機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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某監督「私は好きにした、君らも好きにしろ」


ハイザック戦記第二
第1話


ハイザック戦記第二部

 

漆黒の宇宙(ソラ)に瞬く淡い星々の光に、有史以来ヒトは星空に様々な想いを託してきた。

 

それは、ヒトが宇宙に居住するようになってからも変わらずしかし以前よりもより即物的なモノへと大きく傾いている。

 

宇宙航路の開拓、地球外惑星への移民、新資源の発見と開発、宇宙時代の新たな富と資本の独占…。

 

“他者よりも優位に立ちたい”という言葉にすれば簡単だが実際に星々の世界へと手が届くようになると人の欲望は果てることを知らず、遂には禁断の遺伝子改良による人体の改造技術を生み出してしまう。

 

「コーディネイター」遺伝子調整された新人類の誕生はそうではないナチュラルとの宇宙時代の世界に様々な混乱と対立をもたらし、遂には戦争へと人々を駆り立てた。

 

コーディネイターが多く住む「プラント」と地球のナチュラルの国家群である「連合」との間で勃発した戦争は、国力差にして実に30倍以上という圧倒的な差を前に当初誰しもが直ぐに終わると思われたが予想を裏切り新兵器MS(モビルスーツ)と核を無力化するNJ(ニュートロンジャマー)の登場によって国力の差を覆し、戦いは思わぬ長期戦の様相を呈していく。

 

泥沼の戦争はいつ終わるとも知れず、遂には宇宙居住者(スペースノイド)達の国家「共和国」をも巻き込み、三つ巴の戦乱へと突入した。

 

時にC.E.(コズミック•イラ)71 後に「第一次連合・プラント・共和国大戦」と呼ばれる戦いから一年が経過していた…。

 

 

 

 

先の宇宙要塞「コンペイトウ」を巡る戦いで辛くも勝利した共和国軍は、戦線を押し上げザフトの宇宙要塞「ボアズ」の近海宙域へと迫っていた。

 

数にして宇宙艦隊凡そ50隻余りが対ボアズ攻略の橋頭堡確保を目的として出撃している。

 

対するザフト側の防衛戦力だが、その数質共に大きく共和国軍を下回っていた。

 

それは何故か?

 

と言うのもこの時プラントでは新議長に就任したパトリック•ザラ議長により対連合軍作戦の最終段階である「オペレーション•スピットブレイク」が発動され、ザフトはその総力を地球地上へと戦力を集中しており、その補給路の中継地点であるボアズ要塞もまた作戦支援の為多くの戦力が出払っていた。

 

その為戦力が足りず、仕方なくザフトは先のコンペイトウの戦いで敗退した残存艦隊を纏め上げ僅かながらの戦力でボアズ側面を守るように薄く頼りない防衛線を構築する他なく、半ば作戦遂行までの時間稼ぎの為の捨て石同然の部隊であった。

 

共和国、ザフト両軍共に直ぐに壊滅的するであろうと思われた部隊だが、その予想は大きく裏切られる事となる…。

 

 

 

ボアズ要塞近海宙域に構築された薄い防衛線の更に薄い弱点を突くように、共和国軍MS「ハイザック」の大部隊が戦線に殺到する。

 

対するザフト防衛部隊の反撃はまばらで、ごく少数のMSジンと小惑星やデブリを資材で補強し適当な武装を施した数個の浮遊陣地からの応射だけであった。

 

誰が見ても防衛側の戦力は圧倒的な共和国軍のMS部隊の津波に飲み込まれる筈であり、事実浮遊陣地は複数のハイザックから投射された手持ち式擲弾筒「シュツルムファスト」によりあっという間に沈黙してしまう。

 

浮遊陣地を失った事でザフトのMS隊は尻尾を巻くように撤退を始め、逃げる尻尾を捕まえるべく共和国MS隊が追撃しライフルの射程に収めようとした直前、先頭で追い縋っていたハイザックを一条のビームの光が貫いた。

 

胴体にまるで吸い込まれるかのように撃ち抜かれたハイザックは、背部に背負っていたランドセルの推進剤に引火し一瞬の火球となって虚空へと消える。

 

仲間を目の前で失い気性を削がれたMSパイロット達は、機体の向きを今し方ビームの光が放たれた方向へと向けて毒付いた。

 

「くそ!もう来やがったのか」

 

MS隊パイロットの誰かが吐き捨てるようにそう言ったがそれに別のパイロットが応える間も無く、続け様にビームが同じ方向よりしかも先程はよりも多く放たれ共和国MS隊は回避に専念する他なく隊列は大きく乱れる。

 

そうして乱れた所を狙い澄ましたかのように、横合いから急襲を仕掛けたザフトMS隊が戦線に楔を撃ち込み分断を図った。

 

共和国MS隊は部隊間の連携を失い、自分達よりも少数だが機動力に勝るザフトMS隊に良いように翻弄されてしまう。

 

