新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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旅立ち

 

 

 

 

 

 

 ポケモンリーグの会議室。そこで渋い顔をしたアリサが他の四天王と議論を交わしていた。

「うちの弟にまで被害出たし、私が個人で調べた結果、結構な数の事件が発生してるのよ。さすがに野放しにしていいレベルじゃない」

「と、言われてもな」

 そう肩をすくめるのはラフな格好をした黒髪の青年。アリサの提示した資料をペラペラ捲りながら困ったように言った。

「だいたいの事件はジュンサーや各地のジムリーダーが対応してるって聞くし俺たちができることってあんまりないんだよな」

「牽制くらいにはなるでしょう?」

「……そもそも、レグルス団の目的も不明瞭じゃない」

 そう口を挟んだのは厚着をした白髪の女性。真冬かと思うほどの厚着をしているが別にここは寒くなどない。

「不明瞭だからって何もしないわけにもいかないでしょう」

「アリサの言いたいこともわかるけどね。ともかく今は情報が少ない」

 話をまとめるのは決まって四天王でも一際幼く見える人物。茶髪に青い目をしている彼はまるで子供のようだがその実この中でも年長者だ。

「……ところでフィル、あの馬鹿――じゃない、うちのチャンピオン様は?」

「……お察しの通り何処かに行ったよ。発信機も無駄だったみたいだ。今回は完全に撒かれたよ」

「このクッソ大変なときに何してるのよあの馬鹿……」

 アリサが頭を抱えていると苦笑いしながら黒髪の青年が言う。

「大方、『僕より強いやつに会いに行く』とかいってんじゃね」

「あのバトルマニアはおとなしくできないものね」

 白髪の女性も神妙に頷いたかと思うと寒そうに自分の腕をさする。

「はあ……」

「お互い苦労するね、アリサ」

「勘弁してよ……」

 ジムリーダーへの招集もかけてみたがそれぞれ様々な理由で拒否され結局集まれたのは四天王のみ。

 

『無理道場忙しい』

『ごめんね。今ちょっと海でホエルコが大量発生してて船とかの座礁に繋がる大事故に発展してるの。それの対処で忙しくて今回はお休みさせてください』

『ごめんなさぁい♥ どうも最近心霊現象が多くってぇ♥』

『今めっちゃ石掘ってる! すごいよめちゃくちゃ進化の石がザクザクだよ!また今度ね!』

『あー? 悪いが俺も依頼で忙しいんだぞ。他の奴らだけでやっといてくれ』

『申し訳ないけど次の撮影のスケジュールが詰まってて今手が放せないんだ』

『講演会が控えているから今回は難しいんだ。悪いね』

『今それどころじゃない』

 

 以上、ジムリーダー8人からの返信メール。

 一部忙しいの理由に納得がいかないがそれほど緊急の招集じゃないしこっちも急だったのでまあ全員は無理だろうと思ったがまさか一人もジムリーダーが来ないとは思わなかった。

「先行き不安ね……」

 まとまりのないアマリトジムリダーズとリーグ四天王のこれからを考えてアリサは深い溜め息をついた。

 

 四天王アリサ。ドラゴンタイプの使い手で四天王になって一番日が浅い。

 四天王リッカ。氷タイプの使い手。儚げな女性だが極度の寒がりで常に厚着をしている。

 四天王ランタ。炎タイプの使いでの青年。どこか軽い性格に見え、四天王でも現在最年少の16歳だ。

 四天王フィル。フェアリータイプを専門としており、一番の四天王古株であり、少年のような見た目をしている最年長。実年齢は不明だが落ち着いた男性だ。

 

 四天王同士の結束は固い。頻繁にやり取りするし、互いの関係性も悪くない。

 問題はあのジムリーダーズとチャンピオンだった。

 

 

 

 

 格闘タイプ、水タイプ、ゴーストタイプ、地面タイプ、鋼タイプ、草タイプ、エスパータイプ、電気タイプ。

 現在のジムリーダーはこれらのタイプのエキスパートでありリーグの規定による難関をクリアしたポケモンバトルの実力者だ。だが、他の地方と比べても“かなり”性格に問題がある者たちが多い。

(職人気質というか頑固っていうか……気まぐれなのもいるしホント困ったなぁ)

 いざという時に地方のために協力するはずのジムリーダーたちの協力する気のなさを痛感し、今日何度目かのため息をつくばかりだった。

 そして、自分たちのまとめ役でありこの地方のチャンピオンであるはずの人物は基本的にサボり魔だ。四天王全員がかりでようやくおとなしく仕事をさせられる程度には強いせいで労力も半端ない。今あれを探す暇もないしもうよほどのことがない限りほうっておくのが吉だった。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

『ヒロくん』

 誰かが俺を呼んでいる。

『ヒロくん、おとなになってもわたしの――』

 顔も思い出せない誰かに手を伸ばして、砂のように消えた彼女の影に未練がましく呼びかけようとして現実へと引き戻された。

 

 

 

 

