最低系チートオリ主がライブでサイリウムを振るお話 作:hotice
みりあちゃんと莉嘉ちゃんは魔術の鳥に大興奮してくれて、俺も満足である。
イリヤが原作で使っていたこの魔術、とても綺麗で女の子なら気に入ってくれるだろうと思っていた。案の定大人気で先ほどの二人に加えて、銀髪(多分ロシア系の子かな?)の女の子や、ちょっと背の高い(俺と同じくらい)の女の子も大喜びしてくれた。
他の子の様子が静かだけど、ちょっと地味だったろうか?
「お兄さん、私この鳥欲しいの!すっごくかわいい!」
「アタシ、アタシも欲しい!お兄さん頂戴!」
どうやら二人はかなり気に入ってくれたようだ。しかし、ふむ。魔術性の生き物でも小さいころから他の命に触れ合うのは大切な事か…。
きちんとお世話出来るか聞いたところ元気にすると言ってくれた。まあ魔術製だから基本的に構ってあげるだけでいいんだけども。
少し鳥を2匹呼び寄せる。疑似的な魂の複製、転写、と。後は軽く認識阻害の魔術をかけておいて…。
「はい。二人ともきちんとお世話してあげてね?」
「「ありがとー!!」」
うんうん。二人の笑顔が眩しいぜ。
「あの、きらり、背が大きいことが悩みなんだけど…、背を低くは出来ないかな?」
きらりちゃんからお願いされてしまったが、俺はそれを叶えることは出来ない…。一時的、ほんの数時間なら可能だと言った所、それでも良いと言われたので身長が縮む薬を王の財宝から一錠譲ってあげる。服の都合もあるだろうからそれが終わったら飲むと良いよと告げたら、きらりちゃんはお礼を言いながら涙目で走っていった。
「ひああああああああああ!!!!??」
急に誰かが叫んだので、驚いて振り向くと神崎ちゃんだった。
さっきまで変に固まったままだと思ってたけど、何やら再起動した様でこちらに急いで向かってくる。
「な、汝は真なる魔導士であったか!?如何な運命の元、我らは巡り合ったのであろうか!知識の探求は人の性、とめどなき深淵である。」(本当の魔法使いなんですか!?会えてうれしいです!ぜひ魔法教えてください!)
「え?確かに俺は魔法使いだけど…。神崎さんもそうじゃないの?」
俺は思わず聞き返したのだが、神崎ちゃんはじわぁと涙目になってしまった。ちょいちょいと猫耳を付けた人に手招きされる。
「あの、その蘭子ちゃんのは俗にいう中二病って奴なのにゃ。普通魔法使いとかいないにゃ…。いや織谷君魔法使いだけど…。」
「あ、そうなんだ。てっきり武内Pの紹介だから何かしら特殊な子だと思ってたよ。」
何たってあの武内Pだもんなぁ。アメリカ行ったときなんてまだ子供の吸血鬼の女王見つけて来たし…。
「なんで武内Pが魔法使いからそんな評価うけてるんだにゃ!?」
☆
杏は涙目で部屋から出て言ったきらりを優しい目で見つめていた。
基本的にめんどくさがりで無気力な彼女でも、友人からたまに向けられる羨望の目には気づくし、思うところもあった。まあ何かするわけでもないのだが。
でもあの魔法使いは登場こそシンデレラには相応しくなかったけれど、きちんと仕事はしてくれた様だ。
彼女は自身のキャラを自覚している。きらりのことはとても嬉しかったが、けれどまあ自分はどうせ軽くおめでとうなんて一言で流すのだろう、と。
ま、キャラじゃあないって奴なのだと一人考えていた。
「しっかし、魔法使いってすごいもんだね~。働かなくてもお金が降ってくる魔法とかないのかな?」
「いや、さすがにそんな都合のいい魔法ある訳ないでしょ。」
「だよね~。言ってみただけだって。」