先程までの優勢を失いその様子はまるでサバンナで飢えた肉食獣に襲われた水牛の群れの様に外からは見えただろう、更に戦場から一歩引いてビームライフルを装備したザフトの次期主力試作MS「ゲイツ」がスコープ越しに照準を定めトリガーを引き絞りビームの光の一撃が戦場にまた一瞬だけ火花をあげる。

 

敢えて戦闘に直接参加しない事でバッテリーと推進剤の消耗を最小限に抑えつつ、大喰らいながらもMSを一撃で仕留める威力をもつビームライフルを最大効率で活かすその姿は戦場という狩場を俯瞰するハンターの如くであった。

 

共和国軍はまんまとザフのMSが仕掛けた罠に深く嵌ってしまい、味方がまた一機堕とされた事で劣勢を余儀なくされしかもビームの狙いを逸らすために余計な回避行動を取らなければならない共和国MS隊はあっという間に推進剤とバッテリー残量を消費してしまう。

 

尚も戦闘を継続するも既にここまでの戦闘を含め30分以上戦い続けた事で遂に機体の予備バッテリーと推進剤も活動限界を迎え、共和国MS隊は当初の目的を果たす事無く撤退をする他無かった。

 

対するザフトMS隊は防衛ラインを超えて追撃する事はなく、暫くの間宙域に留まった後に戦闘で消耗した分の補給を受けるべく元いた戦線後方の防衛陣地へと戻っていく。

 

と言うのもザフトの防衛部隊は少数配備されたゲイツの様な強力なMSや戦艦などの戦力を後方に一塊におく事で強力な打撃力とし、戦線の火消し任務つまり後手からの一撃(バックハンドブロウ)戦術の要として巧みな防衛戦を展開していたのだ。

 

共和国艦隊はこの強力な部隊を前に幾度となく進撃を妨げられており、その度に無駄に戦力と時間を浪費し結果当初予定されていた作戦期間を大幅に超過し更には度重なる作戦の失敗に艦隊の士気は低空飛行を続けていた。

 

 

 

撤退したMS隊の収容を完了した共和国艦隊では、作戦会議室に集められた陰鬱な様子の幕僚達は作戦会議とは名ばかりの艦隊指揮官からの怒声と罵声を一通り浴びた後、「何でもいい、兎に角この状況を打開する案は何かないか?」との艦隊指揮官の投げやりな言葉に作戦会議室に集まった艦隊幕僚達は互いに目を見合わせてだが黙っている訳にもいかずおずおずと言った風に答える。

 

「敵は我が方に比べて圧倒的に少数です、数で押せばいずれは疲弊して防衛もままならなくなるのでは…」

 

「その少数の戦力相手に数で押してこのザマだぞ!?」

 

「敵は少数なら一ヶ所では無く複数の箇所から同時に進撃すれば相手が強力でも何処かの戦線は突破に成功する筈だ」

 

「戦力を分散した挙句、各個に撃破されただけだな」

 

「此方から攻めるのでは無く向こうから攻めさせるのはどうだ、相手から攻めてくる様に囮の部隊を出して敵を釣るのだ」

 

「相手が防御側の利を簡単に捨てる筈がなかろう、そもそも肝心の囮に出した部隊に結局食い付かなかったではないか」

 

「彼奴等まるで巣穴に籠る穴熊だなぁ」

 

「敵が出てこないならいっそ艦隊を突入させて無理矢理決戦に訴えるのはどうだろう」

 

「またボアズ要塞の防空圏に逃げられるのがオチだぞ、この艦隊だけでボアズとやり合うのか?」

 

「あの時は危うく後方に回り込まれて要塞と挟撃されかけたからな、二度は逃してはくれないだろ」

 

「本国からの増援を待ってから改めて作戦を練り直しては」

 

「そもそも、その本隊を迎える為に此処に橋頭堡を確保するのが我々の任務だ。肝心要のボアズ要塞攻略用の戦力を消耗しては本末転倒だぞ」

 

幕僚達は「ああでも無い」「こうでも無い」と言い募るばかりで何ら具体的な解決策を示せず、聞いていた艦隊指揮官もその様子に内心大きな溜息をついた。

 

(結局宇宙艦隊を改編しても根っこの所がコレでは先が思いやられるな)

 

内心そうぼやくほか無い指揮官だが、実際この戦いが始まってからこれ迄におよそ考えつく限りの凡ゆる手や戦術を駆使するもその尽くが敵に読まれその度に共和国兵の血で贖わざる得ず兎に角共和国軍は今の今まで敵に良いようにやられっぱなしで全く良いところが無かったのだ。

 

元々共和国軍はコロニー本土や要塞を防衛する為に整備された防衛専門の軍隊であり、外征能力は二の次三の次とされ連合軍やザフトに比べて確かに攻勢は“下手”ではある。

 

だが、曲がりなりにも宇宙の民である共和国軍がこうまで苦戦するのにもそれ相応の理由があるのだ。

 

後世の歴史家や戦史家がこの時の彼らを擁護するのなら、志願兵などの即席教育しか受けてこなかった実質的徴募兵が軍に加わったことで軍の指揮統制に支障をきたし練度も大幅に減ったこと、コンペイトウ要塞から遠く離れたことでの補給の負担の増大と不備等など様々な原因を上げるだろうが、今日においても共通認識なのはただ「相手が悪かった」の一言に尽きる。

