機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

59 / 85
58話

58話「コンペイトウの戦い・その7」

 

ミーティアを失い多数の犠牲を出しつつも、戦線の薄いところを突破したザフトにより、コンスコン艦隊は分断され、後退し再編成しなけらばならなかった。

 

2つの戦線を抱える以上、どちらかが突破された場合もう1つの戦線が背後を突かれる恐れがあり、地球方面のエイノー艦隊の背後を守るためコンスコン艦隊は防衛線を引き直さなければならず、結果としてザフトのコンペイトウ要塞への進出を許す事となってしまう。

 

そして今やコンペイトウ接近を阻む最後の砦は、エギーユ・デラーズ大佐率いる予備艦隊だけであった。

 

デラーズ大佐は優れた戦略眼を持つ人物として知られ、同時に共和国では珍しい武人気質な軍人として知られている。

 

その彼に、コンペイトウ要塞で防衛作戦の指揮を取るグリーン・ワイアット少将は通信を繋いで「何か方策はあるのか」と尋ねた。

 

司令部直々のこの質問に対し、デラーズは全く臆する事なくこう返した。

 

「敵の戦力は強大です。故に此方は待ち伏せて近距離戦闘に持ちこむしかないでしょう」

 

この時コンペイトウ司令部に詰めるワイアットの参謀達は、デラーズ艦隊に攻撃を命じるべきだと進言していた。

 

分断されたコンスコン艦隊と連動して、敵の進撃を鈍らせようととの策であった。

 

しかしワイアットは暫く黙った後、「良し、君の艦隊は攻勢に加わるな」と命じた。

 

ワイアットは決して権勢欲豊富な人間だけでなく、こうした現場の意見や有能な者の言葉に耳を傾けるだけの度量を備えていた。

 

こうした彼の器の大きさから、共和国で唯一要塞司令と艦隊の提督の兼任を許されているのだ。

 

デラーズはワイアットからの許可を得ると早速準備を進め、その手始めとしてコンスコン艦隊本隊と分断され敵の追撃にあっていた部隊の収容にあたった。

 

この時撤退する味方を援護するため、殿部隊に志願したアナベル・ガトー大尉は獅子奮迅の活躍を見せていた。

 

「味方が収容されるまで我々が援護するぞ」

 

この時ガトー大尉が乗るハイザックはあちこちに被弾を重ねており、動いているのもやっとの常態であった。

 

しかし無理を押して味方の為に盾となるその姿に、彼の元に多くのパイロットが集まった。

 

「ガトー大尉、援護します」

 

「カリウスか、有難い」

 

信頼する部下の援護を受け、ガトー大尉ら殿部隊は正に獅子奮迅の活躍を見せた。

 

「沈めえ!」

 

ハイパーバズーカを敵艦の艦橋に撃ち込み、爆沈する敵を背景に次の艦へと向かうガトー大尉。

 

他の機体も、敵味方互いの姿がはっきりと見える至近距離で戦い、両軍のMSが入り乱れる熾烈な戦場となる。

 

この共和国らしからぬ攻撃に、ザフトの追撃部隊は浮き足立った。

 

「な、なんて連中だ!奴等はこっちの攻撃が怖くは無いのか!」

 

正か敵から逆撃を受けるとは思っていなかった多くのジンやシグーは、追撃用の対艦装備を満載して動きが鈍っており、そこを共和国に狙われたのだ。

 

この時ガトー大尉以下の殿部隊には、敵と至近距離で戦うよう命令が下されていた。

 

敵味方が入り交じる戦場では、ザフトは艦隊からの援護が受けられず、またMSも艦隊を護衛する事が出来ない。

 

遠距離での射撃戦を想定して射程の長い武装ばかりの敵に、近距離で威力を発揮する短機関銃で武装した共和国MSとどちらの方が有利かなど明白であった。

 

ガトー大尉はこの戦いで3度も機体を墜とされながらも、引き換えに8隻の敵艦を撃破したと伝えられる。

 

その戦いぶりに恐れをなしたザフトの艦隊は追撃を中止し、逆に守りを固めなければならない程であった。

 

殿部隊の犠牲をかえりみない活躍もあり、多くの兵がデラーズ艦隊に収容され戦いは次の段階へと進んだ。

 

パールス率いるザフト艦隊は連戦に次ぐ連戦によって戦力が疲弊し、部隊の再編制を余儀なくされていた。

 

分断されたとはいえ、コンスコン艦隊本隊はまだ健在であり、その圧力を受け流しながら、コンペイトウ攻略を急がなければならなかった。

 

作戦開始から一週間が経過し、漸く政治的混乱から立ち直りつつあったプラントでは、余りの被害の大さに作戦中止を求める声が高まっていた。

 

暫定的に議長代理の立場になったアイリーン・カナーバは、評議会で作戦の中止を議会で主張したが、しかしそれを他の議員達はなかなか頷かなかった。

 

と言うのも、なし崩し的とは言え始めてしまったものを今さら「止める」、等と言えばプラント市民からの信用を失い、次の選挙が危うくなるからだ。

 

特に空中分解寸前のクライン派議員の多くは、言葉を右に左にして返答を濁しながら、頭の中ではどうやって生き残るのか、そればかりを考えていた。

 

「いい加減にしろ、評議会は貴様らの言い訳を聞くためにあるのではないぞ」

 

とうとう堪忍袋の緒が切れたカナーバ議員は、人目も憚らずそう激昂した。

 

「カナーバ議員、落ち着きたまえ。この場での発言は全て記録されるのだぞ」

 

とそう嗜めるザラ国防委員長に対し、カナーバは内心で「どの口が言うか!!」と怒りを露にしつつ、これ以上の発言はクライン派の立場を悪くするだけだと飲み込み、すごすごと席についた。

 

そうした姿はザラの権勢を高める一方であり、最早プラント評議会は次の議長にいかに取り入るかにシフトしつつあった。

 

最早クライン派に評議会での立場がないと知りつつも、それでもカナーバは職責をかけてプラントの為に言うべき所は言わなければならなかったのだ。

 

その哀れな姿を、影でエザリア・ジュール議員はせせ笑い、最早カナーバ議員でさえ、評議会を動かす事が出来なかった。

 

結局、作戦の中止はなかった事となり代わりに新たに増援の派遣が決定するに留まった。

 

それはプラントが益々泥沼の戦場に嵌まり込む事を意味し、消耗戦に自ら望んで進むことをこの日プラントは決定してしまったのだ。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。