何気なしの一言は近くに居た凛に否定されてしまった。まあ杏自身もそんなものがあるとは思っていなかったが、そんな都合のいいものがあったらアイドルなんてやっていなかった。
「多分ですが、そういった魔法はあります。一度使っているのを見たことがありますので。」
武内Pがさらりと告げた。
「…え?」
「一度アメリカに行った事があるのですが、その時二人とも一文無しでして…。けれどたった1日で織谷は数百万稼いで見せたんです。それもとくに何もせずに。
まるで金の方から寄ってきている様でした。たまたま拾った宝くじが当選、たまたま持っていたお土産がその地の富豪に何十倍もの値段で売れたり、たまたま拾ったトランクケースが札束で一杯だとか。偶然では考えられないので恐らく魔法なのでしょうが…。」
「…………。」
杏は武内Pの言葉を聞いて、そっと目を閉じた。凛にはまるでその様がまるで修業中の仙人や高僧の様に見えた。死んだかのようにすら思えるほどの静。しかし、それは間違いではなく、今まさに杏の精神状態は明鏡止水という言葉が当てはまるほどに穏やかであった。
目をゆっくりと開く。思わず見たものが刀が鞘を伝って抜き身になった様を幻視するほどに、あまりにも静かで、あまりにも気迫に満ち溢れていた。
双葉杏。覚悟の時である。
彼女は前へと進む。いつものめんどくさりな彼女はそこにはいない。誰よりも確かな足取りであった。
彼女は友の横を通り過ぎる。いつもの小さな彼女はそこにはいない。誰よりも大きな背であった。
彼女は彼の前に立つ。いつもの飄々とした彼女はそこにはいない。誰よりも真剣な眼差しであった。
時が止まったかと勘違いするほどの気迫。その場にいた誰もが声を出せずにいた。
しかし、時にすれば一瞬。この時の杏に迷いなど無かった。
「私にもニート魔法を教えてくださいお願いします!!!!!!」
彼女の渾身の土下座が炸裂した。
☆
いきなりの土下座には面食らったが、どうやら杏ちゃんは黄金律が欲しいらしかった。
いや、確かに風水だとかで似たようなことは出来る魔法はないわけではない。俺自身のポリシーとして教えるつもりがないというのはあるのだが、それ以前にだ。
「杏ちゃん魔力無いからどうあがいても魔法使えないよ?」
「あ~、やっぱそううまい話は無いか~。ま、そうだよね。」
杏ちゃんはそう言って帰っていく。随分小学生の割にさっぱりしてるな…。あの年でニートが夢ってどうなのよ。
「ねーねー。みりあは?みりあは?みりあも魔法使える?」
みりあちゃんに服のすそを掴まれる。普通の小学生ってこんな感じだよな。
「今調べてみたけど、皆魔力は持ってないかな。」
「わ、我もか!?魔王の果て無き魔力は永久に封印されたのか?」(私も魔力ないんですか!?)
神崎ちゃんは肩を掴んで頭ぶんぶん揺さぶりながら涙目で尋ねて来た。一応もう一度精密調査してみるけれど…。
「あー、その残念だけど神崎ちゃんには魔法の才能がないわけじゃないけど、特別魔力を周りからかき集められる体質じゃなさそうだね。」
魔力の豊富な世界ならそこそこのとこまでは行けそうな気はするけれども、この世界にはリンカーコアとか魔術回路とかその辺がないと何もできないからな…。魔力譲渡しようにもそもそも体に魔力貯められないからすぐ霧散しちゃうし…。
ああ…!!神崎ちゃんが物凄い涙目になってる!
「織谷、その、なんとか出来ないか?」
武内のやつにもお願いされたが、小さくてもリンカーコアがあればなんとかなったんだけどなぁ…。
ん?リンカーコア?
「あ、何とかなるかも。」
「それは真か!?偉大なる魔導士は運命の振り子を刻み始めるのか!?」(本当ですか!?魔法使えるんですか!?)