 

この時ザフト防衛艦隊の指揮官を務めている男の名はハインツ•ホト•マシュタイン、ザフトでも珍しいナチュラルの指揮官であり元ユーラシア連邦軍の軍人にしてザフト創立期からの古参、先のコンペイトウの戦いでも能力の劣るハーフコーディネイターの部隊を率いて勇戦した歴戦の戦巧者。

 

後に共和国軍将兵から「宇宙の“キツネ”」とやっかみを込めて、そう渾名される漢が共和国軍の前に立ちはだかっていたのだ。

 

 

 

 

ザフト宇宙要塞ボアズの側面宙域近海を守る防衛ライン部隊の旗艦アドラー号の艦橋にて、マシュタインは戦局を表示した艦橋メインスクリーンを眺め指示を出す。

 

メインスクリーンに表示された部隊の動きを示す光点のうち一つが防衛ラインを超えて進もうとしていたのだ。

 

「後退する敵に無理に付き合う必要はない、部隊の消耗を必要最小限に抑えられるならばそれでいい」

 

マシュタインがそう告げると艦橋に詰めるオペレーター達が次々と各戦線を守る部隊に命令を飛ばし「各部隊は持ち場を保持しつつ別命あるまで待機せよ、繰り返す追撃の必要はなし追撃の必要はなし」、メインスクリーンに表示された光点もゆっくりと敵に後ろから襲われないように元の戦線へと戻ってゆく。

 

その澱みない動きに艦橋の司令席に座るマシュタインは満足げな笑みを浮かべた、「漸く軍隊らしくなった」とその笑みは孫の成長を喜ぶ好々爺のそれである。

 

今は部隊の隅々にまで彼の指揮は浸透しているが、初めからこうであった訳では無論ない。

 

最初の頃は元から率いてきた部隊*1とコンペイトウ攻略に失敗した敗残部隊とを混成し結成された防衛部隊だが当初から様々な問題が起こり、元からいる部隊員と後から来た能力を鼻にかける者との両者の反感や軋轢など感情面や能力面を理由としたものの他部隊の運用方針の違いが大きな壁となった。

 

部隊間の緊密な連携を重視するマシュタインの部隊と違い、独断専行気質が蔓延するザフト各部隊はナチュラルであることを理由にマシュタインの指示に従わずコーディネイター同士でも連携や連絡も儘ならず各々勝手に戦闘を繰り返した挙句大防衛に成功しても損害を出したり、相手の挑発に乗りまんまと釣られて戦艦に半包囲され主砲の一斉掃射で消し飛ばされたりなど散々であった。

 

そんな中でも元から率いてきた部隊、半端者と友軍からも馬鹿にされてきた彼らはマシュタインの指揮のもと連携を重視し味方の犠牲を最小限に抑え敵に出血を強いる戦い方で自分達よりも”優秀”だとされた他の部隊よりも戦果を上げ、彼らの活躍はやがて他の戦線を守る部隊にも伝わり半端者と小馬鹿にしてきた者達が着実に戦果を上げるその姿に,段々とマシュタインの的確な指示を聞部隊以外のコーディネイターも現れ*2次第に今の部隊外の人心の掌握と部隊間を跨いだ指揮系統を確立していく切っ掛けととなったのだ。

 

特に二度に渡る共和国艦隊の全面攻勢を巧みな戦術機動と知略を持って跳ね除けナチュラルであってもコーディネイターに負けない能力を証明したことで完全にコーディネイター達に指揮権を認めさせる事に成功し、結果能力が高い筈のコーディネイター達がナチュラルの指揮官の下で戦うというプラントザフト始まって以来の珍事が起きたが闘ってい本人達にとっては何ら関係のない事である。

 

ボアズ近海の戦いはプラントが新体制となり「オペレーション・スピットブレイク」の発動時期と重なったり、そもそも新議長パトリック・ザラが強硬なコーディネイター至上主義者だったこともあり活躍に比してプラント本国での扱いも小さくその労に報われる事は戦後殆どなかった。

 

小さな戦場の特異な出来事として長年処理されてきたこの戦いこそ、前プラント評議会議長シーゲル・クラインが理想としたコーディネイターとナチュラルとが融和した稀有な例であったのは歴史の皮肉だろうか?

 

時にC.E.(コズミック・イラ)71 混迷を極める戦場に一筋刺した光、だがそれも次の瞬間には漆黒の宇宙の闇へと消えてしまうのかもしれない。何故なら混迷を極めるこの果てしなく遠い戦争という坂道を...誰もがまだ登り始めたばかりなのだから...。

 

 

*1
ハーフコーディネイターや半端な調整を受けたコーディネイターにプラントに極少数存在するナチュラルを一緒くたにした部隊

*2
そうでない者は戦死するか負傷して本国へ呼びもどされた





劇場版良かったです…色んな恩讐が解消されてもう「2人は幸せなキスをして希望の未来へとレディ、ゴーッ」したのでゴールします。

俺たちの戦いはこれからだ

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