとはうって変わって眉間にシワを寄せて唸りだす。

「ふざけてないとやってらんないわよ……なんのためにあたし四天王になったと思ってんの……」

「え、なんか関係あるのか?」

「あるわよ。しーちゃ……シオンの行方がわからなくなって色々調べたら不審なことしかわからないし、事故で死んだことになってるしで怪しいから色々調べるために権限あったほうが便利だと思って」

 思いっきり私欲で四天王になってたよこの人……。まあ目的が私欲だとしてもちゃんとしてる分マシなのかもしれない。

「んー……やっぱり、あんまり今の情勢で旅するのはやめたほうがいいかもしれない……もしかしたら、レグルス団、相当危険かもしれないし」

 姉の心配は最もで、正直俺がリジアをどうにかしたいと言っても自分に任せろと言われる気がしていた。

 だが、姉の続けた言葉は意外なものだった。

「……シオンのことも、諦めたほうがいいかもしれない」

「は……? 何言って……」

「少なくとも、あたしはあの子を捕縛する立場になってしまったんだもの。あたしは、公平な立場であの子と向き合わないといけない。だから、あたしは多分、シオンを救えない」

 彼女のために得た力が姉の妨げになっている。だからといって、簡単に捨てられるものでもないのだろう。それこそ無責任で、リーグに対するひどい裏切りに成りかねない。

「だから……本当は旅は控えて欲しいけど、ヒロがもし……しーちゃんを救いたいなら、あたしの分まで助けてくれない?」

 止めたいけれど、強くは止めない。それが姉が出した結論なのだろう。

 迷いなんてないけれど、人を縛る立場というもの重くのしかかっているような気がして、思わず息が詰まってしまった。

 

 

 

 

 




イヴ【やっぱり真のヒロインなの】
??【それはどうかな】

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