最低系チートオリ主がライブでサイリウムを振るお話   作:hotice

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最低系チートオリ主がライブでサイリウムを振るお話

 唐突だが、皆さんは最低系オリ主という存在を知っているだろうか。

 トラックに轢かれるだけで神様から様々な能力をもらい小説や漫画の世界で無双する人種のことだ。

 彼らはたいていの場合魔力ランクSSS、王の財宝、キャラクターの戦闘能力等圧倒的な戦力を備えている。

 

 そして、もしだ。

 君が、もしもトラックに轢かれて異世界転生するはめになったら、その時に神様が多少の願いを叶えてくれるとしたらだ。君は一体何を願うだろうか。

 しかもこれから転生する世界はランダムで他の転生者がいるかは運次第だと言われてしまったら。

 

 俺は願った。圧倒的戦闘能力を。最低系オリ主として自重しない戦闘能力を。

 最低系オリ主に負けないためには、自身も最低系オリ主になればいいのだ。

 魔力ランクEX、王の財宝、十二の試練、永遠の万華鏡写輪眼、スタンド【ザ・ワールド】、オリジナル最強デバイス、内政チート用の情報チート。

 

 思いついたものは全て願いたかったが、過剰な能力を付けすぎると人から外れる可能性が高くなるらしいので能力は厳選した。

 きちんと最低系オリ主のマナーとして銀髪オッドアイの超絶イケメンにニコポナデポは搭載した。

 

 そうして俺はこの世界に転生した。もちろん貰った特典を使いこなせるようになのは世界の超高性能デバイスと一緒に必死に努力した。

 神様特性のチートボディは努力すればすいすい上達するため、小学生高学年になるころにはそれなりの戦闘能力を得ることが出来た。

 

 それからおおよそ5,6年間この世界がどんな世界なのかを調べ始めた。

 王の財宝とチートデバイスの能力をフル活用して調べていたのだが、世界のどこを探しても魔術的、超常的現象が見られなかった。

 世界中で行われている儀式を片っ端から調べて回ったのだが、どれもほとんど何の効果もないものだった。他にも怪しい事件も調べてみたが、何の魔術的痕跡もない。痕跡を消したと思われる形跡すらもなかった。

 

 数年間調べた結果、この地球には魔術的、その他超常的なものはほとんど存在しなかった。いや、正しくは本当に微少なものしか存在しなかった。

 写真に変なぼやとして残る程度の亡霊、プラシーボ効果の範囲で説明できてしまう程の治療魔法。大抵の物は科学によって偶然として処理出来てしまう程の誤差みたいな神秘しか存在しないのだ。吸血鬼やグール、死霊もいたが数はほんとにごく少数で、間違っても超常の神秘による世界征服だとか、世界の滅亡だとかそんなものが起こる兆候は一切なかった。

 

 そこでここ数年間はある一つの仮説を立てていた。それはこの世界はもしかして異世界物ではないか、というものだ。

 もしそうならば、ゼロの使い魔の様に異世界召喚ものならば問題はない。俺が呼ばれようと呼ばれなかろうとなんとでも出来る。

 問題は、GATEの様に異世界と物理的にこの地球が繋がる。もしくは異世界との相互召喚技術が確立してしまう場合だ。

 

 俺自身の行動方針として基本的に周りに被害が出ないなら放置する方針なのだが、国家間、世界間の問題はさすがの俺にもどうにも出来ない。最悪は正体を隠して暗躍しようと考えていたしそういった準備を進めていた。

 

 が、しかしだ。先入観というか、自身の戦闘能力のせいというか、この世界が非戦闘系の世界だということを俺は想定していなかった。

 なまじ本当に世界を相手にできる戦闘能力を備えてしまったが故にそういった方向へと思考が偏ってしまっていたのだ。

 

 

 そのことに気付いたのは本当に偶然だった。

 昨日クラスメイトの天海に、最近よく休んでいるので体調が悪いのだろうかと思い声を掛けたのだが、アイドルの仕事で休んでいると少し落ち込んだ様子で返事が返ってきたのだ。ここ数年あまりテレビを見ていなかったせいで気づかなかったのだが、しかしクラスメイトすら知られていないのはアイドルとしてショックなことだろうと必死に謝った。

 

 その後授業中、妙に天海がアイドルなのが引っかかったので、帰りに本屋に寄って天海の写真集を手に取った。

 そして、天海の所属している765プロダクションのアイドルが勢ぞろいした写真を見た瞬間に思い出した。

 

 写真の中には色んな美少女達が映っていた。星井美希、菊池真、水瀬伊織、我那覇響等過去に画面越しに何度も見知った顔が並んでいた。

 

