とある日。
今日も今日とて僕は校内を透明化シールをおでこに貼って散歩してた。
時間はもう放課後。
僕の活動時間は基本放課後からなんだよね~。
一夏兄たちが授業を受けている間、僕は千冬姉の寮長部屋(ここで寝泊まりしてる)で待機。
部屋に居てもすることがないから、
勿論部屋で家事を一通りやってからだよ?
じゃないとすーぐ部屋が汚くなっちゃうんだよね~……。
それと、束姉とクロエちゃんはお互いに目標? が見つかったって旅に出ちゃった!
突然だったけどいつかはこうなるんじゃないかって思ってたから驚きはしなかったな。
「はぁー……」
と、前の方から溜息をつく楯無さんが歩いて来た。
素早く周囲を確認して、曲がり角で透明化シールを剥がす!
「──どうしたんですか? 溜息なんかついて」
流石に透明化シールのことはまだ内緒にしないとね~。
「あぁ、あぁ!!」
「へ?! どうしたんですか……? 僕を見るなりいきなり声を上げむぎゅっ?!」
「私の第二の天使ッ!!!」
意味が分からないよ?!
っていうか、最近楯無さん壊れ気味じゃない?!
「ぶはぁ?! た、楯無さん落ち着いてください! 僕でよければ話し聞きますから?!」
「ほ、ほんと??」
「こんなので嘘ついてどうするんですか……」
「なら、早速付いてきて!」
ぎゅむっと、楯無さんは僕の右腕に体を押し当てるように腕を組んできて、生徒会室がある方に向かっていった!
やっぱりIS学園の生徒会長っていうのも大変なんだろうな~……。
「仕事は山積みだし、虚ちゃんは用事で居ないし、機密情報に等しい重要な書類もあるし……」
「えっと、つまり仕事が多いのは勿論、ずっと一人でするのが耐えられないってことですか?」
「ぶー、全くその通りなのよね~」
僕はなぜか楯無さんの膝の上に座らされて頭を撫でられてる?!
……時折鼻息が荒くなってるような気がするけど、気がするだけで僕の気のせいだよね……?
というよりも、機密情報がある部屋に僕を連れてきて良かったの??
「……僕はお仕事のお手伝いはできないかもですけど、せめて時間がくるまでは僕もここに居てもいいですか……?」
だけど今の僕にできることは、楯無さんを一人にしないことなんじゃないかなって思うんだ……!
だって楯無さんに会うたびに情緒不安定気味なんだもん……。
だからこの座ってる状態から見上げるように言った。
「っっっ~~~!!! 勿論よっ!!」
「ふぎゅ?!」
今度は背中から思いっきり抱きしめられた?!
楯無さんってもしかして物凄いスキンシップが大胆な人なのかな??
「ふぅ……。コホンッ、それじゃあ早速お仕事しちゃいますか。そうだ! 桜くんは冷蔵庫に入ってるジュースやテーブルの上に置いてあるお菓子、食べちゃっていいからね♪」
「ほ、ほんとですか! ありがとうございます!」
僕は楯無さんの言葉に甘えて、早速ジュースをコップに淹れてお菓子を開けて食べる!
チラッと楯無さんを見てみると、会長椅子に座って静かにお仕事し始めた!
……ああやって静かにしてる姿はまた違った印象を受けるよね?
──それから3時間は経ったのかな?
無事今日中に終わらせなくちゃいけないお仕事が終わった楯無さんは、晴れやかな顔でごく自然に僕の腕を掴んでまた膝に座らされてるんだ……。
そして僕を後ろからギュッと抱きしめる力が強くなった。
「──桜くん。……例えばの話しをしてもいい?」
「にしし、ここに来る前にも言いましたけど、僕で良かったら幾らでも聞きますよ~」
「あはは、そう言ってくれてたわね。昔々のお話なんだけど……小さな頃にとても仲の良い姉妹がいました。だけど、家が特殊だったということもあり、姉は長女としてどんどんプレッシャーに押しつぶされていきました。しかし妹はそんな姉のために心配してくれていました。……妹のことが一番に大切だった姉も、プレッシャーとストレス……そして妹が大切過ぎるゆえに、これ以上妹に迷惑を掛けない為に──酷い言葉を言って家の重荷は全て背負い、妹は重荷から遠ざけてしまいました。……姉は今でも後悔しています。なぜあの時あんな言葉を言ってしまったのか。特殊な家、プレッシャー、ストレス。結局はその全部が言い訳の理由にしてたことも理解してる。あの時から今日まで一言も話せてない、謝れていない、行動すら怖くてできないそんな甘ったれた姉が居たとしたら──桜くんはどう思う?」
……、
「そうだね~。……うん、僕だったらその姉には何にも言葉を掛けない!」
「っ……」
「だって言う必要あるのかな?」
「……?」
「にしし、そのお姉ちゃんはしっかりと分かってるじゃん! 何が原因で、どんな理由で、妹に酷い言葉を言っちゃったのか。どんな人間でも失敗しちゃうことは怖いことなんだよ? だけど、それでも失敗して間違えちゃうのが人間。当然、本当に間違っちゃいけない瞬間、失敗したらいけない瞬間もある。……でも、行動すれば、行動しさえすればまだギリギリ手を伸ばして掴み取れるかもしれない。自分に非があるって、自分自身で理解してるなら尚更行動しなくちゃいけない。まだ間に合うかもしれないよ? それこそ、行動した結果でいくらでも考えたら良いと僕は思うんだ! もうお姉ちゃんは充分考える時間を得たんじゃないかな? それなら怖くても行動するしかないよね。だってもう考えても答えは同じだし。酷い言葉を言われて傷ついた妹。その傷に比べれば行動する怖さなんて微々たるものじゃな──」
「──ッ!!」
突然、楯無さんは僕をサッとどけて、生徒会室から飛び出して行った。
「……」
──僕は何を偉そうに。
この前まで親しい人に嘘をついてたっていうのにね……。
だけど……少なくとも楯無さんに伝えた考えは僕が嘘をついてたことを含めて、僕が“生きていた”、“生きている”今も必死になって得た一つの答えなんだと思う。
にしし、でもやっぱり僕が不思議な力を持っているってことを言う機会があったとしても、女神様から貰ったっていうことは言わないし、言えないし、言ったとしても信じてもらえないかも……ね?