 目が覚めると顔面にチルットが乗っていてすごく息苦しい。

「ちる……ちょっと、あの、どいて」

「ちるちっちー」

 鶏じゃあるまいし朝から人の顔面で鳴くんじゃない。

 躾がまだできてないので一度ビシっと言ってやらねばならない。

「いいかチルット。人の顔に――」

 顔から引き剥がして説教をしてやろうと思ったがチルットのうるうるした目で見られて怒る気力が失せた。というかかわいいなぁお前。

「次はするなよ~よしよしよしよし」

「ぶいー」

 自分も撫でろやと小突いてくるイヴもかわいい。最高かよ。

「っと、店の準備しねぇとな」

 時刻は6時半。いつもどおりの時間で馴染みのエプロンをつけて1階に降りる。母が朝食の準備をしている横を抜けて店のきのみの陳列と鉢植えの手入れをしてから三人揃って朝食。

 父が既に陳列を終わらせていたので俺は水やりをしにいくと収穫可能なオボンのみが朝露で輝いている。

「父さん。オボン収穫するけどこれ出荷分だっけ」

「ああ、そうそう。KINOMIカフェに納品するやつだ」

 うちも繁盛してるよなぁ。まあだいたい姉の影響で知名度上がったのもある気がするけど。

 販売できない形の悪いきのみをイヴとチルットにあげると喜んでもしゃもしゃと食べだす。どうでもいいけどオボンって結構硬いんだよな。よくもまあもしゃもしゃと食べれるな。ラムとかめちゃくちゃ硬いしあれ戦闘中によく食う余裕あるよな。

「そうだ。旅グッズ用意しておいたからもういつでも行けるぞ」

 父の脈絡のない発言にこの世界の未成年の旅への理解がありすぎてちょっと心配になる。というかなんでそんなに準備完璧なんだよ。追い出したいのかよ。

「旅出る前にこいつの名前決めないとなぁ」

 また頭の上に乗ってきたチルットにも慣れ、朝からきのみを食べてご満悦のこいつはそういえばメスらしい。

「んー……チル、でいいか」

「安直すぎやしないか」

 父から早速ダメ出しを食らったけど本人(チルット)が満更でもなさそうだしいいじゃないか。

「ちるきちとかどうだ」

「父さんのネーミングセンスもどうかとおもう」

 つぼきちのときも思ったけどその名前の付け方、メスでもやるんだよな。

 まあ元々前世でニックネームをつけるときは割りと安直だったりつけなかったりしたのでセンスを問われると痛い。イヴとかもイーブイだからイヴってつけたとかだし。

 朝食の準備ができたので父とポケモンたちと食卓へ向かい、ぼんやりと旅の話へと移行する。

「で、今日行くの?」

「母さん、俺にそんなに出ていってほしいのかよ」

「そうじゃないけど、旅は早いうちにしとかないと」

「大人になるとそうそうできないからなぁ」

 確かに仕事とかあると難しいよな。そう考えると若いうちに旅っていうのは間違ってはいないかもしれない。

「たまには帰ってきなさいよ。お姉ちゃんにチルットもらったんだから」

「ひとっ飛びで帰ってこれるな」

「家から出てほしいのかいてほしいのかはっきりしてくれよ」

 本当にわからない。

 朝食の後、母さんは店の準備をしながら旅グッズを俺に渡してくれた。寝袋や野宿用のキットまで様々だがすごいコンパクトである。すごいなー技術の進歩に感心するしかない。

「あんまりにもお金に困ったらさすがに連絡しなさいよ。行き倒れても困るし」

 その気持ちはありがたいんだけど過保護一歩手前だと思うよ母さん。

「どのルートで行くつもりなの?」

「隣町にジムがあるんだろ? そこから行くつもりだけど」

 隣のワコブシティにはジムがあるらしくそこをまず寄っていくつもりだ。手持ちが弱いけど道中で少しは成長するだろう。

「なら森を抜ける必要があるわね」

 おや? 普通に道があったはずだけど今通れないんだろうか。ゲームでもよくあったよなこういうの。

「昨日の夜、あそこで激しいバトルがあったらしくて今整備中らしいわよ。橋が壊れちゃったみたい」

「ふーん。まあ森通るのも楽しそうだし予定通り行くよ」

 レベル上げにもうってつけだし。森とかいかにもトレーナーとかいそうだし。

「よし」

 準備完了。相変わらず頭の上に乗ったチルとやる気充分のイヴを連れ家から出る。

「それじゃあ行ってくる」

「気をつけるのよ~」

「きのみがなくなったら連絡しろよ~送るからな~」

 両親の見送りを背に隣町へ向かうためのコマリの森へと向かった。

 天気も快晴、最高の気分で旅への一歩を踏み出す。まるで子供のようにたくさんポケモンを捕まえたい!と願う俺はわずかに残る記憶の欠落に気づかないままだった。

 

 

 

 

 




ヒロの手持ち
イーブイ(イヴ)Lv5
チルット(チル)Lv20

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