 そして、センターに映る、天海春香。ゲーム「アイドルマスター」におけるメインヒロインポジションの少女。

 そう、つまるところこの世界は夢と希望を振りまくアイドル達の世界、アイドルマスターの世界だったのだ。世界を滅ぼす悪の集団も、それを止める主人公たちもいない平和で安全な世界だった。

 身近な人を守るためなら俺は戦場で剣を振るい、数多の人を殺める覚悟をしていたが、実際はライブ会場でサイリウムを振っていればよかったのだ。

 

 全く今までの苦労は何だったのだろうかと思う。無意味だったとは思わないが無駄なことであった。

 まあ、しかしだ。せっかくアイマスの世界に来たからには一人のファンとして純粋に応援することにした。

 

 

 

 「あの、春香ちゃん。ものすごく落ち込んでるけどどうかしたの?」

 

 落ち込んでいる私の様子を見かねたのか小鳥さんが(皆からはピヨちゃんって呼ばれてるけど)、声を掛けてきた。やっぱりそんなに落ち込んでるように見えるんだろうか。

 

 「小鳥さん、私アイドルとしてやっていけるでしょうか…。」

 つい弱音がぽろりと出てしまった。

 「え?何言ってるの!?春香ちゃん!せっかくテレビ出演も増えて人気でてきたのに!」

 

 確かに最近大きな番組にも出れるようになって、私の知名度もそこそこの物になってきたと思う。別に自慢するわけでも、自惚れという訳でもないけど、通ってる高校だってあの天海春香のいる高校と紹介されるくらいには有名になったと思う。

 

 もちろん、まだまだ知らない人とか名前しか知らないって人だっているだろうし、そういう人たちにも興味を持ってもらえるよう頑張っていくつもりなんだけども…。

 でも多分他の人に知らないって言われてもここまで落ち込んだりはしないだろう。そうあの人、織谷宗でなければ。

 

 あの人は高校で私よりも有名だろう。一般的な知名度はほとんどないのだけれども、地元において、それこそ高校において織谷君を知らない生徒はいない。

 まず見た目の時点でとっても目立つ。お母さんがロシア人とのハーフらしくて、四条さんと同じ銀色の髪の毛、さらに生まれつきのオッドアイで、右の瞳が紫色、左の瞳が緑色でどっちもとても綺麗な色をしている。

 顔も真みたいに中性的っていう様な顔で、しかもめっちゃくちゃイケメンでかわいい。神様に愛されてたとか、人形みたいだとかそういう言葉はよく聞くけどまさに彼はその言葉通りっていうほど顔が整ってる。綺麗すぎて女の子って言われても信じちゃいそうなほど。

 

 もうこれだけでアイドルとしてのプライドはボロボロなんだけど織谷君は本当に綺麗に笑う。笑顔を見てるだけで引き込まれて、それ以外のことが考えられなくなるっていうか考えたくなくなるっていうか…。織谷君がニコッってするだけで、女の子なら絶対にポッってなるよあれは。下手な麻薬よりやばいかもしれない。

 

 しかもとんでもない文武両道。テストはいつも学年1位、それどころか全国模試でも1位争い。剣道や空手で全国優勝もしてるし、運動だってバリバリできる。何もない場所で転ぶ私とは大違いだ。その他のことだって大抵は人並み以上になんだってこなせる。

 

 まさに欠点の見つからない完璧超人。正直回りも凄すぎて引いてるレベルなんだけど、織谷君とてもいい人でとっつきやすい性格だからクラスでも浮くことなくむしろクラスの中心にいつもいる。

 

 そんな織谷君だけど、正直な所私は彼が苦手だ。決して嫌いな訳じゃあない。むしろ好ましい人だと思う。

 ただ一方的に私が苦手意識を持ってるだけなのだ。もしくは一方的にライバル視していると言っていいかもしれない。

 

 私はアイドルとして活動してきた中で色んな芸能人にあってきた。皆さんは大勢の人の前に立つ人達特有のキラキラした独特の輝きをもっていた。765プロにいる皆もそんなキラキラしたものをきちんと持っていた。

 でも私は自分が輝けているか自信が無かった。そんな私にとって誰よりも輝いているように見えたのだ、織谷君は。アイドルの中で一番輝いている美希と比べても、ずっと輝いていた。ずっと織谷君は私の憧れで、彼を見るたび私はアイドルに向いてないんだと落ち込んでいた。

 

 今では皆がきちんと私が輝いてるって認めてくれたから自信をもってアイドルをしている。

 でも織谷君は私がアイドルをしていることを知らなかったのが悔しかった。私の輝きでは織谷君を振り向かせることすら出来なかったのが悲しかった。

 憧れだったから、ずっと憧れていたから、織谷君には認めてもらいたかったのだ、私の輝きを。

 


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