新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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姉の手土産

 

 

 

 家に帰ったらボロボロになった俺を見て両親は絶句した。事情を説明すると更に慌て、過保護なくらい心配された。

「最近ポケモン泥棒がいるって噂があったけど本当なのね……」

「アリサも調べてるって言ってたもんな」

「え、姉さんまさか帰ってきてるのか?」

「ああ、さっき帰ってきて今――」

 

 

「ヒロ――!!」

 

 

 2階から嵐のように駆け下りてきたブロンド女こと姉のアリサはいきなり肩に腕を回してきてわしゃわしゃと頭を撫でてきた。胸が押し付けられ、先程の三つ編み女のことが嫌でも思い出される。あいつ本当にぺったんこだったな……。

「ひっさしぶりに帰ったらバトルしに行ってるって聞いたから姉ちゃんびっくりだよもー! で、どうだった? やっぱりバトルはいいよね~。そうそうお土産あるからあとで確認してよ!それ使って今からでも旅するのは遅くな――……ヒロ? なんかやけにボロボロじゃない?」

 テンションの上下が激しすぎる姉だがまあ、悪いやつではない。が、まあ、なんというか、いい年して弟に構いすぎだと思う。

「ああ、アリサ。ヒロったらね。例のポケモン泥棒にイヴを盗まれかけたんだって」

「――ヒロ? それマジ?」

「ん、ああ。噂はよく知らないけど……」

「黒っぽい服装してなかった?」

「あ、してた」

 アリサは突然深刻な顔をしたかと思うとリビングにかけてあった上着を取って真剣な表情で俺に言った。

「ヒロ、これからこの地方。ちょっとヤバイかもしれないから旅に出るときは気をつけなさい。最悪何かあったら姉ちゃんにすぐ電話かメールして。母さん父さんごめん。あたしちょっとリーグに戻るわ。急用ができた」

 そういって慌ただしくでていった姉をぽかんと三人で見送る。四天王ってそんな忙しいんだろうか。

「とりあえずヒロ、お風呂入って着替えてきちゃいなさい。怪我は大丈夫なの?」

「かすり傷くらいだからちょっと消毒だけしとく。母さん悪いけどイヴ頼んでいい?」

「いいわよー。イヴ、おいでー」

「ぶいー」

 イヴは泥まみれで母に擦り寄ろうとして避けられて布にくるまれた。まあ、擦り寄られたら汚れるしな……。

 今日のことで一つ反省したことがある。

 ゲームと違ってガチで生活にポケモンがいるとなるとああいう泥棒とかもっとえげつないことしてくるやつもいるんだろうなぁ……。

 思えば悪の組織とかも子供向けにマイルドなだけでもっとえぐいことしてても不思議じゃないし。

 イヴが奪われそうになったのは本気で焦ったし、旅に出るともっとやばいやつもいるかもなぁ。

 

 

 まあそれでも旅にやっぱ出るけどさ!

 

 

 なんとかなるだろうというポケモン世界だし大丈夫というお気楽思考である。

 そういえば……博士とかにポケモンもらったりしてないけどそのへんどうだったっけ。風呂上がったら母さんに聞くか。

 かすり傷にお湯が少し染みたがさっぱりして風呂からあがると夕飯の準備が整った食卓で父さんがテレビを見ていた。

『今日ご紹介するのはキスミ博士も開発協力したというポケモン図鑑! こちら先週発売して今ではどこも売り切れの――』

「ポケモン図鑑って売ってるんだ……」

 なんかゲームだと主人公とかライバルがもらってるイメージあっただけに急に特別感が消えたな。

「ほら、お前も去年旅立つ予定のときに博士に呼ばれただろ? 断ったけど」

「そうだっけ」

 覚えてないや。あんまり興味なかったんだろうな、思い出す前の俺。

「あのときに別の子が博士から図鑑を預かって、数人で旅したらデータが十分集まったとかで商品化したんだと」

「へー。すごいな。俺もあやかりたいね」

「さっきアリサがお土産だとかいってお前の部屋にあの図鑑置いてったぞ」

 待ってくれ。姉さんなにさらっと過程すっ飛ばしてるんだ。

 まあでも人気商品らしいしありがたいといえばありがたいんだけど俺、博士とであったりライバルができたりとかそういう過程……いや、別にそういうのしないで旅できるんなら全然いいなそれ。行く先々で喧嘩売ってくるライバルとかちょっと面白そうではあるけどゲームじゃなくて実際に目の前にいたら鬱陶しくなりそうだし。

 すると母さんがちょっと湿ったイヴと店のマスコットのツボツボのつぼきちを連れて食卓に戻ってきた。つぼきちとイヴは自分のエサをみるなり嬉しそうに駆け寄っていく。つぼきちは動くのめちゃくちゃ遅いけど。

「さあご飯食べちゃいましょ」

「いただきまーす」

 ポケモン世界の肉って……これ何肉なんだろう。ポケモンの肉とかだと俺今後どんな目で見ればいいかわからない。

 食べてみると普通に豚肉の味がする。ポカブ系かブーピッグ……いやオコリザルってぶたざるポケモンだったっけ。

「それでヒロ。旅はどうする? 今は特に物騒みたいだけど……」

「ん、いや俺旅に出るわ」

 元々前世の記憶の影響で今めちゃくちゃポジティブだから不安とかよりもワクワクのほうがでかい。

 ……にしても俺、なんで旅に出るの嫌がってたんだろう。コンプレックスとか親の期待とかだけではない気がするんだよな。

 なんか、思い出した代わりに忘れてるような――。

「いつごろ出る予定なの?」

「え、ああ……。うーん、別に早ければ早いほどいいかな」

「じゃあもう明日出る?」

「急すぎねぇかそれ」

 ゲームとかでもその日のうちに旅立ってたりするけどポケモンの世界ってどうしてこう急なんだろうか。

「思い立ったら仏滅よ」

「吉日な」

 にしてもイヴしかいないしなぁ。どうするか。別にイヴだけでもいいけどよくよく考えなくてもゲームとかアニメと違って都合よく旅立ち直後に同レベルの相手ばかりとも限らないんだよな。そう考えるとポケモンの世界ってすごい。