神崎ちゃんが一気に笑顔になる。結構運要素が絡むけど、大胆な賭け事をして都合よく成功するのはオリ主の特権だからね。
えーと、さっきの調査情報と「夜天の書」の適合率チェック…70%。「夜天の書」に魔力渡してユニゾンすればギリギリ魔法は使えそうだな!
いやー、色々あったけど拾っといて良かったぜ夜天の書。きちんとバグも修正済み!
☆
魔法が使えると聞いて喜んでいた蘭子であったが、今は少し複雑そうな表情をしている。
目の前の彼女、夜天の書とやらの管理人格らしい「リインフォース」。あまりにも彼女は蘭子に似ていた。蘭子の希望そのものに。
織谷君が何処からともなく夜天の書を取り出した。蘭子のグリモアにそっくりで彼女はとてもテンションが上がっていた。
夜天の書は当たり前の様に空中に浮かんで、空中に魔法陣を刻んでいた。正しく魔法と言った光景に蘭子どころか皆もテンションが上がっていた。
そうして魔法陣が光って彼女は現れた。空中で丸くなるようにして浮かんでいた裸の彼女には、大きな黒い翼があった。
見れば分かるが、明らかにあれは普通の物じゃなかった。度々織谷君が見せる科学じゃ証明しきれないナニカ。彼女の翼は闇としか言いようがなかった。他に言い表しようがない。影が、そのまま翼の形を成していた。
蘭子の背中に付けた翼とは違って、本物の堕天使の翼の様だった。
織谷君が一言彼女の名前を呼ぶと、彼女は丸くなった体を伸ばした。色々と大事なところが見えるのではないかと焦ったが、気づくと彼女は衣装を身にまとっていた。
蘭子と同じような黒い衣装。丸くなっていたことで隠れていた顔を見れば、真っ赤な目が見えた。銀色の髪、赤い目、黒い服に、黒い翼。まるで彼女達は姉妹の様にそっくりだった。
でも片方は本物で、片方は偽物だった。どうしようもなく恋い焦がれた偽物の前に、あっさりと本物がやってきてしまった。
アイドルに憧れる少女の前に、憧れたアイドルだけではなく、アイドルになった自分がやってきてしまった。
なんて性質の悪い冗談なのだろうか。お前は違うのだと突き付けられてしまったのだ。
「魔法が使いたいのか?」
リインフォースさんが蘭子に話しかける。蘭子は何か言いたげで、でも何も言わずに頷いた。
「そうか。なら手を出してくれ。」
蘭子が言われた通り手を出す。リインフォースさんがその手を握る。二人が光ったかと思うといつの間にかリインフォースさんがいなくなっていた。
蘭子も驚いた顔をしていたが、どうやらリインフォースさんが消えたことに対してではないらしい。何やら蘭子は自身の体の調子を確かめているようだった。
「織谷さん、蘭子は一体何をしてるの?」
思わず私は織谷君に話しかけた。
「ああ、リインフォースと融合してるんだよ。魔法が使えないなら、魔法が使える奴と合体すればいいだろ?」
ほんとに魔法ってのは何でもありだな!