──そのあと就寝時間になるまでジュースを飲みながら楯無さんが帰ってくるのを待ってたけど、予想通り帰っては来なかった。
多分だけど、上手くいったのかな?
もうこの部屋から出なくちゃいけないし、扉を閉めて
「お菓子とジュースでお腹がたぷたぷだな~」
少し調子にのって飲食し過ぎちゃったみたい……。
誰も見てないことを確認して透明化シールを張り、胃を刺激しないようにゆっくりめに歩いて部屋に戻った!
──翌日の放課後!
今日も透明化シールを使って探検中~!
生徒たちの噂話で楯無さんと妹さんが急激に距離が近くなって仲が良いって話しが多いね~。
やー、良かった良かった!
久しぶりに妹さんと話せて頭の中も妹さん一色なんだろうね~。
こりゃあ妹さんも大変だね!
それに楯無さんの暴走も目に浮かぶよね~。
(今日はこのくらいで切り上げようかな?)
僕は来た道をUターンして部屋に戻る。
帰りは特に興味惹かれる出来事もなく部屋に入った。
ちゃんと鍵を閉めて、そこでやっと透明化シールを剥がす。
「今日は部屋でのんびり過ごそうかな~」
グッと一回伸びをして、冷蔵庫からお茶を出してゆったり過ごすことに決めた!
だけどそれから数十分後。
コンコンと扉がノックされた。
「はーい、誰ですかー?」
「桜さん。
「え? セッシー?!」
僕はバッと起き上がって、鍵を開ける!
「わぁ~! セッシーこんにちは! 久しぶりだね!!」
「ふふ、こんにちは。桜さんも相変わらず元気ですわね~」
「にしし、元気だけが僕のとりえだからね! それよりもせっかく来てくれたんだから、ほら、入って入って~」
「あら、もう。桜さんはいつも積極的ですわね」
「ん? そんなことはないと思うけど……? それで今日はどうしたの??」
上品に正座をして座布団の上に座るセッシーにコップに淹れたお茶を渡しながら聞いてみる!
「一夏さんは箒さんと剣道のお稽古をすると言っていたので、今日は予定もなく暇でしたの。ですから、お部屋で簡単にサンドイッチを作ってきたので、ぜひ桜さんにも食べて頂きたく来たということですわ」
「あ、もしかしてそのバスケットに入ってるのって」
セッシーが持っていたバスケット。
その中身って、
「はい、桜さんの予想通りサンドイッチが入ってますわ」
「僕も食べて良いの??」
「当然ですわ! このサンドイッチは桜さんを想っ──コホンッ。……と、とにかく! この水筒に紅茶も淹れてますから、一緒にティータイムを過ごしませんか?」
「う、うん! 僕で良ければ!!」
僕はルンルンとテーブルを拭いてコップにお皿を出す。
そしてお皿に置かれた新鮮なハム、卵、レタス、トマトをふんだんに、だけどバランスよく、ふわふわなパンの生地で挟まれたサンドイッチを見て思わずキュ~とお腹が鳴った!
それぐらい食欲がそそるサンドイッチなんだよ……!
「ふふふ、それでは召し上がってくださいな」
「それじゃあ頂きます!! あ~む、もぐもぐ……?! ごくんっ」
こ、これはっ!!!
「美味しい~!!」
ちょうど良い大きさでもあるから、三口くらいで一つ目を平らげちゃった!
「セッシー料理上手なんだね!」
「あらあら、料理も淑女の嗜みですわ。それよりも、口に合ったようで何よりですの」
「うん! 言葉が出ないくらい美味しいよ!! まだ食べて良い??」
「ふふふ。えぇ、勿論ですわ。ちゃんと噛んで、紅茶を飲みながら召し上がってくださいな」
それから僕は、ひたすら夢中でサンドイッチを平らげたあと、紅茶を飲みながらのんび~りと就寝時間まで話した!
その時に夏休みはセッシーの家に遊びに行く約束をしたよ!!