 元の人格とほとんど変わらないけど前よりポジティブになっているからか食事中父さんがしみじみと呟いた。

「ヒロもいつの間にか前向きになったな……」

「俺そんなに暗かった?」

 前世を思い出す前の自分の言動――ぱっと浮かぶ限りはまあどっちかというと根暗寄りな気がする。

「昔に戻ったみたいだよな」

「そうねぇ。仲良かった子が引っ越しちゃってそれ以来塞ぎ込んでたのよね」

 仲良かった子なんていたっけ。

 前世を思い出した途端微妙に子供の頃の記憶がおぼろげだ。まあ最近のこととかは普通に思い出せるし単純に忘れてるだけな気がする。

「あれ以来ほかにお友達を作らないし心配だったのよ」

「これでお前のポケフォンに家族の連絡先しかないってこともなくなるな」

 聞いてて悲しくなってきたから部屋に戻ろう。食器を片付け、満腹でうとうとしているイヴを抱えて2階の自室へと戻り、机の上に置かれた包みを見た。

「ポケモン図鑑これか」

 思ってより大きい箱だなと思って開けてみるとポケモン図鑑らしきものと、ボールが一つはいっていた。

「なんだこれ」

 空のボールではないため開けてみると中から飛びててきたのはチルットだった。

 くちばしで何やら便箋を咥えている。

「…………姉さんのか?」

 ずいっと便箋を俺に差し出したかと思うとチルットは俺の頭に乗っ――

「待って重い! 意外に重い!!」

 チルットそんなに重かったっけ!?と重量を感じながら図鑑を早速開くとこいつだいたい1.2kgらしい。見た目がふわっとしてるからすごい軽そうって思ってたけどちゃんと重いんだ……。まあ生き物としては軽いし慣れてきたらそうでもないが急に乗られるとびっくりする。

 チルットの持っていた便箋を開くと姉の丸文字が目に入る。

 

『びっくりした? そろそろ他の子が欲しいかな~って思って捕まえてきたよ。かわいがってね』

 

 びっくりしすぎて今すぐ連絡を入れたくなった。

 自分で捕まえたかったのもあるけどまあこの二匹いればなんとかなりそうだしいいか。

 ふと、もう一枚便箋があることに気づいてそっちにも目を通す。

 

『PS.その子そらをとぶを覚えてるからたまには家に帰りなよ』

 

 この世界の秘伝技の扱い軽いなぁ。ジムバッジなくても秘伝使えるのかよ。

 チルットはのんきに俺の頭に乗っかってまったりしている。こいつニックネームあるのかな。手紙に書いてないし多分ないよな。

「名前は明日にでも考えるか。とりあえずよろしくな」

「ちるー」

「ぶいー」

 ふわふわの綿毛に触れるとすごく気持ちがいい。心が和む。

 姉の趣味で可愛い系ばかりもらっているが俺としては可愛い系だけじゃなくてかっこいいのも好きなんだがそういうのは自分で捕まえて育てたいなー。

ベッドで横になりつつ図鑑の機能を確認するとポケモンの詳細やレベルとかがわかるようになった。便利だなぁこれ。

 イヴはレベル5で技はゲームと違って4つの制限はなく、公式大会などでは技の数に制限がかかるらしい。つまりまあ野生の戦闘やトレーナー戦はかなり自由ということだ。

 チルットのレベルは――20だった。姉さん自重しねぇなぁ。

 図鑑で二匹のことを確認しながらうとうととこれからの旅への期待と、僅かな引っ掛かりを覚えつつ二匹と一緒に眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 彼女は不機嫌そうな様子であちこちにできた擦り傷の手当を受けていた。

「随分とまあ」

「うるさいです。大した怪我でもないんですからさっさと終わらせてください」

 医者の男は彼女の悪態を軽く流し、おおよその傷の手当を済ませるとタバコを吹かし始めた。

「で、なんでそんな怪我した? らしくもない」

「ちょっと慢心していただけです。今日はラボの手伝いにうちの子を貸していたのでフルメンバーじゃありませんでしたし」

「そういうの言い訳って言うの知ってるか?」

「やかましいですよリュウタ」

 きつく睨むと医者――リュウタは苦笑して近くにいたチリーンを呼ぶ。ナース帽のようなものをかぶったチリーンが処方箋を持ってきて彼女へと手渡した。

「で、まだしばらくは泥棒の真似事か?」

「真似事じゃなくてそのものですよ」

 リュウタのチリーンと彼女のクレッフィが何やら会話している横で二人はあまりいいとは言えない空気で会話を続ける。

「我がレグルス団のためなら私はなんだってやりますよ」

「……お前はそんな玉じゃないと思うんだけどなぁ」

「馬鹿にしてるつもりですか?」

「いいや、お前は色んな意味で『真面目すぎる』んだよ、リジア」

 彼女――リジアは忌々しげに舌打ちするとクレッフィを連れて医務室を後にした。

 

 

 ここはレグルス団のアジト。

 

 いずれ来るアマリト地方の征服のために暗躍する『悪の組織』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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