「よし、じゃあちょっと結界張るね。そうすれば蘭子ちゃんも一杯暴れられるし。」
「いや、それだとこの部屋がめちゃくちゃになっちゃうでしょ。」
魔法で何とか出来るのだろうか。出来るんだろうなぁ…。
「いや、結界張ると現実世界と位相がずれるから結界の中で何しようと現実には何の影響も出ないようになってるよ。」
もうやだ…。
「お~い、神崎ちゃん!結界張ったから自由に魔法使っていいよ。ここに居る子たちは俺が防御魔法張っとくから。」
織谷君はそう蘭子ちゃんに告げた。蘭子ちゃんはその言葉を聞くと嬉しそうに頷いた。
蘭子ちゃんは傘を差しながら右手を誰もいない壁に向けて掲げた。
「これは最上級火炎魔法ではない!初級火炎魔法である。我が力に慄くがよい!」
そう言った瞬間、彼女の手から魔法が放たれる。爆音が響いた。まるでレーザーとでもいうべきものが蘭子の手から生えていた。
数秒後、そこには大きな壁が開いた事務所の姿があった。それだけではない。直線状のビル全てをぶち抜いて魔法は直進していた。
こ、これで初級なの…。って、蘭子も驚いてる。そりゃあんなレーザーが手から出たらびっくりするわよね。
「ふははははは!!!!時は満ちた!!終焉の時である!!天から降り注ぐ火は罪ある者を裁く!火の洗礼を受けよ!」
そう言って蘭子ちゃんは背中にリインフォースさんみたいな羽を生やして、外に飛んで行った。
「いや~、楽しそうだね。あ、皆は一応結界の外に出とこうか?まずないけど万が一、億が一があるかもしれないし。」
そういって織谷さんが指を鳴らすと事務所は元通りになっていた。ほんとに何の被害もない。
やっぱ魔法ってとんでもない…。
☆
その後、10分程で小さくなったきらりちゃんが戻って来たし、1時間程で預けていた魔力を使い切って神崎ちゃんが帰って来た。
「どう神崎ちゃん、楽しかった?」
「至福の時であった!!天は汝を祝福したもうた!」(とっても楽しかったです!ありがとうございました!)
どうやら随分お楽しみいただけ様で、俺も満足だ。
「それは良かった。でも、申し訳ないけど君に魔法を教えることは出来ないし、夜天の書をあげることも出来ない。ごめんね。」
「我が瞳は真の光を見た!もう迷いはない!心優しき魔法使いよ、運命の歯車は回り始めている。我の盟友はここにいるのだ。」(大丈夫です!優しい魔法使いさん、私にはプロデューサーがいますから!)
そういって神崎ちゃんは武内の手を取る。
成程、俺は彼女を魔女にはしてあげられなかったが、きちんと別の魔法使いがいて彼女をシンデレラにしてあげていたようだ。
そして神崎ちゃんはリインフォースの方にも近づいていく。
「汝との二人だけの舞踏会は心踊るものであった!我は真の翼を得た。」(あなたと魔法を使うのはとても楽しかったです!そのおかげで私はやりたいことが出来ました。)
「そうか。それは良かった。これからも頑張れよ。」
神崎ちゃんは大きく頷いた。そして彼女は右手を掲げて叫んだ。
「闇に飲まれよ!!!」(ありがとうございます!)
その瞬間リインが崩れ落ちた。
リ、リインダイーン!!
「だ、大丈夫か!?リインフォース!彼女に悪気はないんだ!」
「ああ、いや分かっている。でも、ああ…。やっぱり私は呪われた存在だからな。こういう扱いが正しいのだろう……。」
「あの、なんでいきなりそんな事に…?」
凛ちゃんが尋ねてくる。
「その、この子ね。一時期バグのせいで闇の書っていう魔導書になって、暴走して色々事件起こしたことがあるんだよね。それを物凄く気にしてるっていうか…。」
「ご、ごめんなさーい!!」
あ、蘭子ちゃんがいつもの話し方をする余裕もなく、リインに謝りに行った。
「まさか、本当に闇に飲まれてたのかにゃ!?どんだけ設定かぶせるつもりだにゃ!!」
熊本弁(マジ)系蘭子。
後魔法要素ないのに夜天の書出てんじゃんって話だけど、こう、あれです。次元世界で拾ったとかそんなんです。そういうことにしといて!
ちなみに主人公のポリシーについて。
基本的に魔法でしか解決できない問題については取り合ってくれません。それ以外ならわりとポンポン使いますけど。後は使っても何の結果も生まない場合とかもですね。
例として、魔法での治療、死者蘇生等は基本行いません。今回でいえば魔法教授を断ったりですね。
けれど、空を飛びたいだとかお遊びの範囲内、今回はきらりとか蘭子みたいな場合だとか、魔術の鳥みたいにペットショップ行けばまあ普通の鳥は飼えるしみたいな場合、つまり別の手段で解決できる場合にはわりとポンポン使います。