時
「ゴットフリート、ウォンバット撃ぇええ!!」
アークエンジェル艦長マリュー・ラミアス大尉の指示の元、アークエンジェルの主砲225cm連装高エネルギー収束火線砲”ゴットフリート”と大気圏内用ミサイル”ウォンバット”が火を吹き、極太のビームが大気を切り裂き放たれたミサイルは貪欲に獲物を追い求めてロケットの光を煌めかせて白い尾を引く。
「イーゲルシュテルン対空砲火起動、敵を近付かせるな!」
アークエンジェル副長、ナタル・バジルール中尉が艦橋下部CICで対空防御の指揮を執り、75mm対空自動バルカン砲”イーゲルシュテルン”から放たれる重厚な弾幕を形成する。
ビーム回避しミサイルを迎撃したのも束の間、アークエンジェルを襲撃していたザフトの大気圏内飛行MSディンの1機がイーゲルシュテルンの火線に絡めとられ撃墜される。
敵MSを撃墜したのを喜ぶ間も無く、1機墜とされた穴をまた別のディンが直ぐに埋めザフトのMSの飛行支援兵器グルゥに乗るジンはアークエンジェル目掛け大型ミサイルを放つ。
何とか命中する前に大型ミサイルを撃墜する事が出来たが、大規模な光と爆発と衝撃波がアークエンジェルを襲う。
「うわああ」「被害状況報告!」「まだ来るってのかい!?」「隔壁閉鎖が間に合わない!?」
爆発の衝撃で揺れる艦橋にたわわに揺れるラミアス艦長の胸元、幾つもの被弾を重ねつつそれでもアークエンジェル守るべく必死の防戦を行うクルー達。
その一方でアークエンジェル艦内のとある部屋では...。
「きゃあぁぁ!?」
船全体が揺れる衝撃で棚の小物が自分目掛けて落ちてきて、悲鳴を上げ両手で頭を抱えるフレイ・アルスター。
小物角や割れた香水の瓶の破片が床に散らばる中、少女は虚な瞳を浮かべて呟く。
「キラ....助けてよ...ねえキラ...」
虚な瞳をした彼女が呟くのは、かつての婚約者の名ではなく自分が復讐の道具として利用するストライクのパイロット キラ・ヤマトの名。
己が復讐心を満足させるために彼の好意を利用し、婚約者ではなく彼女が嫌うコーディネイターと同衾してまで手にした復讐人形に、フレイ・アルスターは本人も知らない内に依存し始めていたのだ。
そのキラ本人はと言うと、今まさにアークエンジェルを沈めようと迫りくる深海の魔の手、ザフトの新型水中用MSゾノと対峙していた。
「この!!」
ソードストライクの対艦刀を振りかざし敵に突進するキラ、しかし如何にキラが水中戦用にストライクをチューニングしたとは言えそれ専用の局地戦MSとでははなから運動性能が違いすぎる。
「ふん、そんなモノこのゾノには通用せんぞ」
呆気なくストライクの攻撃を空振りさせるゾノのパイロット、ザフト潜水艦隊モラシム隊隊長マルコ・モラシムは受領したばかりの新型を操り水中で無様にもがくしかない敵を翻弄する。
「そらそら、これはどうだ!」
ゾノから発射される幾本もの魚雷がストライクに殺到し、回避し損ねた魚雷がストライクのフェイズシフト装甲を揺らす。
「ぐぅうう!?」
キラは被弾の衝撃に耐えつつ横目で機体のコンソールに表示されたバッテリー残量の残りを確認した。
実弾に対してほぼ完璧な防御性能を持つフェイズシフト装甲だがその反面バッテリーを常に消費し続ける弱点を抱えており、被弾すればするほどその消費も多くなる。
高機動のエールや遠距離火力のランチャーと違い近接攻撃主体のソードストライクの燃費が他の2つに比べて良くとも、このまま被弾を重ね続ければいずれバッテリーが底をつきフェイズシフトダウンを引き起こしてしまう。
つまりストライクは全くの無防備となり、海の藻屑となって消え去る運命に直面しつつあったのだ。
しかもキラの相手はモラシムのゾノだけではない。
「沈め”足つき”めええぇぇ!!」
海面付近に展開したグーン部隊がアークエンジェルめがけ下からミサイル攻撃を仕掛ける。
何十本ものミサイルがアークエンジェルに殺到し、その多くはイーゲルシュテルンの対空砲火に絡め取られたが幾つかは火線を掻い潜りアークエンジェルの船底を下から揺れ動かした。
「ヤらせるかよ!!」
ストライクの高火力装備であるランチャーパックを装備したスカイグラスパーを駆るムウ・ラ・フラガは、海面に姿を出したグーンに向けアグニで反撃する。
しかしグーンは直ぐに海中に潜ってかわし、反撃のビームはただ大きな水柱を空へと上げるだけに終わる。
その間にも上空をディンやグルゥに乗ったジンがミサイル攻撃を仕掛け、海中にはグーン、ゾノと言う上下から挟まれた形のアークエンジェルは如何に名操舵手アーノルド・ノイマンを要していても持ち前の機動性を満足に発揮する事ができずにいた。
これは原作とは違いアフリカで共和国軍のガウ攻撃空母の攻撃を受けエンジンを損傷したアークエンジェルの速力は落ちており、航海の遅れから本来は別々に闘うはずであったモラシム隊とカーペンタリアからの増援部隊とが合流した結果予想だにしない苦戦を強いられていたのだ。
唯一の慰めと言えば、この時アスラン・ザラ等連合軍から奪取したG兵器を伴って地球に降下していたが地球での母艦となる船の機関が故障し修理を待ってカーペンタリア基地で待機中である為この戦闘には参加していなかった事くらいである。
最もそんな事など露知らず、アークエンジェルは今まさに絶体絶命の際にあり、これまで幾度となく激戦をくぐり抜けてきたアークエンジェルの幸運のポケットもとうとう底をついたかに見え、このまま南洋の海底へと引きずり込まれるかに見えた。
ただ一人この事を”予見”していた男を除いて...。
南洋の海の中を巨大な影が猛烈なスピードで進んでいた。
MSに比べて遥かに巨大なそれは、一見すると鯨を思わせたが水中を200ノット以上の速さで進むそれは明らかに生物のそれではない。
マラッカ海峡の外側を進むそれを、アークエンジェルを追撃するザフト潜水艦隊は未だ気付けづにいた。
共和国軍が海に放った一体の魔物、その爪は正に敵の喉元に届こうとしていたのだ...。
原作で特に言及のない戦いって描写しづらいのでモラシム隊長に出張ってもらいました。